第五十五話 ジナス【シロ】
本気で戦っているニルスを見ていたら気持ちが落ち着いてきた。
周りが戦士だけっていうこともあって、僕たちを庇うように戦っていた今までとは違う。
戦士としてのニルスはとても強い。
ジナスにだって勝てるんじゃ・・・そう思わせてくれる姿だった。
それに胎動の剣、魂の魔法でそういう思いが強く込められているのか、結界を斬るほど強力なものだ。
だから、希望がより大きくなった。
ニルスと一緒なら・・・僕も戦える。
◆
「あ・・・もう離れた。せっかく会えたんだからもっと話してくればいいのに。それに顔くらい見せなさいよ」
僕はミランダと一緒に、ずっとニルスとアリシアを見ていた。
たしかに言う通りだけど・・・。
「きっと照れてたんだよ。アリシアがぎゅっとしてあげればよかったのにね」
「んー・・・ほんとにどっちも不器用なのね」
「そうだね・・・」
二人の会話は、僕だけ精霊の耳で聞かせてもらっていた。
別にケンカしてるとかでも無さそうだけど、和解するにはどっちも歩み寄らないとダメそうだ。
「戻ってくるようですね・・・」
隣にいたロイドさんが静かに呟いた。
安らぎの魔法をかけてあげていたから、もうすっかり落ち着いたな。
「私は・・・とても運が良かったと思います」
「うん、あんた強運だよ。ニルスに見つけてもらってよかったね」
「あなたたちにも感謝しています。なんとお礼を言っていいか・・・」
「あたしたちに言われてもな・・・」
たしかに僕たちにってのは違う。
ニルスが戻ったら直接伝えればいい。
「それにしても強いですね。・・・私では足元以下でしょう」
「まあ・・・雷神の息子だしね」
「それは・・・間違いないのですか?たしかに髪の色は同じですが」
「何度も言ったんだからそろそろ信じてよ。あ・・・そんで一騎打ちで勝ってる。だから雷神よりも強いよ」
ミランダは得意気に教えてあげた。
そう、本当に強い・・・。
「雷神には娘しかいないものだと思っていましたので・・・」
「あ・・・でも今回のことは内緒だよ?息子だってことも隠してるみたいだからさ」
ミランダは口外しないように釘を刺した。
ニルスも伝えるだろうから大丈夫だとは思うけど、大地奪還軍から罰があるかもしれないしね。
「約束しましょう。それにしても・・・雷神も最初は恐い女性だと思っていましたが違いましたね。娘が握手を頼んだら快くしてくれたんです」
「ニルスもとっても優しいんだよ」
「ええ・・・そうですね。命を救ってくれました・・・」
ロイドさんは、もう戦場には出ないで家族を大事にして暮らすんだろう。まあ、どっちにしろ僕らが女神様を助けだせれば戦場は終わるけどね。
◆
「ロイドさん、交代します。ドラゴンもほとんど倒された。もうじき戦いが終わるので急いでください・・・」
ニルスが戻ってきて、鎧と兜を外した。
重装備であれだけ走ったのに余裕そうだ。
「ああ・・・ありがとうございます。あなたは私にとっての英雄です。そう・・・英雄ニルス様・・・」
「・・・おかしな呼び方はしないでください」
「ふふ」
「あはは」
僕とミランダは笑ってしまった。
しばらくはからかえそうだ。
「で、ロイドは功労者になれそうなの?飛ぶドラゴン五体倒してたよね?」
「間違いない。べモンドさん・・・軍団長に頼んでおいたし、それだけの功績も作った。ロイド・クリスマスは確実に功労者に選ばれる」
「ニルス様・・・」
「鎧と兜のお礼です。あれだけやったんだから大丈夫ですよ」
何人かにバレてはいたみたいだけど、みんな何も言わなそうだったからな。
「それと、色々言われるかもしれないですけど・・・」
「あ・・・なんとか誤魔化します」
「自分はやるべきことをやっただけ・・・全部これで通してください。もしくは、昂っていて記憶が無いとか・・・」
「そうします・・・」
ロイドさんが口を滑らせなければ大丈夫だよね。
「家族はゴーシュですか?」
「いえ、先月からテーゼに来てもらっています」
「功労者が決まって解放されたら真っ先に会いに行ってください。心配してくれたんでしょ?」
「・・・必ずそうします」
ロイドさんは真剣な顔で頷いた。
無事で帰るだけで喜んでくれそうだ。
「・・・このご恩は一生忘れません。家族全員であなたへ感謝して暮らすことにします。私はゴーシュに住んでいます。必ず・・・必ず恩返ししますので、ぜひ訪ねてください」
