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Our Story  作者: NeRix
水の章 第二部
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第六十六話 泣き顔【シロ】

 一晩明けて朝になった。

キビナの夜明けは他よりも遅い、高い山脈を背負っているせいもあるんだろうな。


 外套ができるまであと六日か・・・。

僕は別に寒くないからいらないんだけどな。



 「こっちの料理って味濃くておいしいよねー」

「うん、体が温まるのが早い気がする」

宿の食堂で朝を済ませて、部屋に戻ってきた。

お昼までは暇だから・・・。


 「僕フラニーの様子見てくるよ。町の中も探検してくるね」

朝食の時から考えていた。

 ニルスには悪いけど、フラニーに魂の魔法で注意することをしっかり教えてあげないといけない。


 「あんた一人で平気?」

「うん、ミランダの瞑想が終わるまでには戻るよ。ちゃんと思いを高めて集中してね」

「言われなくてもやるよ」

お昼までミランダは瞑想をしている。そのあとから僕が修行を付ける予定だ。


 「シロ、お小遣いをあげる。でも無駄遣いはダメだよ」

ニルスが財布を取り出した。

ちょっと話してくるだけだしお小遣いは・・・お菓子を買おう。



 「今日はずっと晴れ・・・かな」

外に出ると、積もった雪が太陽の光を反射してとっても明るくなっていた。

 きのうまで空にあった分厚い雲は流れてしまい、開放感のある青が広がっている。


 「ぼうやはお出かけ?」

宿のおばあちゃんが窓から声をかけてきた。

 「うん、町を見てくるの」

「お父さんとお母さんはお留守番?」

「え・・・ああ・・・うん」

家族だと思われてるのか・・・。

まあ、その方が都合がいい。

 

 「じゃあ行ってきまーす」

「雲鹿の牧場も見てくるといいよ。市場の奥に歩いていけばあるから」

「牧場・・・ありがとう」

フラニーの所を早く終わらせて行ってみよ。


 本当は飛びたいけど、騒がれちゃダメって言われてるから歩かないといけない。

僕は子どもじゃないから言いつけはちゃんと守ろう。



 「・・・シー・・・うう・・・」

歩いていると、おうちの庭でしくしく泣いている女の子がいた。

背丈は僕より少しだけ低いくらいで、髪の毛は正反対の黒だ。


 「・・・どうしたの?」

子どもが泣くことはよくある。だから通り過ぎてもよかった。

 「なんで泣いてるの?」

だけど、きっとニルスたちなら声をかけるだろうなって思ったら話しかけていた。

 「なんでも・・・ないよ・・・」

女の子は震えた声で答えて、また泣き出した。

・・・困ったな、なんでもないわけないよね。


 「じゃあ、ちょっとだけ一緒にいてあげるよ」

「・・・」

女の子は何も言わなかったけど、僕が隣に立っても嫌がらなかった。

やっぱり寂しかったんだな。

 メピルも、ミランダも、ニルスも、僕が寂しかったり悲しかったりした時は寄り添ってくれた。

たぶん、今のこの子にも必要なことだ。


 「泣き止むまでね・・・」

「あ・・・」

僕はうなされたニルスにしてあげたのと同じように、女の子にも安らぎの魔法をかけてあげることにした。

 「あと・・・嫌だったら言ってね」

「・・・あったかい」

手で触れているだけでは、なんだか心許ない気がする。

だから、泣き顔を隠すように抱きしめてあげた。


 みんなから貰った愛・・・。

僕も嬉しかったから、この子もそうだと思う。


  

 「今日の朝にね・・・シーが死んじゃったの・・・」

鼻をすする音がいつの間にか無くなり、女の子が話し出した。

それでも、顔はまだ僕の胸にくっつけたままだ。


 「シーって?」

「一緒に住んでた猫・・・ここはシーのお墓・・・お父さんとお母さんが、お仕事に行く前に作ってくれたの」

たしかに足元には掘り返した跡がある。

 猫か・・・。

命の長さは人間と違う。だからいつかは別れがあっただろうけど、この子みたいに小さい時だと、悲しみを乗り越えるのに時間がかかるだろうな。


 「きのうの夜から自分で動けなくなってたの・・・朝はまだ生きてたんだ。・・・わたしの顔を見て鳴こうとしてるんだけど、声がもう出なかったみたいで・・・口にお水を入れてあげたんだ。そしたらちょっとだけ声が出せて・・・それきりだった・・・。猫って・・・弱いとこ見せないんだって・・・」

