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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第五章 メイドたちの絆

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082. 右耳の独占欲の印

 チェリーとキウイが婚約したことをサクラが知ったのは、コーグ公国からの慌ただしい帰国から数日後のことだった。

 朝、サクラとルリを起こしに来たチェリーは、右耳に、見慣れない存在感のある緑色の石の耳飾りをつけていた。

 その異様な光景が気になり、思わずサクラはチェリーに尋ねる。


「チェリー、そのやたら大きい耳飾り、何なの?」


 サクラの言葉に、チェリーはたちまち頬を真っ赤に染め、言葉を詰まらせた。


「あっ……ええと、これは、その」


 恥ずかしそうに口ごもるチェリーの代わりに、隣にいるキウイが口を開く。

 その視線はルリに着付けているコルセットの紐から離さないまま、平然と、涼しい顔で答えた。


「私の『印』です。婚約したので、他の人に取られないように」


 サクラが突然の思ってもいなかった報告に驚いて言葉を失っていると、横にいたルリが純粋に喜び、顔をぱあっと明るくして、お祝いの言葉を口にした。


「チェリーとキウイ、ケッコンするの!? おめでとうだね!」


 ルリの言葉に我に返り、サクラは改めてチェリーの耳飾りに目をやった。

 言われてみればその石の緑色は、まごうことなくキウイの瞳の色だ。

 それはまるで、キウイ自身が、チェリーの周りに絶えず睨みを利かせているようにも見えた。

 ルリはしばらく二人の婚約に祝いの言葉を浴びせていたが、ふと小首を傾げて、不思議そうな表情でキウイに尋ねる。


「むむ……? キウイ、段階をたのしむ……とか言ってたのは、どうなったの?」


 チェリーとキウイが恋人になった日、キウイはわざわざ「初々しい恋人から、徐々に進んでいく段階を順番に楽しみたいから、結婚はまだしない」と語っていたのだ。

 確かに、「初々しい恋人」から「婚約者」は段階が飛びすぎだと、サクラも思った。


「コーグ公国にいる間、私は切実に思ったのです。チェリーさんと会える時間は何よりも貴重で、大切にしなければならないと……。徐々に進む不可逆な段階を一つずつ楽しむのも一興ですが、人生は一度きり。そんな悠長なことをしている場合ではなく、これ以降の人生を、今すぐに全て濃厚なチェリーさん色に染めるべきだと、私は強く確信したのです」


 キウイはあくまでいつもの冷静な表情を保ちながらも、その胸の内を饒舌に語った。


「正式に婚約すれば、使用人用の宿舎の、妻帯者用の部屋で同棲することができます。この合理的な利点がある以上、なんとしても、一刻も早く婚約者という関係になりたかったのです。今、可能な限り早く、引っ越しの準備を進めています」


 そうどこか自慢げに語るキウイがチェリーの方を見ると、チェリーは頬をほんのり赤くして、照れを隠すように微笑んだ。

 その愛らしい様子から、二人がまさに今、幸せな道を歩いているのだとサクラは確信した。


「そうなの……なにはともあれ、おめでとう。二人が幸せになってくれると、私も嬉しいわ」


 突然の報告に驚きはしたが、家族のように思っているチェリーとキウイの嬉しい知らせに、サクラの胸の中は温かいものでいっぱいだった。


「結婚式はいつになるのかしら?」


 サクラが聞くと、キウイは首を横に振った。


「同棲を始めるためにひとまず婚約者になりたくて……正直なところ、そこから先はまだ考えられていないのです。もちろん、新生活が落ち着いたら進めます」


 いつも計画的に行動するキウイから「まだ考えていない」という言葉が飛び出したことに、サクラは驚いた。

 この突然の婚約は、キウイにとっても異例な、衝動的な行動だったのだろう。


「わたしも、ふたりのケッコンシキ、出られるかな?」


 ルリが瞳をきらきらと輝かせて言うのに対し、キウイはあくまで冷静に返した。


「可能ならお二人をご招待したい気持ちはあるのですが……。お二人は王族ですから、平民の結婚式に参列するというのは、難しいかもしれませんね」

「まあ、そうよねぇ……」


 こういう時、王族というのは、自由の利かないものだと実感する。

 だが、もし許されるなら、こっそり遠くから眺めるだけでも……そのぐらいは許されるといいなと、サクラはそう願った。


「そもそも、キウイさんのお母様に連絡がつかないようでして……」

「えっ、そうなの? 何か……あったの?」


 チェリーの唐突な告白にサクラが心配そうな声を上げたが、キウイは一切表情を変えず、いたって冷静に語り始めた。


「ああ、そんな深刻な話ではないのですよ。私は母のうち一人しか知らないのですが、その母は世界各地を旅して回っていて、居場所を把握していないのです」


 キウイは淡々と続ける。


「元々筋金入りの放任主義なのですよ。私は幼少期は母と一緒に旅していましたが、初等学校入学の年になるとフィオーレ王国の全寮制の学校に入れられて、そのままです。それ以来、連絡もありません。最低限の学費は支払っていただけたようなのですが」


