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Our Story  作者: NeRix
水の章 第一部
58/481

第五十五話 ジナス【シロ】

 本気で戦っているニルスを見ていたら気持ちが落ち着いてきた。

周りが戦士だけっていうこともあって、僕たちを庇うように戦っていた今までとは違う。


 戦士としてのニルスはとても強い。

ジナスにだって勝てるんじゃ・・・そう思わせてくれる姿だった。

 それに胎動の剣、魂の魔法でそういう思いが強く込められているのか、結界を斬るほど強力なものだ。

 

 だから、希望がより大きくなった。

ニルスと一緒なら・・・僕も戦える。



 「あ・・・もう離れた。せっかく会えたんだからもっと話してくればいいのに。それに顔くらい見せなさいよ」

僕はミランダと一緒に、ずっとニルスとアリシアを見ていた。

たしかに言う通りだけど・・・。

 「きっと照れてたんだよ。アリシアがぎゅっとしてあげればよかったのにね」

「んー・・・ほんとにどっちも不器用なのね」

「そうだね・・・」

二人の会話は、僕だけ精霊の耳で聞かせてもらっていた。

別にケンカしてるとかでも無さそうだけど、和解するにはどっちも歩み寄らないとダメそうだ。


 「戻ってくるようですね・・・」

隣にいたロイドさんが静かに呟いた。

安らぎの魔法をかけてあげていたから、もうすっかり落ち着いたな。


 「私は・・・とても運が良かったと思います」

「うん、あんた強運だよ。ニルスに見つけてもらってよかったね」

「あなたたちにも感謝しています。なんとお礼を言っていいか・・・」

「あたしたちに言われてもな・・・」

たしかに僕たちにってのは違う。

ニルスが戻ったら直接伝えればいい。


 「それにしても強いですね。・・・私では足元以下でしょう」

「まあ・・・雷神の息子だしね」

「それは・・・間違いないのですか?たしかに髪の色は同じですが」

「何度も言ったんだからそろそろ信じてよ。あ・・・そんで一騎打ちで勝ってる。だから雷神よりも強いよ」

ミランダは得意気に教えてあげた。

そう、本当に強い・・・。


 「雷神には娘しかいないものだと思っていましたので・・・」

「あ・・・でも今回のことは内緒だよ?息子だってことも隠してるみたいだからさ」

ミランダは口外しないように釘を刺した。

ニルスも伝えるだろうから大丈夫だとは思うけど、大地奪還軍から罰があるかもしれないしね。


 「約束しましょう。それにしても・・・雷神も最初は恐い女性だと思っていましたが違いましたね。娘が握手を頼んだら快くしてくれたんです」

「ニルスもとっても優しいんだよ」

「ええ・・・そうですね。命を救ってくれました・・・」

ロイドさんは、もう戦場には出ないで家族を大事にして暮らすんだろう。まあ、どっちにしろ僕らが女神様を助けだせれば戦場は終わるけどね。



 「ロイドさん、交代します。ドラゴンもほとんど倒された。もうじき戦いが終わるので急いでください・・・」

ニルスが戻ってきて、鎧と兜を外した。

重装備であれだけ走ったのに余裕そうだ。


 「ああ・・・ありがとうございます。あなたは私にとっての英雄です。そう・・・英雄ニルス様・・・」

「・・・おかしな呼び方はしないでください」

「ふふ」

「あはは」

僕とミランダは笑ってしまった。

しばらくはからかえそうだ。


 「で、ロイドは功労者になれそうなの?飛ぶドラゴン五体倒してたよね?」

「間違いない。べモンドさん・・・軍団長に頼んでおいたし、それだけの功績も作った。ロイド・クリスマスは確実に功労者に選ばれる」

「ニルス様・・・」

「鎧と兜のお礼です。あれだけやったんだから大丈夫ですよ」

何人かにバレてはいたみたいだけど、みんな何も言わなそうだったからな。


 「それと、色々言われるかもしれないですけど・・・」

「あ・・・なんとか誤魔化します」

「自分はやるべきことをやっただけ・・・全部これで通してください。もしくは、昂っていて記憶が無いとか・・・」

「そうします・・・」

ロイドさんが口を滑らせなければ大丈夫だよね。


 「家族はゴーシュですか?」

「いえ、先月からテーゼに来てもらっています」

「功労者が決まって解放されたら真っ先に会いに行ってください。心配してくれたんでしょ?」

「・・・必ずそうします」

ロイドさんは真剣な顔で頷いた。

無事で帰るだけで喜んでくれそうだ。


