tmp.31 楽園を探して
ボク達の新天地を探す長く苦しい旅がはじまりました……なんてことは全然なく、ご主人さま謹製のゴーレム馬車による悠々自適な旅路でした。葛西さんも同行してたので変態も大人しかったですしね。
時折我慢しきれずに野営の最中に何人か連れ出される事はありましたが、王国の兵士らしき人たちがご主人さまに派手にふっとばされる以外の波乱は無く目的地に辿り着きました。人が花火のように空中へと打ち上げられる様はファンタジーでしたね。そこまでやって一人も死者を出してないあたりがさすがのチート野郎なのです。
そんなこんなで一ヶ月ほどの旅を経て辿り着いた未開の地、そこは盆地の中にある鬱蒼とした森に囲まれた陸の孤島と呼ぶべき場所でした。
「なんか毒蛇の待ち受ける謎の洞窟があったり、
ピカピカの白骨が転がってたりしそうな地形なのですよ、隊長」
「誰が隊長だ」
まさしく秘境、ご主人さまに背負われながら森のなかを進みます。甘えてる訳じゃないのです、モンスターの多い地域が一週間近く続いて気を抜けず、到着前夜に色々限界を超えたご主人さまに歩けなくされただけなので、ご主人さまに責任取って運んでもらっている形です。
戦力は十分なのでたまに出てくる魔物をどうにかしつつ探索は進みます。というかボクを背負いながら上位の魔物と問題なく戦えるとか、人外っぷりが上がってきてますね。
森を切り開いていくと、大きめの湖が見つかりました。うちには肉食魚が居座る予定なので、出来れば安全な湖と隣接した場所に設営したいものです。
魔法で水中の探索をはじめたご主人さまを見守りながら、残りで野営の準備を進めます。といっても足腰に力の入らないボクは大人しく座って眺めているだけなのですが。……肉食魚に抱きつかれながら。
◇
「ご主人さま―、どうですかー?」
頬にキスしようとしてくる変態魚類の額を鷲掴みにして遠ざけながら、片膝をついて水中に手を入れているご主人さまに声をかけると、ちらりとこちらを見て何を思ったかすぐに切り上げて戻ってきました。
「怪しい魚影はないし、別の場所に繋がってるような大きな穴は無い、
水質も良好、濾過すれば飲むことも出来るだろうな」
戻ってきたご主人さまの説明を聞く限りでは、立地条件としては悪く無いみたいです。ある程度の範囲に魔物除けの結界を張って、建物の中に水を引き込む形にすれば安全も確保できるでしょう。
「この辺をキャンプ地にして周囲を本格的に探索してみるか……、
まぁそれは置いとくとして、これは俺のだからな?」
「あぁっ!」
肉食魚の顔面を素足で蹴って距離を開けていたボクを、ご主人さまが背後から抱き上げます。やっぱりボクはモノ扱いなんですね……まぁいいです、どうせボクの仕事はご主人さま用の抱き枕です。何だかんだで狩りとか獲物捌くのとか料理とか色々仕事があるユリアとルルに代わってご主人さまを慰めるためだけの存在ですから。
「……ソラは何で黄昏てるんだ?」
「生きる意味について考えてました」
ボクはこのまま一生ご主人さまのロリエルフかっこ夜用かっことじなのでしょうか。将来のことを考えると涙も枯れそうです。
「哲学的だな」
人間は考える葦といいます、エルフは何なんでしょうね。というかボクは何なんでしょうね、考えるこんにゃく? 超ヘルシーですね。
「……鉄?」
おとぼけな肉食魚をスルーしながらご主人さまの顔を見上げます、目があった瞬間近づいてくる顔、慌てて自分の口元を抑えて拒否の意を伝えます。
「景観もいいですし、出来れば湖の畔のお家がいい,ですっ、ねっ!!」
「そうだな、ここの安全が確保できたら家を建てようか」
拒否の意が伝わってなかったみたいですね、両手首を掴まれてこじ開けられそうになってるんですけど。いやほんとに勘弁してほしいんですけど、ほら葛西さんとか簡易コテージを作りながらちらちら見てますよ、彼も若い男なんですから! 馬車の中で夜中にもぞもぞしてるのを女性陣で相談して一切気づかない振りをしてあげようと決めた程度には若い男なんですから、気を使ってあげてくださいよ!
