59 またね
「憎々しいくらいに綺麗な晴天ね」
「まだ諦めてなかったの」
「……そういうわけではないけど。ちょっと天候悪かったら、もう1日延期になるかなーって」
「そういうのを諦めが悪いって言うのよ」
未だに納得してないのか、悪足掻きをしようとするアーシャに苦笑する。そう思ってくれているのはありがたいが、やはりここで踏みとどまっていてはいけないことはお互いわかっている。
アーシャは船の前までの見送りはしないらしく、表向きは「こんな天気に外出たら美容に良くないでしょ」とのことだが、なんとなく察するに私が行くのに踏ん切りつかなくなるのが嫌なようだった。
「……そういえば、随分とバタバタしてるけど何かあったの?」
搬入等の慌ただしさかと思いきや、どうやら違うらしい。城内を忙しなく色々な人々がパタパタと走り回っては、まるで侍女や執事達が隠れんぼの鬼でもしてるかのように隙間やら陰地やらを覗き込んでは何かを探している。
「あぁ、ごめんなさいね。ちょっと身内でゴタゴタしてて」
「?」
「行く前に言うのもアレだけど、マーラがいなくなったらしいのよ。それで大捜索」
「え!?それ結構まずいんじゃないの?」
見た目も中身もご令嬢然とした方だと思っていたが、案外私のようにアグレッシブな一面も持ち合わせているらしい。ちょっと親近感を覚えてしまった自分に気づいて、意味もなく咳払いする。
「たまにちょっと突拍子もないことするのよ、あの子。まぁ、そのうち見つかるでしょ。以前もコルジール語を覚えるために、って城の図書室に忍び込んでそこで一晩明かしたこともあるし、あまり珍しいことではないのよ。どっかの誰かさんみたいに興味本位でついてって誘拐されて遭難するよりかはまだマシだろうしね」
痛いところを突かれて、ギクっとなる。やはり思うことは同じだったようだ。
(よくもまぁ、本当私のことを知ってる)
以前のアガ国での出来事を言われて何も言い返せなかった。きっとあの出来事をクエリーシェルに知られたら、幽閉されてもおかしくはない。
(父様にもあの誘拐事件の一件以来、あまり船旅に出なくなったしな)
あのときは珍しく父に怒られた。初めて怒鳴られて脚が竦んだのは、今でも覚えている。
(後にも先にも父様にあんなに怒られたことはあれだけだったな)
常にニコニコしている父が、あそこまで怒ったというか怒り狂ったのは衝撃だったな、と今更ながら思い出す。まぁ、実際に自分の娘が行方不明かつ、実は誘拐されていたなんて知ったら仕方ないといえば仕方ない反応であろうが。
我ながら、分別のない子供は恐ろしい。
「だから気にしないでちょうだい。そのうち見つかるだろうから。……じゃあ、元気でね。絶対に帰ってくるのよ」
わざと素っ気なく言われる。語尾が涙声になっているのは、気づいてても知らぬふりをする。
「もちろん、そのつもり。あ、じゃあそうね。担保としてこれを置いていくわ」
「……何よ、これ。髪留め?」
差し出したのは、初めてクエリーシェルから貰った髪留めだった。
「あげないからね。それ、私の宝物だから」
「いらないわよ。だったら持って行きなさいな」
「いいの。それ、ちょっと預かっておいて。すぐに取りに戻るから」
「何よそれ。……まぁ、いいわ。約束の担保として預かっておくから。その代わり、これが形見になるなんてことにはならないでよ」
冗談混じりに言いつつ、意図したことが伝わったようで、ちょっとだけいつものアーシャに戻る。それが嬉しくて、私も口元を緩めた。
「私を誰だと思ってるのよ。あのバレス皇帝に狙われてもなお生きてる女よ?ちょっとやそっとじゃ死なないわよ」
「ふふ、頼もしいこと」
「じゃあ、またね」
「えぇ、また」
振り返らずに歩き出す。視界が滲んでいく。
アーシャだけでなく、私も寂しいのは事実だった。お互いに見えないように涙を流しながら、私は船へと向かうために馬車に乗り込む。
「よしよし」
既に乗り込んでいたクエリーシェルに抱き締められ、頭を撫でられる。
そして私達が船に乗り込むと、次の国サハラへと出発するのだった。
3章完結までお読みいただき、どうもありがとうございます!
幼馴染み、アーシャとの関係をお楽しみいただけましたでしょうか?
リーシェとクエリーシェルはさらに親密になっていきましたが、いかがでしょうか?
次回はリーシェが憂鬱になっている国、サハリ国編です。
引き続きお楽しみください。
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