第九十二話 友達【シロ】
ニルスは僕のために怒ってくれた。
僕は嘘だってすぐにわかったから、まず話を全部聞こうと思ってたけど・・・。
ふふ、王様に剣を抜いた時は驚いたけど嬉しかったな。
僕はニルスみたいになりたいけど、同じようなことがあったら真っ先に怒ればいいのかな?
◆
王様も戦場を終わらせるために協力してくれるみたいだ。
それで、これからは詳しいことを話していくらしい。
「王、お願いがあります」
ニルスが真面目な声を出した。
「願い・・・功労者か?」
「いえ・・・それとは違いますが、今回もオレの名前はどこにも出さないでほしいのです」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
僕も含めて、全員がニルスを見つめた。
前に戦場に出ていた時もそうしてもらってたって言ってたな。
その時は成人前だったから認められたって話だけど・・・。
「ルージュのこと?」
ステラが不安そうに尋ねた。
「・・・」
ニルスは頷いた。
そうなのか・・・。
「親子の事情・・・べモンドから聞いている。だが今回は民たちにそなたを知ってもらいたい」
王様はそうしてほしくないみたいだ。
「栄光はいりません。だから今回もオレの存在は隠していただきたい」
「そこまで言うのであれば望み通りにしようとは思うが・・・どうだべモンド?」
「ニルスの思う通りにしましょう。戦士たちは、私から守秘を伝えればどうにかなります」
なら問題は無いと思う。またみんな黙っててくれるはずだ。
「王、ニルスの名はどこにも出さないでね。本当に望んでいる通りにしてほしい」
ステラもお願いしてくれた。
「ステラ様・・・わかっています」
「本当?ニルスはどこにも出すなと言った。つまり、裏にも伝えてはならない・・・言ってる意味はわかるわね?」
ステラは恐い顔で王様を睨んだ。
人間の中で一番偉いのってステラなんじゃないのかな・・・。
「・・・承知しました。ニルス、そなたの名前はここだけで止めよう」
「ありがとうございます」
「よかったねニルス」
「ステラ・・・ありがとう」
とりあえずニルスの希望は通った。
でもお母さんと仲直りして、ルージュと再会できればその必要は無くなるよね。
よし、そうなるように頑張ろう。
◆
「あとは・・・民にどこまで伝えるかだ」
残って聞いていたけど、僕には関係ない話が続いていた。
・・・もう帰りたいな。
訓練場に行ったり、おじいちゃんと出かけたり、街に出ておいしいお菓子を探したりしたい。
「隠さずにすべて伝えればいいわ」
「そうもいかないのです」
人間社会の話は正直どうでもいい。
ニルスじゃないけど好きにすればいいと思う。
「懸念すべきは信仰・・・説明を頼む」
王様が後ろの人に指示を出した。
よく見るとなんかそわそわしてる感じがする。
・・・疲れてるのかな?
「説明させていただきます。・・・多くの者は女神を信仰しています。ですが新しい神・・・民は名前までは知りませんがジナスを信仰している者も少なくありません。自然崇拝の民もいますが、これは精霊信仰なので問題は無いでしょう。ああすみません・・・その後の世界に混乱を招く可能性・・・これが懸念です」
ふーん、そうかも。
『神か・・・それならお前は邪神だな』
人間から見れば、ニルスの言ったようにジナスは邪神てことになる。
それを信仰してたとなれば、少なからず迫害を受ける人もいるよね。
危険なのは邪神だったと知っても信仰をやめない者、事を起こしたりとかもありえる。
「僕もやめた方がいいと思う。人間には大地をすべて取り戻したってだけ伝えればいいよ。後ろの人たちの口は堅いの?」
「精霊の王からの質問だ。お前たち自身で答えよ」
「他言は致しません」
「私も同じです」
二人とも僕の目を見て答えてくれた。
・・・嘘じゃないな。
「次勝てばこっち側の大地は元通りになる。それを伝えるために僕と聖女が来たとかでいいんじゃないかな」
「勝手に信仰の自由を認めたのは何代目なのかしらね・・・。まあ、私は構わないわ」
