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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
2章【告白編】

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21 メイドの策

絶対的支配者である皇帝は、他者の言葉など何も聞かない。優秀な軍師はいても、彼は耳を一切貸さず、彼の意を汲む言葉以外は敵と見なされる。


つまり、皇帝のみがゴードジューズ帝国を支配・統率し、権限を掌握しているということ。彼さえどうにかすれば全てが決着し、瓦解するのである。


なので、帝国を叩くにはこの一点「皇帝を倒すこと」のみに目的は集約される。彼をどうにか戦場へ引きずり出し、そのためにはある程度内部から分裂させる必要がある。


(あの国はほぼ寄せ集めでできたのを、皇帝によって結びついているだけに過ぎない)


潤滑油の役割を果たしていたバラムスカもおらず、他にその代わりを担うものがいるとも考えにくい。


確か、皇帝の後継は亡くなったバラムスカ以外にはいなかった。ということは、彼の意志を継ぐ者は国内にはもう誰も残されていないだろう。


バレス皇帝の性格上、自分の血以外の後継を立てるとも考えにくく、そもそも多妻であれど、子供がバラムスカだけだったことを考えると、子供ができづらい体質だと思われる。


それ故に姉、マーシャルへの怒りも相当なものだったことは承知している。あれは姉のせいではなく運命であったのだが、過度な愛情や期待をしていたぶん、それを受け入れるのは困難であっただろうこともある程度理解はしていた。


当時もそれなりに高齢であった皇帝が、今から新たに子種を仕込むとしても、後継を残し育成できるほどの体力も気力もないはず。さて、これがどう転ぶか。


(自分以外の血筋は排除、そして育成放棄。彼は恐らく、バラムスカが亡くなったことで、国を次世代に残すことを放棄したのかも。あくまで想像だけど)


彼が亡き後の帝国の行く末は未知数だ。恐らくこのままでは、行き先を見失い国民は混乱し荒れ、内紛が起きるのは必至である。


だからこそ先に牽制、根回しなどの下地が重要なのだ。このままただ皇帝を引きずりおろしても、第2第3の皇帝が現れるとも限らない。他の国の侵攻があるとも限らない。


そこをどうにか交渉するために、ある程度他国との交渉、介入が必要であり、そこは帝国も含まれる。これだけワンマンでやっていれば、快く思ってないものなど数多くいることだろう。


現在の帝国内でも恐らく燻り、今にも燃え上がりそうな火種は散在しているはずだ。それを皇帝によって武力で押さえつけられているぶん、反動は相当なものになると想定される。


そうなると、少しずつ削ぐように戦力、人々をコルジール側に引き抜くか、新たな代表者となる者の擁立を手助けするか、おおよそこの2つの選択肢に限られる。


「ということで、私としては今後のことを想定して、ここは平和的に新たな代表者の擁立の手助けを選択した方が良いと思います」

「なるほど」


つらつらと私の知っている情報と意見を述べる。私が現状考えられるのはここまでだ。下手にこちらに寝返れと言ったところで反感を買うのは目に見えている。


そもそもあの国にいるのはほぼ猛者であり、いつでも寝首をかこうとしている者ばかりである。そのような者を引き込むよりかは、上手く餌で釣ってそれなりの地位を与えたほうがいい。


もちろん、擁立する者にはそれなりの知能は必要だ。上手く外交の旨味をわかり、戦争ではなく、国交を結ぶことの大切さがわかる者でなければならない。


「で、その交渉やら情報収集やらはどうするつもりだ?」

「私が直接行きます」


沈黙が流れる。まさか私が行くとは思っていなかったのか、クエリーシェルは酷く驚いた様子だった。


「いや、それがどういうことかわかっているのか?自らの命を危険に晒すことになるぞ」

「大丈夫です、私は悪運が強いので。あと、外交する上でも顔見知りのほうが円滑に物事を進められるかと。結構顔は広いほうなので、大体の国とは付き合いがありますし、現地の言葉も大体わかります」


クエリーシェルが絶句しているのがわかる。だが、実際問題このまま問題を放置してただ考えあぐねていてもいいことなど何もないのは断言できる。


「随分と我が国に肩入れしてくれているが、どういう了見だ」


国王からの言葉に、逡巡する。まぁ、その指摘は尤もである。亡国の姫が理由なく手を貸すなど違和感でしかないだろう。訝しまれても無理はない。


(理由、理由か……)


正直、特に理由はない。ただ、ここでこのまま骨を埋めようと思ったから、だ。そして、それはこの大男であるクエリーシェルが起因してると言っても過言ではない。


(彼と静かに暮らせる国を守りたい、なんてちょっと気障(きざ)だろうか)


「この国が気に入ったので。それ以上でもそれ以下でもありません」

「そうか」


明確な答えではなく、わざとはぐらかした。だが、国王は特に追及しなかった。クエリーシェルを見ると、不安げな顔でこちらを見ている。


「リーシェが行くなら、俺も行く」

「そんなわけにはいかないでしょう。貴方はここの総司令官なのだから」


説得するように手を重ねると、その指を掴まれる。見つめ合って数秒、国王の咳払いが聞こえる。


「いや、そこの大男を連れて行ってもらってもかまわん。戦地へ赴く演習だ、船旅に慣れるためにも行ってこい」

「え、ですが、ケリー様がいないと」

「言っておくがな、さすがに我が国では後継育成などしっかりしておる。だからそいつがいなくたって十分やっていけるから心配はいらん」

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