9話
「おい。なんだったんだ、ありゃ?」
女が俺に聞いてくる。
「知らん。俺もあんなのは初めて見た。」
「お前、その手、何ともないのか?それは・・・瘴気じゃないのか?」
「ああ。俺は少し特殊でな。」
謎の生き物?を掴んだ手を見せる。
「―やったのか?」
「いや、逃げただろう。ある程度、弱らせているが。放っておくと、あれはまた人を襲うかもしれん。」
「神殿まで来られるか?」
「今からか? それに俺には関係ない話だぜ。」
「今からだ。今ならば、他の者も寝ているだろう。お前は、向こう側の人間だろう? それに神殿の者しか飲むことができない美味い酒があるんだ。」
女は笑ってそう言うのだった。
「―よっと。こっちだ。」
正面の扉ではなく、回り込んだ横の扉を鍵で開ける。王都の神殿だ。かなりでかい。
―ああ、悲しいかな、酒に釣られて来てしまった。
「オレは、メル。メルウィだ。」
女はそう言って自己紹介をする。
「俺はテラという。」
互いに自己紹介を手短に終えると、さっそく本題に入る。
「あんなところで何をやっていたんだ?」
メルウィが聞いてくる。
「ああ。ちょうど昼に、瘴気の残りカスのようなものが見えてな。人通りのある場所なのに何故か知らんが、そんなところにある。それが気になったんだよ。」
「ふーん。夜に何かあると?」
「そうだ。おそらく人目のつかない夜に何かあると思った。」
「それで、アレが出てきたと。―少し待ってろ。」
メルウィがそう言って奥に引っ込んで、酒とコップ2つを手に戻ってくる。
コップに酒を注ぎ、その1つを手渡してくる。
「ああ。だが、あんなものが出てくることは予想外だった。あれはスライムだろうか?」
俺は手渡された酒を飲む。―こいつは美味いな。
爽やかな味で、ほんのり甘く非常に飲みやすい。
「こいつは美味いな。」
「ハープが入っているのがいいんだ。何のハープかは秘密だがな。」
そう言うと、メルウィはその黒いフードを脱ぐ。褐色の色をしたその髪型はポニーテールを三つ編みにした形だった。
身長はリアリトアとほぼ同じか、少しだけ背が高い。
そして、そのコップの中の酒を一口すると。
「ふう。あんな気色悪ぃスライムがいてたまるか。おまえ、普段は冒険者じゃないのか?」
「いや。俺は単なる採掘師だぜ?」
「闇の信仰者が、普段は採掘師をやっているのか?」
メルウィが驚いたように訊ねる。
「いや、俺は闇の信仰者ではない。―魔族だ。」
「・・・ぷ。あっはっは!どこの世界にそんな弱っちい魔族がいるんだよ!オレでも倒せる魔族とは傑作だ!冗談は休み休み言え!」
「・・・そういう魔族もいるってことだ。」
全く散々な言われようだ。
「で、実のところ何なんだ?」
メルウィが少し離れたところに腰をかけながら聞く。
「・・・いや、魔族なんだ。何故か一般的な人間には人間に見えるらしい。」
なんせパッシブスキルがあるからな。
「おまえ―。」
少し悲しい目で俺を見るメルウィ。
「・・・違うからな。そして急に神官みたいな雰囲気を出すのはよせ。」
「ゴホン。いや、オレだって神官だぜ。今は異端審問官なんてしているが、そうじゃなきゃ、普段は神官だしな?」
「え、まじで?」
つい素っ頓狂な声が出た。衝撃の事実である。
「まったく、失礼なやつだな!」
「ちなみに闇の信仰者ってのは、何者だ?」
俺はメルウィに聞く。
「本当に闇の信仰者じゃないのか?まあいい。闇の信仰者というのは、魔族の王、つまり魔王だな。それらを信仰する者のことをいう。」
「魔王だと? そんなものを信じて何になる?」
「知らないのか?俺たち神官が女神達から加護を得るように、魔王どもからも加護を得ることができるらしいぜ?」
「例えば、魔法とか技能とかそういったものか?」
「ああ。もっとも1体だけ、どれだけ信仰しようが加護を与えない、ケチな魔王もいるらしいが。」
「そいつは何てやつだ?」
「無名の王。御伽噺の大魔王だな。架空の登場人物さ。」
「・・・そうか。」
俺は柄にもなく神妙な顔をしてしまう。
名も無き者の加護が、無名の王の加護と同じものだとすれば、ピンチの時に素早さが少し上昇する。それはそれはとても素敵な加護である。
―そういうことにしてくれ。
なんとなくリアリトアに申し訳なく思う。
「つまりは、闇の信仰者というのは、魔王を信仰するただの人間ということさ。」




