第七十九話 太陽蜘蛛【シロ】
人間の求愛ってなんかいいな。
見てると穏やかな気持ちになるし、ニルスとステラも幸せそうだった。
でも・・・ニルスの悪夢はまだ続いている。
もし戦場までにどうにもならなかったら僕は・・・。
◆
テーゼまではあと三日で着くらしい。
だけど、それまでの食材がちょっと足りない。
「あーん、ベッド・・・あたしを待っていたふかふかのベッド・・・」
だから町に寄って、久しぶりに宿に泊まることになった。
「いい・・・どんな男よりもいい・・・」
ミランダはベッドが恋しかったみたいで、両手両足を大きく広げている。
「ミランダ殿は本当にニルス殿より年上か?」
おじいちゃんはミランダの動くお尻を見て微笑んだ。
「く・・・楽しんでるんだから水を差さないでおじいちゃん。それに二つしか違わないでしょ?ニルス、あんた十六だったよね?」
「もう十七になってるから一つだけだね」
たしかに一年とか二年じゃそんなに違いはないかな。
「え・・・あんたいつ十七になったのよ?」
「先月だよ。水の月って教えたでしょ」
「その日にも言ってよね・・・おめでと」
「あはは、ありがとうミランダ」
人間は歳を取るとお祝いされるらしい。
じゃあ僕も・・・。
「ニルス、おめでとう」
「ありがとうシロ」
頭を撫でてもらった。
ん?これでいいのかな?
「なにかお祝いしましょうか」
「ステラ・・・いや、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよ。あんたロレッタであたしの誕生日お祝いしてくれたじゃん・・・早すぎだったけど。だからとにかく今夜はおいしいものを食べに行こう」
「いい案じゃ、たまには店で酒を飲みたい」
なんか楽しい感じになってきたな。
ニルス・・・ずっと穏やかな感じなら僕も心配はないんだけど・・・。
◆
「シロ、一緒に買い物行こうか。鞄を貸してね」
落ち着くとニルスが僕を誘ってくれた。
やった、宿場じゃなくて普通の町でのお買い物は久しぶりだ。
「うん、お菓子もいい?」
「いいよ。一緒においしいのを選ぼう。ステラも行こうよ」
「うん、市場を見てみたいな」
やっぱりみんなで一緒がいいよね。
「あたし眠いからお留守番する。おじいちゃんは?」
「儂も休む、人の多い所は疲れそうじゃ」
「え・・・あたしを襲うためじゃないでしょうね?変だと思ったら股に結界張らせてもらうから」
「儂はナツメに誓いを立てておる。触りはするが、それ以上は無い」
おじいちゃんは胸を張った。
でも触りはするのか・・・。
「それに男女で部屋を分けなかった。つまり・・・」
「みんな一緒の方が楽しいからだよ。おじいちゃんの想像するようなコトないからね」
「ミランダ殿は儂が何を想像しているかわかるのか?」
「・・・なんとなく」
二人はけっこう仲がいい、だから大丈夫だと思う。
「じゃあ、もし外に出る時は書き置きとか残して行ってね。シロ、ステラ、出ようか」
「うん。おじいちゃん、ミランダをよろしくね」
「任された」
「変な意味に聞こえるからやめてよね・・・」
「あはは、とにかく仲良くしててね。じゃあ行ってくるわ」
二人を残して部屋を出た。
おじいちゃんはニルスをかなり信頼しているみたいだ。そうでなきゃ、ステラから離れるようにはしないもんね。
◆
「これだけでいいの?」
「うん、足りるよ」
市場には来たけど、食材はいつもみたいにたくさん買わなかった。
テーゼまではあと三日で着くらしいから、そこまで買い込む必要が無いってことなんだろう。
「ニルス、人が多いわ。手を繋いで」
「あ、ずるい。僕も」
飛んじゃダメだし、今日は一緒だからお小遣いも貰ってない。だから離れないようにしておかなきゃな・・・。
「なにかおやつでも食べていこうか」
「うん、甘いのね」
「そうだね」
これは嬉しい、やっぱりミランダとおじいちゃんも連れ出せばよかったな。
◆
「シロ、そのふわふわしたのはおいしい?」
「うん、甘すぎておいしい」
「ステラのは?」
「こっちはもちもちよ」
入ったのは紅茶とお菓子が食べられるお店だった。
もちろん、選んだのはニルスだ。
「ニルスはお菓子が好きなの?」
ステラは食べる僕たちを笑顔で見ている。なんだか幸せそう。
「甘い焼き菓子が好きなんだ。・・・そうだ、テーゼにおいしいお店がある。着いたらみんなで行こうか」
「ありがとう。じゃあ嫌いな食べ物は?」
「・・・ニンジン」
「へ・・・ふふ、あはは」
ステラが他のお客さんが見てくるほど大きな声で笑い出した。
ニンジン・・・僕が人間たちに伝えたこと、ステラは知らないよね・・・。
「な、なんで笑うの?・・・好き嫌いは仕方ないだろ」
「だって・・・あはは、おかしい」
「・・・」
ニルスは恥ずかしそうに下を向いた。
ミランダもいたらもっと笑われてたかもな。
◆
おやつを食べ終わって店を出た。
まだ明るいけど、もうお買い物は終わりだし一度宿に戻るのかな?