「まあ、気が向いたら・・・」
「ええ、お待ちしています。シロ様とミランダ様もご一緒に来てくださいね」
ロイドさんは鎧と兜を身に付け終わった。
「ゴーシュか・・・あたしも気が向いたらかな」
「衛兵団に声をかけていただければ、私の家まで案内してくれると思いますので」
「僕は行ってみたい。また会えたらいいね」
「ぜひ・・・では、戻ります。本当にありがとうございました」
ロイドさんは僕とミランダで用意したロープを使って戦場に戻っていった。
あとはちゃんと演じるだけだね。
◆
「シロ、なにかわかった?」
ニルスが戦場を見つめて水を飲んだ。
全然疲れてる様子が無いな・・・。
「ごめん、謎だらけ」
ジナスが近くにいる感じはなかった。
あとは声が聞こえるって時まで待つしかない。
それよりも見ていて一番奇妙だったのは、死んだ人が大地に飲み込まれていくことだ。
人形はただ同じように見せていただけ、でも人間は違う。ニルスの言ったように、本当に大地に喰われていくように見えた。
戦死した命はどうなっているのか、そこも重要な気がしてならない。
「ニルス、アリシア様とはなに話したの?もしかして帰ってきてとか言われたんじゃないのー?」
ミランダが笑顔でニルスの肩を擦った。
話は・・・全然弾んでなかったな。
「別に・・・父さんのことを教えただけだよ」
「そうなんだ・・・なんかごめん」
「ミランダが謝ることないよ。それに会いたかったとかじゃなくて、妹に悲しい思いをさせないためだし・・・」
ニルスは戦場にいるお母さんを潤んだ目で見つめていた。
ミランダが聞いた「帰ってきて」って言葉。
ニルスは、お母さんにそう言ってほしかったんだと思う。
だって、今の言葉は偽りだったから・・・。
「ニルス、またお母さんと会えるといいね」
「シロ・・・アリシアがどう思ってるかだな」
「たぶんニルスと同じ気持ちじゃないかな」
「そうなのかな・・・」
ニルスはとても悲しい顔をしている。なにかが引っかかっているんだろう。じゃあ、教えてあげよう。
「アリシアは最後に、もう話すことはないって言ってたでしょ?あれは偽りだった。きっともっとお喋りしたかったんだよ」
「・・・聞こえてたのか?」
「うん、精霊の耳もあるし」
「え・・・シロ、あたしに黙ってたの?」
ミランダが僕の腕を引っ張った。
あ・・・あとで言えばよかったな。
「あんまりよくないと思ったから・・・」
「目をやってくれたなら耳もいいじゃん」
「と、とにかく、アリシアはニルスに嫌な感情は持ってないと思うよ」
「・・・」
ニルスは不安そうに微笑んだ。
信じきれないのか・・・。
「まあまあ、そういうのは全部終わってから考えるようにしようよ。時間はたっくさんあるんだから」
ミランダがニルスの肩に腕を回した。
今の顔を見て、精霊の耳はどうでもよくなってくれたみたいだ。
「・・・そうだね。ありがとうミランダ」
「お礼がしたいなら、今度テーゼの王城を案内してよ。とっても綺麗だって聞いてるよ」
「・・・戦いが終わったらかな」
今のでニルスの憂鬱が少し無くなったみたいだ。
安らぎの魔法とは違うけど、ミランダには似たような力があるんだろうな。
◆
「え・・・なにあれ」
「戦いが終わったってこと。どっちかが半分になったんだ」
人間と人形が分けられ、両端に一瞬で移動した。
あれは転移・・・女神様とジナスしか使えない力だ。
「結界もすぐに解いたみたいだね」
「ほんとだ・・・無くなってる」
戦場を覆っていたそれも消えている。
終わったらすぐに消すのか。つまり・・・例えば戦士が残って、この島を調べるのは別に構わないってことだ・・・。
「うわ・・・やっぱり半分近くは・・・」
「・・・けっこう危なかったな」
ミランダとニルスが戦士たちを見て悲しい声を出した。
たしかに数は・・・。
「・・・五百十一人だね」
「げ・・・ギリギリじゃん」
「早いとこ終わらせないといけない・・・」
ニルスが拳を固めた。
人間の悲しみも計り知れない。今回流れた人の家族は・・・。
『そこまでだな・・・今回も人間の勝利だ・・・大地を返そう』
「あ・・・」
戦いの終わりを告げる声が聞こえて、僕の体が鉄のように固まった。
「ジナス・・・」
さっきまで安定していた僕の心が不安に飲み込まれた。
間違いない・・・近くにいるのか?
