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Our Story  作者: NeRix
水の章 第三部
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第八十九話 おかえり【アリシア】

 ニルスが帰ってきてくれた。

とても嬉しいのに、思っていることが言葉になってくれない。

ルージュには言えるのに、どうしてあの子には言えないんだろう・・・。


 ニルス・・・「おかえり」って伝えたいのに・・・。



 「あの・・・よろしくお願いします・・・」

私は鍛錬を早めに切り上げ、ルルに預けていたルージュをウォルターさんの家へ連れてきた。

 

 『今日はセレシュのところに泊まろう』

『え・・・やったー』

『母さんはちょっと戦士の話があるんだ・・・』

『大丈夫だよ。セレシュとお話したかったんだ』

嘘をついてしまったが、ルージュは喜んでいた。


 「ルージュは大丈夫だから早く行ってあげて」

「あ・・・はい」

エイミィさんには事情を伝えた。

そのせいか急かされている。


 「お母さん、なんか今日は嬉しそう。朝まで元気なかったのにどうしたの?」

「・・・いいことあったの?」

ルージュとセレシュが見送りに出てきてくれた。

 私はそんな顔をしているのか?

だとしたら・・・原因はあの子が同じ街にいるから・・・。

 「いや、なんでもない。遅くなるかもしれないが、夜更かしはダメだぞ」

「うん。セレシュ、あとで秘密のお話教えてあげる」

ルージュの方こそ嬉しそうだ。

 

 『強い風が吹いた時があったでしょ?それで飛んできたの』

二日前、戦場の前の晩に私に花をくれた。

 『飛んできた・・・。ルージュ、外に出たのか?』

『ちょ、ちょっとだけ・・・』

『ダメだと言ったじゃないか・・・』

『ごめんなさい』

叱りはしたが、ルージュはずっとニコニコしていた。

それから今日まで機嫌がいい。 


 『次は勝てるよ。お母さんは頑張ったんだから卵のスープ作ろう?』

きのうは、戦場で敗北し疲れ切った私をずっと明るく励ましてくれていた。

 本当は今のルージュも連れていってあげたいが、あの子を笑顔で紹介できる気がしない・・・。再会させるなら、私はいない方がいい・・・。


 「では、行ってきます」

「うん、あんまり気を張らないようにね」

「ありがとうございます・・・」

ウォルターさんの家を出た。


 気を張るなか・・・。酒場・・・ルルもいるがうまく話せるだろうか・・・。

戻ってきてくれて嬉しいのに、目の前にするとダメになってしまう。


 ・・・朝もそうだった。

『大切な息子だからだ。母さんはもうお前を戦わせない』

はっきりと言ってあげたかった。

 『おかえりニルス、母さんはずっと待っていたよ。今日はうちで母さんとルージュに旅の話を聞かせてくれ』

家に帰ってきてほしかった。

 でも、もし「おかえり」と伝えて「アリシアのためじゃない」と突き放されてしまったら・・・考えるとダメになってしまう。

ああ・・・やり直したい・・・。



 「・・・早かったわね」

「ああ、まだ誰も・・・来ていないみたいだな」

酒場の中は静かだった。

よかった・・・私が先だったようだ。


 「ねえアリシア・・・本当に帰ってきてるの?」

ルルの目は潤んでいる。

 「ああ、さっき伝えた通りだ」

ルージュを迎えに来た時に話せることはすべて教えた。

本人を見ればひと目で信じてくれるだろう。


 「ねえ、朝はあんまり話せなかったみたいだけど、おかえりって言ってあげたの?」

ルルはわかっているような言い方をした。

見透かされてるんだろうな・・・。

 「・・・言えなかった」

「なにしてるんだか・・・あの子の日記を見たでしょ?どうするかはもうわかってるんでしょ?」

「うん・・・」

日記は何度も読んだ。その度に自分を責めた・・・。もし戻ったら抱きしめてあげようと決めていたのに・・・。


 子どもの時のようにニルスを抱きたい・・・。

そして旅の話や今日一緒にいた仲間のことを私に・・・母さんに話してほしい・・・。



 「あ・・・アリシア様。よかった、来てくれたんですね」

酒場に元気な声が入ってきた。

 「あ、ああ」

・・・たしかミランダ。

明るい子だ。他の者もそうなのだろうか?