「さっきのお店の人、またご家族でお越しくださいって言ってたね」
「そうね、シロはその見た目だし・・・私とニルスはお母さんとお父さんに見えたのかしら」
「オレの子だとしたら、シロは七つか八つの時に生まれたことになるな・・・」
「いいじゃない。シロ君、ニルスがお父さんでもいいよね?」
家族・・・そう言われてステラはとても喜んでいた。
きっと憧れているんだろうな。
「じゃあお父さん、次は私たちをどこに連れてってくれるの?」
「この町に来たことはないんだ。なにがあるか知らない・・・」
「ふーん、ちょっと待ってて。・・・すみません」
ステラは近くにいた人に話しかけた。
知らない人にすぐ声をかけられるんだな・・・。
「この町に、家族で観光できる場所はありますか?」
「え・・・なんもない所だよ。あ・・・お母さんは苦手かもしれないけど、虫とかの標本を見せてる人がいる。まあ誰も近寄らないけどね」
「どこにありますか?」
「・・・」
ニルスは手のひらで目を隠していた。
こんな姿初めて見るかも。
ステラとニルスはとっても仲良くなってるけど、恥ずかしい時もあるみたい。
「ありがとうございました。・・・よし、シロ君は虫とか好き?」
ステラはとっても嬉しそうな顔で振り返った。
どこでもいいから行きたいって感じなんだろうな。
「うん、好きだよ。城でも育ててたし、ニルスがいいなら見に行きたい」
「オレも大丈夫だよ。夕食まで、まだまだ時間があるしね」
「じゃあ行きましょう。どんなとこだろうね」
標本か・・・楽しみだな。
珍しいのがあったら生きてるのの居場所を探して、僕の城に引っ越してもらうようにしよ。まあ・・・戦いが終わってからだな。
◆
「間違いなくここね・・・」
「平気なのかな?」
「ま、まあ・・・聞いてみましょ。・・・あのー、見学させてもらえるって聞いてきましたー」
ステラが扉を叩いた。
目の前にあるのは普通のおうちだ。周りにそれっぽいのは無いし、間違ってたら謝って諦めるしかないな。
◆
「・・・ようこそ、よく来てくれたね。・・・見学なんて久しぶりだ」
少し待つと細身の男の人が僕たちを出迎えてくれた。
・・・ここで合ってるみたい。
「すまないけど、見学にお金を貰っているんだ。子どもは八百、大人は千、合わせて二千八百エール」
「払います。この子が標本を見たいって泣きわめいて」
「え!!」
たしかに見たいっては言ったけど・・・。
よく考えたら、僕の方がずっとずっと年上だ。次に変なこと言ったら注意してやらないとな。
◆
「・・・あまり整理整頓はされないんですね」
「あはは・・・まあ」
家の中に入れてもらった。
「せめて棚を買うとかした方がいいと思いますよ・・・」
「そうだね・・・」
廊下にまで本がたくさん重なっている。片づけてくれる人もいないみたいだ。
「わあ、蜘蛛だ。かっこいいよね」
重なっていた標本が目に留まった。
「ぼうやも蜘蛛が好きなの?」
「うん、一緒に住んでる。たくさんいるんだ」
「へー・・・いいね。じゃあもっと見せてあげる」
お兄さんは本を荒っぽくどかして、僕たちをさらに奥へ案内してくれた。
恰好とかは割と綺麗だけど、他はあんまり気を回さないんだな・・・。
「あの・・・本は大事にした方が・・・」
「ああ、失礼奥さん・・・でも標本は大事にしてるよ」
標本のほとんどは蜘蛛だった。
そういえば、メピルはちゃんとお世話してくれてるかな?
