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ご主人さまとエルフさん  作者: とりまる ひよこ。
新天地でなんやかんやなのです

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45/74

tmp.40 雨降って土砂崩れる


 クリスの行方不明以降は事件らしい事件もなく、屋台も後任が見つかったおかげで正式に引き継ぎがされて、ご主人さまは現在技術者の育成に励んでいます。そして葛西さんは武術の指南をするために集落に通う傍ら、クリスとの距離も急接近して正式にお付き合いがはじまったみたいです。


 肝心の葛西さんは集落の男の子たちから敵視されたりしつつも、何だかんだで幸せそうに過ごしているようでボク達としても一安心です。



「そういえばマコトって家どうするんだろう、集落に作るのかな」


「気が早いのですよ、結婚するわけでもあるまいに……」


 ご主人さまを省いた女の子達でルルの部屋に集まり、ちょっとしたお菓子をつまみながら話したりゲームしたりを普通に楽しむパジャマパーティーの真っ最中。ルルが窓から離れを眺めながら言いました。今日はクリスが葛西さんの住む離れにお泊りする初めての日でうちの肉食獣どもは興味津々です。


「お嬢様、そういう関係を受け入れるって事は結婚まで視野に入れてるって事ですよ?」


 ……さらりと怖いこと言わないでほしいのです。ボクはそんな恐ろしい未来は視野に入れてません、あくまで奴隷と主人、娼婦と客の……いややっぱなしで。これ以上この問題について思考を深めると墓穴が際限無く広がって行きそうです。


「いまごろふたりは、白い海で泳いでいるころだねー」


「何ですかその歪曲的表現……」


 中途半端に乙女チックな顔で言ったところでフェレが変態という純然たる事実は変わらないというのに、何故そんな曲がりくねった表現をするのか。


「わたしもソラと白い海をおよぎたーい!」


「きゃっちあんどりりーすなのです」


 抱きついてきた魚雷を巴投げの要領で背後のベッドに投げ飛ばします。我ながら見事にどまんなかに着地なのです。因みに我が家のベッドは各員の部屋にお泊りしやすいようにと最低でクイーンサイズです。ご主人さまのはキングの中のキングサイズです。


「きゃー!」


 嬉々とした悲鳴を上げながら白い海にダイブした肉食魚がぴちぴちとシーツの上を跳ね回りまわっています。そのまま自然(うみ)に帰るがいいのです。


「ほらお嬢様、まだ髪の毛梳かし終わってないんですから暴れない」


「ふぁい……」


 湖の主の討伐には成功したものの、何故かボクが怒られる事になりました、これは何かの陰謀なのです……。


――ドンドン!


 しょげかえったままユリアに髪の毛を梳かれていると、強く扉が叩かれました。ご主人さまはこういうパジャマパーティの時は空気を読んでゆっくりと一人の時間を過ごしていたり、道中でボクを攫って朝まで監禁したりするので乱入することはないんですが。


「はいはーい? どなた?」


 ルルもそれが解っているためか、不思議そうにドアに近寄って声をかけます。確認を取らずにいきなり開けると危ないですからね。


「私です! クリスです!」


 ……何があったんでしょうか。



 部屋に飛び込むなり自分もパジャマパーティに混ぜて欲しいと言う、酷く不機嫌そうなクリスを尻目に、新入りさんの分のお菓子と飲み物を取ってくるーとこっそり抜けだしたボクは、事実関係の調査のために人の気配のするリビングへと向かいました。


 六人家族でくつろげるように作られている大きなリビングのソファの一角では、腰掛けたご主人さまと、酒がある訳でもなくテーブルに突っ伏して啜り泣く葛西さんの姿が。戸惑うボクに気付いたご主人さまが手招きをしました。


 頷いてから葛西さんを刺激しないように静かに隣に腰掛けると、虚ろな眼の葛西さんがこちらを見ました。生気の欠片も感じない、底なしの闇のような瞳です。


「ひぃっ」


 本能的に感じた恐怖から思わずご主人さまにしがみつくと、背中を撫でながら耳元に顔を寄せられます。


「……今コイツ凄いデリケートだから、刺激しないうちに戻った方がいいぞ」


「何があったんですか……」


「俺の口からは言えん」


 ここまで絶望しきった顔にはちょっとやそっとじゃならないのですよ? まるで交際三年を経て結婚式の打ち合わせまで済ませた相手が結婚詐欺で逮捕されたと知らされた中年男のごとしなのです。


「いいよなぁ……お前らは仲良しで……」


 葛西さんの口から地獄の穴の底から響くかのような、怨念に満ちた声が漏れました。流石にちょっと怖いのです。


「ほら、目つけられる前に戻れ、

 じゃないと俺が部屋に連れ込んで食っちまうぞ」


「戦略的撤退を選択するのです!」


 ご主人さまの手からすり抜けて、キッチンからミルクポットとクッキージャーをお盆に乗せて回収し、危険地帯からダッシュで離れて階段を軽い足取りで上がっていきます。



「あははははは!」

「ま、マコトさん、それは流石に……ッ!」

「流石まこっちゃん」


「ただいまー……です?」


 部屋に戻ってみると、何でかクリスを除く皆が爆笑しておりました。笑われているらしいクリスはというと頬を膨らませてかなり頭に来ている様子でした。


「もう、全然面白くない!」


「何があったんですかね?」


「そ、それがねぇ」


 割と本気で気になるので疑問を投げかけてみると、頬を膨らませたクリスに変わってルルが答えてくれました。


「ご飯食べてお酒飲んで、いい感じの雰囲気でベッドに入っ、入って、

 そこまでは良かったらしいんだけど、そのあといざって所で‥…」


「所で……?」


 何かとんでもないミスでもやらかしたんでしょうか、晒しあげみたいで可哀想だけどボクの心に住む邪悪な馬(やじうま)が耳を傾けろとささやいてきます。ボクはその声に抗うことは出来ません。なぜならボクの心に住む聖なる馬はご主人さまの手によって駆逐されていたから。


