第七十三話 心の内【ミランダ】
キビナを離れれば離れるほど周りの空気が暖かくなってきた・・・ていうか暑い。
もう深の月・・・夏なんだから当然か。
てことは、スナフに着くのは真夏くらいになるよね?
あ・・・そしたら前から考えてたひんやりシロを抱いて寝るってのができる。
うわ・・・絶対気持ちいいじゃん・・・。
「ミランダ、集中してないでしょ?瞑想の意味が無いよ」
怒られた・・・。
◆
キビナを離れて七日、馬車はずっと南へ向かっている。
「シロ、なにか甘いものが食べたい」
ニルスが子どもみたいな声を出した。
あたしは目を瞑っているからどんな顔かまでは謎だ。
「お菓子?果物?」
「・・・お菓子」
「じゃあ・・・これがいいかな。一緒に食べよ」
あたしが瞑想中なのに・・・。
「うわあああああ!!!」
「え・・・なに・・・」
「どうしたのミランダ?」
一人だけ除け者にされたみたいでムカついた。
「あのさ、あたしだけつまんないじゃん。せめて瞑想終わってからにしてよね」
「いや・・・景色見てたら食べたくなって」
「お腹減ったの?あとでミランダにもあげるよ」
「そういうこと言ってんじゃないの」
待っててくれてもいいと思う。でもそのまま言うのは負けた気がする。
「とにかく、あたしが瞑想終わるまでお菓子は禁止よ」
「・・・見てシロ、あそこに変な形の岩がある」
「あ・・・本当だ」
「お喋りも禁止よ!」
鈍い奴らね。アカデミーの女かっての・・・。
「シロ、一回馬車停めて。集中できるように御者台に行く」
「あ、オレも行きたい」
「じゃあ僕もー」
・・・わかってるじゃん。
◆
なにも無い平原で馬車が停まった。
今日はここで野宿だ。
「今回は寄らないけど、今いる所から東にゴーシュの街があるんだ」
ニルスが地図を広げた。
ゴーシュ・・・ロイドのとこか。・・・そして、別れた元恋人がいる街でもある・・・。
『大丈夫だよ。昼間は仕事で帰ってこないからさ』
「愛してる」無しで別れた唯一の男・・・顔も見たくないからしばらく近付きたくない。
「ねえねえ、どんな街なの?」
「オレは本の知識だけだからな・・・。ミランダが詳しいんじゃない?」
「そうね・・・。北部で一番大きな街だよ。夢水の庭って呼ばれてるの」
「夢水?」
シロがかわいく首を傾けた。
仕方ない、教えてや・・・。
「大きな湖の上に作られた街なんだ。釣り人たちが面白がって桟橋をどんどん作っていったのが始まりで、だったらもう住んでしまおうって誰かが言い出した。話はどんどん大きくなって、じゃあ自分たちも協力しようって建築家や設計士も集まってきたんだ」
「へー、おもしろいね」
あたしはおもしろくない・・・。
「こら!」
「え・・・なに?」
「あたしにも言わせてよ」
「ああ・・・ごめん」
まったく・・・。
「街にはたくさんの水路があるの。小舟で移動したりするんだよ」
「ふんふん」
「で、夜になると光の魔法で水が照らされてとっても綺麗なんだ。夢水の庭はそこからだね」
「わあ、ミランダもすごいね」
ふふん、歴史なんかよりこういう話の方が楽しいでしょ。
「ロイドさんは衛兵団の中で一番強かったって言ってたんだ。戦場の雰囲気に飲まれてしまってたけど、千人に選ばれてるから実力はあるんだろうね」
ニルスが微笑んだ。
そうだったのか・・・。
「一番ってことは夢水の灯火ってことだよね?」
「うん、そう言ってたよ」
「なにそれ?」
シロがまた首を傾けた。
かわいいなこいつ・・・。
「ゴーシュの衛兵団の精鋭だよ。本当に強い奴じゃないと入れないの」
「そうなんだ・・・よく知ってるね」
「まあ・・・ちょっと住んでたことあるからね。人口も多いし、観光客もいっぱい来るから犯罪もけっこうあるのよ。だから捕り物なんか毎日見れるし、それが名物にもなってるね」
「楽しそう。いつか・・・一緒に行こうね」
