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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第五章 メイドたちの絆

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097. 活気と囃しのビュランの鍛冶場

 議会が終わり、アヤメはビュランに寄り添うようにして腕を組みながら、フォルナ公爵の館の応接室を後にした。

 護衛の騎士と専属メイドも少し離れてついてきている。

 向かう先は、アヤメが宿泊する予定の、ビュランの館だ。


 スフェーンは、カナに「色々聞きたいことがあるから今晩泊めなさいな」と迫って、強引にカナの館に泊まる話を取りつけ、議会が終わるとそのままカナの館に向かってしまった。

 マレットとの恋模様の話を聞きたいのもあるのだろうが、自分とビュランに気を遣って、二人の時間を作ってくれたのだろうと、アヤメは理解していた。


「ごめん、館に帰る前に鍛冶場に寄っていいかな? 子爵のみんなが作業してるから、様子を見たくて」

「ええ、構いませんよ」


 ビュランの後に続いて館の外に出ると、アヤメは改めて街が活気に満ち溢れているのを実感した。

 前回訪れた時に感じた、あの息苦しいほどの澱んだ空気はすっかり消え去り、澄んだ空気が胸を満たす。

 あちこちのお店で、商人たちが盛んにやりとりしている声が響き渡り、それこそがこの国の日常なのだとアヤメに伝えていた。


 ビュランの案内で鍛冶場に足を踏み入れると、街の熱気とはまた違う、炉が放つ濃密な熱気がふわりとアヤメの頬を撫でた。

 中では数人のドワーフが汗だくになりながら鍛冶をしたり、砥ぎ仕事をしたりと、以前とは比べ物にならないほど金属同士が触れ合う音で溢れていた。

 炉の炎も一つではなく、いくつもが赤々と燃え盛っている。

 アヤメは以前、たった独りでビュランが瘴気に当てられながら鍛冶をしていた物寂しい鍛冶場を思い出し、今の活気あふれる鍛冶場の様子にほっと胸を撫で下ろした。


 ドワーフの一人がビュランに気づいて挨拶をすると、回りのドワーフも挨拶をする。

 たちまち、作業に区切りをつけたドワーフたちがビュランとアヤメを取り囲むように集まってきた。


「お疲れ様です。そちらが例のビュラン伯爵の婚約者様ですか?」

「そうだよ。見せもんじゃないよ、ほら、散った、散った!」


 顔を赤くしながらぶっきらぼうに言うビュランに、回りのドワーフがからかうように言う。


「そんなこと言って、見せびらかしたいから連れてきたんでしょう?」

「そうですよ、普段はあんなに自慢してるのに」

「ああ、もう! ほら、みんなの作業進捗を確認していくよ! 順番に見るから持ち場に戻りな!」


 ビュランの照れ隠しの怒号に、ドワーフたちは「わぁ、怒った!」「素直じゃないですねぇ」と口々に囃し立てながら、楽しそうに作業に戻っていった。

 去り際に会釈をしていくドワーフたちに、アヤメは丁寧にお辞儀をして返した。


「騒がしくてごめん、アヤメ。鍛冶場の中を見て回ってていいから、適当に待っててくれるかな? 危ないものもあるから、手は触れないようにして」

「はい、わかりました。ふふっ、お仕事中のビュランは、あんな感じなのですね」

「いつもはもっとビシっとしてるんだよ! 今日はみんなが浮かれちゃって……」


 そう言いながら、その場で一番浮かれているビュランは、照れるように横を向いた。


 ビュランは気合を入れるようにぱちんと頬を叩くと、気持ちを切り替えて鍛冶場を練り歩き始めた。

 持ち場に戻ったドワーフたちの作業の様子を確認していく。


「火入れの温度管理、もっとしっかりしな!」

「ほら、研ぐ角度がおかしいよ! もっと丁寧に!」


 さっきまでのデレデレした様子はどこにもない、厳しくも的確な指示を飛ばすビュランの真剣な横顔。

 あの時、デーモンに魅入られていた時の怒声とは違う。

 厳しさの中に、確かな技術と仲間への信頼が込められた声だ。

 アヤメは、自分にだけ向けられる甘い顔とは別の「職人の長」としてのビュランの側面を知り、ビュランへの愛が一層募るのを感じた。


 アヤメはしばらくビュランの様子を見ていたが、ふと鍛冶場の奥にある作業台が気になった。

 皆が作業をしている横を通り抜けながら作業台の前に行くと、その上にはまだ柄も取り付けられていない、刀身だけの剣があった。

 その細身の刀身の緻密に形作られた流麗さに、アヤメは思わず息をのんだ。


「気になる?」


 アヤメがその刀身だけの剣に見惚れていると、後ろからビュランが話しかけてきた。


「ええ……とっても綺麗ですね」

「嬉しいな……それ、あたしが今朝打ったやつだよ」


 ビュランが照れるように言った言葉に、アヤメは驚きに目を丸くした。


「ビュランは……鍛冶はもうやめたのだと思っていました」


 ビュランは本当は鍛冶仕事をあまり好んでいないにも拘わらず、長年伯爵の義務として行わざるを得なかった聞いていた。

 フォルナ公爵は、ビュランが望まない仕事はしなくていいように調整すると言っていた筈だ。

 それなのに、今もこうしてビュランが鍛冶仕事をしていると聞いて、アヤメは戸惑った。

 フォルナ公爵が約束を違えて、ビュランに望まない仕事をさせているとは、とても思えなかったからだ。


「義務でやってた時は、鍛冶仕事はやりたくないって思ってたんだけど……いざ、やらなくていいって言われてみたら、無性にやりたくなっちまってさ……無理しない範囲で、鍛冶の仕事も回してもらってるんだ」


 ビュランは目の前の刀を見つめて続ける。


「これは、東の方の国から頼まれた、儀式用の剣だよ。カタナって言うらしい。この後、刀身に彫刻で模様をつけて、もっと美人にしてあげる予定」


 アヤメは、ビュランが丁寧に刀身に模様を施していく様子を想像して、うっとりした。


「きっと素敵なんでしょうね……完成品を見てみたいですけれど……」

「んー、完成するのはもうちょっと後だからなぁ」


 ビュランは、頬を掻きながら、微笑んだ。


「まあ……いつか、どこかで出会ったら見てやってよ」


 いつか、どこかで、運命のような出会いができたら。

 とても素敵だなと、アヤメは笑みをこぼした。


「ふふっ、そうですね。楽しみにしておきます」


 アヤメは、ビュランに寄り添い、幸せを噛み締めるようにその肩にそっと頭を乗せた。






ドワーフの国編では全く出せなかった子爵たちです。

伯爵の弟子みたいなものですね。

ビュランの仕事場の様子を書きたかったんです……!

本当は「姉御」じゃなく「職人」モードのビュランも描きたかったんですが、ちょっと尺が足りませんでした……! またの機会に!

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