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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第五章 メイドたちの絆

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123. 抱きしめた魔力と、別腹のキス

 柔らかな日差しが瞼を刺激する。

 いつも通りのノックの音とともに、サクラは目を覚ました。


 隣にある体温がもぞもぞと動き、ふわりと毛布が持ち上がる。

 サクラは「ん」と小さく声を漏らすと、目を閉じたまま、ころりと身体を反転させた。

 無造作に手を投げ出し、いつもの定位置――ルリを受け入れる態勢を無意識に作り出す。

 とろんとした意識の中で、サクラは愛しい妃からの目覚めのキスを待ち受けた。


(いつもの……ね)


 最近は、朝一番に魔力譲渡を兼ねた甘い口づけを交わすのが日課だ。

 チェリーたちもわかっていて、返事をするまで入ってこない。

 身体の上に柔らかなぬくもりがふわりと乗ってきて、さらさらと流れるルリの長い髪がサクラの頬をくすぐる。

 鼻腔をくすぐるヘアオイルの香りに包まれ、胸いっぱいに温かい気持ちが広がる。

 サクラは力の抜けた身体で、ルリの甘くも深いキスを待った。


 ――しかし。

 いくら待っても、唇に熱が降ってくることはなかった。


(あら……?)


 ルリの体温は間違いなく身体の上にある。

 濃厚な気配も、くすぐったい吐息も感じるのに。

 いつまでたっても、決定的な瞬間が訪れない。


 期待して待っているのもなんだか恥ずかしくなってきて、サクラは重い瞼をゆっくりと持ち上げた。


「んっ……、ル、リ……?」


 予想通り、ルリの顔はすぐ目の前にあった。

 けれど、いつものようなとろんとした瞳ではない。

 ルリは、きらきらと輝く瞳でサクラを見つめ――そして、ぱあっと花咲くような満面の笑みを浮かべたのだ。


「サクラ……混ざってないの! 朝までちゃんと、ぎゅってできた……っ!」

「え……?」

「サクラの魔力、ねてる間もずっとぎゅってしてて……朝まで混ざらずに、ちゃんと、のこってるの!」


 ルリがサクラに覆いかぶさり、ぎゅうっと身体を抱きしめる。

 その言葉に、サクラはぱちくりと目を瞬かせた。

 魔力が混ざっていないということは――ルリは睡眠の無意識下でも、魔力制御をずっと続けていたということだ。


(すごい……本当に、寝てる間もずっと制御できるようになるなんて……!)


 キスがなかったのは、魔力譲渡の必要がなかったから。

 ただ、それだけのことだったのだ。


「す、すごいじゃない、ルリ……!」


 喜ぶルリに、サクラも思わず笑顔になる。

 あんなに苦労していた細かい魔力制御を、ここまで自分のものにするなんて。

 サクラは愛おしさを込めて、抱きついてきたルリの背中を優しく撫でた。


 ――ただ、ほんの少しだけ。

 毎朝のキスがなくて、ちょっとだけ、残念に思ってしまった自分がいた。


(そんなの……思っちゃダメね。嬉しいことなんだもの)


