第八十一話 不安【ミランダ】
「傷は深いようじゃのう・・・」
「だからおじいちゃんも協力してよ」
「アリシア殿次第じゃ。まずは様子を見させてもらう」
宿でおじいちゃんと二人きり、話題は・・・ニルス。
「のんきなこと言わないでよ。次・・・絶対勝たないとダメなんだよ?」
「・・・いくら体を鍛えて技を磨いたとしても、心の弱さは危険じゃ。ニルス殿もそれを理解しておる。自分でも動こうとはするじゃろ」
「その手助けをしてあげようって話よ。ニルスはなにがあったとしても戦場に出なきゃいけないんだよ?仲間でしょーが!!」
なんか熱くなってきた。
あと三日でテーゼに着くんだから、みんなで足並みを揃えたい。
「助けないとは言ってないじゃろ。勝たねばならんのは儂も同じじゃ」
「じゃあどう考えてんの?あたしは昔のニルスを知ってる人たちに協力をお願いしてみるんだ」
「儂は自分の考えで動く。まずは本当に周りの力が必要なのかを儂自身の目で確かめたい」
「ほんと頼むよ。それと、ニルスには内緒で動いてね」
あれこれ言ってもニルスが焦るだけ・・・だからその方がいい。
戦場が終わった時に、みんな笑顔でいたい。
旅立ちは明るくないといけないからね。
◆
晩鐘が鳴った。
三人はまだ戻ってこない。
「・・・んぐ・・・んああ・・・ん・・・おお・・・」
腰が気持ちいい力で圧迫された。
騎士は戦い以外の技も達者みたいだ・・・。
「試してみるもんじゃろ?」
「うまいじゃん・・・かなり気持ちいい」
「・・・母親に仕込まれたからな。鍛錬のあとは必ずこの時間があった」
「じゃあ・・・ニルスたちが戻るまでお願い・・・」
欲しいとこを探るのがうまい、力加減は言うことなしだ。
ニルスたちには悪いけど、まだ戻ってこなくていい・・・。
「そろそろ戻るとは思うが・・・ステラ様に連れまわされているんじゃろ。・・・やっと外に出れたんじゃ、許してやっておくれ」
「わかってるよ・・・。うあああ・・・お・・・きっく・・・」
ステラと同じ境遇なら誰だってそうなる。
それにニルスと一緒だし、余計そうなんだろうな。
『ニルスが、私も旅に連れて行ってくれるって』
『なんだか目の前が今までもよりも色付いて見えるんだ』
ニルスの話をするステラは本当に幸せそうだ。
二人がうまくいけば、もっと面白い場面も見れそう。だから・・・絶対に勝たないとね。
「さて次は・・・脚の付け根を・・・」
「ちょ・・・急に興奮しないでよ。なんか恐いからやだ」
「触れてからずっと興奮しておる。じゃから心配ない・・・うつ伏せで脚を開いておくれ・・・」
おじいちゃんはずっと我慢してたみたいだ。
たしかに体を揉んでもらうのは気持ちよかったけど、そこまでは・・・。
「絶対無理。もうその気でしょ?」
「そんなことは無い」
「とりあえず今日は終わり。一応・・・次頼む時は誰かと一緒の時にするからね」
「心配することは無い。儂はナツメだけは裏切らん、婚儀の時にそう誓った」
あたしの体から手が離れた。
不貞をする気が無いなら興奮しないでよね・・・。
「じゃあなんでこんなことすんのよ?」
「趣味じゃな。おなごの体が好きなんじゃ」
「ステラにもやってたの?」
「若い時はな・・・じゃが、母上に殺されかけたからやめた・・・」
おじいちゃんが震え出した。
よっぽど恐い思い出なんだろうな。
ていうか、騎士失格だよね・・・。
◆
「・・・でしょ?それに全然うまくないのよ。激しくすりゃいいって思われてるとムカつくんだよね」
「自分本位か・・・情けない男じゃな」
「ほんとそうよ。初めてならかわいいかなって思えるけどさ。俺けっこうすごいよみたいなこと言ってたんだよね」
「まあ・・・それは試してみんとわからんからな」
暗くなってきたけど、三人はまだ戻らない。
だから、ニルスが苦手な話で盛り上がっていた。
「乳首に穴開けられそうになったこともあったんだよね。独占欲なのかな・・・自分のだって印をつけたいってやつ」
「断ったんじゃな」
「そん時ならいいよって言うと思ったんだろうね。愛してるからって言いながらふっとい針出した瞬間急に冷めて、腹おもいっきり蹴飛ばして荷物持って裸で逃げた」
「まあ・・・その気がないなら正解じゃな」
なんかおじいちゃんだとこういう話できちゃうな。
ニルスは恥ずかしがるから・・・。
「ミランダ!!!」
突然ニルスの声が響いた。
「きゃあああああ!!!!」
なにかやましいことをしていたわけじゃないのに叫んでしまった。
ああ・・・女の子みたいな悲鳴久しぶりに出したな・・・。
「ミランダ・・・」
ニルスが近付いてくる。
なによ・・・なんかしたっけ?
