余話 第一話 義光元服と共に鮭を知る
永禄3年 最上家の嫡男白寿丸は元服を無事に迎える事となった。
この頃の最上家は従属関係にあった伊達家からの独立を果たし勢力を拡大しつつあった。その中で嫡男である白寿丸は新しき最上家の期待の星であった。
「京の大樹公(足利義輝)より偏諱として{義}を頂いた。今日より其方は{義光}と名乗るがよい、次郎太郎義光となる」
父義守より言われ白寿丸改め次郎太郎義光は晴れがましさに天にも昇る気分であった。
「今日は其方の為に我が領で獲れた鮭を料理した。存分に食するがよい」
義光は生まれて初めて鮭を食した。その美味しさはいかばかりか、生まれ落ちてこれまで食べた事の無い旨さに無我夢中で食べた。最上家の嫡男がこの今まで鮭を食したことが無かったのは、戦続きで大事な収入となりうる鮭を家中で消費するのはもっての外と義守が定めた為である。
「我が最上は儂が当主になった時には伊達家の下におった、ようやく天文の乱でそれから抜け出してここまで来たのだ。其方は最上を大きくし鮭がいつでも食せるように励むのだ」
義守の言葉に頷きながら義光は毎日鮭が食べられるように精進せねばと考えるのであった。
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元服が行われるとそのまま初陣という流れとなる。まずは寒河江氏の居城である寒河江城を攻めるという事になった。
義光は彼に付けられた重臣の氏家尾張守守棟に戦の作法を説かれていた。
「若、初陣だからと言って決して逸ってはいけませぬ、若はいずれは大将として全軍を指揮することになる身、先頭に立たず戦場の隅まで目を配り指揮するのが大将の勤め、お忘れにならぬように」
「相分かった、此度は戦を学ばせてもらう事とする、よろしく頼む」
「はっ、ですがその手に持って居られる棒はなんでしょうか?」
「ああ、鍛錬の為に立ち木をこの棒で打っておったら手になじむのでな、持ってきたのよ」
義光の手には2尺6寸ほどもある鋼の棒があり使い込まれたそれは独特の雰囲気を持っていた。
それを見ながらため息をつく守棟。
「若、その棒で敵を打ち倒すと言うのではありますまいな、それは匹夫の勇と言いまして…」
「判っておるよ、これはいざという時の為だ、普段は軍配の代わりにするつもりだ」
「はあ、そう言う事に致しますか…」
守棟はそう言って自分を納得させたのであった。
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結果として寒河江城攻めは最上にとって痛い敗戦となった。寒河江氏は大江広元を祖とする鎌倉以来の御家人の流れを組む。その武略は侮る事の出来ないものであった。ここまで義守は順調に領土を拡大できていたが初めて挫折を味わったのであった。
「まさかこのような事になるとは、仕切り直しが必要だな、義光も良く働いてくれたのだが」
義守は思わず弱音を吐くが、義光は別の事で頭が一杯であった。
(戦に勝てておれば祝いと称して鮭を食べることが出来たのに…)
真顔で考え込んでいる義光を見て家中の者たちは思慮深い、聡明であると感じて頼もしく思ったが本当は全く鮭への欲望で溢れておりそれを知られたら皆をがっかりとさせるであろう。
「兄上、戦はいかがでしたか?恐ろしくは無かったですか?」
考え込んでいた義光の元へ来たのは妹の義姫であった。彼女は兄の義光と仲が良く戦に出た兄を案じていたのであった。
「戦自体はそうでもなかったな、勝てなかったのは残念だった(鮭が食えなかった)」
「まあ、あの鉄棒で敵兵を薙ぎ払っていたと尾張守が申しておりましたが」
「まあ、あれは前に出すぎ、匹夫の勇であったと散々であったぞ」
「でも、兄上が無事でようございました、これで安心して輿入れ出来ます」
「そうか…伊達との婚儀が決まったのか」
「はい、私が嫁ぐことで伊達との仲を取り持って見せます、それが最上の為、兄上の為になるのなら喜んで輿入れいたします」
「余り思いつめるなよ、其方が幸せであれば兄としてこれほどうれしい事は無い(伊達と仲良く成れば戦も減るから鮭が沢山食べられるな)」
表向きは兎も角残念な思考をしている義光であった。
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ある日の事最上家の領地に遠方から客人がやってきた。義光はその名を聞いて驚いた。
「あの、山中鹿介が来ているというのか、尼子家の豪傑、品川大膳を一騎打ちで倒したという」
「尼子家が毛利に降伏した後浪人したと聞いていましたがこの地迄来られるとは」
氏家尾張守も真に驚いているようであった。
「月山富田城の戦いの話など聞いてみたいものだ、尾張守会えるだろうか?」
「某も会ってみとうございます、直ちに手配いたしますぞ」
こうして義光は鹿介に会うこととなった。
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