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Our Story  作者: NeRix
水の章 第一部
63/481

第六十話 イナズマ【シロ】

 イナズマ、応えて・・・。

君が女神様から託された願いは、風に乗って僕を迎えに来てくれた。


 長い間ごめんね・・・。 

君がたった一人で育てた種はもう芽吹いている。


 早く・・・早く話をしよう。



 三人で外に出た。

ここ一帯に僕の意識を飛ばし、イナズマと会うためだ。


 「ではミランダ裁判を開廷します。被告人ニルスは、乙女ミランダの服を無理矢理捲り、その美しい肌をいやらしい目で見た・・・よって有罪」

後ろから呑気な話が聞こえる。

ミランダは、さっき服を脱がされたことに怒っているみたいだ。

 「さあ、償いを・・・」

「あの・・・」

ミランダは裸を見せたくなかったわけじゃなくて、ニルスが負担になるようなものを増やしたくなかっただけ・・・。


 『・・・ミランダ?』

『え・・・大丈夫だよ』

ニルスには『平気だよ』って言ってたけど、きのう着替える時に傷痕をなぞって悲しい顔をしていた。だからそうなんだろう。

 もう見られてしまったけど「本当に大丈夫」って伝えたくてこんなことをしているんだと思う・・・たぶん。

 

 「ちょっと待て、いやらしい目では見てない」

ニルスもそれを感じているからなのか、明るく振舞っている。

・・・この話はどこで決着がつくんだろう。


 「あ・・・そういえば、オレを着替えさせたのは誰だ?」

ニルスが反撃の手がかりを思いついたみたいだ。

・・・ミランダがやってたな。

 「う・・・あたしよ」

「見たのか?」

「・・・見た。ちょっと触っていじった」

「・・・触った?」

あ、風向きが変わった。


 「いや違う・・・あの血だらけでボロボロの服を着せたままはあまりにもかわいそうだと思ったのよ。それにそこも汚れてたら嫌かなって思って・・・愛・・・そうこれは愛!むしろ感謝してもらわないといけない」

「く・・・」

・・・また逆転した。

 「だからさっきは・・・ミランダ様の体をいやらしい目で見たいので、少しだけ服を上げていただけませんか?って言うのが礼儀じゃないかしら」

「いやらしいは違う・・・」

「・・・なに?文句?」

「いや・・・認めます・・・」

仲がいいから、信頼しているからこういうやり取りができるんだろうな。

 でも、本当の気持ちは早いうちに伝えてほしい、そうすればもっと心が近付くはずだ。

 

 「ミランダ裁判にかけられたら必ず有罪になるのよ。あたしが訴えた時点で決まってるんだ」

「・・・魔女」

「なんか言った?」

「・・・いえ」

裁判は終わったみたいだ。結局、償いはしなくていいのかな?



 「シロ、まだイナズマ来ないの?」

「まだ・・・」

「こっち来た意味あんの?」

「ミランダが見たいって言ったんだろ・・・」

僕たちは工房へ移動した。

ニルスの言った通り、ミランダが「見たい」って駄々をこねたから・・・。


 「次はイナズマが見たい」

「待つしかないよ」

「まったく、王様が呼んでんのになんで来ないのよ」

僕は地脈を通じてずっと意識を送っていた。

 近くにいればとっくに気付いてるだろうから、たぶん役目でどこかに行ってるんだな。


 「あ、そうだ。ニルス、戻ったら最初にくれた干し肉作ってよ。あたしあれ好きよ」

「ああ、あれ二日はかかるんだ。イナズマと話せれば明日の朝には出発するからまた今度ね」

「残念・・・でも約束よ。それを償いとしましょう」

「うん、約束する」

さっきの変な裁判は忘れてたわけじゃないのか。

干し肉・・・僕も食べてみたいな。


 「やっぱ戻るか・・・お腹減った。朝食べてないし・・・」

「あれ・・・そういえばきのうは何食べたの?」

「鞄にでっかいお肉の塊があったから焼いて食べた」

「え!!!」

ニルスが大声を出した。

他にもあったけど、ただ焼くだけでよかったからな・・・。


 「どうしたのよ?なんかに使う予定だった?」

「旅に出たら・・・ああいう肉を丸ごと串に刺して一気にかぶりつくのが夢だった。焚き火で・・・外で・・・楽しみにしてて・・・いつにしようか考えてたところだった・・・」

そうだったのか・・・。

 「あはは・・・貪っちゃったよ・・・」

「・・・」

ニルスが黙った。

これは本当にダメだったっぽいぞ・・・。


 「いや・・・なんて言うか・・・血が必要な日でもあったって言うか・・・ほら・・・わかるでしょ?」

「・・・」

「わかった!おっぱい吸わしたげる!さっきの判決も無かったことにするから・・・」

「・・・」

結局戻らないのかな?