「ちょ・・・どうしたの?・・・わっ」
抱きつかれてベッドに押し倒された。
目の前・・・それ以上だ。
「な・・・なによ・・・ふざけてんの?あんたにはステラがいるでしょ・・・」
「ミランダ・・・傷痕・・・消せるんだ・・・」
「え、なに・・・傷痕って・・・ニルス?」
「・・・」
ニルスはあたしを抱いたまま泣き出してしまった。
なんだ・・・どうなってるの?
「ニルス、ミランダに説明しなさい」
「まあ・・・仕方ないよね」
声のした方に目を向けると、ステラとシロがニコニコしながらこっちを見ていた。
「ステラ様・・・これは?」
「ニルスが落ち着くまで待ちましょ」
苦しいんだって・・・早く・・・緩めて・・・。
◆
「ニルス、ミランダが辛そうよ。そんなにキツくしちゃダメでしょ?」
ステラがやっと動いてくれた。
苦しかったな・・・。
「あ・・・ごめんミランダ・・・そんなつもりじゃ・・・」
今のは何だったの・・・。あんなに締められたら痛いだけだよ。
「ミランダ・・・冷静に聞いてね。・・・傷痕を消す方法が見つかったんだ」
今度は優しく抱きしめられた。
そうだ・・・さっきも言っていたこと・・・。
『オレは君の傷痕を消してあげたい。何年かかっても必ずそうする』
肩からお腹にかけて残っている痕、ニルスは必ず方法を見つけるって約束してくれた。
隠さずに思いを伝えたことで、心が近付いた夜に貰った気持ち・・・。
「・・・本当なの?どう・・・やるのよ・・・」
ちゃんと話を聞きたい。
傷が塞がってしまったら痕はずっと残る。ニルスの右腕だってそうだ。
「ステラができる」
「ちょっと見せてもらってもいい?」
「あ・・・」
ベッドに寝かせられた。
そういや・・・聖女・・・。
たしか・・・死んだ人を生き返らせることもできるって、アカデミーで教わったことがある。それくらい大きな力・・・。
◆
「・・・肩から一直線、痛かったでしょ?」
服を捲られた。
「ニルスの方が・・・ひどかったよ」
痛かったけど、それ以上の思いを見たから我慢できた。
『守るって・・・言っただろ・・・』
ニルスは色んな感情を振り切って、もう動かないはずの体を立たせた。
いつも言ってくれていた「守る」をあんな状態でも・・・。
ニルスはもう立ち上がれない・・・そう思ってあの時は覚悟を決めたけど助けてくれた。
自分の命よりもあたしたちが大切なんだって強い気持ち、言葉じゃなくて行動で・・・。
だから、次はあたしが守るって決めたんだ。
「ミランダのもひどいわ。早く言ってくれればよかったのに・・・」
「・・・消せるの?こうなったら・・・特級の医者とか治癒士でも・・・」
「これなら大丈夫。まあ、私にしかできないけどね」
聖女は自慢げに胸を張った。
目の前がぼやけていく・・・。
「あたし・・・もっとずっと・・・先になるんだろうなって・・・」
「早すぎたかな?でも、約束しただろ?」
「うん・・・見つけてくれた・・・ニルス・・・」
手を伸ばすと、ニルスもそうしてくれた。
『・・・涙で色付けて見たものはずっと残るんだよ』
・・・もっと色付ける。
今日は、絶対に忘れちゃいけない日だ。
◆
しばらくニルスの胸に顔を埋めていた。
治まってきたし・・・そろそろ顔を上げよう・・・。
「ふふ、下着でうろつくって聞いてから楽しみにしてたんだ。でも、見せてくれなかったのはこれのせい?」
ステラがいじわるな顔で笑った。
傷は気にしないって決めたからそういうわけじゃないんだよね・・・。
