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Our Story  作者: NeRix
水の章 第一部
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第五十三話 風神【ニルス】

 ドラゴンの火球が、治癒隊の張る守護の結界に絶え間なくぶつけられていく。

あれじゃ集中切らして倒れてる人もいそうだ。つまり、長く持ちこたえるのは厳しい。


 早く行きたいんだけど・・・みんな走るの遅いな・・・。



 「アリシアはあっちの奴を相手してるみたいだな」

ウォルターさんがオレの横に並んだ。

 「今はそっちよりも治癒隊を優先しなければいけません。負けては意味が無い」

なんで隣に・・・。

 「その通りだ。・・・なんでだろうな。お前がいればできそうな気がしてくる」

「・・・いなくてもやってください」

オレたちは中央へ近づくため、周りの奴らの相手をしていた。

治癒隊を攻めている飛竜は四体、周りに味方の人形が集まってきたせいか低空に留まっている。


 「オレがやる!」

すぐ先に三体の巨人が立ち塞がっていた。

一人でも多く生き残らせなければ・・・。

 「確実に仕留める!駆け抜けろ!!」

オレは一番近い巨人の右脚を切り裂き、倒れる前に体を駆け上がって首を落とした。

 こっちはドラゴンに比べればずっと楽だ。

人形だし、ためらう必要も無い。



 「速すぎだろ」「強いな・・・」「今まで名前も知らなかった」

巨人を片付けて、先に行かせた戦士たちと合流した。

めんどうだけど・・・。


 「まあ、今回が初めてなので・・・敵に集中してください」

今はロイドさんになりきらないといけない。

 兜は視界が狭くなるから脱ぎたいけど、そうもいかないしな。

ていうか、こんな顔全部隠れるの付けてたら逆に危ないだろ・・・。まあ、そのおかげで助かったから文句言えないか・・・。


 「あー、初戦から突撃隊に志願したってお前か!」

ウォルターさんの槍が人形の頭を貫いた。

どうしよ・・・あんまり聞かれたらきついな。

 「・・・今回で最後のつもりです。報奨金を貰ったら、家族で静かに暮らす・・・」

「・・・ふーん。そういや話すの初めてだけど・・・俺の名前知ってたんだな」

「突撃隊最強・・・当然でしょう」

こんな感じで大丈夫かな・・・。


 「・・・初戦から前線に出た奴ってさ、数えるくらいしかいないんだ」

ウォルターさんがニヤついた。

 「それが・・・どうしました?」

「そん中でも、とびきり強いのがいたんだ。まるで風神だなって言ったら嫌がってたけどな」

他にそんな奴いないだろうし、たぶんオレの話だ。

 「・・・そいつのかわりにお前を風神って呼ぶよ」

「好きにすればいい・・・」

結局そう呼ばれるのか・・・。


 「お前の動きは、そいつとよく似てる。足運びが独特で静か・・・けど踏み込みの音だけはデカい」

「ゴーシュでは・・・みんなこうです」

面倒だな・・・あんまり勘ぐらないでくれよ。

 「へー・・・鎧脱いだらもっと速そうだな。兜も取って全力でやったら?」

「・・・これくらいなら必要ありません」

「踏み込みの跡・・・なんか見覚えあんだよな・・・」

それに戦いながらよくペラペラ喋れるな。

・・・困ったぞ。


 「合流します!!」

「ケガ人はいますか!!」

スコットさんとティララさんの声が聞こえた。

助かる・・・。

 「オレは道を開きます!!ティララさんは治癒を!戦える人を増やしてください!」

「え・・・ああ、うん」

「スコットさんはオレに付いてください!孤立している隊を助けながら行く!!」

「あ?・・・おう」

これ以上余計なことを聞かれても困る。早いとこ終わらせよう。

 


 死守隊との合流は割と楽だった。

治癒隊の消耗を狙うためか、ドラゴンは結界への攻撃しかしていない。

跳ね返った火球のつぶてに気を付けてさえいればいい感じだ。


 「・・・お前たち以外の生き残りもここに集まってきている。まだ負けてはいないようだが、おそらく死者は四百を越えただろう・・・。だが諦めるな!まずは飛竜、空からの攻撃は厄介だ。しかし幸いなことに岩が多い、それか地竜に飛び乗れれば飛竜にも届くだろう。火球の間隙を突き、何とか撃破してくれ」

