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僕、依頼しました

 とある日の午後、僕は一人で東京某所にある弁護士事務所の前に来ました。ここはうちの顧問弁護士の方に紹介された、信頼できる弁護士さんの事務所だそうです。


 ガラスの扉を開いて事務所に入ると、綺麗なお姉さんがすぐに気付いてくれました。このままでは相手に失礼なので、変装用の帽子と眼鏡を外します。


「いらっしゃいま・・・失礼致しました。ご用件をお伺い致します」


 言葉の途中で僕が誰かに気づいた様子のお姉さんですが、すぐに立て直して謝罪しました。気にしていないという思いを込めて軽く頭を下げます。


「富士弁護士の紹介で来たのですが」


 話は既に通っていたようで、すぐに奥に通されました。案内された部屋のソファーに座り出されたコーヒーに口を付けると、落ち着いた様子のお姉さんが入室してきました。


「弁護士の三笠です。富士の紹介との事ですが、富士に依頼なされなかったのは何故ですか?」


 依頼内容を話す前に、ここに来た理由を問われました。普通ならば、何かあれば家の顧問弁護士に依頼します。それを他の弁護士に依頼したということは、訳ありですと言っているようなものです。


「今回の問題は僕の仕事に関わる問題で、家や家族には関係ないのです。顧問弁護士に頼めば両親や四菱が絡んでいると邪推されて、迷惑をかけてしまうかもしれませんから」


 僕個人の問題と聞いて、どのような内容かが推測出来たのでしょう。あれだけ露骨に武蔵外しをやっていれば、外部に広まるのは当然です。


「納得しました。では、依頼内容をお願いします」


「依頼する内容ですが、僕が株を持っている企業に株主代理として忠告を届けて欲しいのです」


 僕は、引きこもっていた間に株式投資に手を出していました。部屋から出ない僕にも毎月振り込まれていたお小遣いを元手に、ネットで拾った断片的な情報を取捨選択して組み上げ、頭と尻尾はくれてやれという格言を守り堅実に運用してきました。

 その結果資金は膨れ上がり、生涯引きこもれるだけのお金と名の通った企業の株を多数保有するにまて至りました。


 お父さんが言っていた、僕が持つ力はこれでした。テレビ局の株式は持っていませんが、スポンサーとなる企業の株は幾つか保有しています。なので、株主として間接的に圧力を加える事は可能なのです。


「これが僕の持ち株のリストです。この各社を回ってこの書状を届けて下さい」


 書状には一本テレビの編成局長が行った武蔵締め出しの全容が書かれていて、このような横暴な真似を平然と行うテレビ局のスポンサーとなっていては、企業イメージを著しく損なう恐れがあり多大な損失を被る危険があると指摘しています。


「ふっ、ふふふ。面白い、遣り甲斐のある仕事ですね。貴方を紹介してくれた富士には感謝しないと。喜んで殺らせて・・・コホン、やらせて頂きますわ」


 報酬の話もしていないのに、受ける気満々の三笠弁護士。やる気のニュアンスが変でしたし、テレビ局に対して何らかの思い入れがあるようです。


 報酬に関してもちゃんと話し合い、依頼に関する契約を交わしました。三笠弁護士は明日から各社を回ると意気込んでいます。


 翌日、とある企業の応接室にて毛髪の薄い小太りの偉そうな中年と品の良いスーツを着こなした若い女性が対面していた。


「当社筆頭株主の代理というお話ですが、どのような内容でしょう?」


「まずはこちらの書状をご覧ください」


 頭の先から爪先まで邪な感情を隠そうともせずに眺めた重役に対し、内心では激しく罵倒した三笠弁護士はポーカーフェイスで表面を繕い預かっていた書状を渡す。


「了解しました。この件に関しましては、次の重役会議にかけて然るべき処置を取ると筆頭株主様にお伝えください」


 筆頭株主とはいえ、まだ義務教育を終えたばかりの子供。しかも引きこもりで登校すらしておらず、知能レベルは一般よりも低い。株主になれたのは、親の財力だろうと書状を読みながら重役は計算した。

 引きこもりの件を知っていたのは、書状の書面からカオルであると知ったからである。


 それに加えて代理で来たのは女の弁護士で、しかもまだ若い。まともに相手をする必用はないと判断した重役は、あしらってお帰り願う事にした。


「筆頭株主の意向は伝えました。企業イメージの失墜を招き、経営陣総入れ替え・・・なんて事にならぬようお願いしますよ」


 釘を刺して帰った三笠弁護士を見送った重役は、机に置かれた書面を睨んで考え込んだ。

 タレントの不祥事ややらせ問題で、一本テレビのイメージは急降下している。それに加えて、新たな不祥事が暴かれたならばどうなるか。直接関係ないとはいえ、スポンサーも叩かれるかもしれない。


 針の穴を乗用車が通れる程の穴だと誇大に騒ぎ立て、世論を騒がせるのがマスコミというものである。他者を非難出来るなら、暴論だろうと平気で振り回す彼等ならやるだろう。


「筆頭株主様から、重大なご指摘を頂いた。直ちに召集可能な重役を集めよ!」


 保身に長けたオッサンは、万が一の責任を回避する為に行動するのであった。


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