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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
3章【外交編・カジェ国】

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4 心配する男

「ん……っ、く、頭が……っ」


ガンガンと何かで殴られたような頭の痛みに思わず呻くと、「起きられました?まだ体調は万全ではないので、寝てていいですよ」とリーシェに起き上がろうとするのを制止された。


もう外は明るくなっている。赤道近くで日が長いとは聞いているが、直近の記憶では辺りが真っ暗だったというのに。


そもそも腕相撲の試合をして、リーシェが水を取りに部屋を出て行ったのまでは覚えているが、あのあと私はどうしたのか、と思い出そうにも思い出せない。


そもそも部屋にはいつ、どうやって戻ってきたのか。そして、リーシェの唇は誰かに奪われてはないのだろうか。


「リーシェ……」


ジッと彼女の唇を見つめる。見たところでわかるはずもないのだが。それを不審な者でも見るように、リーシェが眉を顰める。


「何ですか?そんなにじっと見ないでください」

「いや、昨夜は、その、大丈夫だったか……?」


心配でそう口にする。長い旅路に女1人。しかも欲目だけでなく見た目も可愛く、知的でコミュニケーション能力も高いとくれば、機会さえあればとリーシェに手を出そうとする輩が多かった。


昨夜はそのフラストレーションが最高潮だったのもあるが、我ながら煽られてこれで牽制できるなら、とつい調子に乗ってしまった。


結果、途中で記憶をなくすというなんとも不名誉な状況になっていて、我ながら羞恥で死にたくなってくる。


「大丈夫でしたよ。ご心配をおかけしました。というか、私が敵討ちをしておきました」

「……敵討ち?」


物騒な話に訝しげな顔をすると、にっこりと満面の笑みで返される。それが何故だか、ちょっと恐ろしい。


「あとでお元気になってからで構わないので、甲板に出てください。そうすればわかりますよ」

「?」


よくはわからないが、とりあえず無事だと聞いてホッとする。だが、一体どういうことだと疑問は残る。


聞きたいが、あのような回りくどい表現をしたということは、リーシェは今のところ言うつもりがないということだろう。


とても気にはなるものの、やはり起き上がるのはとても億劫であった。心なしか身体も熱く、発熱しているような気もする。


普段風邪をひかないぶん、このように発熱するときは大体つらい。身体は重く感じるし、節々は痛くなるし、普段元気なぶんの反動を受けているような感じだ。


このように久々に体調を崩したのは、ここのところ船酔いで吐いてばかりだったし、碌に食事をとっていなかったからだろうが、まさか自分がここまで船に弱いとは思わなかった。


(今まで船に乗ったことなんて、寄宿学校での模擬戦くらいだったしなぁ)


遥か昔のことすぎて、当時のことはよく覚えてはいないが、船酔いした記憶はないから、恐らくこのような船酔いをしたのは人生初だろう。


そもそもあの模擬戦は、なんだかんだ自滅に近い形で誰かが転覆させてしまったしな、と遠い記憶が呼び起こされて、口元が緩む。


(いかんいかん、物思いに耽っている場合ではなかった)


頭を手で押さえて、思考を戻す。だが、もうすぐカジェ国に着くとはいえ、今後まだまだいくつも国を旅せねばと思うと、何となく気は重くなる。


(あとで、リーシェに船の揺れに慣れるコツでも聞いておかねばだな)


今回は国を挙げての大事な任務。命運を我々が握っていると言っても過言ではない。今後の世界情勢についても大きく変わることであろう。


(私がリーシェを守らなくてどうする)


彼女こそ今回の旅路の要だ。彼女がいなくなってしまったら、この旅は意味をなさなくなる。


リーシェをそっと彼女にバレないように見つめる。


まだ17という年齢にも関わらず、あの小さな身体一身に何もかもが重くのしかかっていると思うと、自分も励めばと思う。そして少しでも、彼女の荷が軽くなるようになれば、とも思う。


(まずは船に慣れることが先決だな)


とは言え、体調は依然悪いまま。とりあえず、今の体調をよくするためにも、しばらくは寝ていようと目を閉じる。


自室内をパタパタと、リーシェが忙しなく走り回っている音が小気味よくて心地いい。


ほんの少し柑橘らしい香りが鼻腔を擽り、リーシェが気を遣ってお香を焚いてくれたのだと頭の隅で考えながら、私はそのまま眠りについていった。

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