港町にて
忙しさを理由に書いてませんでした。今週から再度頑張ります。
一応週一で出す予定。感想等くれると頑張れるかもです。
俺達が次に向かう場所、魔法都市リュリュケはポルミエラ大陸の中央部北東に位置する国、魔皇国ルートルガにある。智の精霊の好む場所が多いため他の国に比べ魔法を使える者の数が多いということもあり、大陸中から魔法を研究したい者が集まる国だ。
まさしくファンタジーという設定の都市だ。
昔捨てたはずのプチ中二病が再発しそうだ。
「国の名に魔を冠することが許された唯一の国なのよ。それに腕に覚えのある魔術師ならリュリュケは聖地。そこで英才教育を受けた私はとてつもない天才という事よ」
リュリュケについて詳しい話をシズネに聞いたら、それはそれは自分という存在が如何に天才であったかということを力説してきた。興味はなかったから全カットするけど。
「すごいですね」
アルトが目をキラキラさせて話を聞いているから大丈夫だろ。
俺はすっと外を見た。
そこでは船乗りたちが額に汗して熱心に働いている。箱に入っているからよくは分からないが、この辺りで取れたものをどこかに売りに行くのだろう。筋肉のいかつい船乗りたちの中に紛れて、分かりやすくお金を持ってそうな人種が混じっている。あっちはきっと商人だろう。
この港町はサリュー。観光で成り立つアルグスのような珍しい町とは違い、中型船の多いよくある港町という事だった。
今は港の一角にある冒険者ギルドの外、テラス席の様な所でこれからの事を相談中だ。
ここに来るまでにも聞いてはいたが、次の行き先についてよりも旅について必要な知識を得るだけで精一杯だった。頭の中の本に関しても知識の確認はしておかないといけないし。
その意味でシズネが博学であるのは助かっているのだが……
「そう。そこで私はいきなり魔法を唱えてみせたわけ。本当なら3年はかかる所を私はたった一日で……って、何よあんた。ちゃんと聞いてるの?」
「ああ、聞いてる。ちゃんと聞いてるよ」
一つ説明するのに毎度自分の自慢話をしたがるのだ。まるでいままでこんな話が出来る友達がいなかったかのように。
……まさかね。
そう思った瞬間、ゾクリと肌が逆立つような感覚に襲われ、その予感に従い座っている椅子ごと後ろに倒れる。
ぶおん。風を切る音共に、目の前を何かが通り過ぎた。
「あぶねえな!」
「あんたが変なこと考えた様な顔したからよ。つーか、避けるんじゃないわよ」
杖を振りぬいた状態のシズネと、立ち上がった俺が睨み合う。この一週間でもうお約束ともなってきた光景だった。
ただ本来なら最後にアルトが止めに来るのだが、何故か声をかけてこない。
どうしたのかとアルトの方を向こうとしたら、俺の頬に軽くつねられた痛みを感じた。
「シズネさん、サトルさんと仲が良くてずるいです。私だって……」
そう小さな声で呟いて、顔を真っ赤にしながら俺の頬をつねっている。何故だか全然痛くないけど。
「別にアルトをないがしろにしたわけじゃないんだ」
そう叫んで、俺はアルトの頭を撫でた。虎耳の手触りが気持ちいい。
アルトもちょっと照れくさそうにしながら、しかし頭をどかそうとはしなかった。
「はあ、これじゃ怒る気もなくすわ。さっさと本題に入りましょうか」
そんな俺達の様子を見て、シズネは呆れた声を出した。握りしめていた杖はローブの下に隠され、その代わりに一枚の地図が出てくる。
ざっと広げられたのはこの大陸全体の地図だった。あのだるだる女神に見せられた程の精巧なものではなかったが、それでも十分な出来だった。
「私たちが今いるのはここ。そして目指すリュリュケがあるのはここ」
「結構遠く離れてるんだな」
