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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第五章 メイドたちの絆

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087. 新居でほっとひととき

 キウイが新居の鍵を開けて中に入ると、そこにいるはずのない、見慣れた愛しい人の顔が目に入った。


「あ、キウイさん! オニキス様も、いらっしゃいませ」

「へっ、チェリーさんっ?」


 キウイは思いがけないその姿に、思わず驚きの声をあげた。


「てっきり、サクラ様たちの公務の付き添いをしているのだと……あぁ、まさか今、こうして愛しのチェリーさんに会えるなんて……」


 そう言いながらキウイは、その愛しさへの耐えきれない衝動のまま、チェリーをぎゅっと抱きしめた。


「はぁ……思いがけないご褒美です……」


 キウイはそのチェリーの身体の温かさを噛み締めるようにため息をついた。

 その突然の情熱的な行為に、チェリーは思わず頬を真っ赤に染める。


「ちょ、ちょっと、キウイさん……っ、お客様の前でそういうのは……」


 チェリーが顔を赤らめながら文句を言うと、オニキスは動じることなく静かに告げた。


「仲睦まじいのは良いことだ。恥じることは何もない」


 オニキスの言葉にチェリーは、サクラとルリの結婚式の日に、オニキスがパールに対して、平然と頬にキスを落としたりと、人目を憚ることなく甘い愛を伝える行為をしていたのを思い出す。

 チェリーはこの場で自分の常識に賛同してくれる者がいないのを静かに悟り、困ったようにため息をついた。


 オニキスの言葉に背中を押されるように、キウイはチェリーの顔の下で結んでいる髪を撫で始める。

 そしてキウイはふと気になったことを尋ねた。


「ところで、サクラ様とルリ様の付き添いはどなたが?」


 王族が城内で公務を行う場合には、専属メイドが一人付き添う決まりになっている。

 サクラとルリの公務には、いつもチェリーかキウイのどちらかが付き添っている。

 今日の公務には、チェリーとキウイの代わりに、誰か他のメイドが付き添っている筈だった。


 チェリーはキウイの問いに、キウイの髪を撫でる手にくすぐったそうに肩を竦めながら、答えた。


「……っ、はい、ライムさんが……代わってくれたのです。今日私たちは、引っ越しの作業をする必要があると伝えてあったので……」


 その意外な答えに、キウイは驚きに目を丸くした。


「えぇっ、ローズ様の専属の……? ローズ様は今、例の会談の公務をなさっておいでですよね?」


 ローズの今日の公務は、しばらく前から調整が進められていたもので、皆がその存在をよく把握している特別な予定だった。

 それに対してチェリーが答える。


「そうなのですが、そちらはメイドの付き添いができない、国家間の極秘会談なので……手が空いているからと、代わっていただけました」

「あぁ、確かに……あの会談は、扱いとしては、そうなるのですね……」


 キウイが合点がいったような声を出した。

 そして目線をオニキスに向けると、オニキスはその詳細を全て把握しているというように、静かに頷いた。


「ローズは今、パールと……フィオーレ王国と人魚の里の国交樹立会談をしている」


 オニキスは淡々と事実を告げたあと、呆れたように付け加えた。


「だが極秘会談など、そんな大袈裟なものではない筈だ。楽しく内緒話がしたいだけだろう」


 溜め息をつくオニキスに、チェリーが優しく声をかける。


「お二人は、ご友人のようですが……ローズ様はその御身を自由にすることができない身分ですから。友人としてお話するだけでも、そういう形を取るしかないのかもしれません」


