25話
「テラ、あなたまた性懲りもなく、ポーターをやりたいんだって?」
アンナが俺に聞いてくる。
「ああ、そうだな。どうだ、俺を雇うか?」
俺は自信満々にそう言う。
「あなたが関わるといつも変なことが起きるのよね。」
「酷い言われようだ。俺は特に何もしていない。」
俺は顎髭を触りながら言い返す。今日はそり忘れていたようだ。
「―そうね。そうなのよね。本当に不思議。」
「で、どうするんだ?」
「アンナ、こいつが参加するっていうんだ。また何かあるかもしれない。行くなら雇うしかないと思うぜ。」
ロロは野性の勘か何かで俺の有用性を認めているようだ。
「ロロ、まだ先遣隊に参加するとは決めていないわよ。少し待って。」
「―テラ、あなた一体何者なの?」
最近よく耳にする質問をアンナが聞いてくる。
「俺か?俺は実は魔族なんだ。」
とりあえず正体をカミングアウトしてみるが、遥かな風のメンバーはみな呆れたようにこちらを見る。
「・・・あなた、嘘をつくにしても、もう少しましな嘘をつきなさいよ。」
その反応は予想通りではあった。
「はあ。じゃあ、何だったらいいんだよ?」
「うーん・・・」
唸るアンナ。
「アンナさん、テラさんが参加を希望する依頼です。他のパーティーに任せると、きっと変なことに巻き込まれちゃいます。」
「そうね、カトリーナ。あなたの意見はとても正しい。」
ため息をつくアンナ。
何が正しいのか俺にはよく分からないが、どうやらポーターが必要なようだ。
「よし、じゃあ幾らだ?」
単刀直入に単価を聞く。
「あなたねえ・・・」
アンナは何度目かの大きなため息をつくのだった。
「キアラさん、遥かな風は先遣隊に参加することにします。そして、ポーターも雇うことにします。」
キアラとは最近よく話す王都の冒険者ギルドの受付嬢のことらしい。
「そうですか。それはとても心強いです。今回の依頼は、ギルドからは金貨2枚の依頼になりますが、問題ないですか?」
「問題ありません。ですが、予想外のことが起きた場合、増額してください。」
「もちろんです。こちらに概要が書かれてありますので、ご確認ください。」
そう言って、受付嬢は1枚の紙をアンナに手渡す。
1回の調査依頼で、採掘数百回分の稼ぎである。さすがは金級の冒険者だ。
ちなみに俺への報酬は前と同じ銀貨5枚。悪くない仕事だ。
「盗賊団は既に討伐されていると聞いているが、今回の依頼はどんなものなんだ?」
道中を歩きながら俺は聞くことにした。
「今回はどうもゴブリンの大集団だったそうなのよ。特にその集団を率いているボスは、ゴブリンキングという、特殊なゴブリンだったらしいわ。」
アンナが答える。
「ゴブリンキング?聞き慣れない種類だな。」
「ええ。それが本当なら、危険性は通常のゴブリンとは段違いよ。もしかすると魔族1体と同じくらい危険な魔物が手下を大量に従えて大集落を作っていたのかも。」
「既に討伐されたらしいがな。」
「そうなのよ。私たちも傭兵団にはあまり詳しくないけれど、ギルドからは実際にどんな戦闘があったのか、その痕跡をたどるように言われているわ。あと、できればそのゴブリンキングの遺骸の回収ね。」
「なるほど、それでこの馬と荷車か。」
「そう。でも多分、とても重いから馬だけで運べないときは、頑張って後ろから押してね、ポーターさん。」
「・・・へいへい。」
最近は採掘場に行っていないので、筋トレも全然できていない。鍛えなおさないとな。
「しかし、傭兵団も大したものだ。そんなゴブリンキングを相手に蹂躙してしまうとは。」
「傭兵団は対人戦闘のプロよ。彼らは、剣や魔法はもちろん、例えば爆弾や火器といった冒険者が普段使わないような武器を使うのよ。ゴブリンも相手がそんなものだとは思わなかったのかもしれないわ。」
「あれ見て、アンナ。」
そう言うと、カトリーナが走っていく。あの辺りは俺が潜んでいた木の近くだ。
「これー!」
そういうと、カトリーナはもはや残り少なくなった黄土色の怪しげな液体が入ったポーション瓶を掲げる。
それにはとても見覚えがあった。
「これは・・・。きっと毒ね。カトリーナ、どう?」
アンナが近づいていってカトリーナに訊ねる。
「うーん、そうだと思う。でも中の種類までは分からないかなー。」
「どれどれ?」
ロロがその液体を指につけて観察しようとする。
「やめなさい!もう、あなたは。」
アンナがきつく注意する。
「こんなものまで用意していたなんて・・・・」
マリアは啞然としている。
「王都まで持っていって、錬金術師に解析を頼む?」
サリアが聞く。
「まあ、もう残りカスのようなものだし、捨て置いていいんじゃないか?」
俺は内心少し焦りながら言う。
「いいえ、持って帰りましょう。処分はギルドに任せるわ。」
アンナはそう言って袋に入れ、荷車に置く。
ま、あれの成分が分かったところで、誰が使用したのか分かるわけではないか。
「よっと。」
そう言うと、カトリーナは木に登る。
「きっとこの木の上からずっとゴブリン達を見張ってたんだね。それで短剣か何かにこれを塗って、ゴブリン達を襲撃した・・・。ゴブリンたちは目の前の敵に夢中で、ここは盲点だったのかも。」
――カトリーナ!恐ろしい子!!!
俺は本職の凄さをそこに見た。
「傭兵よ。毒を使用することは十分に考えられるわ。きっとゴブリン達はひとたまりもなかったわね。」
アンナが言う。
改めて明るいうちに大集落に入ると、内部は凄惨な状況だった。
あちらこちらに転がる腐りかけたゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。
そして腐敗臭がする。昨日から今日にかけて腐敗が進んでいるようだった。
よく見ると、爆弾の破片や、鉄片や釘といった炸裂弾の跡のようなものも大量に見つかった。
「―やっぱりね。」
アンナがそれらを回収していき、袋に詰め込み、荷車に置く。
そして、それは広場の中央付近にあった。
――肩から袈裟切りにされた山のように大きなゴブリン死体である。
「―凄まじいわね。」
アンナが思わず呟く。
「・・・こりゃあ、俺には無理だな~。」
ロロが汗をぬぐいながら言う。
他の皆は黙り込んでいる。
乾きかけた血の海の中に、大男の一撃を受けたあのデカブツの死体がそこにあった。
ギルドに帰ってきた俺たちは受付嬢に報告する。
「ご苦労様でした。それで馬車と荷車は?」
「ギルドの前の荷車に置いてあるわ。」
受付嬢が外に出ると、それを確認したギルド嬢の息をのむ様子が見えた。
「当り前だけれど、討伐したのは私たちじゃないわ。」
アンナが受付嬢に近づいて言う。
「ええ・・・。分かっています。」
その後王都では、ゴブリンの大集落が傭兵団によって壊滅したということが大きな話題になったことは言うまでもない。




