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ご主人さまとエルフさん  作者: とりまる ひよこ。
君と作る未来の為になのです

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59/74

tmp.51 急転直下


 城に戻ってからざっと2時間後、編み途中だった葛西さんとクリスの子に贈る毛糸の帽子を中断して棚に置いて、何か飲み物を取りに行こうと厨房へ向かう道中、廊下の先を歩くボロボロになった人間の青年達と、彼等に結びつけた縄を持って先導する獣人達が目に入りました。


 獣人達の方は無傷なあたり、どれだけ一方的だったのかが解りそうなものです。気になって後をちょこちょことついて行くと、どうやらご主人さまの執務室へ連れて行かれるようでした。


 完全に部屋の中に入ったのを確認してから、ドアの両脇に立つ猫人と犬人の青年に静かにと指を唇に当ててジェスチャーをしながら、そっと耳をドアに押し当てます。二人は呆れたような顔をしながらも見逃してくれたようです。


 ドアの向こうからはご主人さまとルルと、それからゴランさんの声がしてきます。


「お前たちの罪はムーンフォレスト王国への無法入国、及び武力侵略行為だ」


 まだ明確に法律は制定されてないのですが、そこらへんは王政の強みというやつですね。ご主人さまが黒と言ったら林家の紙ですら黒いのです、おっかないですね。


「よってその身を捕虜として預かり、フォーリッツ王国及び冒険者ギルドへ厳重抗議をさせて貰う」


 ここにはまだ冒険者ギルドもありませんので、勢力圏外なのです。加盟国ならばどこでもビザ代わりに使える"ギルドカード"は通用しません。とはいえギルドが彼等のような木っ端の冒険者の為に何かするとは到底思えないのですけどね。


 確か冒険者には自由と責任をっていうのが理念ですから、自分のおしりは自分で拭く代わりに国をわたって活動する自由を認めているのです。まぁ多分、後々この国が大きく発展して、危険地帯である樹海への前線となった時に入る利益を考えればこの一手が牽制にもなるのでしょうけど。


「お前たちから得られる情報は何もないだろう、連れて行け」

「はっ!」


 ドアから身体を離し、連れて行かれる彼等の哀愁に満ちた背中を見送っていると、突然首根っこをひっつかまれて持ち上げられました。


「それで、聞きたいことはあるか?」

「何人捕まえました?」


 そのままお姫様抱っこの体勢で抱えられたので、ため息を吐きながら質問をすると、ご主人さまは執務室の中へと戻っていきながら答えてくれます。


「あれ含めて20人、今のところ一番強いので中級クラスだったな」


 どうやら結構な数の冒険者が来ているようです、仮にもそれなりの実力者である中級クラスとは先遣としては豪華ですね。


「今のところは訓練と武器製造の結果は出てる、こっちに怪我人は無しだ」


 そして"それなりの実力者"を一方的に鎮圧するとは、流石は似非現代兵器、魔法の産物とはいえ酷いチートアイテムなのです……。



 それからも、ちょくちょくと冒険者はやってきて簡易牢獄はあっという間に埋まっていきました。最大100人の収容が可能な施設がわずか一ヶ月で8割埋まるとは、1匹見かければ10匹いるとかそんな感じです。


 そのせいで仕事が忙しくて全然構ってくれないとフラストレーションを溜める猛獣(にゃんこ)猛牛(べひもす)のオーラに怯えたりもしましたが、ボクとしては概ね平和に過ごしておりました。


 随分と時間がかかりながらもやっと完成した毛糸の帽子、靴下のセットをプレゼント箱に詰めて一段落した所で、城から少し離れた森のなかで爆発が起こりました。何事かとフェレと一緒に窓から外を見れば、青白い炎が巻き上がっているのが見えます。


 いよいよ上級冒険者が動き出したのでしょうか。どうしようかと顔を見合わせて居ると、完全武装したユリアが息を切らしながら部屋へ飛び込んできます。


「上級冒険者の救出部隊が来たらしいです、お嬢様はすぐに避難を」

「解りました、行きますよフェレ」

「はーい」


 こういう時は慌てず騒がず、素直にユリアに従って廊下を駆けて行きます。道中で近衛騎士に就職した、元クリスのお隣さんである狼人のグレイルさんに抱えられたクリスとも合流し、緊急避難場所でもある倉庫部屋へと向かいます。


「ご主人さまとルルは?」

「マコトさんと正門で迎え撃つそうです、私達は近衛と一緒に非戦闘員の護衛を」


 ここでちょっと悩みます、なんというか襲撃時にご主人さまが傍に居ないと逆に危ない気がするんですよね。あの人いつも大事なときに限っていないのです、ボクのことに関しては特に。