なんか気まずいし、残ったおやつを全部出してあげよう・・・。


 

 「・・・よく来たなシロ。それに・・・ケルトの息子か。・・・いい出逢いだ」

太陽が沈む頃、イナズマが僕たちの前に姿を現した。

期待していた未来がやっと訪れた・・・そんな顔だ。


 「あ・・・やっと来たの?随分待たせんのね」

「ミランダ、イナズマにも役目があるんだ。許してあげて」

「別に怒ってないよー。・・・てかいい男じゃん。ちょっとニッコリしてみてよ」

「・・・精霊に男女や雌雄は無い。だが、待たせてすまなかった。地脈は他と違い繊細なんだ」

僕やチルなんかはほとんど手放しだけど、イナズマとオーゼはそうもいかないからな。


 「・・・そんな真剣に返さないでよ。とりあえず話そうよ」

「そうだな・・・」

イナズマが僕に近付いてきた。

 「シロ・・・精霊鉱を見て、俺に会いに来たのか?」

「うん、僕は王だから女神様を助けるんだ」

「そうか・・・ではすべて教えよう。実は・・・俺だけが女神様から託されていたことがある」

あ・・・そうだよね。イナズマはまだ知らない。

 

 「実は・・・もう女神様に会ったんだ。全部聞いてきた」

「なんだと・・・。女神様はどこにいたんだ!!」

う・・・そりゃ知りたいよね・・・。

 「戦場の地下深くにいた。・・・ジナスに縛られて、ずっと戦士たちの命を流していたんだ」

「地下・・・」

イナズマが驚くのも無理はない。僕だってそうだとは思わなかったし・・・。


 「だから、やるべきことはわかってる。でも・・・ごめんね。ずっと待ってたんだよね・・・」

「気にすることはない。女神様は焦るなと言った。だから精霊鉱を授ける人間を見極められたのだ」

イナズマはニルスを見つめた。

何を思っているんだろう。


 「ニルス・・・だったな。なにか大きな力が働いているように感じる」

「父さんは・・・すべて知っていたの?」

「どうだろうな・・・契約はしたが、俺から世界の話はしていない」

「そうなのか・・・」

イナズマがニルスのお父さんと契約して精霊鉱を作ったこと、そこに女神様が作ったアリシアが現れたこと、二人の子どもが僕を連れ出したこと・・・。

女神様の思いが全部繋がろうとしている。


 『イナズマにアリシアの存在を教えてあげてくださいね』

そうだ、これだけは教えないといけない。

 