 『大切な仲間もできたんだ』 

なんにしても、私以上の存在なんだろう・・・。


 「あら、アリシアもいるの?」

聖女ステラが私に近づいてきた。

なんだか・・・苦手な類いのような気がする。


 「アリシア、今度お話ししましょうね」

「え、ええ」

「・・・私たちは姉妹みたいなものだしね」

最後だけ耳元で囁かれた。

まだ公にできないことでもあるからだ。

 姉妹か・・・女神から作られた者同士ということなんだろう。

・・・まだ実感が湧かない。


 「そんなに緊張しないで。・・・私たち、似てなくてよかったわね」

ステラは横目で私を睨むと、ミランダたちと一緒に奥のテーブルへ向かった。

 なんだろう、敵意を向けられているような・・・。

ステラとは今日初めて会ったはずだ。何かした憶えはもちろん無い。


 

 私は一人でカウンターに座った。

なんだか・・・つらい・・・。


 「あれがニルスの仲間たち?」

ルルが楽しそうな顔で出てきた。

仕方ないが、最初から一緒にいてほしかったな・・・。

 「そうらしい・・・」

「なんか変な組み合わせね。小さい男の子におじいさん・・・でも女の子は二人ともかわいい。あの子の趣味なのかな?」

おじいさんと男の子は、二日前に訓練場の近くで出会った二人だった。

あの時は、ニルスと別で動いていたのかな?


 「あっちの子の髪・・・あんたたちと一緒よね?」

「・・・気になるなら聞いてみたらいい」

「ふーん・・・そうするわ」

ルルは躊躇いなく四人のテーブルに向かっていった。


 「いらっしゃい、ここの店主のルルよ。みんなニルスと仲良くしてくれてありがとうね。一人一人名前を教えてほしいわ」

いいな・・・私もあんなふうにできたら・・・。



 ルルはニルスの仲間たちと楽しそうに笑っている。

何を話しているんだろう・・・。


 「待たせたな」

ウォルターさんが私の所に来てくれた。

一人ぼっちじゃなくなって、少しだけ心が楽になってくる。

 「一緒じゃなかったんですね・・・」

「俺からもエイミィに話してきたんだよ。それとセレシュにおやすみを言わなきゃいけない」

ああ、そういうことか。


 「で・・・へー、ルルちゃんはあっちで楽しそうだ。お前も混ざって話せよ」

「私は・・・」

・・・言わないでくれ、自分がみじめになる。

 「私は・・・ウォルターさんに付き合うために来ただけですから・・・」

精一杯の強がりと嘘、こんな自分だからダメなんだろう。


 「・・・じゃあ付き合え。近くのテーブル行くぞ」

「え・・・いや、待って・・・」

ウォルターさんに腕を引っ張られた。

ダメだ・・・やめてくれ・・・。



 「あ、おじさん待ってたよ。あたしたちの代金よろしくねー」

私たちが近付くと、ミランダが明るい笑顔を向けてくれた。

愛想がいいとはこういうことを言うんだろうな。私には無いもの・・・。


 「・・・たしかに約束したけどさ。会った初日だぞ?ちょっと悪いなーとか思わないか?」

「別に・・・」

「小娘かと思ったらとんでもねえ魔女だな。・・・好きなもん頼め」

「というわけでーす。ステラもおじいちゃんも遠慮しないでね」

ウォルターさんとミランダは、もうとても仲がいいようだ。

会って初日・・・いったい何をどうしたらこうなれるんだろう?