「シロ、大丈夫だよ」
ニルスが手を繋いでくれた。
そうだ、僕にはニルスとミランダがいる。もう・・・恐くない。
「あ、魔法陣が光った・・・。ねえニルス、毎回こんなあっさりなの?」
「そうだと思うよ。・・・魔族に、このままじゃ大地が戻らないぞって言ってたことはあったけど」
「は?・・・人形だってわかってるとムカつくね」
あいつは遊んでるだけ・・・。
人間たちのためにも、早く終わらせてあげたい。
◆
「静かになったね・・・」
ジナスの声は一言だけだった。
戦士たちは魔法陣でテーゼに帰り、戦場にはもう誰もいない。
「じゃあ本来の目的よ。下に行ってみよー」
「ジナスがいれば話は早かったんだけどな・・・」
ミランダとニルスが立ち上がった。
「まあまあ、今回は調査だからさ。なんもわかんなかったらイナズマってのに会いに行けばいいよ」
「そうだな。シロ、平気?」
「うん・・・行こう」
心を強く・・・。
◆
「うーん・・・高い・・・」
ミランダがロープを持ったまま固まった。
「ここで待ってる?」
「いや・・・行く・・・けど・・・」
下りるの恐いのか・・・。
「僕が抱っこしてあげようか?」
「・・・落ちない?」
「約束する」
僕はミランダの後ろにまわった。
仕方ないな・・・。
「ひゃあ・・・ちょっとシロ、しっかりよ?ぎゅーっとして、絶対に離しちゃダメよ?」
「わかってるよ」
「おっぱい苦しい・・・胸の下持って・・・」
ミランダがガタガタ震え出した。
飛ぶのは・・・無理か。
「階段を作る・・・」
僕はミランダを下ろして、戦場まで続く水晶の階段を作った。
精霊封印も無いから大丈夫だ。
「あ・・・なーんだ、先にこうしてよ」
「あんまり余計なことしたくなかったんだよ・・・」
「あはは、大丈夫だよ。ほらニルス行くよ!」
「急に元気になったな・・・」
用が済んだら消せばいいか・・・。
◆
戦場に下りて中央まで来た。
できる限り調べてみよう。
「・・・二人は動かないでね」
僕は大地に手を置いて、なにかの気配がないか探った。
・・・なにも無いな。
この下、怪しいと思ったんだけど・・・。
「声はどこから聞こえているんだ?」
「・・・わからないんだ。僕が調べるから二人は休んでて」
「うう・・・ニルス・・・あんたの気持ちわかった。上と全然違う・・・ここの匂い・・・慣れないかも・・・」
「わかってくれて嬉しいよ・・・」
二人はあんまりいたくないみたいだし、なるべく急ごう。
・・・広がれ。
空気に僕の意識を乗せて飛ばした。
今回は呼びかけじゃなくて探索、オーゼの時と違って思いは乗せない。それと、大地ももっと深くまで調べよう。ジナスがいなくてもここには必ず何かあるはず。
命が喰われるなんて普通じゃないことだ。そこからあいつに繋がる手がかりがあるかもしれない。
◆
僕の意識が戦場全体を覆った。
ここからもっと集中する・・・。
「壊れた武器とかけっこうあるね。あ・・・新しいのも・・・遺品とか持って帰んないの?」
「誰も回収しない、意志を残していくんだ」
「帰りたいっても思ってたんじゃないのかな?」
「・・・いつからかは知らないけど、そういう決まりだから」
二人はお喋りする余裕がある。
「あ、そうだ。綺麗だけどデカい女の人いたじゃん?あの人の方が想像してた雷神に近いね」
「イライザさんか・・・たしかにあの人も強いよ。今はどうかわからないけど、男も含めた戦士の中で一番力が強い」
「そうなんだ・・・」
「観光客に雷神と間違われることもたまにあったみたいだよ」
こうやって穏やかな方がいい。
大丈夫、時間はあるからゆっく・・・。
「・・・わっ!!!」
僕の力が突然消し飛んだ。
「え・・・なにシロ、どうしたの?」
「力が・・・」
探索はまだ終わっていない・・・。
なんで・・・いや・・・この感じを僕は知ってる・・・。
だから・・・ここにいちゃダメだ!