 「・・・巡り合わせか」

「そうだね。他に言いようがないよ」

イナズマにアリシアの存在を教えた。

奇跡・・・そういうものなんだと思う。


 「存在は知っていたが・・・気付かなかったな」

「人間だからね」

「叫びの力か・・・ステラからなにか魔法を授かったのかと思っていた」

「けっこう見てたんだね・・・」

あれ・・・でも・・・。

 「髪の毛はステラと同じだって言ってたよ。姿の記憶は貰ってないの?」

「無い。俺が記憶を渡されたのは、ステラを作り出す直前だ。どういう存在かは知っているが姿はわからん」

「近くに行くことは無かったの?」

「あの辺りは安定している。おそらく、ステラの土地にある結界の力だろう。それに・・・万が一居場所を探られたら厄介だからな」

ああ・・・そういうことか。あいつの気まぐれで監視された時に、そこにいたら勘繰られるかもしれない。


 「なんにしてもだ。ケルトとアリシア・・・二人の息子がシロを連れ出してくれた。感謝しているぞニルス」

「精霊の城に行ったのは偶然だったんだ。オレも大きな流れを感じている・・・」

「その果てに女神様の解放があるのだろう。・・・ニルス、託していいのか?」

「いいよ。戦場・・・終わらせたいんだ」

ニルスは力強く頷いた。

 今の言葉に偽りは無い。ずっと苦しかったらしいから、それも目的の一つなんだろう。


 「まあ任しときなよ。あたしが二人を守ってあげるからさ」

ミランダが笑顔で割り込んできた。

できれば、戦いに連れて行きたくはないんだけどな・・・。

 「・・・賑やかな女だな。名前は・・・」

「ミランダ。守護の素質があるって女神様に教えてもらった」

「そうか・・・シロ、もう授けたのか?」

「まだ・・・」

あとで渡そうとは思っていた。

自分の身は守れるように・・・。


 「なら、俺から渡そう」

イナズマはミランダの頭に手を置いた。

 「じっとしていろ」

「頭じゃないとダメなの?」

「どこでも一緒だ」

「じゃあ・・・こっちがいい」

ミランダは頭に置かれた手に触れた。

なにかこだわりがあるんだろうな。


 「・・・これでいい」

「あたしも守護の結界が使えるようになったってことだよね?」

「・・・人間は研鑽が必要だ。努力・・・そういうものだな。あとはシロに教われ」

「うん、ありがとね。あんたの思いも一緒に貰った。使うたびに思い出してあげる」

ミランダがイナズマの胸を叩いた。

 授けたのがイナズマっていうのに意味がある。

ずっと待っていたんだから・・・。


 「イナズマ・・・誰にも話せずに辛かったでしょ?」

「・・・女神様との約束は破ったが、百年経った頃にチルには伝えた」

イナズマは空を見上げた。

 チルだけには教えたのか・・・。たしかにあの子は僕よりも幼い、なにも希望が無ければ耐えられなかったかもしれないな。

それでも百年、ジナスの監視が無くなった頃・・・。


 「聖女との接触は避けたのに、そっちはよかったのか?」

ニルスが不思議そうな顔をした。

たしかにそうだな・・・。

 「・・・絶望が一番強かったからな」

「オーゼは割と普通そうに見えたけど・・・」

「チルは幼いんだ。・・・キビナを探し周るのは大変だった」

「幼い・・・わかった」

ああそうか、僕に近いからな・・・。


 「繋がりはその時に作ってない?」

「一応そうしたが・・・作ってもよかったかもしれない。本当に俺たちへの興味は一切無いらしいからな。いや・・・なにもできないと、そう思われているんだろう」

「僕とオーゼの監視もやめてたからね。でも、見つかったら繋がりを絶たれるだけじゃ済まなかっただろうから・・・」

「わかっているさ・・・だから作らなかったんだ」

ジナスが気まぐれでどっちかに会いに行ってたら全部終わりだった。

僕たちは甘く見られている・・・だからできたんだ。


 「とりあえず、なんの影響もないから間違ってなかったんだと思うよ。イナズマ、輝石を・・・」

ニルスがイナズマに近付いた。

うん、特に問題は無いからな。

 「ああ、俺の輝石を授けよう。ケルトが愛した者・・・アリシアに渡してくれ。大地は根付く強さ、戦う聖女に祝福を与えてくれる」

「アリシアに・・・。近くにないといけないってことは無いんだな・・・」

「揃った時に本来の力を取り戻す。あとは離れても輝きは消えない。・・・話したのは片手で数えるほどだが俺はケルトが好きだった。・・・頼むぞ」

「・・・わかったよ。これは・・・アリシアに渡そう」

ニルスは答える時に目を瞑って少しだけ微笑んだ。

たぶんお母さんに会えるきっかけができたから・・・なのかな。


 「シロ、輝石を揃えても油断はするなよ。対峙して恐怖に負けていては意味がない」

あ・・・まだそれも教えていなかったな。

 「実は・・・戦場でジナスと会った」

「なんだと!」

イナズマが焦り出した。

先に女神様と再会できたきっかけから話すべきだった・・・。



 「・・・バカなことをしたなニルス」

