17話
今の矢の様子から見て、あからさまに敵対するつもりはないことが分かる。木を降り、念のため、俺も慌てずに剣を抜く。
「おまえ、冒険者か?」
男は距離を保ちながら訊ねてくる。
「そうだと言ったら?」
「引けよ。あれは俺たちの獲物さ。」
男は剣をちらつかせ、話しかけてくる。
「どういうことだ?」
「あいつらを追っているんだろう?この前商隊を襲った連中さ。」
ゴブリンが盗賊団のような真似をしたのだろうか?
「ああ、そうだ。だが、お前たちは何だ?」
「はは。あえてお前に教える必要はないな。」
「盗賊か?ならお前たちもゴブリンと大して変わらんな。」
「あんなのと一緒にするなよ。」
男は不機嫌な様子で吐き捨てるように言う。
―ドカン!
ひときわ大きな爆発音が聞こえた。爆発音はそれから何度か続く。
魔法だとすれば、それなりの規模だ。盗賊団の中にそんな魔法を使用できる者がいるのか?
「――急がねえと。そこで見ているのなら自由にすればいい。だが、お前たちは手出し無用だ。」
と言ってその男は争いの中に走っていった。
魔法を放ったのが、やつの属する盗賊団なのだろうか?
その事実だけでも、以前の道中で遭遇した盗賊団とは遥か上の戦闘力を保持していることが分かる。
―どさくさに紛れ、もう少し近づいてみることにする。近くにちょうど良い物陰があった。
「女どもを返してもらうぞ!」
大男が大剣を振り回しながら言う。鎧を身に着けているが、そこから外に出ている腕や足は、まさに筋骨隆々といった言葉がふさわしい。相当な力を持っていることが分かる。
しかし、その大男が対峙する相手は、―魔物?
あれは、ゴブリンか?一言で言うと、馬鹿でかいゴブリンである。
その背丈は大男をも越える。手には巨大なバトルアックスを持ち、大男と同様、硬そうな鎧を身に着けている。
周りのゴブリンどもも、それなりの品質の鎧や武器を身に着けている。
ゴブリンは確かに武器を持つことがあるが、あんなにも万全の装備をしているのは初めて見た。
「アレハワレラガモラッタ。」
―しゃべった。
ゴブリンやオークは他の種族の雌を繁殖に用いることで知られている。
通常のゴブリンの集落でも被害が出ることがあるが、この規模のゴブリンが出没することは一大事だろう。
さらに、冒険者には魔法を使用する女性も多い。
中には魔力の高さ故、女性だけで構成される冒険者パーティーもある。
――遥かな風のように。
人間の盗賊団の方もろくでもないことを言っているのは明らかだが、それにしても、である。
「しゃらくせえ!」
そう言うと、大男の方がデカいゴブリンに切りかかる!
「ヴォォォォォォォーーーーーーーーー!!!」
デカいゴブリンは大男の大剣を斧ではじき、素早く大男を切りつける!
ギイン!!!
鈍い音が響く。大男は咄嗟に防御したが、大剣をはじかれ、そのままの勢いで左腕を切られてしまう。
鮮血が辺りに飛び散る。
一騎打ち(いっきうち)は馬鹿でかいゴブリンの勝利である。
「・・・くそが。」
すぐさま大男はポーションを振り掛け、傷を修復させる。
「親方!」
すると次の瞬間、ゴブリンに何かが投げつけられ、馬鹿でかいゴブリンに命中し、爆発する!
―あれは、爆弾か!
だが。
ゴブリンはそれらを防御の姿勢をとることで、ほとんど無傷で耐え抜いて見せた。
以前のヴァンパイアほどではないだろうが、冒険者にとってはかなりの脅威になることが明らかだった。
「―モウオコッタ。オマエラ!トツゲキセヨ!!!」
「ギャギャギャ」「オウオウ!」「ウギィィィイィ!」
一斉にゴブリンたちが殺到し、場内は乱戦になった。
「撤退せよ!」
大男の方は冷静に退却を命じる。
両者ともに少なくない被害が出ていたが、盗賊団の方に被害が多く出ていそうだった。
――そして、物陰とはいえ、こんなところにいる俺もすぐに見つかるだろう。
「ギギッ」「グギョッ」
―だが、問題はない。
もともと、単身で突撃するつもりだったのだから。
盗賊団は速やかに撤退していき、今この場は俺以外、ゴブリンしかいない。とても好ましい状況だ。
「ストレングス!マッスルパワー!パワーアップ!」
――久しぶりの戦闘だ。
血沸き肉躍る感覚。そう、俺は魔族であるから、戦闘が嫌いであるはずがない。
沸々と湧き上がる感情に身を委ね、ゴブリンどもに切りかかった。