「いや・・・ステラはさ、あたしより細いでしょ?ニルスとかシロとかおじいちゃんならいいけど、ステラに見せるのは恥ずかしかったんだ・・・」
「あはは、そんなことないよ。ミランダはニルスが見たくなるくらい魅力的だし」
「そうじゃな、ニルス殿はミランダ殿の胸が揺れるのをよく見ている」
「ちょっと待って!」
ニルスが焦り出した。
ステラの前だからかな?でも関係ない。
「そうね、いやらしい目で見てた」
「・・・いやらしい目は違う」
「ミランダ裁判で負けたくせに何言ってんのよ」
「・・・好きにすればいい」
こういうのでからかうのはおもしろいな。
でも・・・ありがとうニルス。
「消すのは・・・戦いが終わったあとでいい?」
ステラがあたしの傷痕に触れた。
「またこういうことがあるかもしれない。すべて終わったあとの方がいいと思う」
「そうする・・・。よし、じゃあニルスのお祝いしに行こー」
今度は足手纏いにならないって決めた。
それに心が軽くなったから、ニルスの分もあたしが持てるものは引き受けるんだ。
◆
ニルスのお祝いが終わって宿に戻ってきた。
いい匂いがした料理店に入ったけど、正解だったわね。
「楽しかったね。はあ・・・今日は疲れちゃった・・・」
ステラが溜め息をついた。
「ステラ様、今夜はもうおやすみになってください」
おじいちゃんが心配そうに声をかけている。
三人で精霊の城に行ってきたって聞いた。
やっぱり遠い場所への転移だと疲れるのかな?
「ステラ・・・僕のお願いを聞いてもらったから疲れたの?」
シロも不安な顔だ。
「今日はとっても楽しかった。だから気にしなくていいのよ。また・・・家族みたいにお出かけしようね・・・」
ステラはぱたりとベッドに倒れた。
うつ伏せ・・・ニルスみたいね・・・。
「ステラ?そんなに疲れたのか・・・」
「ニルス殿、心配はいらん。明日には元気になっている」
「本当ですか?」
「儂が何年ステラ様を守ってきたと思ってるんじゃ?」
おじいちゃんが酒瓶を取り出した。
まあ、騎士がそこまで言うなら大丈夫か。
たぶんニルスは今日もうなされる。
だから今夜は、久しぶりにあたしがそばにいてあげよう。
◆
「ほらみんな起きて!早く出発しましょ」
朝の鐘とステラの元気な声に起こされた。
本当に心配なかったみたいだ。
「シロはもう準備が済んでるのね、えらいよ」
「あの・・・ステラ・・・なんでもない」
「ん?撫でてほしいのね」
「あ・・・ありがとう・・・」
シロは眠らないからえらいも何もない。いつでも準備できてるんじゃないかな。
◆
あたしたちは宿を出て馬車に乗り込んだ。
「あと二日だっけ?」
「そうだね、あと二日・・・」
「ニルス殿、到着は戦場の前日じゃ。儂らはゆっくりさせてもらおう」
「・・・ええ、そうですね。少しぶらついてもいい」
ニルスはそわそわしている。
あたしたちもいるんだから前向きになってほしい。
「ニルス、みんな一緒だよ。一人で帰るわけじゃないでしょ?」
「ミランダ・・・ありがとう」
ニルスの顔に少しだけ光が差した。
それでいい、もっと明るくいこう。
「ごまかしじゃダメだ・・・」
シロは隣のあたしにだけ聞こえるようにぽつんと言った。
「僕・・・外に行く・・・」
そして、思い詰めた顔をして御者台に行ってしまった。
そわそわじゃないけど、あの子にもなにかあるんだ・・・。
◆
テーゼに着くまであと一日の所まで来た。
今日が最後の野宿か・・・。
「ニルス、今の内に話しておきたいことがある。みんなにも聞いてほしい」
シロは夕食が済むと真剣な顔であたしたちを見た。
・・・思い詰めてたことかな?
