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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第五章 メイドたちの絆

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093. 宮廷魔術師の甘い自慢

「はぁっ!」

「ふうっ……」


 真剣を持った騎士が切り込んでくる。

 その一瞬に合わせて、微細な隙間すら与えない、精密な銀色に輝く対物理結界を瞬時に展開し、騎士の身体ごと弾き飛ばす。

 キウイはそれをもう幾度となく繰り返していた。


 フィオーレ王城内の軍の訓練場。

 宮廷魔術師のローブに身を包んだキウイは、フィオーレ王国軍騎士団を相手取った訓練に参加していた。


 キウイは自分の身体に、膜のような防御結界を常に張って身を守っている。

 騎士の持つ真剣がキウイの身体に触れようとしても、この「最後の砦」がキウイの身体を護るため、キウイが傷つくことはない。

 この「最後の砦」に騎士の剣が触れた時点で、キウイの敗北となる。すべての騎士の攻撃を巧みに捌き切り、対物理結界で騎士たち全員を弾き飛せばキウイの勝利だ。

 これは、騎士団の打ち込みと、キウイの結界魔法制御の修練を兼ねた、恒例の合同訓練だった。


 この訓練の難しさは、「弾き飛ばす」という点にあった。

 騎士が勝利を確信し、思い切り剣を振り抜いた瞬間。キウイはそのわずか一瞬を狙い、騎士に認知されない速度で、硬質な対物理結界を展開する。

 振り下ろされた剣は銀色の壁に激突し、行き場を失った力がそのまま己に跳ね返る。

 騎士たちは自らの力によって、為す術もなく弾き飛ばされていくのだ。


 対物理結界の展開が遅れればキウイが攻撃を受けて「最後の砦」に到達されてしまうのは言わずもがな。

 逆に早すぎた場合も、騎士に踏み込むのを中断されたり、回避されたりして、「弾き飛ばす」という目的が果たせない。

 四方八方から攻め寄せる騎士たちに対し、キウイは常に最善のタイミングを見極め、対物理結界を展開し、全員を着実に弾き飛ばしていた。


 最近の勝率は七割ほどと高い。

 だが、今日はいつにも増して調子がよく、キウイはこの一戦、決して負ける気がしなかった。

 右耳に感じる愛する人から託された耳飾りの重みが、その愛しい人の存在が、キウイの感覚を驚くほど研ぎ澄ませていたのだ。


 最後の一人を弾き飛ばしたところで、キウイは静かに深く息を吐いた。


「……っ、騎士団全滅! 訓練終了! 各自休憩を取りなさい!」


 葵の厳然とした号令によって、地面に転がっていた騎士たちがゆっくりと立ち上がる。

 その表情は様々で、悔しそうにする者もいれば、反省するように動きを反復する者もいる。

 中には、この後の葵からの容赦ない説教と(しご)きを想像して、顔を青くするものもいた。


 キウイは無傷で完璧な勝利を収めたことに満足げな笑みを浮かべた。

 勝利に導いてくれた右耳の耳飾りに静かにそっと触れ、訓練場の端のベンチに悠然と腰掛けた。


「お疲れ様っす、キウイさん。今日もマジで容赦なかったっすね! 絶対こっち見てないからイケると思うのに、毎回あっけなくやられるんすよね〜」


 休憩しているキウイに声をかけてきたのは、今年入隊したばかりの若い騎士、ココだった。

 唯一の宮廷魔術師であり、若いながら所属年数としては軍の中でも重鎮であるキウイに、気安く話しかけてくる者は少ない。

 だが、ココはいつも、その若さに伴う遠慮のなさをもってして、毅然としたキウイに屈託なく接してくるのだった。


「ココさん……あなたは、まだ一回も私に一本を入れられたことがないですね。目線で動きが丸わかりなのですよ。魔物相手だといいでしょうが、こと対人戦では致命的です」

「……厳しいっすね〜」


 図星を指されたのか、ココは「ああ〜」と呻きながら、両手で頭を抱えて天を見上げた。


「まあそうでなくても、最近すこぶる調子がいいので……もうこの形式の訓練だと、負ける気がしないですね。そろそろ葵様に訓練内容の調整を進言しようと思っています」


 この騎士団との合同訓練内容は、キウイの成長とともに調整されてきたものだった。


 入隊当初、まだ十代の中ごろだったキウイが相手にしていたのは木剣を持った騎士で、キウイの全力の結界をもってしても一対一の勝負だった。

 結界を貫通した木剣を脇腹に食らって、訓練場で吐き崩れたあの日々が、まるで遠い過去の出来事のように懐かしい。


 今のキウイは涼しい顔をして合同訓練に参加しているが、訓練の最初には地獄の基礎訓練がある。

 長距離の走り込みに、全身の筋力増強訓練、そして過酷な体幹強化訓練。

 それらを行ったあとに、こうして騎士団との合同訓練を執り行うのだ。

 入隊直後は基礎体力がなく、基礎訓練による精神的な消耗が激しかったこともあり、そもそも合同訓練の時には集中力が皆無の状態だった。


 キウイはやがて成長し、基礎体力が向上したことに加え、多重に結界魔法を起動するのも手に取るように可能になった。

 葵からもその実力に「安心して任せられる」と太鼓判をもらい、今では真剣による訓練が解禁されている。


「その、調子がいいってのは……そのど派手な耳飾りと何か関係があるんです?」


 訓練に参加したキウイが身につけている見慣れない耳飾りのことは、騎士たち全員が把握していた。

 だが、その場にそぐわない異様な存在感に、話題にしていいものか迷い、皆があえて触れずにいたことだった。

 そんな中のココの思い切った発言に、周りの騎士たちは一斉に聞き耳を立てた。


「ええ、そうですね、護るべき人ができたので、より一層精進せねばと思っているのです。この耳飾りは、私が、愛しい婚約者チェリーさんの所有物であるという『印』なのですよ」


