第九十四話 遠く離れても【シロ】
ルージュとセレシュはとっても仲がいいみたいだ。
今よりも小さい頃から遊んでいたなら当たり前だけど、僕とシリウスも同じくらい仲良しにしてほしいな。
人間の友達・・・悪くない。
◆
「シロ、お前は俺よりもずっと年上なんだよな?」
おじさんが僕の腕を引っ張った。
人間はみんな「何歳か」っていうのを気にする。
たぶん、終わりがあるからなんだろう。
「おじさんが実は精霊で、僕より先に女神様に作られたなら違うよ」
「・・・わかった。大人としてあの子たちを任せるからな」
おお、大人って言ってくれた。
このおじさんはとってもいい人だ。
「任せてよ。あっ、そうだ・・・もうすぐお昼だけど、どうしたらいい?僕は平気だけどみんなはお腹がすくよね?」
「あ・・・忘れてたな。シロは一人で買い物したことあるか?」
む・・・今さっき大人って言ったくせに。
「バカにしないで!パンを買ったこともあるし、お菓子屋さんにも一人で入れるよ」
「うーん・・・じゃあこれでみんなにパンを買ってやってくれ」
「いらないよ、お小遣い貰ってるもん」
「いいからこれで買え。ルージュとセレシュは食う前はたくさん欲しがるけど、一つでいっぱいになるから注意してやってくれよ。・・・じゃあ、夕方前にエイミィが戻るからそれまで頼むな」
おじさんは僕にお金を押し付けて訓練場に行ってしまった。
・・・いいこと聞いたぞ、余ったら僕がもらえばいいんだ。
「シリウスはお兄さんかお姉さんいる?」
「うん、えっと・・・お兄さんが三人いる・・・」
「えー、いいなあ。わたしもセレシュも一人っ子なんだよ」
振り返ると、ルージュとシリウスがお喋りしていた。
ルージュはお兄ちゃんがいるけど、僕からは言えないな。・・・シリウスがこれ以上問い詰められないうちに出かけよう。
「ねえねえ、もうすぐお昼だよ。みんなお腹すかない?」
「おじさん・・・行っちゃったね」
「あ・・・そうだよ。わたしたちのお昼はどうなるの?」
「・・・」
三人とも僕の方を向いてくれた。
ふふん、この中で一番頼りになるのは僕だよね。
「大丈夫だよ。おじさんがお金を置いていったから、みんなでパンを買いに行こう」
「お買い物だー。ねえねえ、そしたらどこか外で食べようよ」
「あ、楽しそう。ルージュの言うことに賛成の人は手を挙げて」
「さんせーい」
「・・・せい」
シリウスもセレシュも手を挙げてくれた。
みんなまだちっちゃいから僕がまとめないとな。
「じゃあ大通りがいいよ。わたしが道案内してあげる」
ルージュが得意気に胸を張った。
楽しそうだし好きなようにさせてあげよう。
◆
ルージュを先頭にして歩いた。
本当に道がわかってるって感じだ。
「みんな見て、こういう青い柱を追いかけていけば大通りに出るんだよ」
ルージュが道端に立っている柱を指さした。
なんか色の付いたのがあると思ったけどそういうことだったのか。
これなら迷わずに行けるな。
「じゃあ赤い柱は?」
「赤は・・・裏町に出ちゃうの。危ないから子どもは入っちゃダメ。よし、どんどん行くよー」
ルージュはまた歩き出した。
動くたびになびく髪の毛は、やっぱりニルスと一緒だ。
◆
「ねえねえ、シリウスも精霊なの?」
ルージュが僕たちに振り返った。
一人で前を歩くのが寂しくなったのかな?