シロはちょっとだけ不安そうに笑った。
未来を思う時、戦いのことも浮かんじゃうんだろうな。
「シロ、オレはゴーシュ以外にも行きたいところがたくさんあるんだ。全部一緒に行こう」
「ニルス・・・うん」
「約束だよ」
ニルスがシロの頭を撫でた。
あとであたしもやってあげよう。
◆
「はい、夜食の卵のスープだよ」
あたしの瞑想が終わったところで、ニルスが声をかけてくれた。
「ありがとう。僕これ大好き」
「あたしも好きー」
野宿の時も瞑想は欠かしてない。それに終わるとニルスがなにか作ってくれるから頑張れる。
「卵がたくさんあるからさ・・・」
「あはは、市場の救世主だもんね」
「変なあだ名はやめてほしいんだけどな・・・」
キビナを出る前に市場で食料をたくさん買い込んできた。
もちろん夕方の売れ残りを全部だ。
「キビナの孤児院って野菜作って売ってるんだね。健気でかわいい、買ってあげたくなっちゃうよ」
「今回は豆でよかった・・・」
「あたし、ニンジンのスープも好きなんだけど・・・」
「機会があったらね・・・」
キビナにも孤児がいるってのはちょっと驚いた。
大きな町でもないのに親がいないってのはどんな事情・・・気持ちが暗くなるからやめよう。売りに来た子たちは笑顔だったから、特に不自由は無さそうだしね。
「卵屋のお姉さんが喜んでたよ。ニルスのおかげで新しいベッドが買えたんだって」
シロが明るい話に戻してくれた。
それならあたしも・・・。
「お肉屋のおじいちゃんも屋根を直せたって言ってたよ。元々貯めてたけど、あんたのおかげで早まったってさ」
「別に助けるつもりで買ったわけじゃないんだけどな・・・。また旅に出るって言った時にみんながっかりしてた・・・あれ辛かったよ」
「まあ・・・気にしない気にしない」
火を囲んでのなんでもない話・・・こんな日がずっと続けばいいんだけどな。
「ねえ、例えばだけどさ。次の戦場の時に勝負仕掛けるって・・・やっぱダメ?」
憂鬱なことは早く終わらせたい。だからなんとなく聞いてみた。
あたしの修行で時間はかかったけど間に合いはする。ニルスは「鍛えたい」って言ってたけど、本心はすぐにでも終わらせたいはずだ。
「あたしの守護もあるし、輝石もあるからニルスとシロも大丈夫でしょ?それに聖女もいるじゃん?」
「オレ・・・あんなにひどくやられる前までは、一人で守れるなんて自惚れてたんだ・・・」
ニルスが大人びた顔をした。
「ミランダの守護は頼りになる。だけど、オレの力はまだ足りないと思うんだ」
「ニルス・・・」
「まだ鍛える・・・必ず勝つためだ」
「僕もその方がいいと思う。ニルスの不安が残ったままは危ない・・・」
シロも同じ考えみたいだ。じゃあ、あたしも一緒がいいな。
「なら、そうしよ。あたしも今が限界だなんて思ってないしね」
「ありがとうミランダ。今回は・・・本当に頼りにしてるからね」
ニルスがあたしの目を見て言ってくれた。
ふふ、信頼されてるっていいな。
「任せといてよ!ジナスが青ざめるくらいになってみせる。あの時殺しておけばって思わせてやるんだから」
「あいつが青ざめる・・・見てみたいな」
「シロもそれですっとするでしょ?」
「うん・・・僕も頼りにしてるよ」
これがいい・・・。もっと、もっと強くなろう。
◆
「明日でオーゼの川を越えられるな」
ニルスが現在地を確かめた。
もうじき深の月も終わり、水の月になろうとしている。
ずいぶん進んだな・・・。
聖女のいるスナフに辿り着くのは、早くても水の月の終わりくらいって感じらしい。シロの馬車で、街道を無視してひたすら南下してもそれだけかかる。大陸・・・広いなぁ・・・。
早く戦いのための旅を終わらせて、三人で世界中を巡る日が来るといいな・・・。そう思っていたから馬車からの景色をあんまり見ずに瞑想を続けた。
荷物は軽い方がいい、楽しむのは余計な重荷を降ろしてからだ。