「ミランダを連れてこなくてよかったな・・・」
ニルスが呟いた。
「そうなの?」
「うん・・・発狂すると思う」
「そうなんだ・・・覚えておくわ」
ニルスがステラにそれを教えてあげた。
たしか、僕の虫部屋を見てかなり取り乱してたって聞いたな。
「どうシロ君、楽しい?来てよかった?」
「う、うん。ありがとうお母さん」
「あ・・・。うん、そうだね。私はお母さん・・・」
ステラは顔を緩ませた。
ここに来れたきっかけだし、少しだけ家族のふりに合わせた方がいいよね。
◆
「ねえねえ、この子ってもっと大きくなるよね?」
「ぼうやは詳しいね。えっと・・・こっちが成長したやつだね」
お兄さんは僕を気に入ってくれた。
「大きいな・・・これが部屋にいたらって考えると恐い」
「私がどうにかしてって言ったらどうする?」
「まあ・・・手袋越しなら・・・」
ニルスとステラも標本を見て楽しんでいた。
ここに来てよかったみたい。
「そういえばお兄さんの名前は?僕はシロだよ」
たくさん見せてもらったけど、まだ名前も知らないことを思い出した。
同じ虫好きとして友達になりたい。
「ああ、そうだよね。ボクはニコル・エネシィ、楽しんでくれて嬉しいよ。・・・誰もここには来てくれないからね」
「どうして?」
「気持ち悪いって・・・」
ニルスの言った通り、ミランダは連れてこなくて正解だった。
今よりも家の中がめちゃくちゃにされたかもしれないからな・・・。
「ご両親も虫にそこまで抵抗はないみたいで助かります。ああ・・・よく見たら随分若いご夫婦だ」
「ありがとう。虫は平気よ」
「・・・」
ニルスはまた目を隠した。
家族って呼ばれることにまだ照れがあるみたい。ここでくらい合わせてあげればいいのに。
「旅行とかで来たんですか?」
「まあ、そんな感じね」
「どうしてこんななにも無い町に?」
ニコルさんはステラの言葉で気をよくしたみたいで、二人にも話しかけ始めた。
「テーゼに行く途中だったんです。私たち、もうすぐ戦士になるんですよ」
「ステラ・・・あんまりそういうことは・・・」
さすがにニルスが止めた。
たしかにそこまで話すことはないな。
「戦士・・・戦場まであと四日でしょ?こんなところにいていいの?」
「次には出ません。殖の月で考えています」
「そうなんだ。・・・それならいいものを見せてあげます。・・・こっちへ」
ニコルさんは廊下に出て僕たちを呼んだ。
いいもの・・・なんだろうな。
◆
「今まで見せたのは一人・・・だったかな。とっても珍しいんだよ」
ニコルさんは一番奥の部屋の前で止まった。
もったいつけたいんだな。
「珍しい・・・どのくらいですか?」
「見ればわかるよ」
「楽しみです」
ニルスが「珍しい」に食いついた。
未知の世界だね。
「早く見たいです。まだ開けてくださらないんですか?」
「僕も早く見たい」
「あはは、シロ君ならきっと気に入るよ。たぶんお母さんも・・・じゃあ・・・どうぞ」
ニコルさんは子どもみたいな顔で扉を開いた。
「あら・・・ここだけ綺麗にしているんですね」
「まあ・・・ここだけですけど」
ちゃんと掃除がされている。
あるのは机と棚が一つだけ、空き部屋って感じだ。なにもなさそうだけど・・・。
「あれを見て」
ニコルさんが天井の隅を指さした。
「あ・・・」
そこには、淡く光る蜘蛛が巣を作りじっとしていた。
二匹だけか・・・。
「光る蜘蛛なんて珍しいでしょ?あれは太陽蜘蛛って言うんだ。なんと・・・番いなんだよ」
「太陽蜘蛛・・・間違いないんですか?」
ニルスの目の色が変わった。
遠くを望む時のようなとても澄んだ目だ。
「え、ああ・・・間違いないよ」
「ニルス、知っている蜘蛛なの?」
「シロ、鞄を貸して」
ニルスはステラの質問には答えずに僕の鞄を開けた。
なにがあったんだろう・・・。
◆
「これだ・・・あの蜘蛛のです」
ニルスが取り出したのは、糸が巻きつけられた細い棒だった。
こんなの持ってたのか。
「え・・・見せて。・・・縦糸だ。どうしてお父さんがこれを持ってるの?」
ニコルさんも驚いている。
そんなに珍しいのかな?
