106. 魔力を抱きしめて
「混ざり合うとわからなくなってしまうのなら……混ぜなければいいのですよ」
一筋の希望を示すように、キウイが涼しい顔で告げた言葉。
ルリはその意味を確かめるように反芻した。
「まぜなければ、いい……」
「そうです。魔力を『操作』し、魔力を自分の制御下に置き、手足のように動かすのです」
そう言いながらキウイは結界の器の中で揺らめいていたキウイの銀色の魔力を、自分の指のまわりにしゅるんと集めた。
「ルリ様は水を操るのが得意でいらっしゃいます。そして、水も魔力も流動性のあるもの……同じような感覚で制御できるはずですよ。試してみてください」
キウイに促され、ルリは改めて、水の中に広がりつつある自分の「青」に意識を向けた。
「……うん、やってみる!」
キウイの言葉に強く頷くと、ルリは目を閉じて、魔力に意識に集中した。
(水みたいに……)
結界の器の中に漂っている自分の青い魔力。
水魔法で水を操っている時みたいに、ゆっくりと動かしてみる。
ふわふわと自由に漂っていた魔力が、自分の意思に従って、ゆらっと蠢く。
「むむ……こう、かな……?」
水に触れている指に繋ぎ止めるように、魔力を引っ張ってみる。
ゆっくりと、指に魔力が集まってくる。
「そうです、その調子です。出した魔力を塊として捉えて、『形』を与えてください。ルリ様の魔力は、ルリ様の一部です。落ち着いて……」
キウイのアドバイスがルリの頭にすっと響き渡る。
(わたしの魔力は、わたしの、からだ……。それで、かたちを、つくる……まあるく……真珠、みたいに……っ)
ルリ強くイメージすると、ルリの指のまわりに集まった魔力が、きゅっと収縮する。
ルリの魔力感知下では、指先に青色の球体が形成された。
「でき……できた! キウイ!」
「お見事です、ルリ様。それが魔力の『操作』です」
喜びに満面の笑顔になったルリに、キウイが優しく微笑み返す。
しかし次の瞬間、キウイは目を細め、悪戯を企む子どものような、意味深な笑みを浮かべた。
「……ルリ様には簡単すぎる内容でしたね。さあ、準備は整いました」
きょとんとするルリを、キウイはどこか楽しげに見据えた。
「ここからが魔力『操作』訓練の本番ですよ。……覚悟はよろしいですか?」
「き、キウイ……? なんか、たのしそうだね……?」
キウイの勢いに思わず後ずさりするルリに、キウイは追い込むように告げる。
「今から私がサクラ様の魔力の『真似』をします。サクラ様の魔力は、甘い愛のように……一度捕まったら、離してくれませんよね?」
キウイの指先に集まっていた銀色の魔力が、まるで愛しい人を求める腕のように、ゆらりと艶めかしく揺らめいた。
「ぼうっとしていたら、あっという間に捕まって、甘く溶かされて……混ざり合ってしまいます。困りますねぇ?」
囁くように言うキウイの声とともに、銀色の魔力がじりじりと青の魔力ににじり寄る。
「え、えっ……」
「ほら、混ざり合わないように、必死に『操作』してください」
キウイが指をくるりと回す。
その合図とともに、銀色の魔力が抱きしめるかのように、ルリの青い魔力を目がけて襲いかかってきた。
「あ、わわっ……」
ルリは急いで目を閉じて魔力感知に集中した。
キウイの魔力が蔦のように広がりながら、ルリの魔力を追い詰めてくる。
それは夜の魔力譲渡で、ルリの魔力に絡み合ってくるサクラの魔力そっくりであった。
ルリは魔力を操作し、きゅっとまとまったままの青い魔力を移動させ、必死に襲い来るキウイの魔力から逃げ回った。
「逃げてばかりではいけませんよ、ルリ様。主導権を持つのです」
逃げ惑うルリの魔力を嘲笑うかのように、キウイの銀色の魔力が二つに分かれ、挟み込むように青い魔力を追い詰める。
「ひえっ……わ、こっちにも……っ」
「ルリ様、制御する必要があるのは自分の魔力だけではありません。自分の魔力を『操作』して、その『場』の制御権を得てください。……サクラ様の魔力を誘導し、その動きを御するのです」
キウイの魔力が絡むように伸び、ルリの青い魔力の中に侵入する。
「あわ、ああぁっ……これ、どうしたら……っ」
「毎晩、サクラ様の魔力が広がってしまうのは、居場所がないからです。優しく、包み込んであげてください。大切なサクラ様を抱きしめるように……」
「だきし、める……」
ルリは一旦、ルリの中に侵入してきたキウイの魔力から離れるように、ルリの魔力を離し、距離を取った。
そして、魔力を広げ、そっと包み込む。
伸びた蔦のような魔力を押し戻し、まあるく形成してあげるように、その縁を撫でた。
