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Our Story  作者: NeRix
水の章 第二部
83/481

第七十九話 太陽蜘蛛【シロ】

 人間の求愛ってなんかいいな。

見てると穏やかな気持ちになるし、ニルスとステラも幸せそうだった。


 でも・・・ニルスの悪夢はまだ続いている。

もし戦場までにどうにもならなかったら僕は・・・。



 テーゼまではあと三日で着くらしい。

だけど、それまでの食材がちょっと足りない。

 

 「あーん、ベッド・・・あたしを待っていたふかふかのベッド・・・」

だから町に寄って、久しぶりに宿に泊まることになった。

 「いい・・・どんな男よりもいい・・・」

ミランダはベッドが恋しかったみたいで、両手両足を大きく広げている。


 「ミランダ殿は本当にニルス殿より年上か?」

おじいちゃんはミランダの動くお尻を見て微笑んだ。

 「く・・・楽しんでるんだから水を差さないでおじいちゃん。それに二つしか違わないでしょ?ニルス、あんた十六だったよね?」

「もう十七になってるから一つだけだね」

たしかに一年とか二年じゃそんなに違いはないかな。


 「え・・・あんたいつ十七になったのよ?」

「先月だよ。水の月って教えたでしょ」

「その日にも言ってよね・・・おめでと」

「あはは、ありがとうミランダ」

人間は歳を取るとお祝いされるらしい。

じゃあ僕も・・・。

 「ニルス、おめでとう」

「ありがとうシロ」

頭を撫でてもらった。

ん?これでいいのかな?


 「なにかお祝いしましょうか」

「ステラ・・・いや、大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないよ。あんたロレッタであたしの誕生日お祝いしてくれたじゃん・・・早すぎだったけど。だからとにかく今夜はおいしいものを食べに行こう」