 そんな複雑な乙女心を胸にしまっていると、不意にルリが身体を離した。

 ベッドに手をついて、ぐいっと上体を起こす。


「うふふっ! ありがとう、サクラ〜!」


 その笑顔は、太陽のように眩しい。

 これで、いいんだ。

 サクラがしんみりそう思っていると、ルリの藍色の瞳が、すうっと細められる。


「――じゃあ、それはそれとして……」

「へっ?」


 一瞬前までの無邪気な笑顔とは違う、獲物を狙うような、どこか熱を帯びた瞳と視線がかち合う。

 構える時間なんてなかった。


 ちゅっ。

 甘い水音とともに落ちてきたルリの唇が、サクラの唇を塞いでいた。


「ふっ……!?」

「ん……おはよ、サクラ」


 そっと唇を離し、悪戯そうに微笑むルリ。

 至近距離で見るその表情に、サクラの心臓は遅れて早鐘を打ち始めた。

 顔が熱い。頬が林檎のように染まっている自信がある。


「あ……」


 何か文句を言おうかと思って、でもいい言葉が思いつかなくて。

 喉の奥で言葉が詰まってしまった、その時だった。


「ちょ、ちょっとキウイさん、ダメですよ、ちゃんとお返事を待ってから入らないとっ……」

「だって、こんなに待っているのに応答がないのですよ。何かよくないことが発生している可能性だって大いにあり得ます。早急にお部屋の中を確認すべきです」


 廊下から、何やら揉めているような声が聞こえてきた。

 その内容を聞き取ったサクラは、ぱっと顔を青ざめさせた。


「た、大変! 二人が入ってきちゃう……ちょっと、ルリ、降りて……っ」


 サクラは慌ててルリの肩を押す。

 けれどルリは不満そうに唇をとがらせながら、むしろ太腿に体重をかけてきた。


「なんで? サクラはわたしとくっついてるの、イヤなの?」

「そうじゃないの……っ! でも、今じゃないの、ルリ、はやくっ……」


 サクラの必死の抵抗むなしく、ルリを動かすことは叶わない。

 そうこうしている間に、廊下の議論は佳境を迎えてしまっていた。


「で、でも、もしかしたら、その……お二人とも、お洋服を着ていないかもしれませんし……っ!」

「そうですね、可能性は二つです。異常事態か……お二人で仲睦まじくしておられるか。前者なら救助が必要ですし、後者なら――謝って扉を閉めましょう。いきますよ」

「あっ……き、キウイさん……っ!」


(ああ……もう、間に合わない……っ)


 ドアの向こうで響くチェリーの焦るような声に、サクラは訪れる未来を予感して、ぎゅっと目を閉じた。

 いつもの控えめのノックとは違う、強めのノックが部屋に響き、ドアノブが乱暴に回された。


 がちゃり。


「ルリ様、サクラ様、生存確認に参りま――」


 勢いよく扉を開け放ったキウイ。

 その緑の瞳が、ベッドの上の二人を捉えた。


 ネグリジェ姿で顔を赤くし、ルリを押し返そうとした手で固まっているサクラ。

 その上で馬乗りになり、逃さないように体重をかけているルリ。

 誰がどう見ても、くんずほぐれつの甘いひとときの真っ最中だ。


 キウイは表情一つ変えず、瞬時に状況を把握したように目を閉じた。


「――後者でしたか。大変失礼いたしました」


 キウイが流れるような動作で回れ右をする。

 何かを大いに勘違いしてそうなキウイに、サクラは赤い顔で叫んだ。


「ちが……違うのっ! 待って、大丈夫だから、もう、終わったからっ! あ……ちがう、違うってばっ! してない、まだ何もしてない……そうじゃなくて、そもそも、何も、始まってないのっ!」


 言い訳しようとすればするほど、サクラの頭はごちゃごちゃになって、自分でも何を言っているかわからなくなってしまった。

 そんな混乱するサクラをよそに、ルリがサクラの身体からぴょんと飛び降りて、キウイの方を向く。


「キウイ〜! わたし、サクラの魔力、朝までずっとぎゅってしてたの! ほら!」

「ほほう……?」


 扉を出ようとしていたキウイが、ルリが自慢げに胸を張りながら告げた言葉を聞いて立ち止まる。

 ルリの方に振り向くと、魔力を観察するようにうっすらと目を細めた。


「……確かに、混ざっておりませんね。朝の支度をしながら、ゆっくりとお話を聞かせていただきましょうか」


 キウイは納得したように頷くと、開け放たれたドアの向こう――廊下にいるチェリーに向かって声をかけた。


「ほら、チェリーさん、入っていいそうですよ」

「ひゃあっ!? す、すみませんサクラ様、ルリ様、私たち、とんだお邪魔を……っ」


 キウイに促され、ドアの陰から顔を真っ赤にしたチェリーが姿を現した。

 指の隙間から恐る恐るこちらを窺うその様子を見て、サクラは困ったように息を吐いた。

 完全に誤解を解くのは骨が折れそうだ。


(はぁ……もう、困っちゃうわ)


 サクラは諦めたように溜め息をつくと、乱れたネグリジェを直して起き上がりながら、小さく微笑んだ。

 騒がしかったり、恥ずかしかったり……そして、愛おしかったり。

 今日もまた、ルリと一緒の、賑やかで穏やかな一日が始まるのだ。






ルリとサクラはこうじゃないと!の詰め合わせみたいな話でした。

ルリに乱されたいサクラと、ちゃんと乱してあげるルリです。

こんな二人が大好きです。



【更新が週3回になります】

すみません、執筆開始から、毎日更新でなんとか頑張ってきたのですが……ついに限界を迎えました。

明日2025/12/29(月)から、【月・水・土】の週3回更新にさせていただきます。

といっても明日は月曜日なので更新あります。

詳しくは活動報告をご覧ください。

今まで毎日読んでくださった方、本当にありがとうございました!

更新頻度は減りますが、これからも「人魚と姫」をよろしくお願いします!

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