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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第五章 メイドたちの絆

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124. サクラの魔力は、とっておき

 最近のルリの朝は、ほんの少しの寂しさから始まっていた。


 夜に眠りにつく時は、サクラからもらったたっぷりの魔力を、身体の中でしっかりとぎゅっと抱きしめて眠るのに。

 朝起きると、ルリの魔力と混ざってしまっていて、「サクラの魔力」ではなくなってしまっているからだ。


 朝一番のキスで、練習用の魔力はもらうけれど。

 それはちょっぴりだけだから、いつも寂しく思っていた。


 けれど、今朝は違う。

 夢の中でも、ずっとサクラをぎゅっとしている感覚があった。

 目覚めたルリの胸の奥には、ぽかぽかした温かい魔力が、確かに残っている。

 寝る前と同じように、大好きなサクラの魔力が、そこにたっぷりとあったのだ。




「ふふ〜、ふふふ〜ん♪」


 ご機嫌なルリの鼻歌が、朝の部屋に響く。

 背筋を伸ばして、キウイにコルセットを締めてもらう。

 それは、先程の騒動が嘘のように、平穏な日常そのものだった。


 ふと隣に視線を向けると、チェリーがいつもの手際のよさで、サクラのコルセットの紐を締めているのが見えた。


「だから、本当に何もなかったのよ? ただちょっと、ルリが私の上に乗ってただけで……」

「ふふ……そういうことにしておきますね」

「ちょっと、チェリー? 本当に私のこと信じてるの?」


 サクラが何やら顔を赤くしながら話しているけれど、サクラもチェリーもその口調は穏やかだ。


(ふふっ……いつものサクラとチェリーだ)


 ルリはいつも通りの二人を見ながら、ご機嫌に目を細めた。

 そしてそのまま、弾む声でキウイに話しかける。


「ふふ〜♪ ねえ、キウイ! きょうは、サクラの魔力がいっぱいあるんだよ!」

「はい、もう何度もお聞きしましたよ」


 キウイは淡々としながらも、優しい声で返事をする。

 ルリのコルセットの紐をきゅっと結び終えると、ベッドに広げてあった淡い空色のドレスを手に取り、ルリが身体を入れる場所を広げた。


「ルリ様、こちらに脚を」

「はあ〜い!」


 キウイが広げたドレスにルリが脚を通すと、すっとキウイがドレスを引き上げる。

 ルリがいつものように伸ばした腕にドレスの袖を通しながら、キウイは感心したような声を出した。


「正直に申し上げますと……こんなに早期にルリ様が魔力制御を自分のものにするとは、想定外でした」


 キウイがドレスの背中を整えながら、ふわりと微笑んだ。


「年単位の歳月が必要になると予想しておりましたので。ルリ様がサクラ様を深く想う気持ちが……そうさせているのでしょうね」

「うふふっ! そうだよ、わたし、サクラのことだいすきだもんっ!」


 ルリは太陽のように明るく笑った。

 キウイの手によって、背中の留め具が嵌められ、襟元が整えられていく。

 鏡の中の自分が、いつもの「サクラの妃」としての姿になっていく。


「それで? つぎは、どうするのかな? まだ、仕上げがある……って、言ってたよね? また訓練場?」


 魔力の操作に慣れたら、訓練の仕上げをする……キウイは、確かそう言っていた筈だ。

 そう思ってルリが尋ねると、キウイは首を横に振った。


「いえ……もう、私が教えることはありません。今のルリ様なら、『気づく』ことができるはずですから」

「気づく……? 何に?」

「成すべきことを、ですよ。目を閉じてください」


 言われるがまま、ルリはそっと目を閉じる。

 暗闇の中に、自分の魔力の海と、その中心に包まれたサクラの温かい魔力を確かに感じられる。


「ルリ様の身体は、生命活動のために、常に魔力を『消費』し続けています。今までは、お二人の魔力が完全に混ざり合っていたため、区別することなく無差別に吸収するしかありませんでした」


 キウイの冷静な分析が、頭の中に染み渡るように響く。


(そっか……今までは、わたしの魔力と、サクラの魔力……まざってスープみたいになってたから、そのまま飲むしかなかったんだ)


 混ざってしまったスープから、特定の材料だけを残すことはできない。

 お腹が空いたら、全部一緒に飲むしかなかったのだ。


「ですが今は、明確に分かれています。……わかりますね?」

「うん……わかるよ」

「であれば、あとは……サクラ様の魔力に手をつけないようにするだけです」


 キウイの言葉は、シンプルで、核心を突いていた。


「今まで無意識に行っていた魔力消費を、意識下に置いてみてください。魔力を制御する術を完璧に身に着けた、今のルリ様なら……容易いことでしょう」


(サクラの魔力を、たべずに……とっておく……)