イナズマは戦場であったことを聞いて目を細めた。

そりゃそうだよね・・・。


 「今さら言われてもな・・・。でも、この剣が守護の結界も斬れることがわかった」

「たしかにあいつにとって一番の脅威ではある。・・・だが計画が狂った。本来はすべてを揃えてから・・・」

「大丈夫だと思うよ。順番が変わっても、結果を同じにすればいい」

ニルスは頼れる顔で笑った。

 「僕もそのつもりだ。きっとそうしてみせるよ」

ジナスは僕たちをみくびっている。その証拠に消えた後も監視はされていない。


 「きのうの出来事だ。オーゼが協力してくれたのもバレている。精霊鉱を君が渡したことも知られてしまったけど・・・」

「それでも接触どころか呼びかけも無い。・・・うまくいくかもな」

もしかしたら女神様と会ったことも気付いていない。そして会ってもどうにもならないと考えている。その甘さを利用させてもらう。


 対抗策の一つである四つの輝石・・・残りは一つだ。


 「ねえねえ、あんたも一緒に来んの?」

ミランダがイナズマの背中を叩いた。

僕も一緒に来てほしいけど、たぶん難しいと思うな・・・。


 「色々と事情があって無理だ」

「えー・・・一緒に戦うんじゃないの?」

「役目もあるからな・・・。それに、精霊鉱は俺の存在とも繋がっている。すなわち、俺が消されれば・・・」

「なるほど・・・あんたは戦わない方がいいってわけか」

一緒に来たら、まず一番最初にイナズマが狙われる。

そうなったら対抗手段がなくなってしまうんだ。


 「ていうか、今はほんとに大丈夫なの?明日とかに、急にあいつが来るとか・・・」

「無いとは言い切れんが大丈夫だろう。洗い場に行く手段が俺たちには無い、あいつもそれがわかっているから余裕でいられる」

「信じていいの?」

「それに、俺の所に来ても無駄だ。女神様との記憶には結界が施されている。もし読まれても、対抗策に関するものは偽れる。あいつにわかるのは、お前たちと会って話した・・・それだけだ」

イナズマは本当になにも知らないってことになる。

 ただ、僕とチルにその結界は無い。触れられたら全部知られてしまうな・・・。


 「だがこちらから攻め込むことになるのは痛いな・・・。輝石は四つ、洗い場に行く者は厳選しろ」

「精霊封印は僕も使えるようになる。だから僕かチルは行かないといけない、チルが大丈夫なら連れて行く」

「精霊封印・・・できるのか?」

「うん、まじわりながらならできるみたい」

まず三人は決まっている。

あと一人・・・転移の使えるステラしかいないよね・・・。


 「ニルス・・・お前は本当に対抗できるのか?」

「鍛えるさ」

「・・・」

イナズマは心配そうだ。

まあ・・・見てないからな。

 「ニルスは強いよ。正面から挑んで腕を落とした」

「・・・本当か?」

「うん、反応できてなかったもん」

「期待しよう」

できれば・・・記憶を渡したいな。

あとで話してみよう・・・。


 「話を戻すが・・・できればチルは戦いに出さないでほしい。会えばわかるが、シロよりも幼い見た目の少女だ。まず・・・行きたいとは言わないだろうが・・・」

「女の子・・・」

ニルスが反応した。

妹のルージュを思い出したんだろう。


 「厳しい言い方になるが、連れ出してもチルは役に立たない。ニルス、シロ・・・あと二人だな」

「あたしを忘れないでよ・・・」

ミランダがイナズマを睨んだ。

そうしたくないんだけど・・・。

 「・・・守護の力をどこまで高められるかだ。気持ちだけで勝てると思うな」

「・・・わかってるよ」

「ステラ、オーゼ・・・お前よりも遥か上だ。追いつけるなら認めよう」

「追いつく、信じてほしい」

ミランダには悪いけど、いくら素質があっても一年では厳しい。僕が教えたとしても・・・。


 「信じてはおこう。女神様が素質を伝えたのならば、なにか感じるものがあったのだろう」

「うん、任してよ。ていうか、あんたもでしょ?守護くれたし・・・」

「思いを渡しただけだ・・・」

「ジナスの所まで持ってってあげるよ」

まあ・・・やれるだけやってみよう。


 「言っておくが、現時点ではニルス、シロ、ステラ・・・この三人は確定だ。あと一人はオーゼかアリシアが最適だな」

「あ・・・まだ言うんだ?」

「ニルスに言ったんだ」

「・・・覚えておく」

ニルスは俯いた。

 妹のルージュのこともあるから、お母さんを連れて行きたくないって感じなんだろう。


 「あ・・・そうだ。あたしもう勝つ気でいるんだけど、戦いが終わったら王様連れ出して構わない?」

ミランダが急に話を変えた。

きっとニルスの顔を見たからだ。

 「・・・誰が王に逆らうものか。お前たちとであれば女神様も許してくれるだろう」

「そっか、少し心配だったんだ。なら好きにさせてもらうよ。ね、ニルス?」

「そうだな・・・。シロ、楽しいだけの旅をしようか」

ニルスが僕の頭に手を乗せて笑った。

ああいいな、早くその日が来てほしい。

 