「あたしも南部の土を踏む日が来たのか・・・」
「橋を渡る時は、ゆっくりにしようか」
「うーん・・・記念だからそうしよっかな」
でも・・・ちょっとくらい楽しむのはいいよね。
南北を繋ぐ橋は三つある。今回は東のだ。
「ねえ、オーゼに会っていってもいい?」
シロがお菓子を取り出した。
ああ、そういや川にいる・・・。
「もちろんだ。話してから行こう」
「そうよね・・・。あれからのことなんにも知らないだろうし、ちゃんと説明しとこっか」
一人だけ除け者はダメだ。
今回のこと、全部教えていかないと。
◆
「なるほど・・・戦場の下にいたんだ・・・」
オーゼはすぐに出てきてくれた。
ジナスが来た感じも無い、本当に何もできないって思われてるみたいだ。
「イナズマとチルはすべて知っていたのね・・・私は女神様から信用されていないのかしら・・・」
「それは仕方無いけど・・・女神様は不安にさせてごめんねって謝ってくれたよ」
「謝るよりも私を一番愛してほしいわ」
女神様は精霊たちにとって本当に特別な存在みたいだ。
人間で言うとお母さんみたいなものなのかな?「愛してほしい」ってそういう感じよね。
◆
「じゃあ、私もあなたたちに付いていくわ」
話が終わると、オーゼは微笑んだ。
これが一緒に・・・楽しいかも。
「待って、僕は別々の方がいいと思う。水脈も同じくらい大事だし」
シロがオーゼを止めた。
そうなんだ・・・。
「まあ・・・一緒に行っても離れることは多いと思うけど・・・」
「でしょ?それに気配を探られて、一緒にいるのがバレたら来るかもしれない。だからとりあえずここにいて。・・・でも、戦いに必要な時は呼ぶ」
ああ・・・たしかにその方がいいのかな。
あ・・・そういえばジナスのとこに行けるのは輝石の数と同じ四人よね?オーゼがいたらあたしはいらないってなるかもしれない。・・・ちょっと焦るな。うん、もっと鍛えよう。
「・・・わかったわ。あなたたちを信じましょう」
「うん、信じてて」
シロとオーゼが手を合わせた。
これで全部の精霊との繋がりもできたわね。
「ミランダ、あなたの鞄はもうできているわ。早く渡せる日に行きたいわね」
「うん、その日は必ず来るよ。だから・・・待ってて」
「ふふ・・・じゃあ、待ってるわ」
オーゼとの約束ができた。
女神様を解放したら、真っ先に会いに来よう。
◆
「いやー、南部の風を感じるわね。ほら、ニルスとシロも」
橋を渡りきったところで、馬車の窓を開けた。
三人で一緒に・・・これが大事だ。
「風・・・一緒だと思うけど。匂いも・・・変わりない」
「あーん?」
「いや・・・たしかに南部の風だ。ふふ・・・あはは、なんか楽しいな」
「だよねー。合わしといた方がいいんだって」
自然と出てくる笑顔が一番いいよね。
「あ・・・今さらだけど、ネルズには寄らなくてよかったの?」
ニルスが首を引っ込めて、本当に今さらな気を遣ってくれた。
寄りたかったら言ってる。だから心配ないんだけどな。
「全部終わってからでいいよ」
ていうか、今は絶対に行けない。メルダはあたしの体を『とても綺麗』だって言ってて、ちょっとした傷も許さなかった。
だから、この傷痕を見られでもしたら激昂してニルスが殺されるかもしれない。
「そうだな、全部・・・終わってから紹介して」
ニルスの目線が、服越しだけどあたしの傷痕をなぞった。
ふふ、いい心がけだ。
◆
「暗い時に走るのって楽しいな。明日も夜明け前に出る?」
南部に入って五日目の夜、ニルスは焚き火を見ながらニヤニヤしだした。
子どもか・・・。
「走るんなら街道はやめとこうよ・・・」
「なんかみんな驚くから面白くて」
ニルスが「夜にも馬車を走らせてみたい」って言ったからやってみた。
だけど・・・。
「運び屋のお姉さんとか悲鳴上げてたじゃん・・・」