「ボクは違うよ」
「どこに住んでるの?」
「えっとね・・・」
シリウスは困った顔で僕を見てきた。
これは隠しておいた方がいいな。
「シリウスの家はお城の近くなんだよ。ね?」
「う、うん」
「そうなんだ。・・・あはは」
ルージュがシリウスを見て笑い出した。
「え・・・ルージュ、ボクなんかした?」
「んーん、男の子の友達って初めてだけど・・・なんか楽しいなって。ね、セレシュ?」
「・・・」
セレシュは声を出さずに頷いた。
男の子だからってわけじゃなくて、友達と一緒だから楽しいんじゃないかな。
「あ・・・えっと・・・ボクも女の子の友達は・・・初めて・・・」
シリウスは嬉しくなったのか、顔を赤くしながら笑った。
「・・・」
セレシュはシリウスの耳元に口を近付けた。
「え・・・ボクの顔、赤くなってるの?」
「うん、真っ赤だよ」
「あ・・・なんでだろ・・・」
友達同士で恥ずかしがることは無いと思うけど、今日初めて会った子たちだから仕方ないのかもしれない。
でも、もっと仲良くなれば、変に赤くなったりとかはなくなるよね。
うーん、仲良くなるには・・・バニラとはどうやってたんだったかな?
あ・・・たしかずっと手を繋いでたぞ。
「ねえねえ、みんなで手を繋いで行こうよ。はぐれたりしないし、仲良くもなれるよ」
「うん、そうしよう。わ、シロの手あったかーい」
ルージュが僕と手を繋いでくれた。
「シロくん・・・私・・・真ん中がいい」
「うんいいよ。じゃあシリウスとルージュで挟んであげて」
「あ・・・シリウスの手・・・あったかい・・・」
「そ、そうかな・・・」
シリウスはセレシュと手を繋いで余計に顔を赤くしていた。
まだ恥ずかしいのか・・・。
◆
僕たちは甘い匂いのするパン屋さんに入った。
「ここがいい、早く座ろうよ」
ルージュの持つお盆には、みんなで選んだパンがたくさん乗っている。
貰ったお金は五千エールあったから、全部使わせてもらった。
「ルージュ急がないで、落としたら食べられなくなっちゃうよ」
「・・・ゆっくりが・・・いいと思う」
「もう置いたから大丈夫だよ」
パン屋さんの前にはテーブルと椅子が並べられていて、買った人が食べていけるようになっていた。
この街は色んなお店がたくさんある。
テーゼに来た日に入ったパン屋はどこだったかな?ふふ・・・もう憶えてないや。
「まだ食べない?」
「ミルクが来てからにしよう」
「あ・・・乾杯だね?」
「そうだよ」
ルージュはハキハキ話して元気がいいな。
「シロくんは・・・ずっとこの街に・・・いたの?」
セレシュは耳元でもそうでなくてもぼそぼそ話す。
元気なルージュとは正反対だな。
「僕は三日前にテーゼに来たんだ。それにシロでいいよ」
「シロ・・・。テーゼに来たのは・・・なんで?」
「戦士になるためだよ」
あれ・・・どこまで話していいんだろ?
「精霊でも戦士になれるんだね。うちのお母さんも戦士なんだよ」
ルージュは、嬉しそうに話しながら通りに視線を向けた。
「知ってるよ、アリシアでしょ?ちょっとだけ話したし、ルージュと同じ髪の毛だよね」
「そうだよ、お母さんと一緒なの」
ルージュは答えると、また通りの方を向いた。
さっきからどうしたのかな?
「向こうになにかあるの?」
シリウスもその動きが気になったみたいだ。
「ルージュは・・・お兄ちゃんを・・・探してるんだと思う」
「え・・・」
お兄ちゃんて誰のことだ?