しばらくすると、ルリの青い魔力に包まれるようにして、キウイの銀色の魔力は落ち着いた。
キウイの魔力が暴れなくなったことを確認して、ルリはぱちっと目を開けた。
「ふうっ……こ、これでいいのかな……っ?」
「はい、とてもお上手でした、ルリ様」
キウイは器の水からそっと手を引き抜くと、ふわっと微笑んだ。
「キウイ……サクラの魔力のマネ、とってもじょうずだね!? びっくりしちゃった!」
ルリが驚いたように言うと、キウイは「ふふ」と得意げに微笑んだ。
「ドワーフの国で魔力譲渡の様子を目の前で観察させていただきましたからね。あの時、サクラ様は私が『見ている』と思って、たいそう緊張されていらっしゃいましたが……実際のところ、お二人がキスをしている最中、私は目を閉じて、魔力の残量の監視とともに、魔力の流れの解析に没頭していたのですよ」
ドワーフの国での一件。
キウイは「結界魔法の維持に必要なサクラの魔力が尽きないか監視する」という名目で、自分の目の前で魔力譲渡のキスをするように、サクラとルリに指示したのだ。
あの後サクラは、「あれは絶対、私をからかってたのよ!」と顔を赤くして文句を言っていた。
ルリはそんなサクラの様子を思い出す。
「そうだったの? じゃあサクラは、かんちがいして恥ずかしがってただけってこと?」
「ふふ、その『勘違い』で動揺されるサクラ様が面白……いえ、可愛らしかったので、あえて訂正はいたしませんでした。私、お仕事は真面目にこなしますが、役得は逃さない主義ですので」
「あれ……キウイは、サクラをからかって、あそんでるだけだとおもってた……」
ルリはキウイの先を見据えた行動力に感心するばかりだった。
あの緊迫した状況下で、主に対してキスの実演を求めたのも、単なる意地悪や好奇心だけではなく、この未来の指導を見越してのことだったのだ。
「さて、魔力『操作』の訓練は以上になります。お疲れ様でした」
キウイは器にしていた結界を器用に傾け、中に残っていた水を小瓶に戻しながら告げた。
「サクラ様の魔力を、愛おしみながら抱きしめるようにように、優しく包み込む……。今の感覚を忘れないでください。そうすれば、今夜からのサクラ様との時間は、もっと素敵なものになるはずです」
「うん……! わたし、がんばるよ……」
ルリは自分の胸に手を当てた。
サクラを優しく抱きしめるように、サクラの魔力を、優しく包みこんであげる。
それは、サクラを大切に想う気持ちそのものだった。
やる気に満ちているルリに、キウイが優しく目を細めながら頷く。
そして、水を入れ終わった小瓶の蓋をきゅっと締めながら、キウイは静かに告げた。
「ああ、それと……今晩のことを予言します。きっとルリ様は『これいつまで続けるの?』とお思いになるでしょう。ひとまず眠りにつくまで頑張ってみてください」
「……? うん、ねるまでがんばる……ね?」
意味するところを理解できず首を傾げながらも、ルリはキウイの言葉を心に刻んだ。
「……さて、ここからしばらくは私との『魔力制御』の特訓はお休みです。その間は夜のサクラ様との『宿題』に励んでくださいね」
「そっか……わかった。わたし、がんばるよ」
「そうして、魔力の『操作』に慣れてきた頃に……またお声がけいたします。その時が、この『魔力制御』特訓の仕上げになります」
ルリはキウイにふわりと笑いかけた。
「キウイ……ほんとうに、ありがとうね」
「礼には及びませんよ。お二人が幸せでいてくださることが、私たちにとって一番の喜びですから」
キウイはいつもの涼しい顔で一礼した。
その耳元で、チェリーとの愛の証である耳飾りが誇らしげに揺れている。
ルリの忠実なる専属メイドとして、そして「愛を知る者」の同志として、キウイはルリを優しく見つめていた。
ちょっとSっ気のあるキウイの指導でした。
ルリがあわあわしててかわいいですね。
キウイがサクラをからかって遊んでたドワーフの国での魔力譲渡は「64. 『瘴気』の国の、夜の掟」ですね。
キウイはちゃんとお仕事はする性格なのです。
趣味を兼ねたお仕事ですからね。
「百合だらけのアドベントカレンダー2025」参加用に、チェリーとキウイの読み切り短編を投稿しました。
いつも通りな感じでチェリーとキウイがいちゃいちゃしてます。
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メイド二人の甘い仕事事情 〜針と糸とお礼のキス〜
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