 オニキスが人魚の里からフィオーレ城に来たのは、ローズとの会談をするパールの付き添いだった。

 パールの会談を待つ間、時間があるとオニキスがルリに言ったところ、キウイの引っ越しを手伝うことになったのだった。


 チェリーは、自分の身体を抱きしめたままのキウイを、そっと押しやりながら、キウイに言った。


「ほら、キウイさん、そろそろ離してください。私は紅茶を淹れる準備をしますから。荷物を、キウイさんの書斎に入れていただくのでしょう?」


 キウイは名残惜しそうにしながらも、チェリーの身体を解放した。


「うぅ……わかりました。オニキス様、先ほどの荷物を出していただいたら、皆でお茶にしましょう。荷物はこちらのお部屋にお願いします」


 キウイはそう言うと、今は空き部屋になっている、キウイの書斎になる予定の一室にオニキスを案内した。


「本棚は、壁際に。他は床の適当な場所に出していただければ問題ありません。よろしくお願いします」


 オニキスは言われたとおりに、まず亜空間に収納した本棚を、壁際に並べて展開させた。

 キウイが本棚の位置を微調整している間に、残りの木箱と布袋を空いた床に取り出した。


「これで問題ないか」

「ええ、完璧です。ありがとうございます」


 オニキスの問いに、キウイは満足そうに頷いた。

 キウイは改めて空っぽの本棚が並んでいるのを眺めて、これから始まる現実が押し寄せてくるのを感じた。


「これをまた本棚に収納しないといけないのですね……はぁ、気が遠くなります」


 思わず溜め息をつくキウイに、オニキスが言葉短く尋ねる。


「手伝うか?」

「いいえ、急ぐ必要はないので、これも新生活の楽しみとして時間をかけてゆっくりやります。一ヶ月ぐらいかかるかもしれませんけど……」


 キウイは首を振って、オニキスの申し出を丁重に断った。


「さあ、チェリーさんのところに戻りましょう」


 元の中央の部屋に戻り、キウイの荷物の移動が完了したことをチェリーに報告すると、チェリーは驚いたような声を出した。


「ええっ、あのキウイさんのお部屋のたくさんの荷物を、もうすべて移動させ終わったのですか? オニキス様、すごいです!」


 チェリーの驚きの声に、オニキスは謙遜するように首を振った。


「キウイの功績だ」


 そんなオニキスにキウイが笑顔を向ける。


「ふふ、私はほんの少しお手伝いをしただけですよ。オニキス様の手腕です。チェリーさん、紅茶をお出ししていただけますか?」


 チェリーが紅茶を準備する傍ら、キウイがソファーにオニキスを誘導した。

 ソファーの対面に座ったオニキスとキウイに、チェリーが紅茶をそっと出した。

 そして自分の紅茶を持って、キウイの隣に移動する。

 チェリーを膝の上に座らせようとするキウイに断固拒否の意を示し、残念そうな表情のキウイの隣に少し距離を取って座った。


 チェリーはオニキスに対して、改めて感心するように言った。


「それにしても空間魔法とは……すごいのですね。私、魔法が使えないので、魔法が使える皆様が羨ましいです」


 そのチェリーの言葉に、オニキスは不思議なものを見るように静かに言った。


「人間は不便だな。人魚は魔法が使えない個体は存在しない」


 そのオニキスの言葉に、キウイが丁寧に答える。


「そうですね、人間は魔法を使えない方もいらっしゃいます。ただ、完全に魔力がない人というのは稀で……殆どの人は、訓練すれば簡単な無属性魔法なら使えるようになります。チェリーさんも身体の中に魔力が秘められているのを感じますから、訓練次第で魔法が使えるようになる筈ですよ」

「ええっ、そうなのですか?」


 チェリーが驚きと喜びの声をあげる中、キウイはさらに言葉を続けた。


「それに、使い方を知らないだけで、実は何らかの属性に適性を持っている方もいらっしゃいます。適性魔法は殆どの人が成長の過程で自然と使いこなせるようになるので、大人になってから適性が発覚するのはかなり珍しいことではありますが……チェリーさんも今度調べてみましょうか」


 キウイが優しく微笑みながら尋ねると、チェリーは期待に胸を躍らせながら答えた。


「私、調べてみたい……ですっ! よろしくお願いします」


 その愛らしい表情に、キウイは思わずチェリーの頭を優しく撫でた。


「ふふ、では……引っ越しの荷解きを進めて、適性属性を調べるための属性石が出てきたら調べてみましょう。ちょっと今は、どこに仕舞い込んだかわからなくなってしまったので……」


 そう苦笑いをしながら言うキウイに、チェリーは悪戯そうに瞳を細めて微笑みかけた。


「ふふっ、楽しみにしていますから、荷解きを頑張ってくださいね」

「……愛しのチェリーさんがそう言われたら、荷解きに一ヶ月もかけていられませんね……。はい、頑張ります」


 キウイは、自分の発言で自分の首を絞めているのをひしひしと感じた。

 しかし、愛する人のきらめく期待の視線に、応えないわけにはいかないのであった。






やはりキウイとオニキスはいいコンビ……オープンな感じがいいですね……

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