 「・・・このご恩は一生忘れません。家族全員であなたへ感謝して暮らすことにします。私はゴーシュに住んでいます。必ず・・・必ず恩返ししますので、ぜひ訪ねてください」

「まあ、気が向いたら・・・」

「ええ、お待ちしています。シロ様とミランダ様もご一緒に来てくださいね」

ロイドさんは鎧と兜を身に付け終わった。


 「ゴーシュか・・・あたしも気が向いたらかな」

「衛兵団に声をかけていただければ、私の家まで案内してくれると思いますので」

「僕は行ってみたい。また会えたらいいね」

「ぜひ・・・では、戻ります。本当にありがとうございました」

ロイドさんは僕とミランダで用意したロープを使って戦場に戻っていった。

あとはちゃんと演じるだけだね。



 「シロ、なにかわかった?」

ニルスが戦場を見つめて水を飲んだ。

全然疲れてる様子が無いな・・・。


 「ごめん、謎だらけ」

ジナスが近くにいる感じはなかった。

あとは声が聞こえるって時まで待つしかない。

 それよりも見ていて一番奇妙だったのは、死んだ人が大地に飲み込まれていくことだ。

 人形はただ同じように見せていただけ、でも人間は違う。ニルスの言ったように、本当に大地に喰われていくように見えた。

戦死した命はどうなっているのか、そこも重要な気がしてならない。


 「ニルス、アリシア様とはなに話したの?もしかして帰ってきてとか言われたんじゃないのー?」

ミランダが笑顔でニルスの肩を擦った。

話は・・・全然弾んでなかったな。

 「別に・・・父さんのことを教えただけだよ」

「そうなんだ・・・なんかごめん」

「ミランダが謝ることないよ。それに会いたかったとかじゃなくて、妹に悲しい思いをさせないためだし・・・」

ニルスは戦場にいるお母さんを潤んだ目で見つめていた。

 ミランダが聞いた「帰ってきて」って言葉。

ニルスは、お母さんにそう言ってほしかったんだと思う。

だって、今の言葉は偽りだったから・・・。


 「ニルス、またお母さんと会えるといいね」

「シロ・・・アリシアがどう思ってるかだな」

「たぶんニルスと同じ気持ちじゃないかな」

「そうなのかな・・・」

ニルスはとても悲しい顔をしている。なにかが引っかかっているんだろう。じゃあ、教えてあげよう。

 「アリシアは最後に、もう話すことはないって言ってたでしょ?あれは偽りだった。きっともっとお喋りしたかったんだよ」

「・・・聞こえてたのか?」

「うん、精霊の耳もあるし」

「え・・・シロ、あたしに黙ってたの?」

ミランダが僕の腕を引っ張った。

あ・・・あとで言えばよかったな。


 「あんまりよくないと思ったから・・・」

「目をやってくれたなら耳もいいじゃん」

「と、とにかく、アリシアはニルスに嫌な感情は持ってないと思うよ」

「・・・」

ニルスは不安そうに微笑んだ。

信じきれないのか・・・。


 「まあまあ、そういうのは全部終わってから考えるようにしようよ。時間はたっくさんあるんだから」

ミランダがニルスの肩に腕を回した。

今の顔を見て、精霊の耳はどうでもよくなってくれたみたいだ。

 「・・・そうだね。ありがとうミランダ」

「お礼がしたいなら、今度テーゼの王城を案内してよ。とっても綺麗だって聞いてるよ」

「・・・戦いが終わったらかな」

今のでニルスの憂鬱が少し無くなったみたいだ。

安らぎの魔法とは違うけど、ミランダには似たような力があるんだろうな。



 「え・・・なにあれ」

「戦いが終わったってこと。どっちかが半分になったんだ」

人間と人形が分けられ、両端に一瞬で移動した。

あれは転移・・・女神様とジナスしか使えない力だ。


 「結界もすぐに解いたみたいだね」

「ほんとだ・・・無くなってる」

戦場を覆っていたそれも消えている。

 終わったらすぐに消すのか。つまり・・・例えば戦士が残って、この島を調べるのは別に構わないってことだ・・・。


 「うわ・・・やっぱり半分近くは・・・」

「・・・けっこう危なかったな」

ミランダとニルスが戦士たちを見て悲しい声を出した。

たしかに数は・・・。

 「・・・五百十一人だね」

「げ・・・ギリギリじゃん」

「早いとこ終わらせないといけない・・・」

ニルスが拳を固めた。

人間の悲しみも計り知れない。今回流れた人の家族は・・・。


 『そこまでだな・・・今回も人間の勝利だ・・・大地を返そう』

「あ・・・」

戦いの終わりを告げる声が聞こえて、僕の体が鉄のように固まった。

 「ジナス・・・」

さっきまで安定していた僕の心が不安に飲み込まれた。

間違いない・・・近くにいるのか?


