091. 白の懺悔と黒の赦し
見慣れた純白の髪が月光を浴びて輝くのに、思わず見惚れそうになる。
オニキスは何より愛しいその人を、フィオーレ王国の客間の一室で、ベッドに座って眺めていた。
「ふぅ……やっぱり、この国はいいわねぇ、オニキス」
「……そうだな」
隣に座るパールは、柔らかく笑いながらオニキスに話しかけてくる。
千年連れ添ったその愛しい人魚は、オニキスの少ない言葉に不満がる様子もなく、言葉の裏にある気持ちも汲み取ってくれる。
パールの隣で過ごすことは、オニキスの心を安らげた。
「お風呂ってなんであんなに気持ちがいいのかしら。海の水と違って、少し温かいだけなのに……」
「パール」
パールの止まることのないお喋りを遮るようにオニキスは声をかけた。
「言いたいことがあるなら何でも言え」
パールがそわそわする気持ちを隠すように喋り続けていたのを、オニキスは察していた。
オニキスもまた、パールの伴侶として、その言葉の裏の気持ちを手に取るように汲み取ることができた。
「……叶わないわぁ」
パールは観念したように笑うと、そっとオニキスを抱きしめた。
「私……今、オニキスを何より愛してるのよぅ」
「知ってる。ありがとう」
少し掠れた声で囁かれるパールの愛の言葉に、オニキスは優しい声で応えた。
「でも、私……っ」
「パール」
パールの震える声を遮るように、オニキスはその名を呼んだ。
言葉を紡ぐためにパールの心が悲鳴を上げているのを理解したオニキスは、優しい許しの言葉を与える。
「無理に話さなくてもいい」
言うことでパールの心が軽くなるなら話せばよい。
心が痛むなら、無理に話さなくてもよい。
オニキスはどこまでもパールを第一に考えていた。
オニキスの揺るぎない眼差しに、パールは首を横に振って応えた。
「いいえ……お願い、聞いてちょうだい」
パールはオニキスを抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
緊張を吐き出すように深呼吸するパールの背中を、オニキスは優しく擦った。
「今から話すことで、オニキスは私に幻滅するかもしれない……それによって、愛がなくなってしまっても……私は甘んじて受け入れるわぁ」
「……聞こう」
オニキスには、例えパールがどれだけ醜い真実を告白しようとも、パールへの千年続く愛がなくなるなどあり得ないという確信があった。
オニキスが恐れるのは、逆にパールの愛がなくなることだけだった。
パールが「オニキスを何より愛している」と伝えてくれたから、そこに対する疑念は何一つなかった。
オニキスはただ、凪いだ海のように落ち着いた心でパールの続きの言葉を待った。
「幼いオニキスと出会った時……私は、あなたを……大切なものを守るための剣としてしか見てなかったの……。あなたを育てて戦力にすれば、私の都合のいいように働く戦士として機能するって……そうとしか思っていなかったのよぅ」
パールは震える声で続けた。
「幼いあなたに与えた私の愛は……すべて偽物よぅ……。ただ忠実に働いてもらうため……ただそれだけのために、私は……あなたに言葉や戦い方を教えたの……っ」
パールは自嘲するように笑う。
オニキスの胸は、パールの苦しみに呼応するように強く締め付けられた。
「私に幻滅したでしょう……? オニキス……私、幼いあなたに……っ、んっんぅ……」
オニキスは自嘲の言葉を吐き続けるパールの唇を塞ぐように、自分の唇を重ねた。
唇を離すと、驚きに言葉を失ったパールと目が合う。
「パール」
オニキスは愛おしさを込めて、優しくその名を呼んだ。
「全部知ってた」
息をのむパールに、オニキスは言葉を続ける。
「パールが私に戦力としての働きだけを期待してるのは理解していた」
オニキスはパールの美しい純白の長い髪を、愛おしむように梳いた。
「目的が何であれ、野生児だった私に、言葉、知恵、生き方、戦い方……そして愛を教えてくれたのはパールだ」
オニキスの優しい言葉に、パールは首を横に振る。
「愛なんて……なかったのよぅ」
「私はパールを愛することができた。それは……パールが教えてくれた愛そのものだ」
オニキスはパールの華奢な身体を、自分の胸にそっと抱きしめた。
「セイレーンの欲に呑み込まれてパールを傷つけた私は捨てられてもおかしくなかった。耐え続けて……私を側に置き続けてくれてありがとう」
「オニキス……っ」
オニキスはパールが美しい涙とともに、千年の間胸にあり続けた重いものを吐き出し終わるのを、髪を梳きながら優しく待ち続けた。
「私、千年の間に紡いだ絆をもってオニキスに赦されたかったのに……オニキスはそもそも……とっくに、千年前に赦してくれていたのねぇ……」
「そう、パールに罪なんかない」
力強く言い切るオニキスの言葉に、パールは温かい気持ちに包まれていった。
オニキスはパールの身体から、張り詰めていた緊張が完全に溶け去ったのを理解した。
その安堵の抱擁の中で、パールは親友ローズが言った言葉を思い起こしていた。
(『現在』のオニキスを愛すこと……)
パールは千年の間に紡いだ絆があれば、オニキスが赦してくれるかもしれないと思っていた。
しかしそもそも千年前に、オニキスは事実を既に悟っていて、それでもなおパールを愛してくれていた。
パールに必要だったのは、過去に囚われず、目の前のオニキスをただ愛することだけだったのだ。
「私……今、オニキスを何より愛しているわぁ」
オニキスはパールの覚悟の愛を受け取るように、愛の言葉を紡いだ唇にそっとキスをした。
「ありがとう」
オニキスの愛の受容の囁きに、パールは安堵の溜め息をついた。
しばらく体温を確かめるようにオニキスの身体に寄り添った後、目線を落として呟いた。
「ルリちゃんは……サクラちゃんは、大丈夫なのぅ? ルリちゃんはセイレーンの衝動に……呑まれてしまったのでしょう……」
「ルリと私はよく似ている」――そのオニキスの言葉から、パールはオニキスの過去と同様のことに悩んでいるのを察していた。
オニキスが過去を思い出すように目を閉じる。
「ああ、そうだ……でも、ルリを信じるしかない」
オニキスが優しい顔で続ける。
「キウイとチェリーが……二人をきっと支えてくれる。ルリはいい人に囲まれている」
「そう……今は、信じるしか……ないわねぇ」
パールの憂いを払うように、オニキスは強く囁いた。
「大丈夫。ルリは私たちの娘だ。サクラを愛し抜くさ」
一緒にルリを信じよう。
オニキスはそんな気持ちを込めて、パールをしっかりと抱きしめた。
パールとオニキスのイチャイチャでした。
オニキスの強引な感じとが好きです……。
※ムーンライトノベルズで、この後二人がどうなったのかの話を公開中です