この子はニルスのことは知らないはず・・・。知っていたらとっくに会いに行ってるはずだ。
「あれ・・・さっきは一人っ子って言ってたよね?」
「えへへ、本当のじゃないんだ。一日だけお兄ちゃんになってくれた人」
ルージュは照れくさそうに笑った。
なんだ別の人か・・・。
たしかに僕もヴィクターのことを本当のではないけど「おじいちゃん」て呼んでるからな。
「ルージュは・・・また会いたいって・・・きのうの夜教えてくれた・・・」
「ボクもどんな人か聞きたいな」
「いいよ、でもこのお話はお母さんに知られたら怒られちゃうから、友達だけの秘密だよ。シロもね」
友達だけの・・・。うん、そうしよう。
◆
ルージュは「お兄ちゃん」のことを話してくれた。
内緒で花を買いに行った時に出逢って、攫われそうになったところを助けてくれたらしい。
「お菓子も買ってくれて、食べながら歩いて帰ったの」
そのあと一緒に花を買って、お城にも連れていってもらった話を嬉しそうに教えてくれた。
危ない目に遭ったのか・・・。秘密は守ろうって思ったけど、アリシアとニルスには教えた方がいいんじゃないかな?
・・・たぶんニルスが知ったら相当怒る。犯人を見つけたら斬りにいくかもしれない。
「最後にね、ぎゅっとしてくれたんだ。わたしの幸せをずっと祈ってるって。なんかね、この辺がふわふわして悲しくないのに泣いちゃったの」
ルージュは自分の胸を押さえた。
これはニルスに話せないな・・・。
その「お兄ちゃん」はいい人だけど、本当の「お兄ちゃん」からしたら嫌な気持ちになりそうだ。
「街の人なのかな?」
「お兄ちゃんは・・・旅人だって言ってた。だからもうどこかに行っちゃったかも・・・でも、また会いたいんだ」
それでも通りを見ちゃうのは、ほんの少しの希望を信じているからなのかな。
・・・とりあえず今は元気づけてあげよう。
「ルージュ、実は僕も旅人なんだ。もしどこかでその人を見つけたらルージュが会いたがってるよって伝えてあげる」
「本当に?」
ルージュは笑顔になってくれた。
こういう顔もニルスと似てる気がする・・・。
「本当だよ。えっと、名前は聞いてるの?」
「名前は・・・聞くの忘れちゃったんだ・・・」
まあ「お兄ちゃん」て呼んでるくらいだし仕方ない。
それなら・・・。
「じゃあどんな見た目の人なの?」
「えっとね、カッコいい人。背はとっても高いんだ」
カッコよくて背が高いのか。
・・・そんな人いっぱいいそうだな。
「見たらすぐわかる特徴とかないの?」
「あるよ。わたしとおんなじ髪の毛なの」
「え・・・」
それって・・・。
「あとね、お母さんのと似てる剣を持ってた。今度見せてもらってね」
「え・・・あ・・・うん」
「それとね、お母さんと目のとこがそっくりなの」
かっこいい、背が高い、同じ髪の毛、聖戦の剣と似た剣、目元がそっくり、まさか・・・。
「ルージュは・・・そのお兄さんと・・・」
「あー!ダメだよセレシュ。それは内緒!」
「ボクも知りたいな」
「これは・・・女の子だけ・・・」
三人が何か話してるけどまったく頭に入らない。
その人ってニルスなんじゃないか?それしか考えられないぞ。
だって、特徴がそうなんだもん・・・。
『みんな、ちょっと悪いんだけど・・・少し出かけてきたいんだ』
あの時だよね?そういえば、戻ってからなんか機嫌がよかった。
それに珍しくうなされてなかったな。
・・・間違いなさそうだ。
「シロ、どうしたの?」
「え・・・あ、ごめん。ねえ、早く食べて街を探検しに行こうよ」
ニルスは妹と再会できたけど自分のことは教えなかった。
たぶんアリシアと先に仲直りしてからって考えたんだな。
それなら僕も黙っててあげよう。その日が早く来るといいな。