「いい案じゃ、たまには店で酒を飲みたい」

なんか楽しい感じになってきたな。

ニルス・・・ずっと穏やかな感じなら僕も心配はないんだけど・・・。



 「シロ、一緒に買い物行こうか。鞄を貸してね」

落ち着くとニルスが僕を誘ってくれた。

やった、宿場じゃなくて普通の町でのお買い物は久しぶりだ。

 「うん、お菓子もいい?」

「いいよ。一緒においしいのを選ぼう。ステラも行こうよ」

「うん、市場を見てみたいな」

やっぱりみんなで一緒がいいよね。


 「あたし眠いからお留守番する。おじいちゃんは?」

「儂も休む、人の多い所は疲れそうじゃ」

「え・・・あたしを襲うためじゃないでしょうね?変だと思ったら股に結界張らせてもらうから」

「儂はナツメに誓いを立てておる。触りはするが、それ以上は無い」

おじいちゃんは胸を張った。

でも触りはするのか・・・。


 「それに男女で部屋を分けなかった。つまり・・・」

「みんな一緒の方が楽しいからだよ。おじいちゃんの想像するようなコトないからね」

「ミランダ殿は儂が何を想像しているかわかるのか?」

「・・・なんとなく」

二人はけっこう仲がいい、だから大丈夫だと思う。


 「じゃあ、もし外に出る時は書き置きとか残して行ってね。シロ、ステラ、出ようか」

「うん。おじいちゃん、ミランダをよろしくね」

「任された」

「変な意味に聞こえるからやめてよね・・・」

「あはは、とにかく仲良くしててね。じゃあ行ってくるわ」

二人を残して部屋を出た。

 おじいちゃんはニルスをかなり信頼しているみたいだ。そうでなきゃ、ステラから離れるようにはしないもんね。



 「これだけでいいの?」

「うん、足りるよ」

市場には来たけど、食材はいつもみたいにたくさん買わなかった。

 テーゼまではあと三日で着くらしいから、そこまで買い込む必要が無いってことなんだろう。


 「ニルス、人が多いわ。手を繋いで」

「あ、ずるい。僕も」

飛んじゃダメだし、今日は一緒だからお小遣いも貰ってない。だから離れないようにしておかなきゃな・・・。


 「なにかおやつでも食べていこうか」

「うん、甘いのね」

「そうだね」

これは嬉しい、やっぱりミランダとおじいちゃんも連れ出せばよかったな。



 「シロ、そのふわふわしたのはおいしい?」

「うん、甘すぎておいしい」

「ステラのは?」

「こっちはもちもちよ」

入ったのは紅茶とお菓子が食べられるお店だった。

もちろん、選んだのはニルスだ。


 「ニルスはお菓子が好きなの?」

ステラは食べる僕たちを笑顔で見ている。なんだか幸せそう。

 「甘い焼き菓子が好きなんだ。・・・そうだ、テーゼにおいしいお店がある。着いたらみんなで行こうか」

「ありがとう。じゃあ嫌いな食べ物は?」

「・・・ニンジン」

「へ・・・ふふ、あはは」

ステラが他のお客さんが見てくるほど大きな声で笑い出した。

ニンジン・・・僕が人間たちに伝えたこと、ステラは知らないよね・・・。


 「な、なんで笑うの?・・・好き嫌いは仕方ないだろ」

「だって・・・あはは、おかしい」

「・・・」

ニルスは恥ずかしそうに下を向いた。

ミランダもいたらもっと笑われてたかもな。



 おやつを食べ終わって店を出た。

まだ明るいけど、もうお買い物は終わりだし一度宿に戻るのかな?


 「さっきのお店の人、またご家族でお越しくださいって言ってたね」

「そうね、シロはその見た目だし・・・私とニルスはお母さんとお父さんに見えたのかしら」

「オレの子だとしたら、シロは七つか八つの時に生まれたことになるな・・・」

「いいじゃない。シロ君、ニルスがお父さんでもいいよね?」

家族・・・そう言われてステラはとても喜んでいた。

きっと憧れているんだろうな。

 

 「じゃあお父さん、次は私たちをどこに連れてってくれるの?」

「この町に来たことはないんだ。なにがあるか知らない・・・」

「ふーん、ちょっと待ってて。・・・すみません」

ステラは近くにいた人に話しかけた。

知らない人にすぐ声をかけられるんだな・・・。


 「この町に、家族で観光できる場所はありますか?」

「え・・・なんもない所だよ。あ・・・お母さんは苦手かもしれないけど、虫とかの標本を見せてる人がいる。まあ誰も近寄らないけどね」

「どこにありますか?」

「・・・」

ニルスは手のひらで目を隠していた。

 こんな姿初めて見るかも。

ステラとニルスはとっても仲良くなってるけど、恥ずかしい時もあるみたい。


 「ありがとうございました。・・・よし、シロ君は虫とか好き?」

ステラはとっても嬉しそうな顔で振り返った。

どこでもいいから行きたいって感じなんだろうな。

 「うん、好きだよ。城でも育ててたし、ニルスがいいなら見に行きたい」

「オレも大丈夫だよ。夕食まで、まだまだ時間があるしね」

「じゃあ行きましょう。どんなとこだろうね」

標本か・・・楽しみだな。

 珍しいのがあったら生きてるのの居場所を探して、僕の城に引っ越してもらうようにしよ。まあ・・・戦いが終わってからだな。



 「間違いなくここね・・・」

「平気なのかな?」

「ま、まあ・・・聞いてみましょ。・・・あのー、見学させてもらえるって聞いてきましたー」

ステラが扉を叩いた。


 目の前にあるのは普通のおうちだ。周りにそれっぽいのは無いし、間違ってたら謝って諦めるしかないな。



 「・・・ようこそ、よく来てくれたね。・・・見学なんて久しぶりだ」

少し待つと細身の男の人が僕たちを出迎えてくれた。

・・・ここで合ってるみたい。


 「すまないけど、見学にお金を貰っているんだ。子どもは八百、大人は千、合わせて二千八百エール」

「払います。この子が標本を見たいって泣きわめいて」

「え!!」

たしかに見たいっては言ったけど・・・。

 よく考えたら、僕の方がずっとずっと年上だ。次に変なこと言ったら注意してやらないとな。


 

 「・・・あまり整理整頓はされないんですね」

「あはは・・・まあ」

家の中に入れてもらった。

 「せめて棚を買うとかした方がいいと思いますよ・・・」

「そうだね・・・」

廊下にまで本がたくさん重なっている。片づけてくれる人もいないみたいだ。


 「わあ、蜘蛛だ。かっこいいよね」

重なっていた標本が目に留まった。

 「ぼうやも蜘蛛が好きなの?」

「うん、一緒に住んでる。たくさんいるんだ」

「へー・・・いいね。じゃあもっと見せてあげる」

お兄さんは本を荒っぽくどかして、僕たちをさらに奥へ案内してくれた。

恰好とかは割と綺麗だけど、他はあんまり気を回さないんだな・・・。


 「あの・・・本は大事にした方が・・・」

「ああ、失礼奥さん・・・でも標本は大事にしてるよ」

標本のほとんどは蜘蛛だった。

そういえば、メピルはちゃんとお世話してくれてるかな?