 「ルル殿を注文したい」

騎士がおかしなことを言い出した。

 「あはは、悪いですけどあたし年上は好みじゃないんですー」

「残念じゃ・・・なら、この店で一番高い酒をもらおうかの」

「任せてください、裏から持ってきます」

ルルは怒らずに、むしろ喜んで外へ出て行った。

聖女の騎士は想像していたよりも人間に近いな・・・。


 「爺さん、騎士が酔ってて仕事になるのか?」

「小僧に心配されたくはない。おや・・・」

「げっ、師匠。本当に来てたんですか・・・」

「うわあ・・・こんなにおじいちゃんになっちゃって・・・」

スコットとティララが酒場に入ってきた。

そういえば騎士に戦いを教わっていたんだったな。


 「はて・・・誰じゃったかの?テーゼに知り合いはおらんはず・・・」

「やめてくださいよ。ティララとスコットです」

「ああ・・・いたのう・・・。畑仕事が嫌で逃げ出したのが・・・」

そうだったのか、私に憧れてと言っていた記憶があるが・・・。

 「戦士になるためです!ていうか・・・子どもはできたんですか?跡取りいないと・・・」

「ふん・・・お前たちがいない間に生まれた。もう八つじゃ」

「おー、ナツメさんは?すごい喜んでたでしょ?」

「当たり前じゃろ、溺愛しとる」

騎士には妻も子どももいるらしい。

・・・ウォルターさんよりも遅くにできたんだな。


 「ちなみにリンドウさんは・・・」

「・・・さすがにな。孫の産まれる前日じゃった・・・」

「ああ・・・そうでしたか・・・」

騎士の親の話か・・・。

きっと仲は良かったんだろう。

 「まあ明るい話もある。ティララには妹が二人、スコットには弟が二人と妹が一人増えとる」

「え・・・」

「知らなかった・・・」

「何年経ってると思っとるんじゃ。家族の名が変わっているのも何人かいる」

「・・・まあ、みんな元気ならいいですよ」

たしか二人は「戦士で一番になるまで帰ってくるな」と言われていたはずだ。

 でも、親子で揉めているわけではないのだろう。だから・・・笑いながら話せている・・・。


 「・・・それにしても、師匠も歳には勝てないんですね。ニルス君に負けるなんて・・・」

「ニルス殿は強い・・・剣を教えた師がよかったんじゃろ。お前たちはどうか知らんがな。それと・・・そちらにいらっしゃるのが聖女様じゃ、挨拶をしろ」

「え・・・」「ま、まさかほんとに・・・」

「儂はそちらに移る・・・」

ヴィクターが立ち上がり、私のテーブルに来た。

気まずい・・・。


 「アリシア殿、共にいてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ・・・」

「なにか思うところがあるようじゃが、ニルス殿はアリシア殿を尊敬していると言っていました」

「尊敬・・・あの子が私を・・・」

手が自然と胸を押さえていた。

 「儂は二人の間にあったことは詳しく知りません。だが、師弟としてはいい関係だったのではありませんか?感謝しているようですし」

たしかに、あの子から言われたことはある。


 『前にも言ったけど、別に恨んでたりとかないよ。・・・約束通り、強くしてくれた』

本心かどうかわからなかったが、誰かにもそう言っていたのなら真実なのだろう。

 お前を強くする・・・。

目的はいつの間にか変わっていた。

それなのに、私に感謝してくれているのか・・・。



 「おう!!!ニルスはどこだ!!!」

「まだ・・・みたいだね」

バートンさんとイライザさんが入ってきた。

あの二人も聞きつけたのか・・・。


 「おいこっちだ。ニルスの仲間は来てる」

ウォルターさんが手招きをした。

人が増えるのはありがたい・・・。


 「仲間か!!!あいつの話聞かせろ!!!」

「おじさんの声すごい大きいね」