シズネが指さしたのは最初が一番東の大地の北の海沿いで、次に指したのが中央大陸の北東部分だ。
アルトも地図を見たことがなかったのか、不思議そうに見ている。
「そこへの行き方は大きく分けて三つ。一つは」
ぴんと人差し指を立てて俺達の視線を奪ったかと思うと、ゆっくりと指で最短ルートになる様に地図上をなぞった。どうもそこに道があるという事らしい。
どシズネはいちいちかっこを付けたがるところがあるが、実害はないし気にしないでおこう。
そう思っている内に二つ目と言って、いったん南に下ってから上がるさっきよりもかなり遠回りになるルートをなぞった。
「二つ目だとかなり遠回りにならないか」
「そうね。でもアルトの事を考えると一つ目のルートは使えないのよ」
そうだった。そこには獣人排斥主義の厄介な国があるんだった。
「私が獣人だからお二人にご迷惑を……」
俺は落ち込んでしゅんと耳と尻尾を丸めるアルトの頭をゆっくり撫でてやる。
「大丈夫だ。アルトには色々な場面で助けてもらっているからさ。こんな時くらい俺達にアルトの事を考えさせてく売れよ。それに、わざわざシズネが三つの方法があるって言うんだ。この道を使わなくてもいいさ。な、そうだろシズネ」
「ええ、正直この第一ルートは途中にいくつか難所があるから面倒なのよ。時間をかけてもいいなら第二ルートの方が安全ね」
その言葉で安心したのか、アルトの耳に力が戻ってきた。もう大丈夫だろうと、頭を撫でていた手を降ろす。
「あっ……」
アルトが少し物足りなそうな声をしたけど、今は我慢してもらおう。
俺は地図を見て別のルートを考えるが、やはり国を一つ避けて行くとなるとどうしても遠回りになりそうだ。まあ、だからこそこの町に来たのだろうけど。
「第三の行き方ってのは、つまるところ船ってことでいいのか」
俺がそう言うと、シズネはじろりとこっちを睨んできた。良いところを奪われたとか思っているんだろう。
「ええ、そうよ。馬車で移動しても東大陸横断したら、最低二カ月はかかるわ。船なら一か月ほどで済むのよ」
「それなら船の方がいいですね!」
アルトが明るい声を上げた。
俺もそれは良い考えだと思うんだが、一つ問題がある。
「その船ってのはどうやって探すんだ? それに船賃とかどうするんだよ」
その言葉を聞いて、シズネはふふんと鼻を鳴らした。
「何のために冒険者ギルドに来たと思ってるのよ」
任せなさい、とシズネは薄い胸を張った。
「どうして今日に限って無くなっているのよ……」
「ドンマイです。元気出しましょう」
落ち込んだシズネをアルトが慰めている。
いつものしゃっきりと伸びた背筋は見る影もなく、まるで老婆のようにシズネの腰は曲がっている。
シズネのいい考えと言うのは、ギルドの依頼を受けるというものだった。
その探していた依頼と言うのは、異世界転生モノで言えば、採集依頼、討伐依頼にならんでよくある護衛依頼という奴である。
商人や貴族といった人と商品を魔物から護衛する仕事。移動も出来てお金ももらえると言う一石二鳥の仕事である。
「なかったんだから、しょうがないだろ」
いつもあるという訳でもないだろ。特に海戦は慣れが必要だと聞くから、冒険者を雇うよりも水兵とかを自前で用意する方が効率がいいんだろう。
見える範囲にも腰に剣を提げたそれらしい男たちがいる。大きな木の箱を抱えて船へと運んでいるようだ。
「馬車の護衛に比べて船での移動は拠点から大きく離れないといけない分嫌われるのよ。だから無くなる事なんて普通はないはずなのに。海賊のせいでこんな目に。許すまじ海賊。もしあったら船ごと切り刻んでやる」