「仲良しだったんだね」

「・・・うん」

「僕も・・・そういうことあったんだ。・・・一緒だね」

この子がシーを思う気持ちと、僕が消された精霊たちを思う気持ちは似ているんだろう。

偶然通りかかっただけ・・・でも見つけられてよかった。



 「一緒にいてくれてありがとう」

女の子はすっかり泣き止んで、ちょっとだけ口元を持ち上げてくれた。

僕もニルスみたいになれたかな?


 「お礼なんていいよ。でも・・・泣いてる君を残して仕事に行くなんて、お父さんもお母さんも冷たいね」

「んーん、そんなことないよ。二人とも忙しいのに、シーのお墓を一緒に作ってくれた。それにお父さんは屋根の雪降ろしが仕事なんだ。急がないと雪で潰されちゃうおうちが出ちゃうよ」

この町ならではの仕事ってことか、手作業は大変だな。

 たぶん風の魔法で飛ばすこともできるけど、雪だけ動かすっていうのはよっぽど素質があって熟練した人じゃないと難しいしね。


 「それじゃお母さんは?」

「お母さんはきのうから忙しくなったの。いつもはそうでもないんだけどね」

それでもこの子と猫のためにお墓を作ってあげたのか。優しい人たちなんだろうな。


 「・・・ねえ、シーはずっと土の下にいるの?それともどこかに行っちゃったの?」

女の子がお墓を見つめた。

 「え・・・それは・・・」

なんでこんなこと聞いてくるんだろう?僕が精霊だってことはわからないはず・・・。

 「えーとね・・・」

「ん・・・ごめんね。死ぬってどういうことなのかなって思ったんだ。君に聞いても仕方ないよね・・・」

ああそうか、ただ気になったことを口にしただけみたいだ。


 命は流れる・・・大きな流れに溶けてまた巡る。だから、この子が大好きだった猫はもう二度と戻らない。

 自分の死を感じて、受け入れていただろうから迷ってしまうこともないはずだ。そうなってたら・・・いるはずだしね。

真実は・・・言わないでおこう。


 「僕もシーがどうなるのかはわからない。でも君が忘れないでいてあげれば、きっと幸せだと思うよ」

シーっていう猫が大好きだったこの子に、本当のことを伝える必要は無いと思った。

 「わたしが・・・うん・・・ありがとう」

残された者は想うことしかできない。・・・だからこれでいい。

だってこの子は少しだけ元気になってくれたから・・・。



 「ごめんね、なにか急いでたりした?」

女の子の涙はすっかり乾いた。

今はどうしてか、僕の髪の毛を見ている。


 「平気だよ」

お昼までに戻ればいいし、この子が気にすることじゃない。

 「本当に?」

なんで疑うんだろ?この子は偽りを見抜く力は持ってないはず・・・もう話を変えちゃおう。


 「本当だよ・・・えーと、君の名前は?」

「バニラだよ、あなたは?」

「僕はシロ」

「えっ!そうなの!・・・シロ君・・・えへへ」

バニラは初めて自然な笑顔を作ってくれた。

・・・急になんだ?


 「僕の名前・・・変かな?」

「違うの。シーはね、白猫だからシーって名前にしたんだって。あなたの髪の毛もシーとおんなじミルク色・・・だから驚いたんだ」

だから髪を見てたのか。

 「僕は猫じゃないよ。せ・・・人間だもん」

「わかってるよ。でもシーみたいにわたしのそばにいてくれたから・・・」

・・・変な力が働いたみたいに思われてる?

もう大丈夫そうだし、フラニーのとこに行こうかな・・・。

 

 「ねえ、シー君はこの町の子?わたしとは別なアカデミーだよね?」

バニラが僕を見つめている。

う・・・まだ一緒にいないとダメか?