「御者がいないのに走ってるからだろうね。それに水晶だし、かなり妖しいんじゃない?」
「馬車を光らしてんのもよくないと思う。眩しいくらいならまだいいかもしんないけどぼんやりじゃん。知らなかったらあたしだって叫ぶよ」
「・・・綺麗なんだけどな。運び屋はみんな肝が据わってると思ってたのに・・・」
急ぎの荷物を運んでる人は、夜でも馬車を走らせる。
光の魔法で正面を照らしてるから道は大丈夫なんだろうけど、突然あたしたちのこれが出てきたら驚くに決まってるでしょ・・・。
「テーゼが近いからってのもあるな・・・もう少し南下したらにしようか・・・」
「ダメとは言ってないでしょ?街道を避けろって言ってんのよ」
「街道が気持ちいいんだけどな・・・」
ニルスは残念そうにミルクを飲んだ。
なんかこだわりがあるんだろうな・・・。でも、誰かに迷惑をかけるのはダメだ。こっちは楽しくても、そうじゃない人もいるからね。
◆
最北のキビナを出てもうじきふた月、最南のスナフまであと二日の所まで来た。
水の月・・・真夏で外は暑いけど、シロが馬車の中を涼しくしてくれてるから快適だ。
・・・おかげでお喋りも楽しい。
「聖女ってどんな顔してんだろうね。やっぱりアリシア様みたいに美人なのかな?」
「オレはアリシアに似てなければどっちでもいい。・・・協力してもらえるように頼むだけだ」
「えー、気になんないの?もしかしたらニルスが恋に落ちちゃうくらいかわいいかもよ」
「そういうの・・・よくわかんない・・・」
あ・・・ふざけて言っただけなのに暗くなった。
少年ニルスは戦いしか教えてもらってないのよね。言わなきゃよかったな・・・。
・・・ん?でもお父さんとは色々喋ったって言ってたけど、そういうこと話さなかったのかな?
「ねえねえ、お父さんと女の子の話とかしなかったの?」
「・・・苦手だし、そういう話になると部屋に戻ってた。・・・アリシアとの夜の話までされたよ」
うわ・・・聞きたいけど、さすがに今は無理だな。
でも、女の話は踏み込ませてもらう。
「あんたさ、別に女に興味無いわけじゃないでしょ?あたしの胸とかお尻よく見てるしね」
視線は気付いてたけど放っておいてた。
ニルスとシロになら見られても恥ずかしくない。・・・あたしも見るしね。
「いや・・・女の子の体・・・どうなってるのか気になるし・・・」
ニルスはほっぺを赤くして、過ぎ去っていく景色へ視線を移した。
へえ、そういうこと正直に言うんだ・・・。
「あたしじゃなくて、女の子の体?」
「・・・そういうこと」
なるほどね、あたしに恋心は無い感じだ。・・・よかった。
「まあ、あたし気にしないからこれからはじっくり、舐めるように見ていいよ」
「・・・気が向いたらね」
「カッコつけて純情ぶってると損するよ。男なんだから仕方ないじゃん」
「・・・じゃあ、見る」
素直になればいい。ただ・・・雰囲気が変わってきたらちょっと困るな。
あんたとは、仲間がいいからさ・・・。
「・・・ていうか、別にカッコつけても純情ぶってもいないよ」
「そう見えるんだよ」
「見えたからって・・・どんな損するの?」
「え・・・うーん・・・そうだな・・・」
説明してって言われるとちょっと困るな。
なんて言おう?
「どうしたの?やっぱないんじゃん」
ニルスが煽ってきた。
こいつ・・・。
「あるよ・・・例えば・・・カッコつけてるうちに・・・好きだなって思ってる女誰かに取られたり・・・」
「・・・そうなの?」
「そ、そうだよ・・・気に入った女はすぐに抱き寄せないとダメ。はい、この話終わり」
苦しい・・・よく考えたらニルスにそれは無いかもしれない。
だって、女から来るもん・・・。
「ねえねえ、ステラに会うには聖女の騎士っていうのを倒さないとダメなんでしょ?」
黙っていたシロが話題を変えてくれた。
助かった・・・話に入ってこなかったけど、ずっと考えてたのかな?