 「シロ、大丈夫だよ」

ニルスが手を繋いでくれた。

そうだ、僕にはニルスとミランダがいる。もう・・・恐くない。


 「あ、魔法陣が光った・・・。ねえニルス、毎回こんなあっさりなの?」

「そうだと思うよ。・・・魔族に、このままじゃ大地が戻らないぞって言ってたことはあったけど」

「は?・・・人形だってわかってるとムカつくね」

あいつは遊んでるだけ・・・。

人間たちのためにも、早く終わらせてあげたい。



 「静かになったね・・・」

ジナスの声は一言だけだった。

戦士たちは魔法陣でテーゼに帰り、戦場にはもう誰もいない。


 「じゃあ本来の目的よ。下に行ってみよー」

「ジナスがいれば話は早かったんだけどな・・・」

ミランダとニルスが立ち上がった。

 「まあまあ、今回は調査だからさ。なんもわかんなかったらイナズマってのに会いに行けばいいよ」

「そうだな。シロ、平気?」

「うん・・・行こう」

心を強く・・・。



 「うーん・・・高い・・・」

ミランダがロープを持ったまま固まった。

 「ここで待ってる?」

「いや・・・行く・・・けど・・・」

下りるの恐いのか・・・。


 「僕が抱っこしてあげようか?」

「・・・落ちない?」

「約束する」

僕はミランダの後ろにまわった。

仕方ないな・・・。


 「ひゃあ・・・ちょっとシロ、しっかりよ?ぎゅーっとして、絶対に離しちゃダメよ?」

「わかってるよ」

「おっぱい苦しい・・・胸の下持って・・・」

ミランダがガタガタ震え出した。

飛ぶのは・・・無理か。


 「階段を作る・・・」

僕はミランダを下ろして、戦場まで続く水晶の階段を作った。

精霊封印も無いから大丈夫だ。

 「あ・・・なーんだ、先にこうしてよ」

「あんまり余計なことしたくなかったんだよ・・・」

「あはは、大丈夫だよ。ほらニルス行くよ!」

「急に元気になったな・・・」

用が済んだら消せばいいか・・・。



 戦場に下りて中央まで来た。

できる限り調べてみよう。

 「・・・二人は動かないでね」

僕は大地に手を置いて、なにかの気配がないか探った。


 ・・・なにも無いな。

この下、怪しいと思ったんだけど・・・。 


 「声はどこから聞こえているんだ?」

「・・・わからないんだ。僕が調べるから二人は休んでて」

「うう・・・ニルス・・・あんたの気持ちわかった。上と全然違う・・・ここの匂い・・・慣れないかも・・・」

「わかってくれて嬉しいよ・・・」

二人はあんまりいたくないみたいだし、なるべく急ごう。


 ・・・広がれ。

空気に僕の意識を乗せて飛ばした。

 今回は呼びかけじゃなくて探索、オーゼの時と違って思いは乗せない。それと、大地ももっと深くまで調べよう。ジナスがいなくてもここには必ず何かあるはず。

 命が喰われるなんて普通じゃないことだ。そこからあいつに繋がる手がかりがあるかもしれない。



 僕の意識が戦場全体を覆った。

ここからもっと集中する・・・。


 「壊れた武器とかけっこうあるね。あ・・・新しいのも・・・遺品とか持って帰んないの?」

「誰も回収しない、意志を残していくんだ」

「帰りたいっても思ってたんじゃないのかな?」

「・・・いつからかは知らないけど、そういう決まりだから」

二人はお喋りする余裕がある。

 「あ、そうだ。綺麗だけどデカい女の人いたじゃん?あの人の方が想像してた雷神に近いね」

「イライザさんか・・・たしかにあの人も強いよ。今はどうかわからないけど、男も含めた戦士の中で一番力が強い」

「そうなんだ・・・」

「観光客に雷神と間違われることもたまにあったみたいだよ」

こうやって穏やかな方がいい。

大丈夫、時間はあるからゆっく・・・。


 「・・・わっ!!!」

僕の力が突然消し飛んだ。

 「え・・・なにシロ、どうしたの?」

「力が・・・」

探索はまだ終わっていない・・・。

なんで・・・いや・・・この感じを僕は知ってる・・・。


 だから・・・ここにいちゃダメだ!