「子どもの頃におみやげで貰ったんです。えっと・・・十年くらい前ですね」
「十年・・・女の子?たしか・・・さ、せ・・・セイラ?」
「そうです。セイラ・ローズウッドさん」
ニルスの知り合いか。
ニコルさんとなにか繋がりがあったみたいだ。
「うん、憶えてるよ。とても可愛らしい人だった・・・かな。テーゼに住んでいる子に見せたいって・・・。お父さんがそうだったんだね」
「はい、オレはニルスといいます」
「・・・十年くらい前か、たしかにそうだ。誰から聞いたのか、彼女が訪ねてきたんだ。なによりも、気持ち悪がらずに楽しそうに話を聞いてくれたのが嬉しかったな」
「セイラさんはオレに夢をくれた人です。たしかに優しい」
・・・旅人のことかな?
子どもの頃のニルスへ夢をあげた人か・・・僕も会ってみたい。
「セイラさんてまだテーゼにいるの?」
「テーゼで運び屋をやってる。仕事が無ければいるから紹介するよ。遊んでもくれたんだ、影踏みは一度も勝てなかったな・・・」
「私も会ってみたい。紹介してね」
ステラもそうなんだ。
きっとニルスのことはなんでも知りたいんだろうな。
「すごい偶然で驚いたよ。見せたいのはその糸だったんだ。先に出されちゃったけど・・・」
ニコルさんはちょっとだけ残念そうに微笑んだ。
まさか持ってるとは思わないしね。
「ああ・・・すみません。たしか、とても強い糸と聞きました」
「そう、太陽蜘蛛の縦糸はとっても強靭だ。自然界で一番かもしれない。刃物も通さないし、火、氷、風・・・大体の魔法は防ぐ、そんな素材なんだ。戦士なら気になるでしょ?」
・・・早口になった。好きなことはとことん喋りたいんだな・・・。
「それで生地を作れば鎧もいらない。戦場にいる・・・ええと・・・火球を吐く奴がいるんだよね?」
「・・・ドラゴン?」
「そう、そいつの火だって防げるはず」
「え・・・本当ですか!」
ニルスも楽しそうだ。
それにしても、そんなにすごいものだったのか・・・。
「ニルス、その糸ちょっとだけ私に貸して」
「いいよ」
ステラも興味を持ったみたいだ。
「絹と似たような糸・・・失礼」
「ちょ!!なにしてんの!!!」
「大丈夫なはずなんでしょ?」
ステラは棒に巻かれたものをほどき、指から炎を出して糸を焼いた。
小さいけど、かなり強い熱だ。
◆
「・・・今のは本当の話みたいね。弱めたけど、私の炎で焼けないなんて・・・」
ステラの炎が消えた。
「・・・驚いたよ。オレの宝物なんだから次からは何するか言ってね」
「ごめんね。はい、ありがとうニルス」
糸は燃えなかったけど、少しだけ焦げが付いているのが見えた。
うーん・・・そこまで強くは無いのかもしれない。
「ニコルさん、たぶんこれは言うほどじゃないと思う。ドラゴンの火球は厳しい感じがするわ。今のだって、私が本気でやれば焼き尽くせそうよ」
ステラも僕と同じようなことを感じたみたいだ。
「いや、本来はもっと強いはずなんだよ。ここにいるのは元気が無いんだ・・・」
「本来?」
「生態はまだ謎が多い、数が少ないから恐くて解剖もできない。ただ、純度の高い水晶を好んで食べる。ここには無いからその辺の石をあげてるんだ。たぶん、そのせいで糸にも影響があるんだと僕は考えている」
「なら水晶をあげればいいわ。それと、繁殖させればいいんじゃないかしら。あれは番いとさっき言っていましたね」
「繁殖させるためには栄養が足りないんだ。そして水晶はお金がかかる・・・」
勝手に増えるもんだと思ってたな。
ああ・・・僕のとこには水晶がたくさんあるからか。
「まあ自慢したかっただけだよ・・・セイラに渡したそれも、たしかにそこまで強くはない・・・」
