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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第五章 メイドたちの絆

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090. 母がメイドに託す想い

 近隣国の王族の接待の公務を終えたサクラとルリは、自室のソファに深く身体を沈めた。

 どちらかともなく手の指を絡め合いながら、ほっと息をついて寛いでいると、ドアがノックされた。

 サクラが返事をすると、ゆっくりとドアが開き、一礼しながら入ってくるチェリーとキウイに続いて、オニキスも入ってきた。


「公務、もう終わっておいでだったのですね。遅くなってしまってすみません」

「いいえ、問題ないわ。ちょうど今終わったところよ」


 謝るチェリーに、サクラが優しく微笑みかける。

 ルリとサクラはソファから立ち上がり、部屋に入ってきた三人を迎え入れた。


「オニキス母さま、キウイの引っ越しのおてつだい、できたかな?」

「役目は全うした」


 ルリの言葉に、オニキスは言葉短く答える。

 キウイも優しく笑みをこぼした。


「はい、とっても助かりました。オニキス様も、オニキス様をご紹介いただいたルリ様も、ありがとうございました」


 キウイとオニキスの間の和やかな空気に、ルリは心から安堵し、きらきらとした満面の笑みを浮かべた。


「ふふっ、よかった! オニキス母さま、キウイのためにありがとうね!」


 そのルリの眩しい笑顔に優しく目を細めながら、サクラはメイドたちに問いかけた。


「ところで、新しい家はどうなの? 快適に暮らせそう?」


 サクラの問いに、チェリーが柔らかく微笑みながら答える。


「とても広くて驚きました……。私の私室だけでも、以前私が住んでた部屋の倍以上の広さがあるのです」


 チェリーの言葉に、キウイが「ふふ」と自慢げな笑みを浮かべる。


「私の本棚を置くスペースが狭くなると困るので、特別広い部屋をあてがっていただけるように、葵様に交渉したのです。本棚に入っている本や魔道具は、私の宮廷魔術師のお仕事に欠かせない仕事道具です。国防の核を担う私のお仕事が滞ると国家の危機に繫がりますからね。快く聞き入れていただきましたよ、ふふっ」


 「快く」――キウイはそう言うが、呆れたように対応する葵が目に浮かんで、サクラは思わず失笑した。


 そんな会話をしていると、再びドアがノックされた。

 サクラが返事をすると、入ってきたのはローズだった。


「邪魔するぞ。パールを連れてきた。オニキスはいるか?」

「ええ、ローズ母様。こちらにいらっしゃいます」


 後ろから入ってきたパールをエスコートするように部屋に招き入れると、ローズはオニキスに話しかけた。


「じゃあ、確かに返したぞ。まあ、その、なんだ……我が城でゆっくりしていってくれ」


 ローズはそう言いながら、会談中にパールから耳打ちされた言葉を思い出し、一瞬だけ頬を赤く染めた。

 しかし、こほん、と一つ咳払いすると、ローズはいつもの厳格な女王の雰囲気を纏い直した。


「じゃあ、(せわ)しなくてすまないが、後ろの予定が立て込んでいるから、私は失礼する。チェリーかキウイ、二人を客間に案内してくれ」

「かしこまりました。では私が案内いたします」


 チェリーの返答に頷いて、ローズは早足で去っていった。


「では、すぐに客間に案内いたしましょうか?」

「少し待ってくれ」


 オニキスは案内を申し出たチェリーを制止すると、ルリを見て呼びかけた。


「ルリ、おいで」

「なあに、オニキス母さま?」


 ルリはオニキスの言葉に従って、オニキスの前に立った。

 そのルリの身体を、オニキスは言葉もなくそっと抱きしめた。

 しばらく間を置いた後、いつも通りの落ち着いた声で短い言葉をルリに告げた。


「キウイは……頼りになる。よく言うことを聞くんだ」


 オニキスがそう言うと、ルリは笑みをこぼしながら、オニキスをぎゅっと抱きしめた。


「ふふっ……そうなの、キウイはとっても頼りになるのよ! だから、しんぱいしないで、オニキス母さま」


 オニキスは慈しむようにルリの頭を撫でると、そっと身体を離した。


「それだけだ。サクラも……ルリを頼む」

「ええ……私、ルリとしっかり支え合っていきます」


 オニキスからの言葉の裏にある深い意味を、サクラが理解することは叶わなかった。

 だが、その言葉に計り知れない愛情と切実さが込められているのを感じ、背筋を伸ばしてまっすぐに応えた。


 オニキスの変化がない表情の裏に、伴侶にしかわからない深い憂いを悟ったパールは、心配そうに声をかける。


「急にどうしたのぅ? オニキス」


 そのパールの言葉に、オニキスは言葉短く答えた。


「……ルリと私はよく似ている」


 オニキスは、その一言にすべてを込めた。


「そう……なのねぇ」


 パールはそれ以上の言葉を返さず、数秒の間を置いて静かに頷いた。

 パールは千年という時が紡いだ絆により、オニキスが何を憂いているか完全に理解していた。

 オニキスから「セイレーンの情動」の話を聞いたチェリーとキウイもまた、オニキスの心配することを理解して、神妙な面持ちを浮かべた。


 少し重くなった空気を変えるように、チェリーは努めて明るい声を出した。


「さあ、客間にご案内いたします。パール様とオニキス様は、私についてきてくださいませ」

「わかったわぁ。案内よろしくねぇ」


 チェリーが二人を連れて部屋を出ていくと、部屋にはサクラとルリとキウイが残された。


「いい……お母様ですね、ルリ様」

「うん、ほんとうね……わたし、しあわせだよ」


 母たち、伴侶、そしてメイドたち。

 ルリは改めて自分のまわりの人たちの温かさを感じ、安堵と幸福感に満たされながら、ふわりと花が咲くように微笑んだ。






引っ越し編、終わりです……と見せかけて、まだあと一話、夜の話があります。さて、誰と誰の話でしょうか。


この話で、ちょうど100エピソードになりました。

話数的には90話ですが、幕間などがあるので……。

ここまで続けられて感無量です。

いつも応援ありがとうございます!

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