「では、シロ様の案を元に考えてみましょう。民が信用するような筋書きが必要です」
みんなが納得するお話を作らないといけないみたいだ。
まあ時間はあるし、ちゃんと考えてやってくれればいい。
「シロ、精霊の歴史を教えてはくれないか。しばらくここに通い、我々と意見を交わしてほしい。学者たちも語らいたいはずだ」
王様が僕に微笑んだ。
嫌ではないけど・・・。
「毎日はやだ。それに話せないこともある」
「毎日とは言わん。そして、伝えられる所だけでいい。頼めるか?」
「・・・お菓子とかあれば。甘いの・・・」
「用意しよう」
ふふん、なら来てあげよう。お城で出されるお菓子ってどん・・・。
「父上!」
突然扉が開き、男の子が入ってきた。
・・・びっくりした。
「なんだ・・・」
「子どもね・・・」
ニルスとステラもその子を見て驚いている。
防音の結界は張ってあるけど、誰も入ってこれないようにはしてなかったみたいだ。
「父上ってことは王子かしら・・・」
「王子は三人・・・のはずだけど」
「私も詳しく聞いたことなかったわね。みんな何歳なの?」
「・・・第一王子のヴェルミュレオは二十二歳。第二王子のミルネツィオはミランダと同じ十八歳。第三王子のゼメキスは十歳・・・あの子はもっと下に見える。べモンドさんは知ってますか?」
「私も知らん。初めて見た・・・」
三人がコソコソと話し出した。
誰も知らない子なのか?
「・・・まだ話し合いは終わっていないのだ。もう少し待っていてくれ」
「一緒にいては・・・ダメですか?」
男の子は寂しそうに王様を見た。
まあダメだろうな。
「む・・・騒がないことを約束できるか?」
え・・・いやいや、この話は外に漏れたらまずいんでしょ?
しかも子ども・・・言いふらすかもしれない・・・。
「王様ダメだよ。そしたら僕が遊んであげるからお話の続きをしてて」
飽きていたこともあった。
この部屋を出て動き回れればなんでもよかっただけ・・・。
「シロ・・・任せてもよいのか?」
王様はなんだか嬉しそうだ。
「うん、仕方ないよね」
僕は席を立って、男の子に近付いた。
どんな子なんだろう。
「僕シロっていうの、君の名前は?」
「シロ・・・ボクは・・・シリウス」
恐がっているのか、緊張しているのか、シリウスは僕を見ながら王様の服をぎゅっと掴んでいる。
「シリウスか、僕たちはもう友達ね。お城を案内してほしいな」
「ともだち・・・友達・・・うん、いいよ。・・・父上」
シリウスは王様に向き直って抱きついた。
「ありがとうございます。友達が欲しいと言ったことを憶えていてくれたのですね」
「あ・・・ああそうだ。シロ、頼んだぞ」
友達って自分で作るものだと思っていたけど、親に頼んでもいいものだったのか・・・。
「・・・オレもそっちがいいな」
「ニルスが行くなら私もそうしたい」
「ニルスとステラはそこにいてお話をしてて。じゃあ、行こう?」
僕はシリウスの手を引いて扉に向かった。
二人まで来ちゃったら話にならないだろうしね。
◆
「退屈だったんだ。シリウスが来てくれて助かったよ」
会議室を出て、まずお礼を言った。
この子が来てくれたおかげで抜け出せたからね。
「父上が遊んでくれるって約束してくれたんだけど・・・待ってても全然来なくて・・・」
なるほど、じゃあ僕たちのせいだな。
ああ、王様がなんかそわそわしてるように見えたのは、この子を待たせていたからだったのか。
「お父さんは忙しいから仕方ないよ。かわりに僕が遊んであげる」
「ありがとう・・・えへへ」
「ねえ、シリウスは今何歳?」
「四歳、次の明の月で五歳になるんだ」
背丈はチルと一緒くらいか、それに四歳ってことはルージュと同い年・・・なのかな?
「じゃあ案内してあげる・・・ボクが入っていい所はそんなに無いけど・・・いい?」
「そうなんだ。・・・それなら街に行こうよ。ここにいるより楽しいと思うよ」
「えー・・・ダメだよ。外には出るなって言われてる・・・」
けっこう厳しいんだな。
なんでダメなんだろ?