 「ニルス!ミランダ!すぐに離れよう!!」

飛び上がろうとした。

 「あ・・・」

浮かない・・・。

体に重さを感じて、全身がビリビリする。精霊の力を封じられたんだ・・・。


 「はあ・・・はあ・・・苦しい・・・」

僕の体が、さっきのミランダみたいに震え出した。

もう恐くない、戦えるって気持ち・・・どこかに行ってしまう・・・。

 「シロ?・・・ミランダ?」

「なんか・・・あたしも苦しい・・・震えて・・・うまく立てない・・・」

ミランダが膝を付いた。

本能でわかるみたいだ。


 「・・・なにかいるのか?」

ニルスだけは剣を抜き、周りの警戒を始めた。

死線を潜ってきた数の違いか・・・。


 「シロ、どうしたらいい?」

「・・・僕の力が封じられた。ここを離れないといけない!」

「わかった。ミランダ・・・」

「・・・」

ニルスは急いでミランダを背負った。

 「シロ・・・重くなってる・・・」

「ごめんね・・・」

「大丈夫だ」

ニルスは僕を片腕で抱えて走り出した。

胎動の剣は結界を斬れる。脱出はできるはず・・・。



 もうじき階段に着く・・・。


 「・・・どこに行くんだ?」

逃げられると思った時、戦いの終わりを告げていた声がすぐ後ろから聞こえて、同時に階段が砕け散った。

 「このまま帰れると思ったか?兜の男・・・顔を見に来てやったんだ」

「・・・」

ニルスの足が止まり、僕とミランダが下ろされた。

逃げられない・・・それがわかったからなんだろう。

 

 「・・・盤外からの参戦は認めていないんだ」

僕は震えて顔すら上げられずにいる。

聞こえるのはとても怒っている声・・・。


 「シロ・・・今やるしかない。ミランダ、気持ちを強く持って。・・・大丈夫だ」

ニルスの靴が地面をこすった。

・・・振り返ったみたいだ。


 「・・・お前がジナスか。勝手に入ったのはオレだ」

「なるほど・・・ふふ、お前か。強い者は憶えている・・・二回だったか戦場に出ていたな。もう現れないのかとがっかりしていたところだったんだぞ?」

「・・・三回だ。記憶力はそんなによくないんだな」

「何度出ていたかはどうでもいいからな。お前ほどの男なら正面から参加すればいい、今回のようにくだらない真似など必要ないだろう。・・・また戦場に出ろ」

声から怒りが少しずつ消えていってる。ジナスはニルスを認めているのか?


 「ああそうだ忘れていた。・・・まずは答えてもらおう。どうやって戦場に入った?・・・なにかで斬ったな」

「素直に答えると思うか?」

「・・・いい目だ。私に敵意を向けているな」

「そういうことだ。そして戦場に出る気はもう無い」

ニルスは普通に話している。

 ・・・うずくまってても何も変わらないよ・・・勇気を・・・。

覚悟を決めて顔を上げた。

僕だって、立ち向かわないといけないんだ!


