7話
家が見えてきたとき。
――明かりが付いている。
つまりは、誰かが家にいるということ。
誰だ? 確かに勝手口は鍵を開けておいたが、それでも警戒するに越したことはない。
俺は剣に手を添え、おそるおそる、中に足を踏み入れる。
テーブルには、見よう見まねで作った、そんな感じのいくつかの料理があった。
そして、寝室には寝間着の浴衣姿で横たわるリアリトアがいた。
―なんということでしょう。
いつかどこかで聞いた言葉を思い出す。
つまりは、彼女は神殿に行ったものの、こちらへ帰ってきてしまったのである。俺は寝室へ行き、布団をかけなおしてやり、扉を閉めて、部屋を後にする。
テーブルには、ご丁寧に、俺の分まで用意してある。
一旦、コーヒーを飲もうか。気分を落ち着けなければ。
そういや、この世界にコーヒーは売ってたっけ?
「心を無にすることが必要なのです。」
そう呟く。
よくよく考えてみれば、彼女の率いる部隊は全滅してしまったわけだ。
神殿に戻ったところで、辛い立場になることは想像するのに難くない。
俺も稼がなければならない。
だが、ここでリアリトアを放っておいて、鉱山に泊まり込むのは難しい。
―いっそゴラムに移るか?
安宿だが、ゴラムならば町と採掘場がかなり近い。
コーヒーを飲み終えると、リアリトアの手料理を少し食べてみる。
意外にも美味しい。そして、なんだか懐かしい、そんな味がした。
翌日。
リアリトアは寝室でまだ寝ているようだった。
俺が寝ているうちに、一度起きだしてきていたのか、簡易キッチンの方にあったミルクがテーブルの上に置かれていた。
俺は朝食の準備をする。
まずは卵に、醤油、なんといってもほかほかの米だ。
みんな大好きTKG(卵かけご飯)である。こちらの世界の人間属の口に合うかどうかは知らんが。
俺は先に食って食後のお茶をすする。―と、
「おはよう。」
「ああ、起きたのか。飯、できてるぞ。」
とりあえず事情は聞かずにいる。
「うん。」
「しばらくゴラムに稼ぎに行こうと思っているんだ。一緒に来るか? 」
「・・・うん。」
俺はふうっと息をつき、アナライズを使用する。
好感度;65 精神状態:通常〔甘え・抑制〕
この好感度の数字ははっきり言って異常だ。
ベルフェンでギルドのおばちゃんと受付嬢に使用しても、5前後だった。
そして、このアナライズのスキル。使用することで、俺の精神状態にも影響を与える。
何というか、罪悪感のようなものを感じてしまうのだ。
―アナライズは使用しない方がいいかもしれないな。
「これおいしい。」
「ああ、卵かけご飯というやつだ。お茶もあるぜ。」
「うん。」
俺はお茶を渡してやる。
彼女が食べ終わるのを待ち、食器を洗いに行く。
「リアリトア、町の安宿に泊まった経験は? 」
「・・・あるわ。」
聖騎士が安宿に泊まる状況はよく分からないが、もしかすると任務などでそういった経験があるのかもしれない。
「おーけい。じゃあゴラムの安宿に一人で泊れるか? 」
「――テラと一緒がいい。」
「まあ、待て。安宿だからな、この家みたいに広くはないんだぜ? よーく考えてみろ。」
「構わないわ。」
「・・・分かった。」
彼女から謎の圧力を感じ、俺は了承した。もうどうなっても知らん。
いくつかの食料を準備し、ベルフェンの街の採掘ギルドまで行く。
ハウスにあった様々なものは、食料以外はできるだけ整理して、鍵をしておいた。
そして、採掘ギルドに行く途中で、店に立ち寄り、そこでテントと簡易宿泊キットを購入する。
―そろそろ本格的に稼がないとな。
「おばちゃん、ゴラムまでの馬車は空いているか? 」
「ああ、ちょうど良かった。一般の乗り合い馬車がこの後すぐだよ。乗り合い場まで向かいな。護衛はいつものペガサスの翼だよ」
「おーけい。じゃあ、行くわ。」
「ちょっとお待ち。その娘、誰だい? 」
「あ~、親戚だよ。今少し預かっててね? 」
「あれ。そうなのかい。お嬢さん、こいつは頼りがいあるかい? 」
「・・・うん。」
リアリトアは相変わらず口数が少ない。
「はっはっ、そりゃ何よりだねえ。」
いつものペガサスの翼って、もしかするとアルのパーティーだろうか?
確か以前、パーティー名を聞いたとき、そんな名前だった気がするな。