「……ユリア、非戦闘員の誘導が終わったらボクはご主人様のところに行きます」

「お嬢様!」


 咎めるような顔で叱責されますが、逆にしっかりとユリアの目を見て返します。ボクだって足手まとい以下なのは解ってるのですよ。


「役に立つ立たないとかそういうんじゃありません、

 なんでか知らないけどこういう時にご主人さまと離れると敵がボクの方へ来るんですよ、

 逆にご主人さまの傍に居たほうがボクも非戦闘員も安全だと思います」

「それはっ……でも……」


 反論しようとして、しかし言葉に詰まっている様子。彼女にも心当たりがあるのですね。


「とにかく、いい加減ボクだってそういう体質なのは自覚してますから、

 身重のクリスまで巻き込みたくありません、近衛もそのほうが守りやすいでしょ!」

「ですがっ」

「議論してる時間はありません、ほらついちゃいましたよ!」


 そうこうしている間に倉庫前へと辿り着き、グレイルさんはクリスを抱えたままこちらを一瞥すると、困ったように「気をつけてな」と言って倉庫の中へ。ユリアは最後まで渋りましたが、ボクが折れないことを悟ったのかため息混じりに同行を許可してくれました。


「さ、フェレもバリケードの中へ」

「私はソラといっしょ!」


 ですよね。


「これで城内の非戦闘員は全員です、バリケードを閉じますがお三方は?」

「私達は陛下と合流して敵を迎え撃ちます、皆さんはここの護衛を」

「はっ!」


 ユリアもいつの間にか偉くなったものです、堂に入った態度でメイド服にハルバードという面白い格好の狐耳の女性に告げると、即座に踵を返します。背後では敬礼する狐耳の女性が上からゆっくりと落ちて来る大型のシャッタードアの向こうへ消えていく所でした。


 ……いい加減SFなのかファンタジーなのかハッキリするべきじゃないかと思うのですが。


「お嬢様、何してるんですか行きますよ」

「切り替え早いですね」



「ソラ!?」


 正門前にたどり着くと、ご主人さまが珍しく驚いた顔でボクを見ました。


「どうせ離れてたってこっちに敵が来て危ない思いするだけですから

 それよりも傍にいるのできちんと守って下さい!!」


 足元まで行くと、息を整えて見上げながら胸を張って宣言すると、ご主人さまは暫く口をパクパクさせた後に、何か思うところがあったのか肩を落として仕方ないとため息を吐きました。理解が早くて何よりなのです。


「それで敵は?」

「すぐそこまで来ているな」


 そういって組まれた陣形の先、森へ続く道を睨むご主人さまに釣られて視線を向けると、立派な鎧に身を包んだどこか見覚えのある、栗色の髪の青年を筆頭とした一団がこちらに向かっているのが見えました。


 他にもなんか見覚えがある顔がちらほら、うーん、誰でしたか……。


「け、ケイン……!?」


 悩んでいる、隣から呆然としたような声が聞こえました。ユリアが驚いたような顔で戦闘の青年を見つめています。そうです、思い出しました、カネ目当てに幼馴染を奴隷商に売ったアホ男なのです。


「確かユリアの元カレだっけ?」


 ぽつりと言ったルルを、ユリアがじろりとにらみます。


「違います、元幼馴染です」


 恋愛関係にはなってなかったと皮肉を込めて言ってるんでしょうけど、その名詞に"元"は付かないと思うのですが。


 そして先頭の青年はユリアの姿を見つけるなり表情を明るくすると、突然隣に立つご主人さまを睨み付けました。


「ユリアを返せ!!」


「「「は?」」」


 思わずユリアとルルとハモってしまいました。


【RESULT】

―――――――――――――――――――――――――――――

◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】

[◇MAX COMBO}--◇【0】----◇【0】----◇【0】

[◇TOTAL HIT}----◇【0】----◇【0】----◇【0】

---------------------------------------------------

[◇TOTAL-EXP}-◆【1300】--◆【610】--◆【649】

―――――――――――――――――――――――――――――

【パーティー】

[ソラ][Lv55]HP110/110 MP3100/3100[正常]

[ルル][Lv88]HP1320/1320 MP50/50[正常]

[ユリア][Lv80]HP4560/4560 MP132/132[正常]

[フェレ][Lv60]HP720/720 MP1570/1570[正常]

[シュウヤ][Lv130]HP4210/4210 MP4006/4006[正常]

―――――――――――――――――――――――――――――

【レコード】

[MAX COMBO]>>55

[MAX HIT]>>55

―――――――――――――――――――――――――――――

【一言】

牛「あーーーもーーーー折角忘れかけてたのにいい!!」

耳「荒れてるのです」

猫「気持ちはわかる」

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