 「ミランダを連れてこなくてよかったな・・・」

ニルスが呟いた。

 「そうなの?」

「うん・・・発狂すると思う」

「そうなんだ・・・覚えておくわ」

ニルスがステラにそれを教えてあげた。

たしか、僕の虫部屋を見てかなり取り乱してたって聞いたな。


 「どうシロ君、楽しい?来てよかった?」

「う、うん。ありがとうお母さん」

「あ・・・。うん、そうだね。私はお母さん・・・」

ステラは顔を緩ませた。

ここに来れたきっかけだし、少しだけ家族のふりに合わせた方がいいよね。



 「ねえねえ、この子ってもっと大きくなるよね?」

「ぼうやは詳しいね。えっと・・・こっちが成長したやつだね」

お兄さんは僕を気に入ってくれた。


 「大きいな・・・これが部屋にいたらって考えると恐い」

「私がどうにかしてって言ったらどうする?」

「まあ・・・手袋越しなら・・・」

ニルスとステラも標本を見て楽しんでいた。

ここに来てよかったみたい。


 「そういえばお兄さんの名前は?僕はシロだよ」

たくさん見せてもらったけど、まだ名前も知らないことを思い出した。

同じ虫好きとして友達になりたい。


 「ああ、そうだよね。ボクはニコル・エネシィ、楽しんでくれて嬉しいよ。・・・誰もここには来てくれないからね」

「どうして?」

「気持ち悪いって・・・」

ニルスの言った通り、ミランダは連れてこなくて正解だった。

今よりも家の中がめちゃくちゃにされたかもしれないからな・・・。


 「ご両親も虫にそこまで抵抗はないみたいで助かります。ああ・・・よく見たら随分若いご夫婦だ」

「ありがとう。虫は平気よ」

「・・・」

ニルスはまた目を隠した。

 家族って呼ばれることにまだ照れがあるみたい。ここでくらい合わせてあげればいいのに。


 「旅行とかで来たんですか?」

「まあ、そんな感じね」

「どうしてこんななにも無い町に?」

ニコルさんはステラの言葉で気をよくしたみたいで、二人にも話しかけ始めた。

 「テーゼに行く途中だったんです。私たち、もうすぐ戦士になるんですよ」

「ステラ・・・あんまりそういうことは・・・」

さすがにニルスが止めた。

たしかにそこまで話すことはないな。


 「戦士・・・戦場まであと四日でしょ?こんなところにいていいの?」

「次には出ません。殖の月で考えています」

「そうなんだ。・・・それならいいものを見せてあげます。・・・こっちへ」

ニコルさんは廊下に出て僕たちを呼んだ。

いいもの・・・なんだろうな。



 「今まで見せたのは一人・・・だったかな。とっても珍しいんだよ」

ニコルさんは一番奥の部屋の前で止まった。

もったいつけたいんだな。


 「珍しい・・・どのくらいですか?」

「見ればわかるよ」

「楽しみです」

ニルスが「珍しい」に食いついた。

未知の世界だね。


 「早く見たいです。まだ開けてくださらないんですか?」

「僕も早く見たい」

「あはは、シロ君ならきっと気に入るよ。たぶんお母さんも・・・じゃあ・・・どうぞ」

ニコルさんは子どもみたいな顔で扉を開いた。


 「あら・・・ここだけ綺麗にしているんですね」

「まあ・・・ここだけですけど」

ちゃんと掃除がされている。

 あるのは机と棚が一つだけ、空き部屋って感じだ。なにもなさそうだけど・・・。


 「あれを見て」

ニコルさんが天井の隅を指さした。

 「あ・・・」

そこには、淡く光る蜘蛛が巣を作りじっとしていた。

二匹だけか・・・。


 「光る蜘蛛なんて珍しいでしょ?あれは太陽蜘蛛って言うんだ。なんと・・・番いなんだよ」

「太陽蜘蛛・・・間違いないんですか?」

ニルスの目の色が変わった。

遠くを望む時のようなとても澄んだ目だ。

 「え、ああ・・・間違いないよ」

「ニルス、知っている蜘蛛なの?」

「シロ、鞄を貸して」

ニルスはステラの質問には答えずに僕の鞄を開けた。

なにがあったんだろう・・・。



 「これだ・・・あの蜘蛛のです」

ニルスが取り出したのは、糸が巻きつけられた細い棒だった。

こんなの持ってたのか。


 「え・・・見せて。・・・縦糸だ。どうしてお父さんがこれを持ってるの?」

ニコルさんも驚いている。

そんなに珍しいのかな?