 「違うよ。・・・シー君てなに?」

「シー君はシー君、じゃあどこから来たの?」

「僕は・・・えっと、旅人なんだ」

「なんだ・・・残念だな。一緒に遊ぼうと思ったのに・・・」

バニラは肩を落とした。


 なんかこの子の勢いに流されてるぞ。

・・・逃げないといけない気がする。 


 「まあ・・・まだこの町にはいるよ。・・・悪いけど、僕これから行く所があるから」

「やっぱり用事があったんだね・・・」

「あ・・・大した用じゃないよ。きのう行ったお店に顔を出すだけ」

「お店・・・じゃあわたしも一緒に行く」

バニラが僕の手を握った。

 しっかりと繋がれた手は、すぐには離してくれそうにない。なんでこうなるんだ・・・。


 「いいでしょ?」

まあ・・・フラニーの所までだったら別にいいか。

 「ちょっとだけだよ」

「ありがとうシー君」

しょうがないな・・・。

店まではそんなに距離もない、用事が終わったら家に帰すことにしよう。



 二人で商店通りに入った。

フラニーの店はもうすぐだ。


 「あ、見てシー君。あそこのお店ね、おいしいのがいっぱいあるんだよ。あ・・・」

バニラが一軒のパン屋さんを指さした時、一緒にお腹を鳴らした。

猫のあくびみたいな音だったな。


 「なにも食べてないの?」

「朝は・・・シーのことで忘れてたの」

バニラは恥ずかしそうにお腹に手を当てた。

・・・仕方ないな。

 「僕、お小遣いあるからパンを買おうよ」

「え・・・悪いからいいよ。お昼にお母さんが一回戻るからそれまで我慢する」

「・・・僕も朝食べてないから」

自分でもなんでかわからないけど嘘をついた。

 「だから一緒に食べよう?」

「・・・うん」

バニラの白い肌が薄紅色に染まっている。

おいしいのが食べられるから嬉しいんだろうな。



 「どれがおいしいの?」

お店の中には色んな形のパンが並んでいた。

たくさんあるから迷うな・・・。


 「全部おいしいよ」

「甘いのはどれ?」

「えーとね、ここから甘いのだよ」

「いい匂い・・・」

あ・・・違う。バニラのために入ったんだから、決めてもらわないとダメだ。

 「おすすめのパンは?」

「これと・・・これかな」

「じゃあそれを二つずつにしよう」

「あ、待って。これに取るんだよ。決まったらあそこでお金を払うの」

バニラが銀色のお盆にパンを乗せた。

・・・そうだったのか。


 「あとね、ここはお店で食べるとミルクか紅茶を出してくれるの」

「お砂糖入れてもいいの?」

「テーブルにあるよ」

ふーん・・・いいお店だ。



 「まだお小遣いあるから、二つで足りなかったら言ってね」

お金を払ってテーブルに座った。

ミランダくらい食べるかもしれないからな・・・。


 「え・・・これで足りるよ。でも、ありがとうシー君」

「気にしないで。早く食べようよ」

「どっちから食べるの?わたしも一緒がいいんだ」

「えっとね・・・ハチミツの方。紅茶の香りがする方は、ミルクと一緒に」

とってもいい香りで楽しみだった。

さっそく食べてみよう・・・。


 「・・・どうシー君?」

「うん、おいしいね」

「でしょ?お腹空いてると余計にそう思うよね」

「う・・・うん」

嘘は別に悪いことだけじゃない。だって、バニラと一緒に食べたパンは本当においしかったから・・・。

これは無駄遣いじゃないよね。



 「あれ・・・シー君が言ってたお店ってここなの?」

「うん、きのう注文したんだ。どんな感じか様子を見に来ただけだよ」

フラニーのお店に着いた。

今日は晴れてるから看板がよく見える。


 「え・・・シー君がお客さんだったの?」

「どういうこと?」

「ふふ、ここはわたしのお母さんのお店なんだよ」

え・・・。

 「じゃあ・・・バニラはフラニーの・・・」

「そうだよ。なんか運命って感じするね」

「そ・・・そうだね」

お母さんはきのうから忙しくなった・・・でもいつもはそうでもない・・・たしかそう言ってた。

さっき「冷たいね」なんて言っちゃったけど、僕たちのせいじゃないか・・・。


 「あの・・・ごめんね。僕たちが注文したから・・・」

「え・・・もしかしてさっきのこと気にしてるの?」

僕はなにも言えずに下を向いた。

当たり前だよ。理由を知ってたら言わなかった。


 「そんな顔しないでよ。早く入ろ」

「え、待って・・・」

バニラは僕の手を引いて、お店の扉を勢いよく開いた。

 