「そうだっては聞いてるけどね。でもさ・・・雷神も本当は優しいらしいし、案外すぐに会わせてもらえるかもよ」
情報が人から人に伝わる時に話が大きくなるのはよくあることだ。
騎士がいるのは嘘じゃないけど、倒さないと会えないっていうのは無いんじゃないかな。
「勝たないと会えないのは本当だよ。騎士から戦いを教わっていた人から聞いたから間違いない」
ニルスがこっちに顔を向けた。
あたしの期待を一瞬で打ち砕いてくれちゃって・・・。
「でも、まず女神様とのことを話してみればいいんじゃない?それならって、すぐ会わしてくれるかもしれないじゃん」
「そうだね、今回は事情がある。先にそれを言ってみよう」
だよね。戦わずに連れ出せるならそれが一番いい。
「僕、ニルスなら大丈夫だと思う。やらなきゃいけなくても会えるよ」
「どうかな・・・当代の騎士は、歴代でも相当強いって聞いた。そうなったらオレがやってみる」
「ニルスよりも強いのはあんまり想像つかないや」
あたしもシロと同じ意見だ。ジナスは別としても、誰かに負けるなんて想像できない。
「・・・まあ、正面から挑んでみてもいいかもね」
ニルスの口元が一瞬だけ緩んで見えた。
こいつ、実は戦ってみたい?
「あんたに任せるよ。・・・やってみたいの?」
「騎士を倒せないようじゃ、ジナスに勝つのも無理だろうからね。どのくらい強いのか・・・気になる」
「へえ、そういうのあるんだ」
「あるよ・・・二人には話そう」
ニルスは余計に口元を持ち上げて歯を見せた。
「教えて」
「あたしも聞きたいな」
もちろん聞く。心の内側、もっと見せてほしい。
◆
「アリシアと同じだと思いたくなかった・・・話した夢を忘れられていた怒りもあったから・・・」
ニルスが話してくれたのは戦場での記憶だった。
嫌で嫌で仕方がなかったけど、なぜか昂ったらしい。
戦場の話は、なんか聞きづらかった。
だからあたしから聞いたことは無い。自分から話してくれたのは、あたしとシロが信頼できる仲間だからなんだろうな。
「わかんないあたしが言うのもなんだけど・・・。もう気持ちに嘘をつかない方がいいんじゃない?騎士と戦うの、楽しみってことでしょ?」
「うん・・・すごくね」
「じゃあ、やってみ」
「あはは・・・でもまずは事情を話すよ。それでもやらなきゃいけないならって感じだね」
アリシア様にもこのくらい素直に心を話せないもんなのかな?
あたしとしてはそうなってほしいんだけど・・・。
「ねえニルス、嫌じゃなかったら周りにいた人たちのことも聞きたいな」
シロがニルスの腕をつついた。
これすごくいい、あたしも聞いときたい。
「別に嫌じゃないよ。テーゼに行ったら会うかもしれないし、教えておく」
ニルスはいつもの調子で言ってくれた。
こういう感じで話してくれるのはなんか嬉しい。だから絶対に裏切らないようにしていこう。
◆
「・・・まあ、みんないい人たちだよ」
ニルスは照れながら教えてくれた。
すごくいい情報をたくさん仕入れられたわね。
前にロレッタで事情を聞いた時はアリシア様とお父さんの話だけだったけど、今日は色んな人のことが聞けた。
べモンド、ウォルター、ジーナ、イライザ、スコット、ティララ、テッド、セイラ・・・他にもたくさん。
その中でも、あたしが気になったのは戦士じゃないルルって人だ。
ニルスが自分を保てたのは、その人がいたかららしい。しかもアリシア様の友達、仲直りさせるならきっと協力してくれるはず・・・。
「ねえニルス、あたしルルさんの酒場で飲みたいなー。あんたも会いたいんじゃない?」
「・・・そうだね。ルルさんには二人を紹介してもいいな」
「ていうか、他の戦士もいい人なんでしょ?みんな紹介してよ・・・」
「・・・わかった」
ニルスは頷いてくれた。
『・・・必要ないよ。軍団長にだけ話すつもりだ。訓練場にも顔を出す気ないし。名前を伏せてもらって、当日も顔を隠して出る・・・』
あの時と違う。今は会ってもいいって思ってるみたいだ。
おみやげもあるし、前向きになってきてるってことなんだろうな。
とりあえずテーゼに着いたらルルさんを紹介してもらおう。
ニルスの理解者・・・あたしと同じ気持ちだといいな。




