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第三十九幕 所詮は烏合の衆

相模国 小田原城下 同盟軍陣地


「何だと! 安房と常陸に敵勢だと!」


「はっ! 夥しい数の軍船が押し寄せ、大軍を上陸させております。留守居の兵力では持ち堪えられません。直ちに御帰還を!」


 早馬を飛ばしてきた使番が息も絶え絶えに言葉を振り絞る。それを聞いた諸将がどよめいた。


「このままでは我が領地も危ない! 急ぎ帰還せねばならん!」


 口々に帰還する事を口にする大小の領主たち。


「落ち着け! この状況で引く事相成らん!」


 大喝するのは佐竹義重であった。


「目の前の北條と織田が黙って帰してくれると思うのか? 我々が引けば必ず押し出してくるぞ」


「ではどうせよと申すのか? 我々の帰るところがなくなってしまうのだぞ!」


 忍城城主の成田氏長が叫ぶ。


「慌てず道々の安全を取りながら帰るのが常道、其の為には整然と引く事が必要だ。皆々其の準備を為されるように」


 安房を治める里見義弘が諸将に釘を刺すが皆領国への不安から落ち着きを失っていた。そして翌日事件が起きる。


「成田・真里谷・庁南が陣を勝手に引き払っただと?」


「はっ、他の諸氏も引き上げつつあります」


 知らせを受けた佐竹義重は不利を悟り直ちに引き上げを部下に告げる。其処に使番が駆け込んできた。


「対陣中の織田勢が気勢を挙げております。呼応するように小田原城からも鬨の声が!」


「攻めて来るぞ! 守りを固めよ!」


「殿、此処は我等が支えますゆえ、直ちにお戻りに為って下さい。河越城を包囲している東(佐竹)義久様と合流されるのです」


 真壁氏幹が義重に声を掛ける。決死の覚悟で殿を務めるつもりである。


「済まぬ。そなたの忠心忘れぬぞ」


 佐竹・里見勢も殿を置いて後退を開始すると遂に織田・北條勢が打って出た。


「奴らをこの相模から生かして返すな!」


 其の奔流ともいえる攻勢を殿を勤める佐竹・里見勢が逆襲を掛ける。


「此処で奴らを食い止めるぞ、掛かれぇ!」


 里見家の重臣正木時忠が織田勢に突っかかる。其の勢いに押され織田勢の一角を担う徳川勢が押される。


「このまま押されるのは三河武士の名折れ、押せ!押せやぁ!」


 先鋒の本多忠勝が蜻蛉切りを振り上げ兵を鼓舞すると強兵の誉れの高い徳川勢は正木勢を押し返した。


「流石は徳川、このままでは時間は稼げぬ、一旦引くぞ」


 一旦正木勢は後退し時間を稼ぐのであった。



 小田原城攻略部隊は完全に瓦解し皆ばらばらに自分の領地に戻ろうとしていたがそれまで耐えていた北條方の諸城から繰り出してきた部隊に追われる事となる。


 成田氏長は北條氏照に追い詰められて自刃し、江戸重通も河越に辿り着く事が出来ず討ち取られた。


 佐竹義重は{鬼真壁}真壁氏幹の奮戦で何とか河越城包囲部隊にいた東(佐竹)義久と合流を果たした。


 里見義弘もどうにか逃げ切ったが既に安房と上総の領地は上陸してきた織田勢に抑えられており進退を窮していた。


「正木はどうした?」


「お帰りになりません、討ち死にされたものと」


「正木には済まぬ事をした、其の献身の甲斐もなく帰る城も無いとは」


 誰もが正木時忠は死んだと思っていた。


 だが彼は死んでいなかった。味方を逃がした彼は部下と共に北條勢に囲まれ万事休すと為っていたが其処に北條に人質に出していた五男の正木頼忠が現れたのだ。


「親父殿、もう里見には義理を果たしたはずだ。降ってくれ」


「そうか、義弘殿も逃げおおせたか」


 そう言って降り出家したのであった。


河越まで戻ってきた佐竹・里見勢であったが安房・常陸に上陸してきた別働隊の為戻る事も出来ず遂に包囲される事となる。真ん中に河越城を置いた謂わば二重の包囲であった。


「降り為され、今更抵抗して何になろうか、徒に兵を損ないますな」


 羽柴秀吉の使いとして陣を訪れた蜂須賀小六が降伏を説くと両者は潔く降る事を決める。


「もはやこれまで、我が身に代えて将兵の命お救い下され」


 こうして北條方へ攻め寄せた軍勢は敗北した。そしてそれは公方義昭を担ぐ連中の崩壊の始まりであった。


 敗退の報が入ると武田・上杉と対峙していた諸家は動揺し戦線は崩壊し反撃に転じた両家の敵では無かった。


 そして織田信長の掲げる錦の御旗を先頭に北上し各地の城を攻略。遂に首魁の蘆名の居城会津若松城を包囲した。



 火を自ら放ち蘆名盛氏は燃える若松城で一人嗤う。


「敗れたか、だがそれがどうだというのだ、これで儂は蘆名の名を後世まで残す事が出来た。公方に付き朝敵になり、悪名であってもだ。我が生涯に一点の悔いは無し、閻魔に良い土産話が出来たわ!」


 其の笑い声は城が燃え崩れるまで響いたのであった。




読んでいただきありがとうございます


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