第29話 フリッツさまがカリカリしている
「あ、リュージさん、おはよう」
「おはよう、ミリアさん、良い天気だね」
出勤しようと村を歩いていたらカトリ君のおねえさんのミリアさんに挨拶された。
ちょっと綺麗なおねえさんである。
「昨日、ピカリちゃんに教わって、マヨネーズ作ったわ、すごいわね、あれ、スダラマッシュによく合うわ」
「そうでしょう、この郷の特産になるから、すいすい作れるようになると良いかもよ」
「そうね、頑張ってみるわ、何時もありがとう、リュージ君」
にっこりと微笑まれて、なんか嬉しいねえ。
水芋騒動を解決して上げてから、カトリ君の家の人からは感謝感謝で面はゆい感じであるよ。
あー、今年の夏祭りは楽しい事になるかもなあ。
村のお祭りというのは、将来の結婚相手を見つける大事な行事で、結構カップルができやすいのよ。
去年の俺は、まあ、誰にも鼻も引っかけてもらえなかったけど、今年は、クララとか、ミリアさんとかが居るので良さそう。
うひひひひ。
期待に胸を膨らませて川縁の道を歩いて行くとゴロツキ退治の現場に通りかかった。
河原に落とされた死体は片付けられたのか、もう姿は無く、路上に血の跡が点々と残っているのだけが昨日の惨劇を伝えてくる。
ゴロツキとはいえ、子分を五人も殺されたらヤクザ一家も大変だろうなあ。
怒りの矛先が俺の方に来なければ良いのだが。
「おお、リュージおはよう」
「今日も良い天気だな」
「おはようございまーす」
厳つい衛兵さんがニコニコして正門を通してくれた。
朝早いのに馬場で騎士さんたちが訓練をしてるね。
やっぱり戦闘の専門家だけあって、騎士さんたちは凄く強いんだなと昨日初めて思ったよ。
「おはようございまーす」
「……」
メインキッチンの控え室に入ると、イライラした表情のフリッツさまに睨まれた。
さすがに刺客を撃退されてカリカリしているっぽいな。
あんまりさわらんとこう。
ロッカさんたちに黙礼で挨拶をしてコック着に着替える。
朝食の食器を丁寧に洗い、水を切る。
フリッツさまが昼食のメニューを黒板に書いた。
「塩ダラのソテー、チキンの丸焼き、タンシチュー、スダラマッシュ皿だ、今日はマヨネーズは付けるな」
「え、御領主さまか、お嬢様が欲しがると思いますが」
「良いんだよ、野菜が増えるとな、肉を食って貰えないんだ、肉を食わねば活力が出ないんだ、だからこれで良い」
なるべくマヨネーズは使わないようにするのか。
そういや、昨日の昼食も夕食も、肉が結構残ってたからな。
野菜でお腹が膨れてしまうからかもしれないね。
でもまあ、前世の食事のバランスからすると、肉はもっと少ない方が健康に良いと思うけどなあ。
とりあえず、昼食の俺の仕事はスダラマッシュを作る事ぐらいだった。
わりと早く終わってしまうね。
だからといって焼き物とかシチューを手伝える訳では無いしなあ。
案の定、配膳メイドが急いで戻って来て、マヨネーズと野菜のお皿の追加を伝えて来た。
「や、野菜なんか食わなくてもいいんだよっ!!」
フリッツさまが苛立って鍋をひっくり返した。
……。
なんか、変だな。
ここまで野菜を食わさないのは、時代的に貴族は肉だというポリシーかと思ったんだけど……。
まさかなあ。
肉ばかり食べさせて健康を害そうとしてる?
誰を?
シャーロットさまか?
妹である彼女が病気になって死んだら、庶子であるフリッツさまが子爵家を継ぐからか?
いや。
いやいや。
憶測で物をいってはいけないな。
うん。
とりあえず、急いでマヨネーズをひねり、ロッカさんが揃えてくれた野菜を飾り切りして、整える。
今日はクレソンがあるな。
ちょっと苦くて美味しいよな。
綺麗に盛り付けて、お皿を二つ作り、配膳メイドさんに渡した。
「もー、もー、リュージさんのお皿って、なんでこんなに綺麗なの、素敵よ」
「ありがとうね」
「ぐずぐずしてねえで早く行けっ」
フリッツさまに怒鳴られて配膳メイドは急いで食堂ホールへと向かった。
「おい、リュージ、お前、もっと手を抜けっ」
「え、あー、いやあ、それは……」
「肉だ、肉を食って活力を出して貰わないといけねえんだよっ、菜っ葉なんか食っても何の意味もねえんだっ、貴族は肉だ、だから野菜の皿がそんなに綺麗じゃいけねえんだよっ」
「お嬢様次第じゃないんですかね」
「逆らうってのかっ!!」
ドガン!
俺はフリッツさまに蹴り飛ばされて床を転がった。
「何をしてるの、フリッツ!!」
厨房にシャーロットお嬢様が来ていた。
なんか、吹き出物が大人しくなって、ちょっと綺麗になった?
痩せたかな。
「リュージさんが何をしたというの、フリッツ!?」
「ええと、その、厨房の決まりを破って生意気を言いまして、制裁です」
「彼の料理は大好きですから、怪我をさせるような事はやめてくださいね」
「……はい」
ロッカさんが手を出して立つのを手伝ってくれた。
「す、すいません、フリッツさまに生意気を言って怒られてしまいました、とんだ所をお見せしましたね」
「ううん、今日のサラダもとても美味しかったから晩餐もお願いねと言いに来ましたの、私はリュージさんのサラダが大好きなのよ」
「それはありがとうございます、とても嬉しいです」
俺は帽子を取ってお嬢様に頭を下げた。
お嬢様はニコニコして去っていった。
フリッツさまはカリカリしている。
これはなあ。
これは、俺の野菜レシピでシャーロットお嬢様を綺麗にして、健康を取り戻して上げるべきではないか。
フリッツさまが料理を使ってテロ行為に及んでいるのなら、妨害すべきじゃないか。
うん、ちょっとレシピを考えよう。
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