べモンドさんの目は以前と変わらない。危険な状況でも絶対に狼狽えず、冷静な判断が下せる人だ。


 「前方と後方、二体ずつ・・・二手に分かれよう。後方を撃破すれば反撃隊と合流できる」

ウォルターさんがオレの背中を叩いた。

 「それが最善だな。私は後方へ・・・イライザ、バートン、お前らも来い。死守隊の精鋭は全員残す」

「当然だ」

「ひっくり返してやろうぜ!!!」

懐かしい顔・・・この人たちなら大丈夫かな。


 「・・・オレは前方に行きます。一人でも問題ありませんので、後方に他の戦力を回してください」

いつの間にか戦場での体に戻っていた。

 心もとても冷たくなってる・・・だからいい状態だ。本当に一人でもできる。


 「お前は・・・」

「誰だ?」

「知らねーな・・・」

べモンドさんたちが目を細めてオレを見てきた。

誰だっていいだろ・・・。


 「こいつはロイド・・・らしい。お前ら知ってるだろ?」

ウォルターさんも入ってきた。

急げよ・・・。

 「おお!!生き残ってたか!!さすが俺が認めた男だ!!」

「ああ・・・ゴーシュの・・・」

バートンさんとイライザさんが反応した。

初戦から前線・・・知ってて当然か。


 「お前の隊は・・・」

べモンドさんは険しい顔だ。

 「オレ以外は・・・おそらく・・・」

「そうか・・・」

やばいな・・・誰の隊だったか聞いてない。

 「あの・・・すぐに飛竜を・・・」

「そうだな。だが、さすがに一人では行かせられん」

「心配ないぜべモンド、こいつはロイドっつーか・・・風神なんだよ。さっきも飛竜を一撃で倒した」

この無駄話・・・まだ続くのか?


 「風神・・・」

「ああ、俺もよくわかんねーけど・・・間違いなく風神だ」

「バカな・・・」

べモンドさんがオレに近付いてきた。

 「冗談言ってんじゃねーぞ!!」

「そんなわけないだろ・・・」

バートンさんとイライザさんも。

 「まさか・・・」

「いや・・・でも・・・」

ティララさんとスコットさんも・・・。

なんだ・・・寄るなよ・・・。


 「オレはロイドだって言ってるだろ!!それに時間が無い!!」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

みんな止まってくれた

「兜取れ」って言われたらヤバかったな・・・・。


 「早く後方に行ってください!!」

「あ・・・ああ。・・・ティララ、スコット、ロイドと共に前方の撃破に向かえ!後方は私、イライザ、バートン、ウォルターで行く。・・・残った者は飛竜が片付いたら周りの雑魚を蹴散らしていけ!まずは治癒を再開しなければならない!」

そう、それが最優先・・・あ!!


 「地竜も遠ざけたら他は無視して治癒を再開して大丈夫です」

これは伝えないといけない。

 今までは敵が人形だって知らなかったから、近付かれたら治癒を解いていた。でもこれからは、火球みたいに一撃で死ぬ危険が無ければそんなことしなくていい。

 「バカな・・・敵まで回復させる気か?」

「えっと・・・気合を入れて、一撃で倒せば問題ないはずです!それに治癒が再開されたってわかれば、みんなの士気も上がります!」

「・・・なるほど、やってみるか」

「絶対大丈夫です。オレの方はそっちよりも早く片付けるので、べモンドさんたちが終わり次第再開してください」

時間も無いからこれでいいや。

 あ・・・まだ言っとかないといけないことがあった。

一番大事なこと・・・。


 「べモンドさん!前方の二体は必ず倒します!なので、今回勝利したら必ずオレを功労者にしてください!」

「・・・」

「ロイド・クリスマス!忘れないでください!イライザさんたちも頼みますからね!」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