「なんだボウズ!!!お前も声張れ!!!」

バートンさんがシロの頭を押さえた。

いつもより大きい・・・。

 「悪いな。私はイライザ・ウェンジ、こいつはバートン。早くニルスの話を聞かせてほしい」

「いいですよ。でも・・・声の大きい人は離れてほしいかも・・・」

「嬢ちゃんは乳がデカい!!!」

「あはは・・・とりあえず座ってください」

私も・・・ニルスの話が聞きたい・・・。



 「みんなー、ニルスが来たわよー!」

イライザさんとバートンさんが座ったと同時に、入口からルルの声が聞こえた。

酒を取りに行った時にちょうど来たらしい。


 「どうしたよ?息子だろうが・・・」

ウォルターさんが私の体を揺すった。

 「顔上げなよ・・・」

イライザさんも声をかけてくれた。 

動けない・・・体に緊張が走り、顔は勝手に下を向いている。


 「こっちよニルス」

ステラがあの子を呼び、足音が近づいてきた。

私が近くにいて、ニルスは嫌ではないだろうか・・・。


 「久しぶりだなニルス・・・」

イライザさんが声をかけた。

 「元気だったか!!!」

バートンさんも・・・。

 「元気でしたよ。誰に聞いたんですか?」

「みんな知ってる。たぶんほとんど来る」

「・・・そうですか」

私も話しかけたい・・・。


 「・・・アリシアもいたのか」

足音が私の後ろで止まった。

声は真上から、とても近い距離にいる・・・。


 「・・・ルージュを夜一人で留守番させているのか?」

とても冷たい声で私の体は凍りついてしまった。

 「そうではない」と、早く答えないといけないのに・・・。

なぜニルスを前にするとこうなる?声がうまく出せない・・・。

 「・・・なんで黙っているんだ?ルージュは今一人なのか?」

「ルージュはうちに泊まっててエイミィが見ててくれてる。前々からセレシュと約束してたんだ。だからアリシアがここにいても別にいいだろ?」

ウォルターさんが助けてくれた。

今のは良くない。わかっているのに・・・。


 「そうでしたか。・・・オレとは口を聞きたくないんだな。顔も上げない・・・」

また冷たい言葉をぶつけられた。

違う・・・違うんだニルス。本当は話したい・・・話したいんだ。


 「まあまあ、アリシアは久しぶりで緊張してるんだよ」

「もう・・・いいです」

ニルスの足音が離れていった。

隣のテーブルなのに、ずいぶん遠く感じる。


 「みんな待たせてごめんね。前に話したセイラさんを連れてきたかったんだけど、仕事でいないみたいなんだ。明の月に戻るらしいから、その時に紹介するよ」

仲間に向けられる声はとても暖かそうだった。

やはり私以外には優しい・・・もう折れてしまいそうだ。


 「ニルス、せっかく戻ってきたのよ。アリシアにただいまは?」

ルルが余計なことを言い出した。

たしかに言ってほしいが・・・ニルスが嫌ならいいんだ・・・。


 「ただいま・・・アリシア」

私の耳に、待っていた言葉が飛び込んできた。

・・・言ってくれたのか?私に・・・。

 「ほらアリシア。ニルスがただいまって、なんて言うんだっけ?」

ルルの手が私の肩に置かれた。

 「・・・」

顔を上げると、ニルスが私の顔をじっと見ていた。

周りのみんなも・・・。

 「あ、あの・・・おかえり、ニルス」

言えた・・・私も答えてあげられた。

 「・・・」 

ニルスはすぐに背を向けたが、私の心は少しだけ救われた。

・・・来てよかったな。



 「あー、始めてる!!ニルス、待ってるって約束したでしょ!!」

晩鐘が鳴ったと同時に、騒がしい声が飛び込んできた。

ジーナさんか、昼間にでも会ってきたみたいだ。


 「ジーナ様、まだ始まっていないようです。料理も並んだばかりのようですし・・・」

「なんだ・・・早く言いなよ」