 でも本当に楽しむなら、やっぱり全部いい感じになってからがいい。

だから、わかってるだろうけど言っておかないといけないことがある。


 「ニルス・・・洗い場に連れて行くかは任せるけど、輝石は必ずお母さんに届けてあげようね」

「・・・まあ、頼まれたからな」

ニルスは輝石を握りしめて口元を緩めた。

 あれ・・・そこまで嫌そうじゃないな。ということは、ニルスもいずれはどうにかしたいって思ってるんだ。


 「あたしはテーゼに行ってすぐに渡した方がいいと思うよ。つ・ま・り、戦場には仲良く出るってこと」

「・・・考えておく」

ニルスは軍団長さんにだけ伝えて、お母さんには話さないつもりって言ってた。

でも・・・それじゃよくない。

 「いい方向に考えなよ、ルージュにも会えるでしょ?」

「・・・うん、なるべくね」

絶対にミランダの言う通りにした方がいいと思う。それに僕は姿を見ただけだから直接話してもみたい。

まあ・・・テーゼに行ってからだな。


 「そうだぞニルス、前向きに考えろ。では・・・またな」

イナズマは微笑んで森の奥に飛んで行った。

・・・一緒にいないのか。まあ、僕は眠らないからあとで話しに行こう。


 「よーし、あたしたちも早く戻ろ。ニルスはお風呂担当ね」

「わかってるよ。今日は早めに休まないとな・・・」

ニルスは不安そうに笑っていた。

その時は、僕たちも協力しないとな。



 家に戻ってきた。

外からは春の虫の声が聞こえて、なんだか落ち着く・・・。


 「あたしの作ったスープはどう?」

「薄いな・・・」

ニルスはミランダのスープを一口飲んで手を止めた。

苦い顔・・・気になるな。


 「僕にもちょうだい・・・あ・・・うん・・・」

「なによ二人して・・・」

・・・本当だ。味がしない・・・おいしくない。

 「これは・・・病人食だな」

「病人みたいなもんだったじゃん。・・・全部飲んでね」

「・・・味見はしたの?」

「・・・」

してなかったな・・・。


 「気持ちはたくさん入ってる・・・」

「・・・薄いだけなら何とかなる。味を足そうか」

「お、もしかしてアリシア様に教わったやつ?」

「・・・卵のスープ。オレが一番好きだった献立・・・」

ニルスはかまどに火を入れて、鞄から取り出した調味料を加えていった。

これならおいしくなりそうだ。

 「あたしの立場は?」

「・・・教えてあげる。一緒に作ろう」

「なにすればいい?」

「卵を溶いて」

すぐにいい香りがしてきた。

卵のスープは初めて食べるな・・・。



 「うま・・・。えへへ・・・実は薄いかもっては、作ってて思ってたんだよね。でも鞄の中の調味料とかってあんたがしまってたから、わかんなくて取り出せなかったのよ」

ニルスの作った卵のスープは、ふわふわでとってもおいしかった。

ミランダも本当のことを言いたくなるくらいだ。


 「でも気持ちは嬉しかったよ。ありがとうミランダ」

「ていうかこれからも味付けはニルス担当ね。あたしは下ごしらえ担当」

「じゃあ僕は味見担当ね」

「ふふ」「あはは」

二人は声を出して笑った。

 「なんで笑うの?」

「あはは、シロ君は子どもだなって思っただけよ」

「ふーん・・・」

最初は嫌だったけど、子ども扱いされてもなんとも思わなくなった。

この二人と笑えるなら、何を言われても気にならない。


 ニルス、ミランダ、大切な存在・・・。

だから二人を傷付けたジナスを・・・許すことはできない。

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