 キウイはその重い生い立ちの事実を、一切の感情を乗せることなく、他人事のように淡々と語り終えた。


「まあ、生きているかもわからない人のために結婚式を遅らせるなどあり得ません。運よく連絡がつけば招待して差し上げますが、できなければ諦めますよ」


 そう言い放つキウイの言葉は、家族に囲まれて暮らしているサクラにとっては少し冷たくも感じられた。

 だが、「運よく連絡がつけば招待する」という一言には、微かな情が込められていた。

 これは、サクラやルリの家族のものとは全く違うが、一見淡々としながらも確かな、キウイの母娘の愛情のあり方なのだろうと、サクラはそっと胸の中で受け入れた。


「それで、結婚するまでの周りへの牽制として、耳飾りなの?」


 サクラが聞くと、キウイは満足そうに頷いた。


「ええ、そのとおりです。チェリーさんに耳飾りをつけるのは、ちゃんと葵様の許可も取っているのです。表向きは、この石に込められた私の鉄壁の防護結界にて愛する婚約者をお守りする、という名目ですが」


 キウイはどこか誇らしげな表情をして、続けた。


「言うまでもなく、本当の目的は、私の婚約者ということを見る人全てに強くアピールし、私だけのチェリーさんを、寄ってくる魔の手から守ることにあります」


 キウイがそっとチェリーの耳飾りに触れると、チェリーはその指の感触にくすぐったそうにしながら、照れるように頬を赤らめた。


「専属メイドのお仕事の邪魔にならず、それでいて最も他の人に見せつけることができる装飾品……その最適解が耳飾りだったのです。チェリーさんの愛らしい耳に負担をかけない範囲で、最大限に見やすい大きいものを作ったのですよ」


 自慢げなキウイがそう語ると、真っ赤な頬のままのチェリーが、どこか困ったように口を挟む。


「私は、ここまでしなくてもと言ったのですが……」


 その言葉に、キウイが厳として首を横に振る。


「何をおっしゃいますか。王族の専属メイドは城の使用人の華です。チェリーさんを狙っている人は、あなたが予想もつかないぐらい多いのですよ。軍の訓練中など、頻繁に話題になってるのを耳にしました」


 その「チェリーを狙っていた」代表格がキウイ自身だ。

 確かに、結婚式でもブーケを受け取ったりと、専属メイドは王族とともに人前に出る機会も多い。

 その上、見た目も愛らしいチェリーが人気を博すのに、サクラも納得がいった。


「でもそうなら、キウイも人気者なんじゃないの?」


 王族の専属メイドが人気が高いのであれば、ルリの専属メイドであるキウイの人気も高そうだとサクラは思った。

 サクラの問いに、キウイはあくまで論理的に解析するように応えた。


「どうなんでしょう。私はルリ様の専属メイドになってそんなに日が経っていないではありますが……自分の評価は自分の耳には入りませんから、わかりませんね」


 そんなキウイに、横にいたチェリーがそっと控えめな声を重ねた。


「キウイさんも人気……あると思います。元々、王宮で唯一の宮廷魔術師ですし。私は見たことがないのですけれど、魔物の駆除のような現場では、鉄壁の結界魔法で護ってくれる、それはもう頼れる存在だと……聞いたことがあります」


 チェリーのその言葉に、キウイはいたって真剣な表情で思考を巡らせるように、顎に手を当てた。


「ふむ。たしかに唯一の価値というのはあるかもしれないですね」


 サクラも、つい先日の、コーグ公国での出来事を思い出した。

 あの時キウイが、イグニス・コアのマグマ弾から守ってくれた、その鉄壁の頼もしさを思い出しながら、サクラは口を開く。


「そうね、コーグ公国でのキウイは本当に頼もしかったもの。あんな姿を見たら、惚れてしまう人がいても、おかしくはなさそうだわ」


 サクラの言葉を聞いたチェリーが、少し不安そうにキウイの方を見た。

 その愛しいチェリーからの独占欲を伴った視線に、キウイはどこか嬉しそうに微笑んだ。


「チェリーさんも、私に『印』をつけたくなりましたか? チェリーさんがそう望むのであれば、私は甘んじて受け入れますよ」


 キウイがチェリーに顔をぐっと寄せながらそんなことを言うと、チェリーは一瞬言葉を失い、顔を真っ赤に染めた。


「わ、私……っ、私は……っ!」

「ふふっ、私はどちらかというと縛りつける方の人間ですが、愛するチェリーさんに縛られるというのも、大変唆られますね。ぜひ前向きにご検討ください、チェリーさん」


 キウイが満足げな、余裕のある笑みを見せて、その場では甘い余韻を残しつつも、それ以上の話が続くことはなかった。

 キウイの右耳に、チェリーの瞳のようなワインレッドの石の飾りがつけられるようになるのは、それから数日後のことだった。






こういうの……好きなんです……!

本当は首輪にしようかと思ったんですけど、メイド服だと目立たなさそうでやめました。

指輪は普通に仕事の邪魔になりそうだなと。

最終的には、耳飾りにしたことで、イラスト映えもするし、よかったと思います。


さて、ついに婚約したチェリーとキウイ。

五章は二人を中心に、フィオーレ王国内で話が進んでいきます。

よろしくお願いします。


Twitterの告知画像が今までサクラとルリだったのですが、この度、チェリーとキウイの画像も描いていただきました!

耳飾りもバッチリつけてます。

気になる方はぜひ覗きに来てください。

著者情報の「Webサイト」の項目にTwitterへのリンクを設定してあります。

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