「ニルス様は約束を破りませんよ」

エディもいる。

二人ともニルスのために来てくれたんだな・・・。


 「ふっふっふ・・・あなたたちがニルスの仲間ね。・・・元戦士のジーナ・プランジよ。ニルスとはとっても仲良しなの」

「エディ・マーテルです。ミランダ様以外とは初めましてですね」

二人は迷いなくニルスたちに近付いた。

なぜみんなは簡単にできるんだろう・・・。

 「あら・・・なるほど、ニルスの趣味は私と似てるわね」

「え・・・意味がわかりません・・・」

「どっちもいいじゃん・・・。ねえ、私とも遊びましょうよ」

そして、なぜ気軽に話せるんだろう・・・。

 「儂も遊びたい」

「え・・・おじいさんは・・・もう無理でしょ?」

「僕は?」

「ぼうやは・・・好きかも。でもまずは一緒にお風呂入ろうね」

いいな・・・私は自分からいけない・・・。


 「お前ら気を付けろよ。この女変態だからな」

「あら・・・ウォルターもいたのね。あ・・・ねえ聞いた?こいつ今の奥さん寝取って嫁にしたのよ」

・・・そうだったのか。

 「ふざけんな!!浮気してたバカ野郎から助けてやったんだよ!!」

「おー、やるじゃん。ねえねえ、その話詳しく教えてよー」

「あーん、私が教えてあげる。協力までさせられたんだからね」

「余計なこと言うんじゃねー!!」

「俺の方がいいって言え・・・あはは、ぜーんぶエイミィから聞いてまーす」

「てめー!!」

すぐに騒がしくなるな・・・。

 「俺はお前に悲しい顔をさせない・・・私も聞いたことある」

「イライザ!!!」

「毎日でも抱いてやるっつったんだよな!!!」

「うるせーバカ野郎!!!」

まあ、今日はこの感じの方が居心地がいい。


 「ふふ、楽しい人たちね」

ステラが微笑んだ。

聖女はこういう雰囲気も好きらしい。

 「あれ・・・あなたの髪の毛・・・ちょっとニルスいらっしゃい」

「え、離して・・・」

何を思ってか、ジーナさんはニルスを立たせ私の隣に座らせた。


 「この二人と同じ髪色ね。・・・珍しい」

「えーと・・・今はなにも教えられません」

「へー・・・この二人となんかあるんだ?・・・ちょっとお話ししましょ」

ジーナさんがニルスを残したままステラの隣に行ってしまった。

 どうしよう・・・すぐそばにいる。

なにか話を・・・そうだ。


 「ニルス・・・ルージュはとてもかわいい。目元は・・・ケルトに似てきた」

「・・・」

なにか答えてくれないだろうか。もっとルージュの話を・・・。

 「戦場の前に花をくれた・・・優しい子なんだ」

「・・・そう」

答えてくれた。

一言でも胸がいっぱいになる。


 「・・・なるべく一人にするな」

「そうしているつもりだ・・・」

「・・・そう」

話せた・・・言葉を交わせた・・・。

・・・今日は眠れなそうだ。



 「おお、本当にニルスだ!」「酒、飲めるよな?」「おい、俺たちも混ぜろ」「随分背が伸びたな」「ニルス君、こっちでお話聞かせてよ」「この間戦場にいたらしいわね」「また大きくなったね」「ちょっとあとで抜け出さない?」

気付くと、ニルスを知る戦士たちが酒場に押しかけていた。

 きのうの敗北で張り詰めていたが、戻ったこの子を見るとみんな顔を緩めている。


 「お酒注文しないとニルス君と話せませんよー」「前よりもずっとカッコよくなったね」「あとでおいしいお菓子のお店教えてあげる」「私が付くから前みたいにカウンター行く?」

女給たちも・・・。


 「これじゃ今日は話できそうにないな」

ウォルターさんが私の肩を叩いてきた。

 今夜はそれでもいい。あの子が「ただいま」を言って、私も「おかえり」を言えた。それだけで幸せな夜だ。

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