「もしかして閉じ込められてるの?」
「そういうんじゃないけど・・・父上は僕に危ないことが無いようにしてくれてるだけだよ」
「シリウスはどうなの?街に行ってみたい?」
「・・・シロが一緒なら」
シリウスは不安そうに笑った。
なんだ、じゃあ・・・。
「お父さんに頼んでみるよ。ちょっと待っててね」
僕はすぐに後ろの扉を開けて会議室に戻った。
◆
「どうしたのだ?シリウスになにかあったのか?」
王様は威厳のある顔をやめて、心配そうに戻った僕を見てきた。
「え、そうじゃないんだけど・・・」
今ちょっと離れただけじゃないか・・・。
「王、あの子は王子ではないの?」
ステラはニコニコしている。
僕と一緒で、難しい話はもう飽きたんだろう。
「・・・べモンド、ニルスも他言はしないと約束できるか?」
・・・ステラが聞けばなんでも教えてくれるのかな?
「約束しましょう・・・」
「事情があるのなら・・・」
あ・・・どうしよう、シリウスを待たせてるけどなんか始まるみたいだ。
「シリウスは私の息子で間違いない。私が・・・唯一愛した女性との間に生まれた子だ」
「王子ってことですか?」
「第四王子ではある。だが、あの子は王子として育てるつもりは無い。他の王子には言えんが、あの子には王族の煩わしいことはさせたくはないのだ。だから民へ存在は隠していた」
僕は王だけど煩わしいって感じたことは無いな。
人間だからか?
「女性って言い方だと・・・外に作ったの?」
ステラはもっと詳しく聞きたいみたいだ。
えーと、王様の相手ってお妃様って言うんだよね。
「・・・私の乳母だった者の娘です。歳も同じで、よく話を聞いてくれました」
「素敵ね。いい話じゃない」
「ただの男と女、そして普通の子ども・・・。そういった生活に憧れがあるのですよ。まあ・・・夢見ているだけです。・・・私はそれができないほど積み上げてしまった」
「そうね・・・でもできる限りはしてみなさい」
人間の王様は大変だな。気軽にお買い物とかも・・・あっ、僕は街に行っていいかを聞きに来たんだった。
「王様、シリウスを街に連れていってもいい?」
「街・・・あまり危ないことはさせたくない。城の中だけにしてはもらえないか?」
王様は難しい顔をした。
僕じゃ頼りないってこと?それは心外だな。
「危なくなければいいんでしょ?・・・ちょっと見ててね」
五・・・いや十体は作ろう。
「なんだ!魔族か!」
軍団長さんが僕の作った人形を見て声を荒げた。
きのう見せたけど、一回だけだしまだ慣れてないんだな。
「平気だよ。これは僕が作った人形、自由に動かすこともできる。シリウスは僕が必ず守るから連れてっていい?」
人形を並ばせて剣を振らせて見せた。
まあ、こんなのに頼らなくても僕一人で大丈夫なんだけど。
「王、シロは信用できるわ。その兵隊だってあと百以上は出せるはずよ。それにシリウスの居場所はすぐにわかるようになっている。迷子の心配も無いわね」
「なるほど・・・。シロ、傷一つ付けずに帰せるか?」
「もちろん、恐い思いもさせない」
「すまない・・・少し甘く見ていた」
王様は立ち上がって人形に触れた。
これで許しが出たってことだよね。
『シロ、必ず守るよ』
ふふ・・・僕も同じことができたのかな。
「お世話係なんかはいないのかしら?」
「付けていたのですが、子を授かったので休養中なのです」
まあ、それなら寂しくてお父さんの所に来ちゃっても仕方ないか。
「シリウスも姉のように思っていたこともあったのですが、寂しいとは言わずに励ましていました。新しい者を付けたのですが、どうにも打ち解けられずにいるようでして・・・」
あの子・・・色々我慢してるんだな。
じゃあ、今日はそういうのを忘れるくらい楽しい日にしてあげよう。
◆
「あれ・・・」
会議室から出ると、シリウスの姿が消えていた。
どこかな?さっき触れたから気配を探ってみよう。
・・・あっちの廊下の方だ。早く教えてあげないとな。
◆
「シリウス、父上に気に入られてるからって調子に乗るなよ」
「ボクはそんなつもりは・・・いたっ」
廊下を曲がると、シリウスは別な子どもに叩かれていた。
ケンカじゃなさそうだ。助けなきゃいけない。
「何してるの!」
