14話
俺はそのときの詳しい状況を話す。
「おそらくやつは、貴族か商人の子どもに乗り移ったのだろう。」
「ですが、人に乗り移ったとすればやっかいですね。神殿の権限で拘束することはできるのでしょうか?」
「・・・やるしかねえだろ。こちとら泣く子も黙る異端審問官だ。」
表情を引き締めて、メルウィが答える。
異端審問官が相手にするのは人間である以上、こういった難しい仕事には慣れているのかもしれない。
「そうですね。あなたの仕事はそういうものでした。」
カーンの表情は暗い。
「さあ、行くぞ。テラ、部屋はどこだ?あとこれ着ろ。」
メルウィは異端審問官の黒い正装に手早く着替える。
表情は既に黒いマスクのようなもので隠され、眼以外はほぼ全て黒ずくめの恰好に隠されている。はっきり言って異様な雰囲気である。黒い生地の上に白い神殿を表す刺繍があるため、かろうじて神殿に属する者であることが分かる。
「ああ。4階にある蝶のプレートがある部屋だ。」
俺に渡されたものは神官の服だった。
「待ってください、私も行きますよ。」
神殿騎士は正装がアーマーであるため、着替えが大変である。
そう言ってそれぞれ着替えを行い、安らぎの庭まで向かった。
道行く途中、審問官だ・・・といった声がところどころ聞こえてきたが、メルウィは気にした様子でもなく、先頭に立って、速足でどんどん歩いていくのだった。
宿に到着したが、俺は神殿の神官ということにして、3人で宿に入る。
俺の役割は万が一のための、2人の護衛である。
「・・・いらっしゃいませ。本日ほどのようなご用でしょうか。」
宿の従業員が、少し怯えながら聞いてくる。
異端審問官の黒い正装は、比較的小柄なメルウィが着ていても、威圧感を感じさせてしまう。
「この宿に、この世に害をなす者がいるとの報告がありました。すみませんが、宿の名簿を見せて頂きたいのです。」
メルウィがそう言うと、
「少々お待ちを・・・!」
と言ってパタパタと宿の従業員が誰かを呼びに行く。
すると、上品な感じの、いわゆるイケオジといった感じの人が出てきた。
だが、その表情から、非常に緊張していることが分かる。
「私はこの宿の支配人をしているラドといいます。この宿に異端なる者がいるということでしょうか?」
宿の支配人がそう言う。
「そうです。ご迷惑をおかけしていることは申し訳なく思います。ですが、何分、急を要する事ですので、ご理解して頂きたい。名簿の提供と、部屋の調査をお願いしたいのです。」
メルウィが何かを示しながら、支配人に話す。
神殿の公式の身分証明書であるのかもしれない。
支配人もカーンも俺も、淡々と続けるメルウィの様子に圧倒されていた。
「・・・そうですか。ですが、どのお客様か、あるいはそのお部屋を教えてください。お客様全員分の名簿をお見せすることは・・・。」
「4階の蝶のプレートがかかっている部屋です。」
「承知致しました。少々、お待ちください。」
そう言うと、支配人は宿の奥に行き、名簿と鍵を持って戻ってくる。
「こちらが名簿です。部屋の調査には私も立ち会いますが、よろしいですか?」
「承知しました。問題ありません。」
メルウィが答える。
「ではこちらをご確認ください。」
支配人から名簿を手渡される。
4階の蝶の部屋の宿泊人の情報を確認すると、マーガレット・モントールと、トム・モントールという2人の名前があった。
その名前から、貴族であることは明らかだった。
「ありがとうございます。案内してもらえますか?」
メルウィが名簿を確認した後、そう言った。
「承知致しました。」
――そして、問題の部屋に到着した。
まだ中にいるのだろう。部屋の中からはわずかに瘴気が漏れ出していた。
まずは部屋のノックを支配人が行う。
「すみません、マーガレットさん。」
「はい?」
中から出て来たのは、美人な若奥さん、といった感じの女性だった。
「申し訳ないですが、息子さんを見せてもらえますか?」
横からぬっとメルウィが出てくる。
「ヒィ!異端審問官・・・!」
絶句する女性。
メルウィは構わず、部屋の中へ押し入る。俺たちもそれに続く。
「うちの息子に異端審問官が何の用ですか!」
絶叫する母親!
いた! !俺は、すかさずアナライズを使用する!
カーンは剣を抜く!!
―パシャッ。
メルウィは、その息子に向かって、聖水を浴びせた。
周囲は一瞬静まり返る。
すると、その息子が苦しみだす!!
「ヴォォォォ!ヴガッ」
口からゴボッと何かがメルウィ目掛けて飛び出してきた!!!
「「メルウィ!!!!」」
俺とカーンは咄嗟にメルウィをかばおうとしたが、その必要はなかった。
――ザッ
メルウィは落ち着いて準備していた短剣で、その魔物のような何かを両断したのだ。
しばらくして、その生き物は砂になって消えた。
部屋に漏れた瘴気はわずかであったが、それは俺が食った。だが、ほとんど経験値にならなかったようで、スキルに変化はなかった。
しばらく呆気に取られていた母親は、我に戻り、
「トム!トム!!」
倒れている息子を揺さぶる。しかし、起きる気配はない。
「ヒール」
少しの詠唱後、しゃがみこみ、その倒れている子どもの体にふれ、メルウィがそう唱えると、その子の体が輝く。
しかし、特に効果はなさそうだった。
「ポーションを試すか?」
そう言って俺はメルウィにポーションを差し出す。
メルウィは黙って首を横に振る。
カーンが倒れている子どもの体にふれると、
「冷たい・・・」
「マーガレットさん。この子は神殿で預かっても良いでしょうか?」
メルウィがその母親であるマーガレットであるに向かって言う。
「―そんな。」
マーガレットはその場に座り込み、そして気を失った。




