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来客の予兆

 二章です!よろしくお願いします!

 大日本皇国、東京、霞ヶ関。時刻は丑三つ時、街は昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。しかし、日々国政に身を砕く官僚たちは働いているのか各省庁のビルには灯がともっている。


 その中に赤レンガ造りのビルの森にはそぐわないとも思えるレトロな建物が建っている。“霞ヶ関の女王”と称される旧法務省だ。


 近年、法務省は隣に新しく建てられたビルに引っ越しをしたはず。それなのに、何故かこの時間に明かりがついている。理由は簡単。引っ越しをせずにそのまま残った部署があるからだ。


 大日本皇国法務省公安調査庁対魔導課。通称“対魔課”旧法務省に残った部署の名である。ここでは魔導犯罪やテロを未然に防ぐべく、僕を含めた国家資格を有する魔術師や陰陽師たちが日夜働いている。


 「この前のテロの情報についてはどうなってる!」

 「ロシアのIMF参加で諜報組織の活動に変化は!」

 「中国の過激派窃盗団が密入国だ!?入管はなにしてんだ!」


 夜にも関わらず実に騒がしい。そんな中、僕は座り心地の悪いオフィスチェアに背を預けてマグカップに淹れた緑茶を啜っている。机上札には「次席」と書かれている。


 「次席、この案件についてですが……」

 「ああ、そのまま進めて構いません」

 「次席、祈年祭の警護の際の陰陽寮との打ち合わせのアポが来ています」

 「分かりました。対応しておきます」

 「こちらの案件についてなのですが……」


 部下が引っ切り無しにやってくる。緑茶が冷めないうちに昨日までにすべての仕事を片付けて綺麗にしたはずのデスクに書類の山ができる。


 (そろそろ休暇が欲しいな……)


 僕はそんなことを考えた。現実逃避だ。年末年始は宮中の儀式も多くなるため繁忙期。直近一か月は自宅に帰れていない。


 (まあ、そんなこと考えても仕事は減らないし……)


 マグカップを置いて仕事を再開しようとしたその時だった。


 「次席!次席!大変です!」


 一人の部下が部屋に駆け込んできた。あまりの慌てように一瞬で場が静かになる。


 「どうしたのかな?」


 彼は確か欧州方面の担当者だったはずだ。慌てる部下を落ち着かせるためにも僕は冷静に用件を聞いた。部下が耳元に口を寄せてくる。


 「今、ブリタニアから我が国の留学生が新たに神話級遺物と契約したとの情報が……」

 「何だって?」


 そのような大事があればどこかしらから事前に通達があってもいいはずだ。でも、その知らせはまさに青天の霹靂だった。


 「詳細は?」

 「詳しい情報は……まだ入ってきていません」

 「そうか……」


 この情報は実に厄介だ。僕はそう思わざるを得なかった。事態がどう変化するか予想がつかない上に現地の職員にも荷が重い。判断は一瞬で済ませた。立ち上がると背もたれに掛けていたジャケットを羽織りコート掛けから帽子とコートを手に取った。


 「申し訳ありませんが今から数日空けます!火急の案件は僕に連絡してください。此方から指示します。その他の案件は各自で判断して動いてください。責任は僕が取ります。では」


 そう言い残して、部下の反応もまた図に素早く外に出た。


 「タクシー……いや、自分の足の方が速いな」


 足に魔力を集中させる。


 「”オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ”」


 真言を唱えると、脚に魔力が集まり一瞬で強化される。地面を蹴って飛び上がる。身体中に風を感じる。すぐに省庁ビルのヘリポートが視界に入る。眠らぬ首都は夜の闇に輝いている。


 「急がないとね」


 空港を目指してビルの屋上を蹴った。その後、僕は一時間もしないうちに飛行機に乗り込み、遠きブリタニアへと旅立つのだった。



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