「・・・なんだお前」
その子が振り返った。
「自分より小さい子にそんなことして恥ずかしくないの?」
「・・・なにか文句があるのか?」
今まで出逢ってきた人たちとは違うって感じた。
子どもなのに欲望とか傲慢とか、そういうのが目に現れている。
「文句どころじゃない!シリウスに謝れ!理由もないのに殴ったんなら許さないぞ!」
「シロやめて!お許しください・・・不快にさせて申し訳ありません」
「ふん・・・汚らわしい血が!目の端にも入らないようにしておけ・・・」
その子は、シリウスにひどい言葉をぶつけるとすぐに行ってしまった。
なんだあいつ・・・。
「シリウス、あの子はなに?」
「兄上・・・第三王子のゼメキス・・・」
「お兄ちゃん?なんで君にひどいことするの?」
「ボクがここにいるのが気に入らないんだって・・・。顔を合わせると叩かれたり、服を破かれたりするんだ。他の兄上はボクにも優しいんだけど・・・」
家族なのに?ニルスはルージュにそんなこと絶対にしなそうだ。
「・・・ボクの母上は下民だからって言われた。だから別の土地で暮らしてるって・・・本当は、ボクもここにいちゃダメだって・・・」
シリウスは今にも泣き出しそうだ。
そこまで言われて我慢する必要はないと思う。
「そんなの関係ない、叩かれたんだよ?お父さんに言いに行こう」
「やめてシロ!父上に心配かけたくない!ボクが我慢すればいいだけだよ」
僕の腕が掴まれた。
「でも・・・」
「ボクは大丈夫だから・・・兄上のことは黙ってて」
・・・さっきのゼメキスって子よりずっと物事を考えてるみたいだ。
でも「大丈夫」っていうのは嘘・・・。
「・・・わかったよシリウス。そうだ、お父さんから街に連れて行ってもいいよって言われたんだ。だから遊びに行こう」
「本当?」
「うん、僕が守ってあげる。なんにも心配いらないよ」
「ありがとうシロ」
シリウスは今の出来事が無かったかのように明るく笑った。
ゼメキスとは正反対だな。
シリウスの目には謙虚さや優しさがある。
・・・だからさっきのことは放っておけない、あとで王様には教えておこう。
「じゃあ出発ね。そこの窓から外に出よう」
けど、今は楽しい気分でいさせてあげたい。
二人でどこに行こうかな。
「え・・・窓?高いし恐いよ」
「平気だよ。掴まってて」
僕はシリウスを抱えて外に飛び出した。
憂鬱からも抜け出せるはずだ。
「わあ飛んでる・・・。シロすごいね、魔法?」
「あとで教えてあげる」
バニラみたいにいい子だから仲良くなりたい。
そのためには僕のことをちゃんと知ってもらわないとね。
このまま城壁を越えちゃって、人影のない道で下りよう。
そこからは歩けばいい。
◆
「シロ、今のは風の魔法?ボクにも教えて。一緒に飛びたい」
地面に足が付いたと同時に、シリウスが僕の手を握ってきた。
ああ・・・魔法はこうやって伝えるんだったな。
「今のは魔法じゃないよ。精霊の力だから人間には使えないんだ」
「え・・・じゃあシロって精霊なの?」
「そうだよ」
「わあすごーい。本とかお話でしか聞いたことなかったけど、本当にいたんだね」
シリウスは目を輝かせながら僕を見ている。
いつもはみんなに子ども扱いされるけど、本当はこういうのが普通だよね。
ん・・・そうか、友達を作るときは僕よりちっちゃい子を誘えばいいんだ。そしたらみんな僕のことを頼れるお兄さんみたいに見てくれる・・・。
「僕が精霊でも友達なのは変わりないからね」
「うん、早く遊びに行こう」
「シリウスはどこか行きたいところある?」
「え・・・お城しか知らない」
そういえば、外には出してもらえてなかったんだったな。
僕もそんなにわからないから・・・。
「じゃあ街を探検しに行こう」
「探検?何を探すの?」
うーん・・・言ってみただけで、そんなに深く考えてなかったな。
あっ、探すなら・・・。
「じゃあ友達を探しに行こうよ」
「友達・・・うん、たくさんできるといいな」
僕よりちっちゃい子、シリウスくらいの子を探そう。
◆
「えーと・・・今いるのは中央区って所みたいだね」
「うん、ボクたちがいるのが・・・あ、書いてある。ここだね」
歩いていると道端に案内板を見つけた。
子どもが多そうなところはあるかな?
