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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第五章 メイドたちの絆

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109. 重なる手と、溶け合う魔力

 ちく、ちく、ちく。

 ソファに座ったチェリーは、花のコサージュに針を入れながら、キウイが自分の書斎の片付けを終えるのを待っていた。

 結婚式のウェディングドレスを飾るための、純白のコサージュ。

 花びらを一枚つけるたびに、結婚式に一歩近づいているようで、思わず頬が緩む。


 キウイの書斎は、ようやく殆どの荷物が本棚に収まりつつある。

 大量の木箱と布袋で溢れていた部屋は、かなり整頓された状態になった。

 「この状態をなるべく長く維持したいですね」なんて真面目な顔をしてキウイが言うものだから、チェリーは苦笑しながら肩を叩いたものだ。


 ちょうど花びらの一枚をコサージュにつけおわり、糸切り鋏で糸を切ったところで、かたん、と音がした。

 チェリーが音の方に目を向けると、ちょうどキウイが書斎から出てきたところだった。


「あれ、キウイさん、今日はもうお片付けは終わりなのですか?」

「ええ、ちょうど切りの良いところまで終わったのと……いいものを見つけたので」


 そう言うキウイの手には、透明な石が握られていた。

 チェリーには、何の変哲もない石のように見えるが、キウイの持ち物だから、何か魔道具的なものなのだろう。


「それが、いいもの……なのですか?」

「ええ、チェリーさんがお待ちかねの……魔法適性を調べるための、『属性石』ですよ」

「……! それ、が……」


 引っ越しの日にキウイが言っていたことを思い出す。

 チェリー自身の中に魔力が確かに存在し、魔法適性もあるかもしれない……。

 魔法という未知の領域への期待に、胸が高鳴る。

 チェリーは、針を針山に刺すと、作っていたコサージュとともに針箱にしまい込んだ。


 キウイがソファのチェリーの横に座ると、柔らかいソファがキウイの重みでふわっと沈んだ。

 ことん、とキウイが属性石を机の上に置く。

 無骨な、石をそのまま切り出したような透明な石だ。


「これが……そうなのですね。サクラ様やアヤメ様の成人の儀で使われていたのは、丸い形でしたが……」

「あれは儀式用に見栄えがよくなるよう、加工された物なのですよ。これが属性石の原石です。属性を調べるだけなら、原石の状態で十分ですので」


 そう言いながらキウイは、ソファの上を滑るようにしてチェリーの方へ身体を寄せた。

 肩と肩が触れ合う距離。

 ふわり、とキウイから甘いヘアオイルの香りが漂い、チェリーの鼻腔をくすぐる。


 キウイの細い指先が、チェリーの手を包み込むように、そっと重ねられた。

 不意に感じたその柔らかさと体温に、チェリーは息を詰まらせた。


 チェリーがどぎまぎしていると、キウイが顔を覗き込み、ふわりと微笑みかけてきた。


「まずは魔力の込め方を覚えましょう。大丈夫です、何も難しいことはありませんし、私が優しく教えて差し上げますから」


 耳元を撫でるような艶っぽい囁きに、チェリーは身体の芯が熱くなるのを感じた。


 キウイはチェリーの手を握りしめると、目を閉じた。

 途端に、キウイの手から、まるで陽だまりのような温かい何かが、じんわりと身体の奥へ流れ込んでくるのを感じた。

 ゆっくり目を開けたキウイは、長い睫毛を揺らしながら、チェリーに甘く微笑みかけた。


「少し……私の魔力をチェリーさんに流し込みました。わかりますか?」

「はい、何か、温かいものが……」

「そう、その感覚です。人間同士の魔力なので、私の魔力はゆっくり……チェリーさんの魔力に馴染んでいきます。チェリーさんも目を閉じて……感じてみてください」


 チェリーはキウイに促されるがまま、目を閉じた。


 キウイから流れ込んできた温かい魔力が、自分の中に、ふわっと溶けて、馴染んでゆく。

 それはまるで、キウイの優しさが直接身体の中に溶け込んでくるような感覚だった。

 繋がった手から伝わる温もりが、身体の芯まで満たしていくような、甘く痺れるような感覚に、チェリーは無意識に吐息を漏らした。


「……どうですか? 感じられました?」

「はい……ふわっと、溶けるような感じで……」

「そうです……それが、チェリーさんの魔力です」


 チェリーがゆっくりと目を開けると、キウイと目が合った。


「いいですね……チェリーさんは優秀であられます」

「そんな……」

「いいえ、本当のことです。自分の中の魔力を感じるのに難儀する人も多いのですよ」


 キウイはそう言いながら、机の上の属性石を手に取った。


「属性石の説明をしておきますね。通常は、白に染まります。何かの属性に適性があれば、その属性の色に。私が魔力を込めれば、結界属性の銀色に染まります。サクラ様であれば時属性の黒、ルリ様であれば水属性の青と、空間属性の空色ですね。アヤメ様は透明のままでしたが……あれはかなり特殊な事例なので、まず起こり得ません」


 チェリーはアヤメの成人の儀で、アヤメの属性石が染まらなかった時の、皆の動揺を思い出した。

 よほどの前代未聞のことなのだと理解できる。


「所有者が多いのは、基礎元素……火、水、風、雷、土の五種類です。それぞれ、赤、青、緑、黄、茶になります。もし属性適性がなく、白色に染まっても、無属性の魔法であれば訓練次第で問題なく使えるようになるので、安心してくださいね。光を灯したりできますよ」


 そう言うと、キウイは気を遣うようにチェリーに優しい微笑みを向けた。


「先日も言いましたが……大人になって属性適性がわかる人は稀にいるではありますが、大変珍しい事例です。白色に染まっても、落ち込まないでくださいね」

「ふふっ……大丈夫ですよ。元々魔法は使えないと思っていたのですから」


 口ではそうは言うものの、もし、何かの適性があれば素敵だなと思ってしまう自分がいるのに、チェリーは気づいていた。

 先日のキウイの引っ越しで大活躍していたオニキスの空間属性はとても有用そうだったし、結婚式で見たルリの大規模な水魔法も素敵だった。

 そして、チェリーにとっては一番身近なキウイが使用する結界魔法も、日常生活でキウイがふと物置きや踏み台代わりに使うのを見て、憧れがある。


 キウイは手に持った属性石を差し出すと、そっと囁いた。


「……ではチェリーさん、心の準備ができたら、手をこちらに」






なんか……魔力が溶け合うのって……エッ……ですね……!

説明が長すぎて前後編になってしまいました。

気になる結果は次回です!

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