「いや、今でも大切なものです。強いとか弱いとかはどうでもよくて、夢があるかどうかです。たとえばこの糸で生地が作れたら心強いし、戦士もみんな欲しがる。オレだってそんなものあったら欲しい。そう思わせてくれるだけでいいんです」
「ええ、たしかに夢があるわね。私たちはニコルさんを応援するわ」
ニルス・・・そんなに欲しいんだ。
なら・・・十七歳のお祝いってことにすればいいよね。
「ねえ、あの蜘蛛ならいっぱいいるよ」
「え・・・」
「僕の所にたくさんいる。たしかに水晶が好きだよ。洞窟にあるのを取ってきていつも食べさせてた。それに長生きだよね。あの子たちも十年以上生きてるってことでしょ?」
「・・・」「・・・」「・・・」
三人とも僕を見た。
虫部屋にいる子たちはみんな憶えている。その中で光るのは他にいない。
「まさか・・・あの部屋か?一瞬で気付かなかったな・・・」
「シロ君・・・今の話は本当?君の所って・・・」
「僕は精霊なんだ。この二人とは本当は家族じゃない、でもニコルさんはいい人だから教えた」
僕は部屋の中で飛んで見せた。
これで信用してくれるだろうから・・・。
「え・・・うわ!」
「どこ!太陽蜘蛛はどこにいるの!!」
僕の足がニコルさんに捕まった。
・・・すごい剣幕だ。
「お願いだ。元気なのの生体を研究したいんだ。いや、させてほしい!!」
「二、ニルス・・・助けて・・・」
「いっぱいってどのくらい?大きさは?雄も雌もいるんだよね?」
「落ち着いてください。まず離れて」
ニルスが入ってくれて、僕はやっと床に足を付けられた。
ちょっと恐いくらいだったな・・・。
「ごめんね・・・取り乱した・・・」
「この話を秘密にできるなら、僕の城にいる蜘蛛を研究していい」
「する。シロ君が何者だろうと、三人が家族でなくても正直どうでもいいんだ。だからもちろん誰にも言わないよ」
ニコルさんは即答した。そして、今の言葉に偽りは無い。
まあ、自分の世界を持ってる人みたいだし心配ないかな。
「シロ、良くないわ。精霊の城に人間を招くなんて・・・」
「お母さん!シロ君はいいと言ってくれた!!」
「は・・・はい」
ステラは勢いに負けてしまった。
まあ、ただ教えるわけじゃない・・・。
「条件がある。縦糸、それでニルスに外套を作ってあげたい」
「たくさんいるんならできるよ。まずはそっちを優先する」
「シロ・・・オレは・・・」
「僕がそうしたい。十七歳のお祝いだよ」
「・・・」
ニルスは目を潤ませて頷いてくれた。
あとは、城に行く方法だけど・・・。
「ステラ、城まで連れて行ってほしい。場所は今伝える・・・」
「・・・北部ね。うーん、まあ大丈夫か・・・」
ステラは少し考えたけど引き受けてくれた。
一瞬で行けるのに・・・前に言ってた反動ってやつかな?
あとで・・・調べてみるか。
◆
すぐに行くからニコルさんに支度をお願いした。
もちろん必要な物は僕の鞄で運ぶ。
「わあすごい、家の物を全部運べちゃうんだ・・・」
ニコルさんは大喜びで荷物をまとめている。
まるで引っ越し、ここにあるもの全部持っていく気らしい・・・。
「入れたものは忘れちゃダメだよ?服なんかは衣装棚に入れてしまえばそのまま出てくるから」
「大丈夫、全部覚えてる」
「そうなんだ・・・」
・・・偽りじゃない。かなり頭のいい人なんだな。
「じゃあ、行きましょうか。・・・おいしい水晶が食べられるよ」
ニコルさんは天井にいた二匹を捕まえて小さな籠に入れた。
命は入らないからね。
城にはメピルが一人きり。ニコルさんは人間だけど、誰かいれば寂しくもならないよね。ふふ、驚くだろうな・・・。
『・・・私ね、シロには強い子になってほしいの。だから、ここに戻るまでは呼びかけも禁止ね』
だから、何も伝えずに行くね。
メピル、僕は立ち向かうことにしたんだ。それが君の言った強い子なら、また褒めてほしいな。