◆
お昼を食べ終わったあとは、四人で通りを歩き回った。
少しずつ太陽が傾いてきているのは、僕しか気付いていない。
「ねえ、そろそろセレシュのお母さんが帰ってくるんじゃないかな」
「あ・・・そうかも、そしたらおばさんにシロとシリウスを紹介しないとね」
「・・・紹介」
「ボクもご挨拶をしておきたい」
僕たちはセレシュのおうちに戻ることにした。
挨拶か、それが終わったらシリウスを送らないとな。
◆
「こっちが・・・シロ・・・。こっちが・・・シリウス・・・」
おばさんはもう家に帰ってきていて、すぐにセレシュが紹介してくれた。
「あの・・・よろしくお願いします」
「あ・・・うん、よろしくねシリウスくん・・・。セレシュ・・・お父さんは?」
「・・・訓練場」
「なんですって・・・」
おばさんの顔から血の気が引いた。
子どもだけで遊んでたって思われたみたいだ。
「大丈夫だよおばさん、シロは精霊なの。誰よりも年上なんだよ」
「ルージュ・・・なに言ってるの?」
ああ・・・これは僕から説明した方がいいかも。
◆
「・・・ニルスの?」
「うん、ルージュには悪いけど隠してる」
「・・・それは私たちも同じよ。わかったわシロくん」
おばさんと二人きりにしてもらって、僕のこととニルスの関係を教えた。
この方が色々動きやすくなると思う。
「ねえ、これからもセレシュと遊んでいいよね?」
「もちろんよ、シロくんがいれば安心して外に出せるわ」
「任せてよ。恐い思いとかは絶対させないから」
精霊だってこともわかってくれた。
まったく・・・おじさんも戻ってきてればもっと楽だったんだけどな。
◆
夕方の鐘が鳴った。
そろそろシリウスを帰さないといけない。
「二人とも今日はありがとう」
「こちらこそありがとうございます」
「ありがとう」
「お菓子あげるから持って帰りなさい」
おばさんは小さい紙袋をくれた。
そういえば、今日のおやつはまだだったな。
「シロ、シリウス、また遊ぼうね」
「あの・・・また・・・遊ぼ」
「あ、セレシュも楽しかったんだね」
「・・・うん」
ルージュとセレシュも外まで見送りに出てきてくれた。
僕も今日は楽しかった。
毎日遊んでいられればいいんだけど、ニルスたちと鍛錬もしないといけないからな。
・・・そうだ、今度手帳っていうのを買おう。
遊ぶ日と鍛錬の日を決めて書いておけばいいよね。
「ねえ・・・ボクたちは明日も友達?」
シリウスが寂しそうな顔で二人に尋ねた。
そんなこと聞かなくてもいいと思うけど、ちゃんと答えてほしいんだろうな。
「うん、明日もあさっても、ずっと友達だよ」
「・・・だからまた来てね・・・約束だよ」
「・・・うん、また来るよ」
シリウスは幸せそうに笑った。
もう仲良しなんだから心配いらないのに。
◆
お城に戻ってきた。
なんとか晩鐘が鳴る前に帰せたな。
本当はアリシアにも会いたかったけど、今日は仕方ない。
「父上、とても楽しかったです。街の友達もできたんですよ。ルージュにセレシュと言って・・・あっ、帰りにお菓子もいただきました」
シリウスは、すぐ王様に抱きついて今日の話を始めた。
たくさん教えてあげるといい。
「シロ・・・シリウスが今話してるルージュって・・・」
ニルスが目を丸くしている。
話し合いはとっくに終わってたけど、僕が戻るまでステラと待っていてくれたみたいだ。
「うん、ニルスの妹のルージュだよ。大丈夫、君のことは話していない」
「そうか・・・ルージュと友達になってくれたの?」
「もう仲良しだよ。とっても元気でいい子だった」
「・・・ありがとうシロ。また遊んであげてほしいな」
僕の頭にニルスの手が乗った。
・・・もちろんまた遊ぶよ。