「黙ってようかずっと迷ってたけど・・・僕は君に隠し事はしたくない。・・・正直に答えて。ジナスに勝てると思う?」
シロの話は、たぶんみんなが気にしていることだった。
ただ、ニルスがどう思っているのかはわからない。ステラには話してるかもしれないけど・・・。
「シロ・・・突然どうしたんだ?」
「また弱いところを突かれても大丈夫なの?」
「・・・」
シロは、あたしも気を遣って聞けないことをはっきりと言った。
「・・・」「・・・」
ステラとおじいちゃんも黙ってニルスの答えを待っている。
本当はあたしもニルスがどう思っているのか聞きたかった。
様子を見ていれば、なんとなく想像はつくけどね・・・。
「シロ、オレも隠し事はしたくない。少し・・・不安はある」
やっぱりそうか・・・そりゃ毎晩あの調子じゃね。
ずっと溜め込んでたんだろうな。
こっちから聞いたからだけど、素直に言ってくれたことはちょっと嬉しい。信頼してくれてるってことだよね。
でも・・・「少し」ってのは嘘だ。
「ニルス、私がいるわ。シロも安心して」
「ステラ、今は口を挟まないでほしい」
「・・・ごめんなさい」
シロが言いたいことっていうのは、これから話すことなんだろうな。
たぶん・・・。
「ニルス、僕たちが出る戦場まであと約半年。・・・テーゼにいる間にアリシアとちゃんと話してほしい」
「ニルスはそのつもりなんでしょ?」
「・・・ああ、話はするつもりだ」
まあそうよね、避けては通れない。
「僕はそこが心配なんだ。会って今回の説明だけではダメ、わだかまりを解いてほしい」
「・・・」
ニルスは俯いた。
・・・なんで黙るのよ。まさか、ちょっと挨拶くらいみたいに考えてたの?アリシア様への手袋は?ルージュへのおみやげは?
「君を追い詰める気はないけど、ジナスと戦えるのは次が最後だと思う。たぶんその次は・・・無い」
「・・・そうだろうな」
ニルスもそれは理解している。
次負けたら生かしてはくれない。
シロがずっと考えいたのはこのことか。
「不安を残したままじゃダメ。それじゃ勝てない」
「オレは・・・みんながいれば戦えるよ」
「毎晩うなされてるくせに何言ってるの!!もし君が倒れたらみんなどうなるかわかってるはずだよ!!」
シロはとても恐い顔をした。
きっとあたしの傷痕の時と一緒・・・打ち明けるかどうかをしっかり考えたんだ。
「・・・僕の気持ちはこれだけだ。そしてこの話は明日からしないよ。・・・戦場の前日まで待つ。その時、君の目にほんの少しでも不安の色があれば戦ってもらうことはできない。テーゼで待っていてほしい」
「待ってよ、ニルスがいなくて誰がジナスと戦うの?」
「ニルスが難しいなら・・・アリシアにお願いする。胎動の剣は彼女も使えるはずだ」
戦場でニルスが渡した時に普通に持てていたことをシロは憶えていた。
たしかに現状のニルスよりは、アリシア様の方が希望が持てるのは事実だ。
「ごめんシロ、不安にさせていたんだな。君の・・・いや、みんなの気持ちは気付かないふりをしていた。・・・本当は不安しかない。シロ、ミランダ、ステラ、ヴィクターさん・・・みんないるのに、どうしても穴は埋まらない・・・」
ニルスが心を見せてくれた。
シロが先に見せたからだ。
「だからみんなで行くんだよ。ニルスが不安なら僕たちも一緒にアリシアに会う」
シロは緊張した顔を緩めた。
あたしの計画とは違うけど、和解できるならどっちでもいいのかもしれない。
「いや、これはオレ一人で解決する。時間はかかるかもしれないけど・・・口は出さないでほしい」
「今はそれでもいい。でも、どうしようもなくなったら話してね。それは別に恥ずかしいことじゃない、今度は折れないように支えてあげる」
「・・・ありがとうシロ」
ニルスはまず一人でやってみるのね。
ならあたしも思う通りにやってみよう。
「負担になったらごめんなさい。嫌わないでね・・・僕は君と一緒に戦いたい」
「嫌うわけないだろ?信じてくれていい。それに、思いを打ち明けてくれたこと、すごく嬉しかった。・・・少し、一人で瞑想してくるよ」
ニルスが立ち上がって、あたしたちから離れていった。
あらら・・・照れてるのね。
「ごめんねステラ・・・君の考えもわかるんだけど・・・」
「気にすることないわ、あなたの言ったことは間違っていないもの。不安を無くしたいっていうのは私も同じだから」
ていうか、アリシア様とステラが協力してくれないかな?どっちも女神様の愛はあるんだよね?