答えろよ・・・。

 「にょ・・・女房に報奨金を持って帰るって約束したんだ!」

「お前・・・結婚したのか?」

「してな・・・いや、してる!女房は・・・め、メアリ・クリスマス!・・・だったら何ですか!」

これ以上はまずい・・・。


 「・・・もう一つ!こっちが終わったら、二人はアリシアと合流させる!」

「・・・わかった。二つともお前の言う通りにしよう」

よし、言質は取れた。

これでロイドさんは功労者だ。


 「スコットさん、ティララさん、早く行きますよ!」

「うん・・・」

「ああ・・・」

二人は気の抜けた返事をした。

なに緩んでんだよ。だからこんなことになってるんじゃないか。



 「えっとね・・・治癒はずっとかけててあげる。守りは気にしなくていいけど、火球だけは気を付けてね。・・・治癒の間もなく炭になっちゃうから」

ティララさんが走りながら優しく教えてくれた。

この人を早くアリシアの所に行かせなければならない。


 「知ってます。アリシア隊と同じ動きをしてもらえればそれでいいです」

「まあ・・・そうだよね」

「スコットさんもオレの指示で動いてほしいです」

「・・・その方がよさそうだ」

なんか返事があっさりな気がする。

 「・・・文句は無いんですか?二人は、初めてここに来たオレよりも長いのに・・・」

「別に・・・」

「特に無い」

気になるけど・・・考えないようにしよう。


◆ 


 一番距離が近かった飛竜に到達した。

二体同時じゃなくてよかったな。


 「スコットさん!火球を吐いた直後だ。足元に飛び込んで注意を引いてください。オレは真後ろに回り込む」

「・・・任せろ!」

「ティララさんはスコットさんに付いてください。前に油断して尻尾を見てなかったことがあるから気を付けて!」

「あはは・・・了解」

楽にいけそうだ。

・・・この二人はやりやすい。



 「こっちだぜ!!」

「・・・」

飛竜が潜り込もうとしたスコットさんに目線を移した。

ちゃんと言った通りに動いてくれてるな。


 「人形が調子に乗るな!!」

オレは真後ろから背中に飛び乗って、ドラゴンの首を斬り落とした。

あと一体・・・まだ上空か。



 「オレはあの岩から飛び乗って翼を落とします。二人は下から近付いて気を引いてください」

二体目の飛竜は、ちょうど大岩の近くにいた。

羽ばたいてるけど・・・あれならすぐにいける。


 「それなら楽そうだ」

「任せて」

二人はすぐに向かってくれた。

楽そうか・・・アリシアみたいに無茶させるわけないだろ。



 「これくらい戦士だけでやってくれよ・・・」

飛竜には容易く乗ることができた。

スコットさんでもやれたんじゃ・・・。


 「暴れるなよ・・・」

翼じゃなくて頭を落とした。

下の二人は温存させよう。ていうか・・・全員鍛え直せ・・・。



 「あ、治癒・・・」

「べモンドさんたちもやったみたいだな」

守護の結界が消えて、治癒領域が広がった。

同時に戦士たちの雄叫びも・・・これで一安心だな。

 

 「さすがねニルス君」

ティララさんが微笑んだ。

 「ええ、二人のおかげです。早くアリシアとごう・・・あ・・・」

気付かずに返事をしてしまった。

今のは自然過ぎる・・・。


 「まあ、だよね・・・やっぱり」

「・・・オレはロイドです」

「嘘じゃん・・・。一緒に戦ってたんだからわかるよ、声なんてそのまんまだし・・・」

「・・・人違いだ」

ここで正体を明かせば、ロイドさんが功労者になれないかもしれない。ごまかし続けるしかないな。


 「俺もそう思った。ニルスと同じ動きだぞ」

「その剣も・・・似てるよね」

「・・・今はオレが何だろうと関係ない!アリシアは今一人なんでしょ?部下なら合流を優先しろ!」

オレは強引に話を終わらせて走った。

二人は・・・付いてきてるな。



 「やっぱりニルスがいると安心感があるよな。アリシア様と違ってやりやすい」

「うん、アリシア様もニルス君が助けに来たって知ったらきっと嬉しいと思う」

スコットさんとティララさんが盛り上がり始めた。

二人は完全にオレをニルスだと確信してる・・・。


 「でもなんでここにいるんだ?出発前に絶対誰か気付くだろ。どうやって紛れ込んだ?」

「わからないけど・・・とりあえず間違いなくいるんだからいいでしょ」

・・・もう戦いのこと以外喋らないようにしよう。


 「ニルス君、旅はどうなの?」

ティララさんの優しい声が背中に当たった。

まったく、ロイドだって言ってるだろ。・・・楽しいよ、仲間もできた。

 「紬の月の未知の世界見たか?精霊の城の新しい記事が載ってたんだ」

スコットさんが答えたくなることを言った。

知ってる、だからシロと逢えたんだ。

 

 「あ・・・出発の時間嘘ついたよね?」

「そうだそうだ、ジーナさん怒ってたぞ」

「恥ずかしかったの?」

「けっこう集まってたんだぜ?」

オレは答えなかったけど、二人は構わず話をしてくる。

・・・仕方ない人たちだな。


 待てよ・・・この二人がいるなら、オレは戻ってもいいんじゃないか?

もうなんとかなるだろうし、たぶんロイドさんも功労者に選ばれる。

それに・・・アリシアに会っても、たぶんうまく話せない。


 でも・・・「帰ってきてくれ」とか言われたら?

・・・なに期待してんだよ。

 「さよなら」を言って出てきたんだ。父さんには悪いけど、オレから歩み寄ることはできない。会わなくても・・・いいんだ。

 

 あ・・・一つだけ話さないといけないことがあった。

父さんのことは、教えなければいけない・・・。

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