「うぅ、いいなぁ、わたしもソラとちゅーしたい……」
「シュウヤ様ー、ちちくりあってないでちょっとこっち手伝って下さい!」
「旦那様、ちょっとお嬢様をお借りしたいのでよろしいですか?」
あと少しで食われるといったところで、うちの女性メンバーからの助けが間に合いました。肉食魚は本気でちょっと黙っててください、してませんから、しませんから。
「チッ……仕方ない、後でな」
露骨に態度悪くなっても無駄なのですよ、ユリアに抱きかかえられて木陰へと連れて行かれます。我が家の牛娘はボクを適当な岩に座らせると、ポケットから小さな壺を取り出しました。てっきり搾乳の事かと思ったのですが、どうやら違ったみたいです。
開かれた壺の中身は白いクリーム……軟膏っぽいですが何でしょうか。
「前に薬屋の店員さんに教えてもらって作っておいた軟膏です、
敏感な場所の腫れや痛みを抑える効果があります。
旦那様ったら結構無茶されたみたいですからね……」
「……ありがとうございます」
あぁ、なるほど。確かにちょっとヒリヒリしてるので助かると言えば助かりますね、有難く頂戴しましょう。ところが壺を受け取ろうと伸ばした手にはユリアは特に反応しませんでした。
「一人じゃ大変ですよ?
私が塗ってあげますから、あんよ開いて下さいね」
何ですか"あんよ"って、いくら何でもそこまで小さくありません、誰が見ても二桁は行ってるはずです。だから薬を塗るくらい一人で出来るのです、スカートをまくり上げないで! 脚を開かせようとしないでええええ!!
◇
ユリアにお姫様抱っこされながら戻ると、簡易テント群と魔物除けの結界が完成してました。
「取り敢えず俺とマコトで探索に向かうから、
お前たちはここで食事の準備を頼む……何でソラは真っ赤になってるんだ?」
「気にしないでください」
慣れきったつもりでしたが、医療行為として見られると逆に恥ずかしいものですね、意外な発見でした。出来れば知りたくなかったですけどね。取り敢えず何があったかは絶対にバレてはいけません。もしもバレた日にはご主人さまは必ずボクを処刑の憂き目に合わせるでしょう。
奴はボクを辱めるためなら手段を選びません。もうご主人さまに対して"お兄ちゃん"などと破廉恥極まる呼称を付ける悲劇は訪れてはいけないのです。
「お嬢様は休んでいて下さいね、旦那様も今日はダメですよ?」
「解ってるよ」
ほんとですかね……そのまま連れて行かれたテントの中には絨毯が敷かれ、簡易ながらも柔らかいベッドが置かれてました。旅の途中で何度も使われたものです、持ち運びできる割に結構寝心地良いんですよね。ユリアはボクをベッドにそっと寝かせると、シーツをかけてくれました。
「じゃあ俺は行ってくるから。ユリア、ソラを頼む」
「いってらっしゃいなのです」
「お任せ下さい」
ご主人さまを見送りながら、柔らかいクッションに身体を沈め、枕元に置かれている枕を抱き寄せる。動けない代わりに一日ごろごろしていられるのはラッキーですね。どうせ落ち着いたら寝かせて貰えない日々でしょうし、今くらいはゆっくりさせてもらうのです。
「さて、私は外でお洗濯してますので、何かあったら呼んでくださいね」
「解りました、お願いするのです」
ユリアも仕事をするために出て行ってしまいました。馬車の旅をしながらご主人さまの相手をするのはかなり身体に堪えました、明日から頑張ると言い聞かせて、目を閉じます。平気なつもりでも結構疲れていたのか、すぐに意識が沈んでいきました。
どのくらい続いたか解らない夢現の時間の中、奇妙な感触に目を開けます。隣を見ると何故か同じベッドの中で桃色の髪の肉食魚がボクに抱きついて寝息を立てていました。歳相応に無邪気な寝顔は誰が見ても可愛らしいと思えるでしょう。全くいつの間に忍び込んだのですかね。
思わず口元を緩めて、小さく息を吸い込みます。
「ご主人さまぁぁぁ! 魔物除けが機能してませんー!!」
【RESULT】
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◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】
[◇MAX COMBO}--◇【0】----◇【0】----◇【0】
[◇TOTAL HIT}----◇【0】----◇【0】----◇【0】
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[◇TOTAL-EXP}--◆【738】--◆【265】--◆【289】
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【パーティー】
[シュウヤ][Lv77]HP1432/1432 MP2530/2530[正常]
[ソラ][Lv19]HP15/60 MP733/733[疲労]
[ルル][Lv54]HP735/735 MP36/36[正常]
[ユリア][Lv44]HP1540/1540 MP88/88[正常]
[フェレ][Lv28]HP182/182 MP530/530[正常]
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【レコード】
[MAX COMBO]>>33
[MAX HIT]>>33
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【一言】
「水棲妖怪怖いのです……」