「シロ・・・私もルージュと仲良くなりたいわ。ニルスがいない時に会わせてね」
ステラは僕だけに聞こえるように囁いた。
・・・それくらいならいいかな。
「シリウス、話はまたあとで聞こう。お前はまずニルスとステラ様に礼を言わなければならない。シロが戻るのをずっと待っていてくれたのだ。私もシロに礼をしたい」
王様はシリウスを抱き上げて、僕たちに向かせた。
お礼なんていらないんだけどな・・・。
「あ・・・はい。ニルスさんとステラさん、ありがとうございます」
シリウスは深く頭を下げた。
「いや、子どもがそんなことしなくていいよ」
「いえ、お待たせしてしまったようで・・・あれ・・・お二人ともルージュと同じ髪ですね。・・・ニルスさんは背が高くて・・・かっこいい・・・」
「・・・」
ニルスが黙った。
・・・まずいかも。ルージュが会いたがってたって話は今してほしくない。
「あらそうかしら、似てる髪色はたくさんいるわ」
ステラはごまかそうとした。
どうだろう・・・。
「でも・・・あの、ニルスさんはルージュという女の子を知っていますか?」
「・・・」
「ニルスさんは、ルージュが話してくれた方と同じ人な気がします。三日前、一緒にいませんでしたか?」
言っちゃった・・・。
「ニルス、あなたルージュに会っていたの?」
「・・・」
ニルスは目を閉じて腕を組んだ。
シリウスに教えていいかで悩んでいるんだろう。
「また会いたいと言っていました」
「・・・」
「ニルスさんであるならすぐ会いに行ってください」
シリウスは必死に話している。
初めてできた友達だから、力になってあげたいって本気で思っているんだろう。
「・・・シリウス、ルージュが話してくれたという人は間違いなくオレだ」
「やはり・・・よかった、ルージュも喜びます」
ニルスはどうするんだろう。シリウスに押されてルージュには会うのかな?
「だけど・・・まだルージュに会うことはできない」
「・・・なぜですか?」
「オレにも事情があるんだ。だけど・・・必ず会うつもりだ。だから、オレと会ったことはルージュには内緒にしていてほしい。誰かに連れられてではなくて、自分から会いに行きたいんだ・・・」
ニルスはシリウスを見つめた。
子どもを相手にする目じゃない、シリウスを対等な人間として話をしている。
「事情は話せないけど、君の友達を悲しませたりはしない。信じてほしい」
「・・・わかりました。でも必ず会っていただけるんですね?」
シリウスはニルスの気持ちに応えた。
理由は伝えなかったけど、信頼はしてくれたみたいだ。
「心配ないさ。それと・・・オレもシリウスの友達にしてくれないか?」
ニルスは真剣な顔を崩した。
あれは、僕たち仲間に向ける顔だ。
「よろしいのですか?」
「うん、オレ・・・友達そんなにいないからさ」
「シリウス、私もお友達になりたいわ」
ステラも・・・。
「はい!みんな友達です。ぜひ会いに来てください」
シリウスはまた幸福な笑顔を浮かべた。
「・・・」
王様も同じ顔をしている。
自分のことみたいに嬉しいんだな。
◆
「父上、今日だけで五人も友達ができました。シロ、ルージュ、セレシュ、ニルスさん、ステラさん」
シリウスはまた王様に抱きついた。
「・・・」
それを見る王様の目はちょっとだけ潤んでいる。
「・・・シロ、感謝する。あまり構えずに寂しい思いをさせたこともあったが、今日だけでこんなに笑顔を見せてくれた」
「ねえ、ちゃんと僕が見てるからまた遊びに連れて行ってもいい?」
「また・・・そうだな」
王様はシリウスの頭を撫でた。
「また友と遊びたいか?」
「・・・はい。みんなでまた遊ぶと約束しました。破りたくありません」
