12話
その日の夜。俺は再び、王都の神殿前に来ていた。
「遅かったじゃねえか?」
どうやら、神殿前で少し待たせてしまったらしい。見ると、隣に帯剣した男がいる。
すらっとしていて、背が高い。メルウィとは、かなり身長差がある。
「紹介しよう。この男は神殿騎士カーンだ。カーン、こいつがさっき話した自称魔族のテラだ。変な奴だが、役に立つと思うぜ。」
「はじめまして、テラさん。」
そういうと、手を差し出してくる。
「ああ、よろしく頼むよ。」
俺たちは握手を軽くする。
「話は神殿の中でしよう。」
昨日のように、正門の脇の小さな扉から、神殿内に入る。
「その辺りに座ろうぜ。」
メルウィがそう言い、長椅子に座る。
俺とカーンも長椅子に適当に座る。
「まずは、仕事内容の説明だ、テラ。おまえには、昼間は、瘴気の痕跡がないか王都を一通り回ってもらう。瘴気の場所が見つかったら、3人でそこを見張る。見つからなかったら、ここで再度会議といこう。」
メルウィが切り出す。
「王都の地図はないのか?俺は王都の道に詳しくない。」
「ああ。もちろん準備してある。カーン。」
「テラさん、こちらが王都の地図です。毎日、朝には神殿に取りに来て、使用後は必ず返却してください。この地図は私が管理するようにします。」
「分かった。メルウィ、開始時期と報酬について教えてくれ。」
「開始時期は明日からだ。オレは神官の仕事がある。何か用があるなら、カーンに言ってくれ。そして、報酬だが、1日あたり銀貨3枚、討伐完了までできたら金貨1枚でどうだ?」
メルウィが言う。
「了解。十分な金額だ。」
―それは、その直後のこと。
仕事の契約を行い、神殿から王都の安宿に戻る途中のことだった。
ふいにかすかな瘴気の気配を感じた。
なんだ? どこからだ?
しかし、あたりにはそれらしい痕跡が見当たらない。もう少し目をこらす。
建物の中?よく見ると、高級そうな宿の中からかすかに出ているようだ。
ただ、瘴気の量がわずかであり、暗闇にまぎれはっきりしない。
――明日また出直すか。
場所を記憶して今日は帰ることにする。
翌朝。神殿に向かう途中で同じ場所を通ってみると、すでに瘴気の気配はなかった。
「カーンさんはいるか?」
俺は神殿の神官に訊ねる。
「カーンさんですね?少々お待ちください。」
神官はそう言うと、神殿の奥へ向かって行き、カーンを呼びに行く。
しばらくすると、カーンが奥から出てきた。
「やあ、テラさん。本日はよろしくお願いします。」
と言って、地図を渡してくる。
俺はそれを受け取り、少し声を抑えて話す。
「ああ、そういえば報告がある。昨日、ある宿の近くを通ったときに、その宿の中から瘴気が漏れているような気配がした。夜だったこともあり、あまりはっきりはしないが、場所は―」
「おそらくは、そこは安らぎの庭という高級宿でしょう。そうですか、メルウィにも報告しておきます。」
「ああ、よろしく頼むよ。」
そして、俺は地図を持って神殿を後にする。
―まずはもう一度、安らぎの庭という高級宿に行ってみよう。
王都なだけあって、人通りが多い。この王都には貴族のための区画が存在するが、この国には王都以外にも貴族がいる。そのような貴族が王都に何か用がある場合、そういった高級宿を利用することもあるらしい。
そんなことを考えていると、どうやら着いたようだ。
この前は通りに面した側しか調べてなかったが、大きな建物なので、建物が面する道をぐるっと回って調べてみる。
―特に異常はない。
ふーむ。昨日は確か、建物の上の方から気配がしたんだよな?
安らぎの庭を見上げる。わざわざ建物の上から瘴気の気配がした理由を考えてみる。
何らかの理由であの生物がわざわざ建物の上にいく理由があったのか、あるいは俺の勘違いであるのか。
俺の勘違いもあるかもしれないが、本当に建物の上から瘴気の気配がしたとしたら、それは一体どのような理由によるものか?
一度、安らぎの庭から離れ、王都を巡回することにする。