「ニルス!ミランダ!すぐに離れよう!!」
飛び上がろうとした。
「あ・・・」
浮かない・・・。
体に重さを感じて、全身がビリビリする。精霊の力を封じられたんだ・・・。
「はあ・・・はあ・・・苦しい・・・」
僕の体が、さっきのミランダみたいに震え出した。
もう恐くない、戦えるって気持ち・・・どこかに行ってしまう・・・。
「シロ?・・・ミランダ?」
「なんか・・・あたしも苦しい・・・震えて・・・うまく立てない・・・」
ミランダが膝を付いた。
本能でわかるみたいだ。
「・・・なにかいるのか?」
ニルスだけは剣を抜き、周りの警戒を始めた。
死線を潜ってきた数の違いか・・・。
「シロ、どうしたらいい?」
「・・・僕の力が封じられた。ここを離れないといけない!」
「わかった。ミランダ・・・」
「・・・」
ニルスは急いでミランダを背負った。
「シロ・・・重くなってる・・・」
「ごめんね・・・」
「大丈夫だ」
ニルスは僕を片腕で抱えて走り出した。
胎動の剣は結界を斬れる。脱出はできるはず・・・。
◆
もうじき階段に着く・・・。
「・・・どこに行くんだ?」
逃げられると思った時、戦いの終わりを告げていた声がすぐ後ろから聞こえて、同時に階段が砕け散った。
「このまま帰れると思ったか?兜の男・・・顔を見に来てやったんだ」
「・・・」
ニルスの足が止まり、僕とミランダが下ろされた。
逃げられない・・・それがわかったからなんだろう。
「・・・盤外からの参戦は認めていないんだ」
僕は震えて顔すら上げられずにいる。
聞こえるのはとても怒っている声・・・。
「シロ・・・今やるしかない。ミランダ、気持ちを強く持って。・・・大丈夫だ」
ニルスの靴が地面をこすった。
・・・振り返ったみたいだ。
「・・・お前がジナスか。勝手に入ったのはオレだ」
「なるほど・・・ふふ、お前か。強い者は憶えている・・・二回だったか戦場に出ていたな。もう現れないのかとがっかりしていたところだったんだぞ?」
「・・・三回だ。記憶力はそんなによくないんだな」
「何度出ていたかはどうでもいいからな。お前ほどの男なら正面から参加すればいい、今回のようにくだらない真似など必要ないだろう。・・・また戦場に出ろ」
声から怒りが少しずつ消えていってる。ジナスはニルスを認めているのか?
「ああそうだ忘れていた。・・・まずは答えてもらおう。どうやって戦場に入った?・・・なにかで斬ったな」
「素直に答えると思うか?」
「・・・いい目だ。私に敵意を向けているな」
「そういうことだ。そして戦場に出る気はもう無い」
ニルスは普通に話している。
・・・うずくまってても何も変わらないよ・・・勇気を・・・。
覚悟を決めて顔を上げた。
僕だって、立ち向かわないといけないんだ!
そこにいたのは間違いなくジナスだった。
黒衣に身を包み、冷たい目でニルスと睨み合っている。
「敵意は魔族に向けろ。私は忙しい身なんだ」
「遊んでるだけだろ?もう付き合ってられないんだよ。・・・ここで消えたくなければ女神をすぐに解放しろ」
「女神・・・そうか・・・知ってしまったのだな」
ジナスは、顔を上げた僕を初めて見た。
苦しい・・・あの時と一緒だ・・・。
「なるほど・・・これはこれは精霊の王シロ様。何度かお誘いをしたはずですが・・・恐怖に怯え、精霊の城に閉じこもっていましたね。ふふ、戦場に興味でも湧きましたか?」
ジナスが不気味な笑みを浮かべた。
ダメだ、恐くて声が・・・。
「精霊封印は久しぶりだろ?体が重く、力も使えず、痛みもある。・・・そういえば、仲間を消していく時にずっと見せていたな」
この結界は精霊の力を奪い、人間と同じ状態にさせる。疲れ、痛み、寒さや暑さ、そういうのを感じる体に・・・。
痛みや恐怖を感じながら消された精霊たちの叫びは、今でも鮮明に思い出せる。そして僕の体はその恐怖を忘れずに憶えている。
だからあの目で見られると、指の一本も動かせないんだ・・・。
「・・・話してたのはオレだろ?それに王様は、お前と話す気は無い」
ニルスが僕をジナスの視線から隠してくれた。
「シロ、ミランダと一緒に下がっていろ。オレの背中だけを見ていればいい」