落ち込んでいたと思ってたけど、いつの間にかシズネの目には見知らぬ海賊への怒りが燃えあがっていた。危ない方向に。
その叫びに、アルトと二人して苦笑する。
「海賊のせいで船が減っているらしいですから。しょうがないですよ」
ここ最近海賊のせいで出航する数が減っているんだという情報を、ギルドの職員から聞いた。
俺には十分にこの港が繁盛しているように思えるんだけど、そうでもないようだ。
「まあ、そのことはしょうがない。次の依頼の発注はおそらく一週間だって言うし、それまではこの港で時間を潰すしかないだろう」
俺がそんなことを言った時に男の野太い叫び声が聞こえた。
「捕まえた海賊一味が逃げたぞー!」
おいおい、このタイミングでそれはやばいよ。
シズネを見ると、もう杖を出して完全に臨戦態勢である。
「アルト、巻き込まれない様にこっち来い。もし、取り逃がすことがあったら追えるようにはしとくぞ」
「はい、サトルさん」
シズネを残して、俺とアルトは道のわきにずれる。
アルトは何気なく腰に差した大振りのナイフに手をかけ、俺もすぐさま剣を取り出せるようにアルサイムの貯蔵庫を起動させておく。
そこまで準備したところで、人ごみを掻き分けるようにして三人の男が出てきた。日に焼けた体はたくましく、所々に残された傷跡が荒事で暮らしてきたことを象徴している。
「ははは、私の計画を邪魔したことを後悔しなさい」
はい。シズネにスイッチが入ってます。これは俺が運悪く胸に触った時に似てるな。
つまり、止めるのは無理ってことだ。
「我、智の精霊リオ・シェンフィードに願い……」
「ちょっと待て、流石にそのレベルはまずい!」
上級精霊使っての魔法何か使ったら海賊はスプラッタ決定の上、他にも怪我人が出るぞ。
「風は流れたゆたい数千数万の……」
だめだ。完全に本気モードだ。
「アルト、海賊は頼んだ」
「はい! サトルさんはどうするんですか」
俺は精一杯の引きつった笑顔をアルトに向けた。
俺は、
「俺はシズネを止めてくる」
シズネは風の刃となった魔力を体に纏わせ、近づくもの全てを切り裂いている。
魔法発動してない状態で、もうほとんど兵器級ってどんなだよ。
「御武運を」
アルトのその言葉に励まされるようにして、一歩進む。
ははは、どうして俺は仲間のせいで危地に飛び込まないといけないんだろうね!
と、色々煽ってみたけれど、まあ要はシズネを驚かせるか何かすればいいのだ。
「『剣聖アルゴウスの大冒険〈中〉』よ。地を震わせろ!」
右手をさっと突出し、ちょうどシズネの前の地面に『剣聖アルゴウスの大冒険〈中〉』を落とす。
俺が所持する中で最も攻撃に使用しやすい本はその重量でもって、大地にクレーターを生み出しそして小さな地震を起こす。
「何だ! 何の揺れだ」
「わっ! 倒れる!」
それは周りの人々にざわめきを生み、先ほどまでの港のざわめいた様子を取り戻させる。
「何すんのよ」
そして自分を取り戻したのが、ここにも一人。
「落ち着けよ、シズネ。こんなところで強力な魔法を使うなってのは、言わなくても分かるだろ」
俺の正論に対して、自分が悪いという自覚はあるのかシズネは反論はせず、ぷいっと横を向いた。
こういう子供っぽい行動をとってくれれば、意外と可愛いのに。いつもつんけんして、残念な奴だ。
そんなことを思っている内に、何かを引きずるような音がする。
「サトルさん。海賊は全員捕まえました」
それはアルトが海賊三人を引きずる音だった。
……流石に力が強くなり過ぎなのではないですか、アルト。
これは俺も頑張らないとな!
「ああ、さっきの揺れで私の積み荷が大変なことに!」
慌てたふうの男の声が港に響いた。
どうもまずはまた別の事を頑張る必要がありそうだ。