「アリシアの目の前で、ニルスを抱きしめたらどんな顔するか楽しみね」
無理そうだ・・・恋敵、そんなふうに思ってそう。
まあ・・・とりあえずあたしはシロと動くか。
◆
「あ・・・あれって王城でしょ?」
あたしは馬車から頭を出した。
遠くに城の塔が見える。
「そうだよ。オレ以外はみんな初めてだな」
日の出前に馬車を走らせた。
そしてなぜか西の入り口・・・ニルスはあたしたちに見せたいものがあるっぽい。
「なにあれ・・・僕の城より大きいじゃないか・・・」
「あら、精霊の城の方が綺麗で私好きよ」
「そ、そうだよね。それに部屋も増やせるし、僕の城のほうがすごいはずだ」
シロは負けたくないみたい。全部水晶なんだから、どう考えても人間の作った城よりは上だと思う。
「もうすぐ川がある。そこから歩く」
「なんで?馬車で街に入っちゃえばいいじゃん」
「そうした方がちょうどいいんだ。それに、馬は人形だから急に消えたら目立つだろ?」
ああ忘れてた・・・キビナでもスナフでもそうしてた。
◆
「ステラ、そんなにくっつかれると歩きづらい・・・」
「じゃあもっとピッタリなら気にならないかも」
あたしたちは馬車を下りて歩き出した。
ステラはニルスとべったりだ。きっと、少しでもああいう時間を作りたいんだろうな。
「恥ずかしいからテーゼでは・・・」
「心配しないで、場所はちゃんと考えるわ」
へえ、そういうのはちゃんとしてるんだ。
ていうか、別にくっついててもいいと思うんだけど・・・。
「ねえ、ミランダもこっちに来て」
「あ、ずるい。僕も」
ステラに手を引かれて、あたしもその塊に加わった。
シロはニルスの背中に張り付いている。
「おじいちゃんも来てよ」
「・・・ではミランダ殿に」
おじいちゃんはちょっといやらしい手つきであたしのお尻を触った。
「奥さんに報告する日が楽しみだよ」
「まあ・・・ナツメは許してくれる」
おじいちゃんが胸の短剣に触れた。
そういやニルスと戦った時も付けてたな。もしかしてずっと?
「それ大事なの?奥さんから?」
「秘密じゃ。ステラ様もお願いします」
「ええ、素敵なしきたりの話ね」
「えー教えてよー」
楽しく話していると少しずつ街が近付き、朝日も昇ってきた。
夜明け・・・あと半年後か・・・。
◆
「みんな、一度離れて街を見てほしい。日の出と重なると、とっても綺麗だって聞いてたんだ」
街へ続く平原の丘、ニルスが立ち止まった
「わあ、本当だ・・・」
「・・・素敵ね」
ニルスはこれを見せたかったのか・・・。
いや、一緒に見たかったんだ。
「街を出る人には旅立ちの光、入る人には迎えの光って呼ばれてる」
王城が太陽の光を遮っている。それでも光は漏れ出して、まるで街全体が輝いているみたいだ。
「旅って楽しいわね。いえ、みんなと一緒だから・・・かな」
「きっとそうだよ。今度はもっと心を軽くして、出発の朝にみんなで見よう」
ああ、いいな。
旅立ちの光をまたみんなで見たい。
そう、半年後だ。その日がきっと来るようにしていこう。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
次回から第三部に入ります。