 そう言いながらキウイは、口元に柔らかい笑みを浮かべ、右耳の耳飾りにそっと触れた。

 いつもと変わらない落ち着いた口調で熱烈な愛を語るキウイに、周囲の騎士たちからは一拍遅れて黄色い声が飛ぶ。

 だが、キウイはその騒ぎを意にも介さず、口元の笑みを崩すことはなかった。


「チェリーさんって、まさか、サクラ様の専属メイドの?」

「ええ、もちろん、そのチェリーさんです」


 キウイの不敵な笑みを見た瞬間、騎士のうちの何人かが、まるで失恋したように青い顔をした。

 キウイはそれを人知れず観察し、「残念でしたね」と言わんばかりに口角を上げる。

 チェリーを奪い合うライバルたちの恋心が、己の圧倒的な愛の前に儚く散ったことを、キウイは心地よく実感していた。

 もっとも、青ざめた者たちの中にはキウイ自身に想いを寄せていた者もいたのだが、キウイはそれを知る由もなかった。


「うわーっ。私、一時期、一瞬だけいいなと思ってましたけど、さすがに高嶺の花すぎて諦めましたよ。そういえば、キウイさんって、ルリ様の専属メイドもやってますもんね」


 ココの言葉に、キウイは胸を張り自慢げに微笑んだ。


「ふふっ、いいでしょう? すべて私の努力の賜物です」


 そのキウイの自慢げな顔に、ココは思わずくすっと笑った。


「結婚式、しますよね? 私たちも呼んでくれるんすか?」


 一年にも満たない付き合いなのに、まるで親友のように気軽にそんなことを言うココに、キウイは思わずふっと声に出して笑う。

 ただ、軍の騎士たちを招待するとしたら騎士団としてまとめての招待になるとキウイは思っていたので、ココが招待される可能性があるのは事実だった。


「軍の皆さんにはお世話になっているので、ご招待したい気持ちはありますが……まだ式場も決めていないのですよ。それに、フィオーレ王城から軍の皆様がもぬけの殻になるというのは、防犯上いささかよろしくないのではとも……」


 キウイの言うあまりにも冷静な正論に、ココは「なるほどっすね」と真剣な顔で納得した。


「一番お呼びしたいのは、我々の交際のきっかけである、サクラ様とルリ様なのですが。しかし王族をご招待するのはさすがに難しいでしょうね」


 キウイが何気なく放ったその言葉に、ココは閃いたように、キウイにとって有用な意見を告げた。


「使用人同士の結婚なんだから、招待客はほぼ城の関係者でしょう? だったら城の一室を貸し切っちゃえばいいんじゃないすか? それなら私も参加しやすくて助かります。それに、サクラ様とルリ様も城内なら来ていただけるんじゃないすか?」


 ココが屈託のない軽い口調で言ったその発言は、キウイにとってまさに盲点を突く眼から鱗な発想だった。


「……城で、結婚式を……」


 フィオーレ城で結婚式を執り行うという突飛な発想は、キウイの中にはなかった。

 しかしそれは、極めて現実的かつ、優れた着想だった。


 フィオーレ王国の姫サクラの専属メイドであるチェリーと、その妃ルリの専属メイドであるキウイ自身。

 城の中でも重要度の高い自分たちの立場を使えば、この大胆な希望も聞き入れてもらえる可能性もあるのではないのかと、キウイは思案を巡らせた。


「ココさん、あなたの奇抜な発想は……なかなか有益なものかもしれません。確かに理にかなっていますね。葵様に相談する価値はありそうです。貴重なご意見をありがとうございます」


 キウイの嬉しそうな反応に、ココも満足そうに明るく笑う。


「私、いいこと言ったんじゃないすか!? この功績を讃えて、今度の訓練では手加減してくださいよ!」


 ココの図々しいまさかの要求に、キウイはやれやれと苦笑する。

 そして首を振り、ゆっくりベンチから立ち上がった。


「それは、ダメです。あなたの実力で一本を取ってください。ほら、休憩が終わりますよ」


 遠くから葵が騎士を集める厳格な声が聞こえる。訓練再開の合図だ。

 ココは口を尖らせて文句を言いながらも、すぐさま駆け足で声の聞こえる方に向かった。

 キウイもまた、ココの発言から得た、湧き上がる数々の結婚式の計画を胸に、その実現への期待に浮足立った軽い足取りで訓練の続きに向かったのだった。






私が書きたくて書いた、趣味回です!!!

キウイは軍の訓練に参加しているという設定を作ってからずっと、その様子を書きたかったのです。あと、チェリー以外の仕事仲間と喋ってるキウイが書きたかった。


ココは、ただのモブキャラなんですけど、なんかいいキャラに仕上がったから名前をつけてあげました。動かしやすいので、また出てくる気がします。ココナッツから「ココ」です。

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