 きのうよりも扉に付けられた鈴の音が大きく聞こえる。

どんな顔すればいいんだ・・・。



 「あらバニラ・・・元気になったのね。・・・ずっと泣いてたから心配だったのよ」

奥からフラニーが顔を出した。


 「もう大丈夫なんだ。シー君が一緒にいてくれたんだよ」

僕はバニラの後ろに隠れていた。

さっきのこともあって気まずい・・・。

 「シー君て・・・あ、シロちゃん」

でもフラニーにはすぐに気付かれてしまった。

この髪の毛のせいだ・・・。


 「しばらくは落ち込んでるだろうなって思ってたけど、どうやってバニラを元気にしてくれたのかな?」

「いや、別に・・・一緒にいただけだよ」

「そうなの、お母さんたちと違ってシー君は一緒にいてくれたんだよ」

「あ・・・ごめんね」

フラニーがちょっとだけ暗い顔になった。

バニラは責めるような言い方はしてない、むしろ僕を褒めるように笑顔で・・・。


 「ぎゅっとしてくれたんだよ」

「・・・そうなんだ」

困った、そんな言い方やめてよ。

フラニーは僕たちのために作ってくれてるんだから・・・。

 「あの・・・気にしないで。バニラが一人になったのは僕たちのせいだし・・・元気出してよ」

「シロちゃん・・・ふふ、けっこうオトナなのね」

「そうだよ。シー君は他の男の子と違ってオトナなんだ」

「あらあら・・・ふーん・・・」

フラニーは少しだけ元気になってくれた。

たしかに僕は大人だからな・・・。


 「そういえばシー君はなんの用があったの?」

「ふふ、もしかして私がちゃんと仕事をしてるか見に来たの?」

「あ・・・えっとね。魂の魔法について教えることがあるの」

とりあえずこれが本来の目的だったからな。

話したら宿に戻ろう。



 「小さいのに物知りなのね・・・」

フラニーへの説明が終わった。

「わかった」とか言ってほしいな。


 「気をつけてね。愛しか込めちゃダメ」

「わかったわ。・・・でも、シロちゃんから愛って・・・ふふ」

「お母さん、シー君を笑わないで」

「と、とにかくしちゃダメ。それと、誰彼構わず伝えることもしないでほしい。約束して」

大丈夫だろうけど、しっかり言っておいた方がいいよね。


 「任せて、素敵な魔法は愛のためだけに使う。・・・これでいい?」

フラニーは笑顔で僕たちの頭を撫でてくれた。

そう、それでいい。


 「ちょうどいいから休憩にしましょ。紅茶を淹れてあげるわ」

「あ・・・僕甘くしてほしいな」

「ふふ、お菓子も出してあげるね」

「お母さん、シー君のはわたしがやる」

二人は奥に入っていった。

まあ・・・出るのはお菓子を食べたらでいいか。



 僕の前にお菓子と紅茶が置かれた。

おいしいパンのあとにお菓子も食べられるなんて得したな・・・。


 「シー君はいつまでキビナにいるの?」「どこから来たの?」「なんで旅をしてるの?」

バニラはとてもお喋りみたいで色々聞いてくる。

 「輝石が見つかるまで」「ここから南西」「ニルスとミランダに誘われたから」

僕は曖昧に答えて流していた。

詳しい話はしない方がいい。


 「んー、でもシロちゃんてアカデミーはどうしてるの?」

フラニーが困ることを聞いてきた。

 アカデミー・・・人間の子どもが勉強しに行く所・・・。バニラも通ってるみたいだけど、今日はお休みらしい。

 「えっと・・・」

「きのうは聞かなかったけど、いくつなの?」

「あ・・・そうだよ。わたしは七歳だよ。次の深の月で八歳」

「バニラの一つか二つ上くらい?」

どうしよう・・・。


 「ニルスもミランダも家族ではないみたいだし・・・気になるわね」

「あの・・・えっと・・・たしかに家族じゃないけど・・・」

「違ってたら悪いんだけど、シロちゃんって孤児だったの?」

「・・・そうじゃない」

苦しい・・・精霊だってことくらいは話してもいいか・・・な。

 

