33 星は流星群になる 5
久しぶりに三人が集まりました。リュウヤは何か目論見があるようですが……
リュウヤは久しぶりにクラブ藍に来ていた。会員制のこのクラブは有名人の利用も多く、プライバシーに対する配慮も一流だ。そのため祐介御用達の店の一つになっている。壱星、リュウヤ、祐介と三人が揃って会うのはあの打ち上げ以来だ。
コロナ禍以後、オンラインでの飲み会は何度かしていたが、三人とも多忙なためなかなか直接会う時間を取るのは難しくなっていた。今回はリュウヤの頼みでなんとか時間調整をして機会を作ってもらった形だ。
藍のママに案内された席には既に祐介が座っており、スタッフとくつろいだ様子で談笑しているところだった。
「リュウさん、海外ツアーお疲れ様でした! 大盛況だったみたいじゃないですか、さすがですねー」
相変わらず声は明るいが、この間に越えた荒波のせいか髪には白いものが混じり、目元にシワが寄る顔立ちに変わっていた。祐介に会うのも数ヶ月ぶりとなる。長い海外遠征の後は、しばらくオフで体調をリセットしなければ体力的にも厳しくなっているリュウヤにとって、懐かしい顔ぶれでの飲み会は一服の清涼剤のようなものだった。
「今日は無理を言ってすまなかったな」
「何を言っているんですか、リュウさんに会えるなら仕事なんてチャチャッと片付けちゃいますって」
リュウヤが席について程なくして壱星もやってきた。
「すみません、一番若輩の俺が遅くなりました」
「何言ってやがる。こんなかで一番忙しいのはお前だろうが。俺こそ無理を言ってすまなかったな」
「とんでもないです。リュウさんに呼んでもらえるだけで俺にとっては最高なんで」
三人が揃ったところで改めて乾杯となった。
「それでは、Meteor Shower Fes.の成功を祈って」
「「乾杯」」
その後、人払いをすると三人は歓談を始めた。
「まずは、RYU-SAYの海外ツアー成功おめでとうございます。リュウさん、お疲れ様でした」
「相変わらずすごい人気で! さすがは日本の誇るロックスター! いやぁ出張があって良かったなあ」
「というか、お前は仕事にかこつけて必ず来てるじゃねぇか。ニューヨークで楽屋に現れた時ゃ、こいつまたかと思ったぞ。お前公私混同してねえか?」
「そんなことないですよー、仕事はきちんとこなしてますからねー。本当は中国も狙ってたんですよ、そっちはスケジュールの都合が付かなくて」
そう言って泣き真似をする祐介はあっさりと放置してリュウヤは壱星に言った。
「お前、俺がいない間に大変なことに巻き込まれちまったな。元はと言えば華崎の企みだが、まさかお前らが尻拭いする羽目になるとは思いもしなかった。華崎に相談している時に、『もういいから止めとけ』と言うべきだった。すまない」
そう言って頭を下げたリュウヤに、壱星は慌てて言った。
「とんでもないです。あれはRiser☆sのメンバー全員で考えたことですから。頭を上げてください。俺たちはやって良かったって思ってるんですから」
頭を上げたリュウヤは真面目な顔で言った。
「娘に教えられてな、ユーチューブで見た。あれは、多くの人の心に届くいいメッセージだったと思う。お前らだからこそ伝えられるものだった。よくやったな」
「……ありがとうございます」
少し目元を潤ませる壱星の肩に、どんと手を置くと祐介が顔を近づける。
「僕も見たよー、アイドルの真摯な言葉、胸に刺さるよねー、『一人で乗り越えようとしないこと、君の味方は必ずいるから』、くぅーー、あの言葉は本当カッコ良かったねぇー」
「祐介さん、近い近い」
慌てて祐介の体を押し戻す壱星の顔に笑みが戻る。
「俺はあのメッセージをメンバー全員で考えた時に思ったんです。仲間の力って大きいなって」
グラスの氷をカランと鳴らすと、ゆっくりと溶けてアルコールと混ざっていく様子を眺めながら続ける。
「俺一人ではいじめられた被害者の立場にしか立てませんでした。でも、メンバーからは加害者の立場、傍観者の立場からの意見もあって、一気に視界が開けた気がしたんです。その後、教育者や心理学者、愛華さんの主治医である精神科医の先生からもいろいろ教わって。本当に勉強になったし、俺たちだからこそ届けられるメッセージがあるって確信できました。あのメッセージも先生方に確認してもらって貴重なアドバイスをいただいて作りました。メンバーがいたから、たくさんの人が協力してくれたからこそあのメッセージを届けることができました。それで思ったんです。人の繋がりって凄いって」
その時、祐介が何か言おうと開けた口をリュウヤが無理やり塞ぐと言った。
「いい経験をしたな。俺もそう思うぞ。仲間の力はデカい。俺一人ならとっくに歌手なんてやめちまってたかも知れねえって何度も思ってる。それで? まだ言いたいことがあるんだろ?」
壱星が頷いて言った。
「はい。今度のフェスも一緒だなって思ったんです」
「ほう、それはまたどうしてだ?」
「フェスは舞台に立つアーティストも多ければ、それを支えるスタッフの数もすごいですよね。それだけじゃなくて多くのボランティアやサポーターにも助けられて成り立ちます。それに俺たちアーティストを観に来てくれる観客、配信やアーカイブで観てくれるファンも」
「そうだな」
「その全員の力が合わさって初めて成り立つんだなって思ったんです。それって、まさにMeteor Showerじゃないですか?」
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それではまた二週間後にお会いしましょう。
リュウヤの目論見とは?
お楽しみに!