 「子どもの頃におみやげで貰ったんです。えっと・・・十年くらい前ですね」

「十年・・・女の子?たしか・・・さ、せ・・・セイラ?」

「そうです。セイラ・ローズウッドさん」

ニルスの知り合いか。

ニコルさんとなにか繋がりがあったみたいだ。


 「うん、憶えてるよ。とても可愛らしい人だった・・・かな。テーゼに住んでいる子に見せたいって・・・。お父さんがそうだったんだね」

「はい、オレはニルスといいます」

「・・・十年くらい前か、たしかにそうだ。誰から聞いたのか、彼女が訪ねてきたんだ。なによりも、気持ち悪がらずに楽しそうに話を聞いてくれたのが嬉しかったな」

「セイラさんはオレに夢をくれた人です。たしかに優しい」

・・・旅人のことかな?

子どもの頃のニルスへ夢をあげた人か・・・僕も会ってみたい。

 

 「セイラさんてまだテーゼにいるの?」

「テーゼで運び屋をやってる。仕事が無ければいるから紹介するよ。遊んでもくれたんだ、影踏みは一度も勝てなかったな・・・」

「私も会ってみたい。紹介してね」

ステラもそうなんだ。

きっとニルスのことはなんでも知りたいんだろうな。


 「すごい偶然で驚いたよ。見せたいのはその糸だったんだ。先に出されちゃったけど・・・」

ニコルさんはちょっとだけ残念そうに微笑んだ。

まさか持ってるとは思わないしね。

 「ああ・・・すみません。たしか、とても強い糸と聞きました」

「そう、太陽蜘蛛の縦糸はとっても強靭だ。自然界で一番かもしれない。刃物も通さないし、火、氷、風・・・大体の魔法は防ぐ、そんな素材なんだ。戦士なら気になるでしょ?」

・・・早口になった。好きなことはとことん喋りたいんだな・・・。


 「それで生地を作れば鎧もいらない。戦場にいる・・・ええと・・・火球を吐く奴がいるんだよね?」

「・・・ドラゴン?」

「そう、そいつの火だって防げるはず」

「え・・・本当ですか!」

ニルスも楽しそうだ。

それにしても、そんなにすごいものだったのか・・・。


 「ニルス、その糸ちょっとだけ私に貸して」

「いいよ」

ステラも興味を持ったみたいだ。

 「絹と似たような糸・・・失礼」

「ちょ!!なにしてんの!!!」

「大丈夫なはずなんでしょ?」

ステラは棒に巻かれたものをほどき、指から炎を出して糸を焼いた。

小さいけど、かなり強い熱だ。



 「・・・今のは本当の話みたいね。弱めたけど、私の炎で焼けないなんて・・・」

ステラの炎が消えた。

 「・・・驚いたよ。オレの宝物なんだから次からは何するか言ってね」

「ごめんね。はい、ありがとうニルス」

糸は燃えなかったけど、少しだけ焦げが付いているのが見えた。

うーん・・・そこまで強くは無いのかもしれない。

 

 「ニコルさん、たぶんこれは言うほどじゃないと思う。ドラゴンの火球は厳しい感じがするわ。今のだって、私が本気でやれば焼き尽くせそうよ」

ステラも僕と同じようなことを感じたみたいだ。

 「いや、本来はもっと強いはずなんだよ。ここにいるのは元気が無いんだ・・・」

「本来?」

「生態はまだ謎が多い、数が少ないから恐くて解剖もできない。ただ、純度の高い水晶を好んで食べる。ここには無いからその辺の石をあげてるんだ。たぶん、そのせいで糸にも影響があるんだと僕は考えている」

「なら水晶をあげればいいわ。それと、繁殖させればいいんじゃないかしら。あれは番いとさっき言っていましたね」

「繁殖させるためには栄養が足りないんだ。そして水晶はお金がかかる・・・」

勝手に増えるもんだと思ってたな。

ああ・・・僕のとこには水晶がたくさんあるからか。


 「まあ自慢したかっただけだよ・・・セイラに渡したそれも、たしかにそこまで強くはない・・・」

「いや、今でも大切なものです。強いとか弱いとかはどうでもよくて、夢があるかどうかです。たとえばこの糸で生地が作れたら心強いし、戦士もみんな欲しがる。オレだってそんなものあったら欲しい。そう思わせてくれるだけでいいんです」