 「あのね・・・騙すつもりはなかったけど、僕は精霊なんだ」

秘密にしてもらえばいいよね。

 「・・・精霊?」

「ほんと?」

当たり前だけど、二人とも信じてないって感じだ。

 「本当だよ。僕はずっとずっとずーっと昔からこの世界にいる」

「かわいい男の子にしか見えないけど・・・」

「うん、ちょっと信じられないよ」

「わかった。証明する」

実際に力を見せれば早い、人間にはできないこと・・・。


 「え・・・お母さん?」

「な、なに・・・」

「僕が作ったの。これは精霊にしかできないことだよ」

フラニーの人形を作った。

目の前にいるし、まったく同じにしたつもりだ。

 「バニラも作れるよ」

「え・・・あ、わたしだ・・・」

「ちょ・・・ちょっと見させて」

二人の顔色が変わってきてる。

ふふん、まあこんなもんだよね。


 「わかった?精霊の僕にアカデミーは必要ないんだ。輝石を探している理由は悪いけど話せない。それと、僕が精霊だってことは誰にも言わないでね」

「・・・わかったわ、誰にも言わない。じゃあニルスとミランダも?」

「二人は人間、僕に協力してくれてるんだ。そして僕を人間と同じように扱ってくれる。だからフラニーとバニラも僕が精霊だからって気を遣わないでね」

いい人たちだから話した。

きっと約束は守ってくれるだろう。


 「シロちゃんがいいなら、私も接し方は変えないわ」

「わたしも変えないよ。それに・・・なんか素敵」

バニラが抱きついてきた。

・・・なんかこの子、すぐ僕に触ってくるな。



 「あ・・・お昼の鐘だ。僕もう行かないと」

フラニーは仕事に戻ったけど、バニラとずっと話してて時間が過ぎてしまっていた。

 

 まずい・・・二人の気配が町の入り口に向かってる。

僕が来ないからもう出ちゃったんだ・・・。


 「え・・・お昼もって思ってたんだけど・・・」

バニラは寂しそうな顔をしている。

でも、遊びに行くわけじゃないし・・・。

 「ごめんねバニラ。約束があるんだ」

「あ・・・」

「フラニー、僕もう行くね。お菓子ありがとう」

「ええ、こちらこそバニラのことありがとね」

急がないといけない。

飛べば早いけど・・・走るしかないな。



 「シー君待って!」

外に出て走り出したところで、バニラの大声が追いかけてきた。

なんだ・・・急いでるのに。


 「どうしたの?」

「わたしも一緒に行く!」

「え・・・ダメだよ。これから戦いの修行をするんだ」

「じゃあ見てる。シー君がここにいる間一緒にいたい」

なんでこうなる・・・。

 「お昼はどうするの?」

「いらない」

「町の外でやるから、お腹減ったら困っちゃうよ」

「心配しなくていいよ」

説得する時間はなさそうだ。

連れて行って二人に説明すれば帰らせてくれるはず・・・。


 「・・・わかったよ、じゃあ走るからね」

「うん、また手を繋いで」

・・・しょうがないな。

僕はバニラの手を引いて町の入り口へと急いだ。


 「ねえねえ、シー君って甘いお菓子好きなの?」

「え・・・うん、好きだよ」

「あそこの赤い看板のお店ね、焼き菓子がおいしいんだよ。今日じゃなくていいから一緒に行こうね」

バニラはなにが楽しいのか、ずっと笑顔で走っている。

まあ、泣き顔よりは全然いいかな。

どうでもいい話 8


47話でこの世界の言語についての会話を入れたのは、このお話があったからです。


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