「けっこうお城から離れちゃったみたい・・・」
「飛び過ぎたかな・・・」
「帰れる?」
「そこは心配しないで。あ・・・ねえ、ここに広場がある。行ってみようよ」
きっと子どもたちもいるよね。
「あれ・・・お前シロか?」
振り返った時、見覚えのある顔がいた。
きのう話したウォルターっていうおじさんだ。
「こんにちは、ほらシリウスも」
「こ、こんにちは」
「おう、何してたんだ?」
それはこっちが聞きたい、今日は鍛錬に行かないのかな?
「訓練場に行かなくていいの?戦士って毎日鍛錬してるんでしょ?」
「まあ、本当はそうしたいんだけどな。俺の奥さんが今日剃り師に・・・子どもはわかんないか。とりあえず今日は子守りを任されてるんだ」
「子守り・・・」
おじさんの周りには誰もいない・・・守れてないじゃないか。
「で、お前らは?あ・・・さっそく娘に会いに来てくれたのか?」
「え・・・そういうわけじゃなかったけど」
「けど、そうしてもいいって感じだな」
おじさんは僕を見てにっこりと笑った。
まあ・・・そうだけど。
「うちのセレシュは精霊の絵本が好きだ。そして会ってみたいって何度か言ってた。つまり、一緒に遊んでやってほしい」
「うん、いいよ」
「てことは、俺は訓練場に行ってもいいってことだな?」
なんだこれ・・・子守りを僕に押し付ける気か?
「シロ・・・誰?」
シリウスは僕の後ろで初めて会う人にびくびくしている。
たしかにおじさんは体も大きいし、ちょっと恐いのかもしれないな。
「戦士のおじさん、僕もきのう初めて会ったんだ」
「でも、もう仲良しだな。ウォルター・グリーンだ、ボウズの名前は?」
「あの・・・シリウスです」
「この子は今日友達になったんだよ。ねえおじさん、シリウスも一緒に遊んでいい?」
友達は多い方がいいもんね。
「シリウスか・・・なんか品がある子だな」
おじさんはシリウスの顔を覗き込んだ。
「あ・・・あの・・・」
「まあいいや、よろしくな。うちのセレシュは恥ずかしがりで、友達は今一人しかいない。親としてはもう少しだけ明るい子になってほしいんだ。だから仲良くなってくれよ」
「は・・・はい」
セレシュって子は友達が一人しかいないのか。
僕は今のところ、バニラとシリウス・・・二人だけだ・・・。
「ねえ、でもそのセレシュは?」
「そこが家なんだよ。もうすぐ・・・」
「おじさーん、セレシュのお着がえ終わったよー」
おじさんが指差した家から女の子が二人出てきて、こっちに走ってきた。
二人ともシリウスと同じくらい・・・僕より小さい。
ふふーん、いいじゃん。
◆
「あ、知らない子だ。わあ・・・ミルクみたいな髪の毛だね」
「え・・・えー!」
「な・・・なに?」
近付いた女の子を見て驚いた。
ニルス、ステラ、そしてアリシアと同じ色の髪・・・もしかして・・・。
「この二人がお前たちと遊びたいってさ」
「男の子だー。あ・・・セレシュ」
「・・・」
セレシュって呼ばれた子が、もう一人の背中に隠れた。
おじさんが言ってたみたいに恥ずかしがりみたいだ。
「・・・」
シリウスも僕の後ろに隠れたままだ。
「そっちの子もセレシュみたいになっちゃった」
「あはは・・・そうだね・・・」
隠れた二人よりも、目の前の子の方が気になる。
あ、そういえば・・・。
『ルージュとセレシュは仲良しなんだ。うちに泊まりに来たりもするんだぜ』
きのうの朝、おじさんがニルスに言ってたこと・・・。
今聞いていいのかな?