「・・・いいだろう。ただし、シロと一緒の時だけだぞ?」
「はい、ありがとうございます」
よかった。「ダメだ」って言われたらシリウスは泣き出したかもし・・・。
あれ?泣き出す・・・あ・・・王様に話すことがあったんだ。
「王様、ちょっとだけ精霊のことでお話があるんだ。できれば・・・二人で」
僕はシリウスを見つめながら言った。
「・・・わかった。隣の部屋に行こう。シリウス、これはとても大事な話なのだ。すまないが、ニルスたちと待っていてくれ」
王様はすぐに察してくれた。
「シリウス、二人にルージュがどんな子かをたくさん教えてあげて」
「うん」
これでいい、それに二人もルージュの話も聞きたいはずだしね。
◆
「ゼメキスが・・・」
王様は目を細めて拳を握った。
陰でシリウスがされていた仕打ちに心を痛めたんだろう。
「シリウスは優しい子だよ。お父さんに心配かけないようにしている」
「わかった。・・・あれの母親、第三王妃がなにか吹き込んだんだろうな・・・嫉妬深い女だ・・・」
「どうするの?」
「私が一緒にいたくてここに住ませていたが、あの子にとっては苦痛だったようだ・・・。母親と暮らすのがいいのかもしれない」
お母さんか、たしか別な土地で暮らしているって言ってたな。
でも・・・。
「シリウスはお父さんも好きだよ?」
「戦場が終わる・・・これから忙しい日が続くだろう」
「遊んであげられなくなるの?」
「定期的に会いに行く・・・これしかない。・・・我慢はさせたくなかったんだがな」
シリウスは、外では笑顔だったけどゼメキスと話している時はとても辛そうだった。
自分の家なのにいづらい・・・だから話し合いの部屋にも入って来てしまうんだろう。
「友達は?今日だけで仲良くなれた」
「・・・私はあの子の未来のために開拓を進めたいのだ。将来は地方の領主として静かに暮らしてほしい。人々にも好かれるような大人になるだろう」
シリウスはまだ将来のことを考えて行動するほど大人じゃない。
今は・・・どうするの?
「だがせっかく友ができたことも嬉しい。ここにいる間に、もっと仲良くなってほしいと思っている」
王様は僕としっかり目を合わせてきた。
「私たちの都合ですまないが、シロにも協力してほしい。遠く離れても切れない・・・そんな絆を作ってやってはくれないか?」
ああ・・・なんとなくわかる。
それは僕とバニラの間にあるものだ。
「・・・明の月になったらシリウスを母親の所へ送る。シロも忙しいだろうが頼んでもいいだろうか?」
「僕は精霊だから平気。眠ることも必要ないからね」
「・・・すまないな。はあ・・・同じ王でも精霊の王になりたかったよ」
「僕だって色々あるんだからね」
でも、たしかに同じ「王様」だ。
これからも話を聞いてあげることにしよう。
◆
「そういえば・・・今日遊んだのは二人とも女の子だと聞いたが、どんな娘なのだ?」
王様がニルスたちの待つ部屋の扉に手をかけた。
シリウスに聞けばいいと思うけど、僕からも教えてあげよう。
「二人とも戦士の娘なんだ。えっと、ウォルターって人の娘がセレシュで、もう一人はアリシアの娘のルージュ」
「ふ・・・では、ニルスの妹というわけだ」
「ニルスとルージュが兄妹っていうのはまだ内緒なんだ。友達だけの秘密だよ。だから王様もそうしてね」
まあ王様がなにか関わってくることはないだろうけど一応ね。
「そうか・・・私はシロの友か」
「本当は僕より小さい人しか友達にしないんだ。でも特別だよ」
「ははは、そうか。・・・ありがとうシロ」
王様は大人だけど、笑顔はシリウスと似ている。
だから・・・特別なんだよ。
早く帰って予定を考えよう。
・・・明の月ってあとどのくらいなんだろ?