「マコトさんってば、全然反応しなくなっちゃったの!」


「ぶっ」


 危うくお盆を落とすところでした。上手く行ってると思ったらまさかの土壇場でヘタレ発動とは、彼も中々侮れない人材のようです。しかし道理でこの世の絶望全てを味わったような顔をしているわけです。思わず笑ってしまいましたがここで笑い話にされてることを知ったら本気で自殺しかねないですね。立ち直るまではちょっとだけ優しくしてあげましょう。


「やっぱりまこっちゃんは"ふにゃちん"だったんだね」


「フェレ、その台詞は絶対に本人の聞こえる所で言っちゃいけませんよ?」


 人生の電源ボタンを押しかねませんからね。……EDになってないといいんですけど。



 結局クリスは葛西さんの所に戻ることはなくルルの部屋に泊まりました。しかし、このまま破局を迎えるのかなと静かに哀れんでいるボクたちとは対象的に翌日の朝の葛西さんは自信に満ちていました。


 何故か「今度は俺、負けないから」と精悍な顔で言い残したアホの子は、不貞腐れているクリスを宥めすかしてデートに行きました。その更に翌日には手を繋いで寄り添いながら帰っていく姿を見かけたので、仲直りは上手く行ったようです。



「それで、何やったんですか?」


 今さっき集落へ戻っていった肩を寄せ合い歩く二人の背中を思い出しながら、ボクはご主人さまとホットミルクを飲みながら話していました。ルルとユリアは村へ石鹸をはじめとした商品を届けに。フェレは湖の探検に繰り出しているので静かなものです。


「ああいうのって勢いが大事だろ?」


「……ソウデスネ」


 その勢いの犠牲者となった身ですからよく解ります。恨みは忘れていませんよ?


「だからちょっとしたアドバイスと小道具をな」


 ボクの恨みがましい視線には何の反応も返さず、ご主人さまは薄く微笑みました。


「小道具?」


 小道具っていうと……文字通り道具な訳はないでしょう、そんな事したら冗談抜きでぶち殺されても文句言えませんからね。

 

「そう、パラサイトウッドの樹液を加工した媚薬を渡した」


「そんなものを……」


 パラサイトウッド……確か甘い香りで獲物を誘い、発情を促す樹液を飲ませて自分の種子を植え付ける貴様はどこのエロゲ出身だと言いたくなるモンスターだったはずです。冒険者講習で絶対に女の子が近づいちゃいけないモンスターの一体だと教えられたので覚えています。


 女性冒険者が嫌うモンスターの三位くらいのモンスターですね、因みに二位はオーク、一位はクローチという台所に居るアレの巨大版です。因みにどいつもこいつも他種族の雌を苗床にして繁殖しますので、一定以上大きくなった巣は多くの若い冒険者に消えないトラウマを刻みこむのだとか。


 まぁパラサイトウッドに関しては樹液を加工すると媚薬になるのでお偉いさん方に人気だという話も聞いていましたけど……何で持ってるんですかねこの人は。


「……この間結界の範囲内で見付けて、駆除した時に回収して作っておいたものだ」


「…………そうですか」


 何でそんなものを作ったのかなんてのは無粋でしょうか。あぁ解りました、きっと集落のおじさん達に頼まれたんですね、きっとそうです。男はそういうの気にしますからね、まぁ悪用さえしなければいいでしょう、悪用さえしなければ。


 知らずのうちに額を流れていた汗を拭います。なんだか妙に身体がぽかぽかするのですが、嫌な予感がします。逃げたほうがいい気がして立ち上がった時、ご主人さまが笑顔で言いました。


「因みにそのミルクにもハチミツ代わりに入れてみたんだが」


 …………なにそれこわい。


【RESULT】

―――――――――――――――――――――――――――――

◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】

[◇MAX COMBO}--◇【12】----◇【0】----◇【0】

[◇TOTAL HIT}----◇【12】----◇【0】----◇【0】

---------------------------------------------------

[◇TOTAL-EXP}--◆【833】--◆【320】--◆【351】

―――――――――――――――――――――――――――――

【パーティー】

[シュウヤ][Lv80]HP1582/1582 MP2630/2630[正常]

[ソラ][Lv19]HP5/60 MP733/733[疲労]

[ルル][Lv56]HP785/785 MP38/38[正常]

[ユリア][Lv45]HP1560/1560 MP89/89[正常]

[フェレ][Lv28]HP182/182 MP530/530[正常]

[マコト][Lv52]HP1391/1391 MP157/157[正常]

―――――――――――――――――――――――――――――

【レコード】

[MAX COMBO]>>34

[MAX HIT]>>34

―――――――――――――――――――――――――――――

【一言】

耳「……クスリ……ダメ……ゼッタイ」

主「(ただのハニージンジャーだったんだが……単純な奴)」

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