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安宿暮らしの大魔王。~転移した大魔王は異世界を自由に楽しみます~   作者: ねこまじん
1部 3章 王都にて遭遇するものは~その1
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9話

 「おい。なんだったんだ、ありゃ?」

 女が俺に聞いてくる。


 「知らん。俺もあんなのは初めて見た。」


 「お前、その手、何ともないのか?それは・・・瘴気じゃないのか?」


 「ああ。俺は少し特殊でな。」

 謎の生き物?を掴んだ手を見せる。


 「―やったのか?」


 「いや、逃げただろう。ある程度、弱らせているが。放っておくと、あれはまた人を襲うかもしれん。」


 「神殿まで来られるか?」


 「今からか? それに俺には関係ない話だぜ。」


 「今からだ。今ならば、他の者も寝ているだろう。お前は、向こう側の人間だろう? それに神殿の者しか飲むことができない美味い酒があるんだ。」

 女は笑ってそう言うのだった。




 「―よっと。こっちだ。」

 正面の扉ではなく、回り込んだ横の扉を鍵で開ける。王都の神殿だ。かなりでかい。


 ―ああ、悲しいかな、酒に釣られて来てしまった。


 「オレは、メル。メルウィだ。」

 女はそう言って自己紹介をする。


 「俺はテラという。」

 互いに自己紹介を手短に終えると、さっそく本題に入る。


 「あんなところで何をやっていたんだ?」

 メルウィが聞いてくる。


 「ああ。ちょうど昼に、瘴気の残りカスのようなものが見えてな。人通りのある場所なのに何故か知らんが、そんなところにある。それが気になったんだよ。」


 「ふーん。夜に何かあると?」


 「そうだ。おそらく人目のつかない夜に何かあると思った。」


 「それで、アレが出てきたと。―少し待ってろ。」


 メルウィがそう言って奥に引っ込んで、酒とコップ2つを手に戻ってくる。

 コップに酒を注ぎ、その1つを手渡してくる。


 「ああ。だが、あんなものが出てくることは予想外だった。あれはスライムだろうか?」


 俺は手渡された酒を飲む。―こいつは美味いな。

 爽やかな味で、ほんのり甘く非常に飲みやすい。


 「こいつは美味いな。」


 「ハープが入っているのがいいんだ。何のハープかは秘密だがな。」

 そう言うと、メルウィはその黒いフードを脱ぐ。褐色の色をしたその髪型はポニーテールを三つ編みにした形だった。

 身長はリアリトアとほぼ同じか、少しだけ背が高い。


 そして、そのコップの中の酒を一口すると。

 「ふう。あんな気色悪ぃスライムがいてたまるか。おまえ、普段は冒険者じゃないのか?」


 「いや。俺は単なる採掘師だぜ?」


 「闇の信仰者が、普段は採掘師をやっているのか?」

 メルウィが驚いたように訊ねる。


 「いや、俺は闇の信仰者ではない。―魔族だ。」


 「・・・ぷ。あっはっは!どこの世界にそんな弱っちい魔族がいるんだよ!オレでも倒せる魔族とは傑作だ!冗談は休み休み言え!」


 「・・・そういう魔族もいるってことだ。」

 全く散々な言われようだ。


 「で、実のところ何なんだ?」

 メルウィが少し離れたところに腰をかけながら聞く。


 「・・・いや、魔族なんだ。何故か一般的な人間には人間に見えるらしい。」

 なんせパッシブスキルがあるからな。


 「おまえ―。」

 少し悲しい目で俺を見るメルウィ。


 「・・・違うからな。そして急に神官みたいな雰囲気を出すのはよせ。」


 「ゴホン。いや、オレだって神官だぜ。今は異端審問官なんてしているが、そうじゃなきゃ、普段は神官だしな?」


 「え、まじで?」

 つい素っ頓狂な声が出た。衝撃の事実である。


 「まったく、失礼なやつだな!」


 「ちなみに闇の信仰者ってのは、何者だ?」

 俺はメルウィに聞く。


 「本当に闇の信仰者じゃないのか?まあいい。闇の信仰者というのは、魔族の王、つまり魔王だな。それらを信仰する者のことをいう。」


 「魔王だと? そんなものを信じて何になる?」


 「知らないのか?俺たち神官が女神達から加護を得るように、魔王どもからも加護を得ることができるらしいぜ?」


 「例えば、魔法とか技能とかそういったものか?」


 「ああ。もっとも1体だけ、どれだけ信仰しようが加護を与えない、ケチな魔王もいるらしいが。」


 「そいつは何てやつだ?」


 「無名の王。御伽噺の大魔王だな。架空の登場人物さ。」


 「・・・そうか。」

 俺は柄にもなく神妙な顔をしてしまう。


 名も無き者の加護が、無名の王の加護と同じものだとすれば、ピンチの時に素早さが少し上昇する。それはそれはとても素敵な加護である。


 ―そういうことにしてくれ。

 なんとなくリアリトアに申し訳なく思う。


 「つまりは、闇の信仰者というのは、魔王を信仰するただの人間ということさ。」

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