「セレシュ、せっかく遊びたいって来てくれたんだ。顔を出してあげたらどうだ?」
おじさんが娘に近付いた。
・・・とりあえず様子を見るか。
「・・・じゃあ、お前が顔を出したくなること教えてやろうか」
「・・・」
「前にいる白い髪の子は、お前が会いたがっていた精霊さんだよ」
「・・・」
セレシュはちょっとだけ顔を出して僕を見てきた。
「おじさんそれ本当?え・・・なにセレシュ・・・うん・・・うん」
そしてもう一人の女の子になにかを耳打ちしてまた隠れた。
そんなに恥ずかしいのか・・・。
「あのね、本で見た精霊さんは、なにも無い所からキラキラしたお花を出したんだって。セレシュはそれが見たいって言ってる」
「お花・・・」
そんなことする精霊いたかな?
「できるの?」
僕は試されてるってわけか。
キラキラね・・・。
「いいよ、見ててね・・・」
僕は赤い水晶の花を出して見せた。
この間ニルスが持って帰ってきた夕凪の花と同じものだ。
「わあすごーい。それにこれ、わたしの好きなゆうなぎの花だ」
「知ってたんだね」
「うん、大好きだもん。ねえ、セレシュ見た?え・・・なに?」
「・・・」
セレシュはまた耳打ちを始めた。
普通に喋った方が楽しいと思うんだけどな。
「触らせてって、わたしも触りたい」
なんだ、それなら・・・。
僕は同じものをもう一つ作った。
「シリウス、これを二人に渡して。そしたら自分の名前を教えてあげるんだよ」
「あ・・・うん!」
シリウスは僕から花を受け取ると、真っ直ぐに背筋を伸ばして二人の前に差し出した。
「えっと・・・ボクはシリウス。今は四歳だけど、次の明の月で五歳になるんだ・・・あの、友達になって・・・」
シリウスの顔は真っ赤になっていた。
お父さんに頼むくらいだから、自分から誘ったこともなかったんだろうな。
「ありがとうシリウス。・・・わたしルージュ、風の月で五歳になったんだよ。えへへ・・・これで友達だね」
ルージュ・・・やっぱりそうか。
「・・・」
おじさんの顔を見ると、ニコニコしながら口元に指を当てていた。
僕に・・・だよね。まあいいや、あとでニルスに教えてあげよう。
それに僕も・・・。
「僕はシロ、精霊なんだよ。歳は憶えてない。シリウスとはもう友達なんだけど、二人とも友達になりたいな」
「うん、シロも友達だね。わたし男の子の友達初めてなんだ。あ・・・精霊さんもだよ」
ルージュは水晶の花を太陽にかざした。
本当は無闇にこういうの作るのは良くないけど、喜んでくれてるからいいよね。
「セレシュ、お花を貰ったのに黙ってるのか?お前が見たいって言ったのを作ってくれたんだぞ」
おじさんはセレシュに優しく話しかけて頭を撫でてあげた。
早くお喋りしたいな。
「それに、みんな名前を教えたぞ。あとはお前だけだ」
「・・・」
セレシュはルージュから離れて、シリウスの耳元に口を近付けた。
「え・・・うん、ボクもそうしたい。よろしくねセレシュ」
何を言われたんだろ。
精霊の耳でも聞き取れなかったぞ・・・。
「・・・」
セレシュは僕の耳元にも寄ってきた。
「私・・・セレシュ。四歳で・・・想の月に生まれたの。・・・もっとお話したい・・・いい?」
柔らかい風が僕の耳を撫でた。
たぶんシリウスも同じようなことを言われたんだろうな。
「もちろんいいよ。だってもう友達だもん。ね、シリウス?」
「うん、早く遊びに行こうよ」
「・・・」
セレシュはちょっとだけ笑ってルージュの後ろに回った。
「わあ・・・セレシュが早く行こうって背中をくすぐるの。あはは、やめてよー」
ルージュの笑顔は、やっぱりニルスと似ていた。
ふふふ・・・友達が一日で三人もできた。
僕は一番お兄さんだからこの子たちをしっかり守ってあげよう。
そしたら、ニルスみたいになれるよね。