「ええ、たしかに夢があるわね。私たちはニコルさんを応援するわ」

ニルス・・・そんなに欲しいんだ。

なら・・・十七歳のお祝いってことにすればいいよね。


 「ねえ、あの蜘蛛ならいっぱいいるよ」

「え・・・」

「僕の所にたくさんいる。たしかに水晶が好きだよ。洞窟にあるのを取ってきていつも食べさせてた。それに長生きだよね。あの子たちも十年以上生きてるってことでしょ?」

「・・・」「・・・」「・・・」

三人とも僕を見た。

虫部屋にいる子たちはみんな憶えている。その中で光るのは他にいない。


 「まさか・・・あの部屋か?一瞬で気付かなかったな・・・」

「シロ君・・・今の話は本当?君の所って・・・」

「僕は精霊なんだ。この二人とは本当は家族じゃない、でもニコルさんはいい人だから教えた」

僕は部屋の中で飛んで見せた。

これで信用してくれるだろうから・・・。


 「え・・・うわ!」

「どこ!太陽蜘蛛はどこにいるの!!」

僕の足がニコルさんに捕まった。

・・・すごい剣幕だ。

 「お願いだ。元気なのの生体を研究したいんだ。いや、させてほしい!!」

「二、ニルス・・・助けて・・・」

「いっぱいってどのくらい?大きさは?雄も雌もいるんだよね?」

「落ち着いてください。まず離れて」

ニルスが入ってくれて、僕はやっと床に足を付けられた。

ちょっと恐いくらいだったな・・・。


 「ごめんね・・・取り乱した・・・」

「この話を秘密にできるなら、僕の城にいる蜘蛛を研究していい」

「する。シロ君が何者だろうと、三人が家族でなくても正直どうでもいいんだ。だからもちろん誰にも言わないよ」

ニコルさんは即答した。そして、今の言葉に偽りは無い。

まあ、自分の世界を持ってる人みたいだし心配ないかな。

 

 「シロ、良くないわ。精霊の城に人間を招くなんて・・・」

「お母さん!シロ君はいいと言ってくれた!!」

「は・・・はい」

ステラは勢いに負けてしまった。

まあ、ただ教えるわけじゃない・・・。

 「条件がある。縦糸、それでニルスに外套を作ってあげたい」

「たくさんいるんならできるよ。まずはそっちを優先する」

「シロ・・・オレは・・・」

「僕がそうしたい。十七歳のお祝いだよ」

「・・・」

ニルスは目を潤ませて頷いてくれた。

あとは、城に行く方法だけど・・・。


 「ステラ、城まで連れて行ってほしい。場所は今伝える・・・」

「・・・北部ね。うーん、まあ大丈夫か・・・」

ステラは少し考えたけど引き受けてくれた。

 一瞬で行けるのに・・・前に言ってた反動ってやつかな?

あとで・・・調べてみるか。



 すぐに行くからニコルさんに支度をお願いした。

もちろん必要な物は僕の鞄で運ぶ。


 「わあすごい、家の物を全部運べちゃうんだ・・・」

ニコルさんは大喜びで荷物をまとめている。

まるで引っ越し、ここにあるもの全部持っていく気らしい・・・。


 「入れたものは忘れちゃダメだよ?服なんかは衣装棚に入れてしまえばそのまま出てくるから」

「大丈夫、全部覚えてる」

「そうなんだ・・・」

・・・偽りじゃない。かなり頭のいい人なんだな。

 「じゃあ、行きましょうか。・・・おいしい水晶が食べられるよ」

ニコルさんは天井にいた二匹を捕まえて小さな籠に入れた。

命は入らないからね。

 

 城にはメピルが一人きり。ニコルさんは人間だけど、誰かいれば寂しくもならないよね。ふふ、驚くだろうな・・・。


 『・・・私ね、シロには強い子になってほしいの。だから、ここに戻るまでは呼びかけも禁止ね』

だから、何も伝えずに行くね。

 メピル、僕は立ち向かうことにしたんだ。それが君の言った強い子なら、また褒めてほしいな。

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