この威圧感で、どうして冷静でいられるんだろう・・・。
「無礼な人間だな。神を怒らせるものではないぞ」
「神か・・・それならお前は邪神だな」
「・・・言うじゃないか。世界を救いにでも来たつもりか?」
「シロはオレの仲間なんだ。それに、オレはお前が作ったくだらない戦場のせいでずいぶん苦しんだ」
ジナスに胎動の剣が向けられた。
今・・・ここで戦うつもりなんだ。
「どちらにしろ罰は受けてもらうが・・・まあ待ってくれ。どうやって戦場に入ったのか、それだけ教えてくれよ。・・・語らいは嫌いか?」
「お前と話すことは無いな。戦場を終わらせて女神を解放しろ」
「ふふ・・・ふふふ・・・」
ジナスは笑い出した。
「・・・」
ニルスは剣を向けたまま黙っている。
「・・・唯一の楽しみなんだ、終わらせるわけないだろ。お前たちとは、永遠に闘争を続けるつもりだ」
「海が無くなればオレたちは生きられない。永遠には無理だな」
「心配するなよ。そうなれば次は海を返してやる・・・勝てばな。慈悲深いだろ?お前たちは永遠に私を楽しませる駒、盤上で・・・」
ニルスが踏み込んだ。今の言葉に我慢ならなかったんだろう。
「・・・素晴らしい速さだ」
ジナスは宙に浮き上がり斬撃を躱していた。
「私の目でも踏み込みからは見えなかったぞ。だが・・・まだ話は終わっていない」
やっぱり希望はある。今あいつが言ったことが本当なら、ニルスは勝てる可能性を持っているんだ。
そうだ・・・さっきお母さんを助けた時は、重い鎧を付けていても今よりもっと速かった。だから本気なら・・・。
「・・・話が終われば下りてくるのか?」
「当然だ。私の戦場を侮辱した罰を与えに来たんだからな」
でも安心はできない。
離れていても攻撃の手段はある。だからあの余裕なんだ。
「侮辱だと・・・お前はオレたち人間を侮辱している。たかが人形相手に、戦士が何人死んだか知っているか?」
「望んで戦士になったんだろ?褒賞や栄光を用意し、焚きつけているのも人間じゃないか」
「戦場が無ければ別な生き方もあった!!」
「ふふ・・・人間は争いが好きなんだよ。ずっと出ている強い女がいたな。あれはどうだ?闘争を楽しんでいる類いの人間だと思うが・・・」
ジナスはニルスの髪の毛を見た。
・・・勘付いたか?
「・・・答えろよ、そういう人間はたしかにいるだろ?」
「・・・」
ニルスは言い返さずに剣を強く握った。
たぶんジナスの言葉は本当なんだろう。アリシアは、ニルスから見ても戦うのが好きな人なんだ・・・。
「理解してもらえて嬉しいぞ。おかしな力を持っているようだが、人間なのが惜しいな。あの女には永遠に戦場に出てほしいと思っている」
「その女がいるせいで、お前の人形は負け続けているな」
「勝ち負けで楽しんでいるわけではない。私は知略と技を巡らせたギリギリで泥沼の戦いが好きなんだ。・・・昂るんだよ。だから毎回人形の強さを調整している」
それは感じた。
勝つためならもっと強い布陣にもできたはずだ。
「まあ・・・今回は勝ちにいったがな」
「負け続けは悔しいか?」
「浅はかだな。人間は勝ち過ぎると怠けるんだよ。次も大丈夫だろうなどと考えてほしくはないのだ。・・・今回は、治癒隊を壊滅させれば私の勝ちだった。負けたことではない、思い通りにならないのが気に入らないんだよ・・・」
ジナスがゆっくりと地上へ降り立った。
「さて・・・最後だ。結界をなにで斬った?」
「・・・」
ニルスは答えずに切っ先をジナスに向けた。
「そうか・・・では話は一旦終わりだ。お前にはまた戦場に出てほしいから殺しはしない。だが、私に反抗するとどうなるかはわかってもらおう。協力しているシロとそこの女もよく見ておくといい」
「邪神の思い通りになるわけないだろ」
「・・・お前のその自信が気になるな。人間の作った武器は通じないと、そこで震えているだけの王から聞かなかったか?」
「・・・」
ニルスの脚に力が入った。
「シロ、大丈夫だよ。思い知らせてやろう・・・」
ニルスがさっきよりも速く踏み込んだ。
閃光・・・一瞬の稲光のような・・・。
いつの間にか、ジナスの左腕が地面に落ちていた。
ネトコン12参加しました。