 大事なデザートを、取っておくように。

 ルリは魔力消費に集中した。

 意識的に、自分の魔力だけを消費する。

 サクラの魔力を抱きしめる制御に比べれば、それは比較的簡単なものだった。


「む……むむっ……! こう、かな……? どう、キウイ?」


 ルリは難しい顔をしながら首を傾げる。

 キウイは魔力に集中するように目を閉じた。


「……はい。完璧です。とても上手であられますよ、ルリ様」


 キウイに褒められ、ルリは「ふふん」と鼻を鳴らした。

 それに対しキウイが、真剣な表情で、人差し指を立てる。


「……ルリ様、忘れないでください。ルリ様にとっての『魔力消費』は、我々人間にとっての『食事』のような、原始的な生命活動そのものです。その本能を意識的に制御するということは、相応のストレスを伴うでしょう」

「すとれす?」

「はい。何か、嫌な気持ちになったり、悲しい気持ちになったり……そんな兆候を感じたら、すぐに中断してください。決して、無理をしてはなりません」


 キウイの心配そうな言葉。

 けれど、今のルリの心は「サクラを守れる」という喜びで満たされていて、その忠告はあまり深く届かなかった。

 このまま、サクラの魔力を――そして、サクラを大事にするんだ。

 そんな想いが、ルリの胸のうちをいっぱいにする。


「ありがと、キウイ! でも、だいじょうぶだよ! わたし……サクラのために、がんばっちゃうから!」


 ルリは温かい想いを胸に、太陽のように笑った。

 そのままくるりと振り返り、隣にいるサクラの背中へと飛びつく。


「サクラ〜! あのね、わたし、きょうからサクラの魔力、もらわなくっていいかもしれない!」


 サクラの背中に頬をすり寄せながら、ルリは誇らしげに告げた。

 これでもう、サクラの身体に負担をかけなくていい。

 サクラを傷つけずに、安心して隣にいることができるんだ。


「ええっ……そんな、急に……? 大丈夫なの?」


 しかし、振り返ってルリの方を見たサクラは、心配そうに眉を下げていた。

 サクラは、ルリが急に魔力を絶って、サクラの魔力不足による禁断症状が出ないか心配している。

 けれど、今の自信満々のルリには、その表情が別の意味に見えた。


(サクラ……さみしいのかな?)


 魔力をもらわないということは、魔力譲渡――毎晩の日課のキスがなくなるということだ。

 サクラはそれが寂しいのかもしれない。

 そう思ったルリは、悪戯そうに、にししと笑った。


「もちろん、おやすみのキスはしてあげるよ? ふふっ」

「もう……ルリったら」


 サクラが力が抜けたように、呆れ笑いをこぼす。

 その笑顔を見て、ルリは満足げに笑った。


 大丈夫。

 わたしはもう、サクラに助けられるだけの存在じゃない。

 ルリは決意を込めるように、サクラをぎゅっと抱きしめた。




 そして、あっという間に夜が訪れた。

 いつもなら、就寝前の甘いひとときとして魔力譲渡を行う時間だが、今日のルリは違った。


「本当に……魔力譲渡、いらないのね?」

「うん! だって、サクラの魔力、いっぱいあるもん!」


 心配そうに尋ねるサクラに、ルリは自信満々に胸を張った。

 

「だいじょうぶだよ〜! ちゃんと『とっておく』から! わたし、じょうずなんだから!」

「ルリ……わかったわ。でも、本当に無理はしないでね」


 サクラにお休みのキスをして、ルリはベッドへと潜り込んだ。

 ふと、脇机の方に目を向ける。

 そこには、眠りにつくルリを見守るように、チェリーが以前作ってくれた、サクラの人形が座っている。

 チェリーが、本物のサクラを傷つけてしまわないように、ルリの愛が溢れてしまった時の受け皿として用意してくれた、愛らしい人形。


(ふふ……あっちのかわいいサクラにも、ケガさせずに……ぜんぶおわりそう。よかったぁ……)


 胸の中には、まだたっぷりのサクラの魔力がある。

 これを食べないように、自分自身の魔力だけを使って、朝まで過ごすだけだ。


(サクラの魔力は、だいじ、だいじ……)


 ルリは隣に眠るサクラの確かな体温を感じながら、温かな気持ちとともに、目を閉じた。






さすがに……フラグ立てすぎでは!?

でもまあ、調子に乗るルリはかわいいですね

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