 そこにいたのは間違いなくジナスだった。

黒衣に身を包み、冷たい目でニルスと睨み合っている。


 「敵意は魔族に向けろ。私は忙しい身なんだ」

「遊んでるだけだろ?もう付き合ってられないんだよ。・・・ここで消えたくなければ女神をすぐに解放しろ」

「女神・・・そうか・・・知ってしまったのだな」

ジナスは、顔を上げた僕を初めて見た。

苦しい・・・あの時と一緒だ・・・。


 「なるほど・・・これはこれは精霊の王シロ様。何度かお誘いをしたはずですが・・・恐怖に怯え、精霊の城に閉じこもっていましたね。ふふ、戦場に興味でも湧きましたか?」

ジナスが不気味な笑みを浮かべた。

ダメだ、恐くて声が・・・。


 「精霊封印は久しぶりだろ?体が重く、力も使えず、痛みもある。・・・そういえば、仲間を消していく時にずっと見せていたな」

この結界は精霊の力を奪い、人間と同じ状態にさせる。疲れ、痛み、寒さや暑さ、そういうのを感じる体に・・・。

 痛みや恐怖を感じながら消された精霊たちの叫びは、今でも鮮明に思い出せる。そして僕の体はその恐怖を忘れずに憶えている。

だからあの目で見られると、指の一本も動かせないんだ・・・。


 「・・・話してたのはオレだろ?それに王様は、お前と話す気は無い」

ニルスが僕をジナスの視線から隠してくれた。

 「シロ、ミランダと一緒に下がっていろ。オレの背中だけを見ていればいい」

この威圧感で、どうして冷静でいられるんだろう・・・。


 「無礼な人間だな。神を怒らせるものではないぞ」

「神か・・・それならお前は邪神だな」

「・・・言うじゃないか。世界を救いにでも来たつもりか?」

「シロはオレの仲間なんだ。それに、オレはお前が作ったくだらない戦場のせいでずいぶん苦しんだ」

ジナスに胎動の剣が向けられた。

今・・・ここで戦うつもりなんだ。


 「どちらにしろ罰は受けてもらうが・・・まあ待ってくれ。どうやって戦場に入ったのか、それだけ教えてくれよ。・・・語らいは嫌いか?」

「お前と話すことは無いな。戦場を終わらせて女神を解放しろ」

「ふふ・・・ふふふ・・・」

ジナスは笑い出した。

 「・・・」

ニルスは剣を向けたまま黙っている。


 「・・・唯一の楽しみなんだ、終わらせるわけないだろ。お前たちとは、永遠に闘争を続けるつもりだ」

「海が無くなればオレたちは生きられない。永遠には無理だな」

「心配するなよ。そうなれば次は海を返してやる・・・勝てばな。慈悲深いだろ?お前たちは永遠に私を楽しませる駒、盤上で・・・」

ニルスが踏み込んだ。今の言葉に我慢ならなかったんだろう。


 「・・・素晴らしい速さだ」

ジナスは宙に浮き上がり斬撃を躱していた。

 「私の目でも踏み込みからは見えなかったぞ。だが・・・まだ話は終わっていない」

やっぱり希望はある。今あいつが言ったことが本当なら、ニルスは勝てる可能性を持っているんだ。

 そうだ・・・さっきお母さんを助けた時は、重い鎧を付けていても今よりもっと速かった。だから本気なら・・・。


 「・・・話が終われば下りてくるのか?」

「当然だ。私の戦場を侮辱した罰を与えに来たんだからな」

でも安心はできない。

離れていても攻撃の手段はある。だからあの余裕なんだ。


 「侮辱だと・・・お前はオレたち人間を侮辱している。たかが人形相手に、戦士が何人死んだか知っているか?」

「望んで戦士になったんだろ?褒賞や栄光を用意し、焚きつけているのも人間じゃないか」

「戦場が無ければ別な生き方もあった!!」

「ふふ・・・人間は争いが好きなんだよ。ずっと出ている強い女がいたな。あれはどうだ?闘争を楽しんでいる類いの人間だと思うが・・・」

ジナスはニルスの髪の毛を見た。

・・・勘付いたか?


 「・・・答えろよ、そういう人間はたしかにいるだろ?」

「・・・」

ニルスは言い返さずに剣を強く握った。

 たぶんジナスの言葉は本当なんだろう。アリシアは、ニルスから見ても戦うのが好きな人なんだ・・・。

 

 「理解してもらえて嬉しいぞ。おかしな力を持っているようだが、人間なのが惜しいな。あの女には永遠に戦場に出てほしいと思っている」

「その女がいるせいで、お前の人形は負け続けているな」

「勝ち負けで楽しんでいるわけではない。私は知略と技を巡らせたギリギリで泥沼の戦いが好きなんだ。・・・昂るんだよ。だから毎回人形の強さを調整している」

それは感じた。

勝つためならもっと強い布陣にもできたはずだ。

 「まあ・・・今回は勝ちにいったがな」

「負け続けは悔しいか?」

「浅はかだな。人間は勝ち過ぎると怠けるんだよ。次も大丈夫だろうなどと考えてほしくはないのだ。・・・今回は、治癒隊を壊滅させれば私の勝ちだった。負けたことではない、思い通りにならないのが気に入らないんだよ・・・」

ジナスがゆっくりと地上へ降り立った。


 「さて・・・最後だ。結界をなにで斬った?」

「・・・」

ニルスは答えずに切っ先をジナスに向けた。

 「そうか・・・では話は一旦終わりだ。お前にはまた戦場に出てほしいから殺しはしない。だが、私に反抗するとどうなるかはわかってもらおう。協力しているシロとそこの女もよく見ておくといい」

「邪神の思い通りになるわけないだろ」

「・・・お前のその自信が気になるな。人間の作った武器は通じないと、そこで震えているだけの王から聞かなかったか?」

「・・・」

ニルスの脚に力が入った。


 「シロ、大丈夫だよ。思い知らせてやろう・・・」

ニルスがさっきよりも速く踏み込んだ。


 閃光・・・一瞬の稲光のような・・・。

いつの間にか、ジナスの左腕が地面に落ちていた。

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