第30話 次は何を作ろうか
メインキッチンのお昼の喧噪が終わったので、サブキッチンに移動して作業を手伝う。
やっぱり領館スタッフにもスダラマッシュサラダを食べて貰いたいから、飾り切りしたり、マヨネーズをひねったりしてサラダを量産する。
「野菜なあ、前はまったく喰う気しなくてさ、残したりしてたんだがよう」
「マヨネーズがすげえよなあ、毎食野菜をみんな平らげてるぜ」
「ありがたい事です」
「にゃろう、リュージめクールな奴だぜ」
「ほんとになあ、昼のまかない喰え~」
サブキッチンでまかないが貰えるので嬉しい。
夜は家に帰って軽食をつまむぐらいなんで、一日のメイン食事が昼のまかないになってるな。
今日のレシピは塩ダラのソテーとタンシチューとスダラマッシュサラダ、白パンであった。
今日は一週間に一度ある、宗教上のお魚の日のようで、塩ダラが付いた。
このしょっぱいお魚は北の方の海で取れて、塩漬けにされて内陸にやってくる。
塩気があるので村では好まれるメニューなんだけど、領館ではあまり好かれていないらしく、食べ残しが出てるな。
肉よりは体に良いのに。
スタッフ用のスダラマッシュサラダは、御領主さまやお嬢様のサラダとは違って、スダラマッシュに一気に野菜とマヨネーズを混ぜて量産した物なんだけど、マヨネーズが味を支えてとても良い感じだな。
「タラは駄目だ、スダラマッシュは良い。みんなスダラマッシュは舐め取るみたいに綺麗にしてくれるなあ」
「村では塩ダラもご馳走なのに」
「まあ、領館だからなあ」
「そう考えると贅沢だよなあ、でも宗教上の魚の日は我らの敵だ!」
憎まれているなあ、お魚の日。
下働きの子供達はマヨネーズで出た白身をホイップしてメレンゲに焼いていた。
備蓄して各所に賄賂として配るらしい。
メインキッチンでも白身は余るのだけど、あっちは小麦を混ぜてラングドシャクッキーにしてボリボリ食べている感じだな。
どっちにしても、キッチンには役得があって良いな。
塩も満足に使えない村の食生活とは大違いだ。
ファビアさんにお茶を入れてもらって、メレンゲをつまむ。
シャリシャリして美味しいね。
さてー、フリッツさまが肉によるシャーロットさま殺害計画なら、どんなレシピでそれを防げるかなあ。
というか、スダラマッシュサラダを毎食食ってもらえばそこそこ健康にはなりそうだけどね。
もう一手何か欲しい所だ。
サブキッチンの野菜置き場を見る。
前世と違う野菜が多いんだよなあ。
トマトもトウモロコシも唐辛子も無いから料理のバリエーションが塞がれるのがどうにもね。
ケルシャという、キャベツと白菜の中間みたいな玉の葉物があった。
これでザワークラウトを作ると……。
ザワークラウトになるのか、それとも水キムチか?
ちょっと一玉買って実験してみるか。
漬物系になるので好き好きがあるし、キャベツでも白菜でもないから、味の予想がつかないしなあ。
とりあえず、塩漬けで発酵させて味を深める感じで。
「ボフダナさん、ケルシャは領街の八百屋に売ってますかね」
「ああ、売ってるけど、何か作るのかい」
「ええ、でも実験ですので、自腹で買おうと思いまして」
ボフダナさんが野菜貯蔵庫からつやつやしたケルシャを取ってカマス袋に入れてくれた。
「いや、貰う訳には」
「家令さんと話合ってね、リュージが欲しがる物は与えて、預かってる賞金で精算しようってね。手間だからさ」
「そうしろそうしろリュージ」
「というか、ケルシャ一玉ぐらいかっぱらえ、根性ねえぞ、お前」
「そりゃまずいですよ」
「あんた達はかっぱらう食材が多いから処罰すんよ」
「ひい、やぶ蛇~」
「お給料は減らさんでください~」
不良キッチンメイドの二人は逃げて行った。
「まったくあの子たちは」
ボフダナさんは笑いを含んだ声でそう言った。
キッチンメイドは、食料をかっぱらうのが役得の一つなんだろうな。
ある程度はお目こぼしされているんだろう。
まあ、新参者の俺が真似をすると首になりかねないからやめとこう。
でも、料理素材を希望すると預かり金で精算してくれるのは良いな。
領街の八百屋に行くのも大変だしな。
夜は開いてないだろうから、休みの日に行かねばならないし、領街なんか、歩きで行くと半日かかるからなあ。
「ありがとうございます」
「また美味しい物を作れば領館に馴染むからね、私らはあんたの味方だから、忘れてはいけないよ」
「嬉しいです」
俺はボフダナさんに頭を下げた。
よし、ケルシャを使って、ザワークラウトか、キムチを作ろう。
どっちになるかは料理の神様しだいだな。
唐辛子があればちゃんとしたキムチができるのだがなあ。
無いからなあ。
最大の敵は、発酵中にピカリに見つかって食い尽くされる事だな。
見つからないようにしよう。
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