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有能なメイドは安らかに死にたい  作者: 鳥柄ささみ
2章【告白編】

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67 侵入者

ガタガタ、と物音がした気がして、目を覚ます。外を見ればまだ真っ暗で、日は沈んだままだった。


(念のため、見回りしておくか)


家の者か盗賊か、はたまた獣か。どちらにしても家の者以外なら寝込みを襲われたら厄介だ。対処できるならしておくに越したことはない。


身体を起こし、手近にある火打ち金を使ってランプに火を灯す。下ろしていた髪を、適当に纏め上げたあと、ベッド脇に置いてある(こん)を手にすると、外套を羽織り、そっと部屋を抜け出した。


(こんな時間にこの屋敷で行動するなんて、誰だろうか)


バースは日中の警備はしてくれている。それ以降はクエリーシェルが不在のときはそのままこの屋敷に留まってくれるが、クエリーシェルがいる場合は自宅のほうに戻ってしまう。


今日はクエリーシェルが在宅の日なので、この屋敷にいるのは私とクエリーシェルとロゼットの3人だ。


だが、このメンバーでこんな時間に行動するのは基本あり得ない。クエリーシェルは連日の出航準備で忙しいから早めに寝てしまうし、ロゼットも元々ロングスリーパーなようで、早起きするために、いつも早寝している。


屋敷自体、町外れにあるためこの近くに寄る人など用事がある人くらいだし、あとは獣か何かだ。


(となると、何か獣でも侵入したかしら)


下手に食い荒らされたらたまったものではないと、とりあえず屋敷の廊下を歩く。


耳と目は人よりもかなり良い方だと自負しているので、この暗がりでも月の明るさのみで、夜目は効いている。


(まだ、音がする。キッチンや食糧庫ではなく、方向としてはクエリーシェルの書斎だろうか)


書斎ということは獣の類ではないのだろうか、私は静かに手にした棍を握る手に力を入れる。


彼の自室と書斎は別れているのだが、彼の部屋から書斎は遠く、どちらかというと私の部屋の方が近い。こんな時間に何か調べ物でもしているのだろうかと、とりあえずあまり音を立てずに近づいていく。


(……灯り?)


こんな時間についているには不自然な光。ドアの隙間から漏れ出ているそれは、ゆらゆらと揺らめいていた。


(こんなに明暗が不安定になっているということは、ランプか何かを持ちながら作業しているということかしら。となると、……侵入者?)


ドアにそっと近寄り、耳をそばだてる。どちらかと言うと、音を立てないように作業をしているようで、何かを探しているようだった。


(こんなところで、何を探しているのかしら)


書斎には、基本領地内に関することの書類が置いてある。クエリーシェルはなんだかんだとグリーデル大公と共同で領地を治めているため、領地としては幅広く管理しているものの、重要書類に関してはほぼほぼ大公家にある。


ここにあるとすれば、婚姻関係だったり領内整備だったりの書類であるが、そのようなものを盗んだところで何も得することなどないはずだが。


(考えられるのは、領地転換の際の策の設置位置などか)


ここにそれに関する書類はないが、マルダスの関係者なら、そう勘違いしてもおかしくはないかもしれない。


(これは一気に畳み掛けて、捕まえるしかなさそうね)


ここで捕まえられれば、僅かながら相手には打撃を与えられることができるだろう。上手く情報も手に入れられれば、こちらの戦力強化にも繋がる。


もしマルダスとは関係なくても、不法侵入者はどっちみち成敗せねばならない。


棍を握りしめ、扉を一気に開けると、漆黒の服に身を包んだ何者かがこちらを向いた。


彼、もしくは彼女が態勢を整える前に勢いよく棍を振り上げるが、さすがに狭い室内。思うように振り回すことができず、侵入者に避けられると、散らばった書類が舞う。


(この身のこなし、ただものではない……!)


カカカカ……っ!


投げナイフのようなものを投げられ、棍を振り弾きつつ、スライディングして間合いを詰めていくが、ひょいっと宙を舞い、再び距離を開けられる。


「……っく!」


続けざまに再び投擲されたものを自身も地を蹴り、飛んで一回転しつつ距離を取りながら避けるが、狭い空間でこのようなアクロバットな技を使うのが難しく、相手の方が1枚上手のようだった。


「…………!」

「……っな、……くぅ……っ……!」


今度は一気に間合いを詰められ、短剣で斬りかかられる。それを棍を振り回しながら、上手く間合いを取りつつ、斬られないように避ける。


まるで、リスか猫のような小動物に近い機敏な動き。そして、この狭い室内でもできる軽い身のこなしに、物凄く手練れであるようだった。


「リーシェ!」

「……っち!」


背後から現れたクエリーシェルを見るやいなや、窓の方に素早く逃げていく。恐らく、多勢に無勢だとの判断ゆえだろう。その際にこちらに背を向けないのも、敵ながら天晴れである。


「逃がすか!」


近くにあった椅子に乗り、蹴って間合いを詰める。薙ぎ払った棍は、侵入者の頬をかすめ、目深に被ったフードが少しだけ乱れる。


ちらっと見えた涼やかな瞳は茶色く、わずかに溢れた髪は金色の輝きをしていた。


(女……?)


一瞬気を抜いてしまったせいか、そのまま窓を飛び出して暗闇の中へと消えていく侵入者。窓から身を乗り出して覗き込むが、見える範囲にはもう姿はなく、走り去ったようだった。


この部屋は2階で相当な高さがあるというのに、飛び降りるということは、度胸もあればそれだけ場数も踏んでいるということだろう。


「追うか?!」

「いえ、逃げられてしまいました。この暗闇では見つける方が困難でしょう」

「この高さで怪我をしていないのか?」

「えぇ、そのようです」


女性の物盗り。いないわけではないだろうが、珍しい。しかもあれほどの身のこなしができるのは、相当な鍛錬を積んでいるはずだ。


「うみゅ、……何ですか」


クエリーシェルに頬を手で押さえられ、自然と口が前に出て、タコのような顔にさせられる。


「物音がすると思って来たが、自分で行動する前にまず私を呼べ」

「だって、それで間に合わなかったら嫌じゃないですか」

「私はリーシェが怪我するほうが困る」

「そんな簡単に怪我しませんよ」

「とにかく、だ。全く、棍を与えはしたが、前線で戦えと言ったわけではないぞ」


ぶつぶつと小言を呟きながら、先程の騒動で落ちてしまった外套を被せてくれる。


(心配症だなぁ。……心配してくれるのはありがたいけど)


「だが、一体何の目的だったんだか」

「私が思うに何かの資料を取りに来たようですが、とりあえず明日も早いので寝ましょう?明日は王城に行く日でしたよね?」

「あぁ、そうだが。また先程のやつが戻ってくる可能性があるなら、私は起きていようか?」

「大丈夫ですよ、あちらも多少は怪我をしているようなので、戻ってくることはないかと。とりあえず戸締りだけはしておきましょうか」


そのあと、心配だから一緒に寝ようとするクエリーシェルをどうにか宥めすかし、再び布団に潜り込んだときには微かに空が青白んでいた。

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