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Our Story  作者: NeRix
水の章 第一部
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第四十八話 神鳥の森【シロ】

 三人で話しながら歩いて、夜は野宿をして、夜が明けたらまた歩いて・・・。


 オーゼの川には、あと三日くらいで着くらしい。

世界は・・・今の所平和だ。

こんな日々が、ずっと続けば幸せなんだろうけど・・・。



 大きな、とても大きな森に入った。


 『まっすぐ行くか、迂回するか・・・どうする?』

『迂回・・・歩く距離変わる?』

『地図見てよ。相当広い・・・』

『よし、突っ切ろう。たまには困難な道も行かないとね』

ミランダの意見でこっちを選んだ。

ここを抜けて、さらに南へ歩けばオーゼの川だ。


 「ニルスが深爪なのは女の子を触るため・・・」

ミランダは、疲れるとひとり言を聞こえるように話す。

 「・・・」

ニルスは疲れてると喋らなくなる。


 二人のことがわかるようになってきていた。

一緒にいるんだから自然とこうなるよね。


 「・・・この森ってなんか地面が硬い気がする」

ミランダが嘆いても、今日はこの森を抜けないといけない。

自分で言いだしたことだから、ニルスに「背負って」っても頼めないんだろうな。

 「もう足が痛いよ・・・」

人間がほとんど通らないせいか獣道しかないみたい。だから歩きにくくて疲れるのが早いって感じか・・・。

 方角は、僕が上空から見て伝えながらだから迷うことは無いけど、二人は大変だろうな。


 「シロはふよふよ浮いてて楽そう・・・」

ミランダの標的が僕に変わった。

ニルスが答えてくれないから諦めたのか。


 「ミランダは疲れてるみたいだね。紛れるかわかんないけどお菓子食べる?」

「うん、食べる。シロはいい子だねー」

僕は鞄から焼き菓子を取り出してミランダに渡した。

 残り少ないな・・・。

僕のお小遣いで買ったのに、けっこうミランダに食べられてる気がする。


 「シロ・・・オレにも甘いものを」

「あー、あたしの話は無視したくせに」

「・・・オレが深爪なのは、拳を握った時に爪が当たるのが気になるから。それと、たしかに女の子だけどルージュを引っ搔いたりしないように・・・」

「今さら答えても遅いのよ。シロ、ニルスには生野菜をあげなさい」

ふふ、この二人のやり取りは面白いな。


 今日までジナスから見られている感じは無かった。

最初はけっこう恐かったけど、今は忘れてることの方が多い。

 『シロ、監視が無くなったから私を作ったんでしょ?きっともう私たちに興味ないのよ』

メピルの言ったことは本当だ。どうせ逆らってこないって思われてるんだろうな・・・その通りだけどさ。

 でも、ニルスたちと城を出てよかった。

こんなに楽しい気持ちは、女神様が封印されたあとは無かったから・・・。


 それに二人は僕に「戦わないの?」とか「女神様を助けなくていいの?」っては聞いてこない。

本当の所は恐くて聞けないけど、そういうのから遠ざけてくれてるっていうのは感じる。


 『なにをどうするかは自分で決める。・・・ただ、大切な人たちが危険な目に遭うならオレは戦うよ』

僕もそうならないといけないって気持ちはある。だけど・・・まだ恐怖に立ち向かう決意はできていない。

それができる日は・・・来るのかな?



 「この森の魔物は温厚なのばかりだな」

ニルスはお菓子を食べて元気になってくれた。

 「頭いいのかもね」

ミランダもだ。


 「戦わなくていいのは助かる」

「余計な体力使わなくて済むしねー」

何度か魔物に出くわしたけど、僕たちが縄張りを荒らしたりしないことがわかると離れていった。

それに、ジナスの気配も薄いから全然恐くない。


 「あ、ニルスの手から血が出てる。どっかで引っかけたのね。ん・・・それともあたしに治してほしくてわざと傷を作った?」

「・・・わざとじゃないけど治してはほしいな」

「仕方ないな―ニルスくんは・・・ほら見せて」

「・・・なんで胸を触らせるの?」

二人は言い合うこともあるけど仲がいい。

絆が強いのは見てればわかる。だから一緒にいる僕も二人を信頼できるし、旅が楽しいって思えるんだろうな。


 「シロ、日暮れまでには抜けられそう?開けた場所がないとテントも置けないし火も焚けない」

ニルスのケガが治った。

 「二人の足ならもっと明るいうちに出られるよ。このまま進むと、森に入る前から見えてたおっきい木がある。そこを通り過ぎていけば近いから」

間違ってはいないけど嘘をついた。


 本当に巨大な木。十年、二十年どころじゃない。

二人には悪いけど、あれを間近で見たい。だから、もっと近い道があったけど教えなかった。

・・・僕のお菓子と交換ってことにしておこう。



 「大樹はもうすぐだよ。近くで見たら二人もびっくりすると思う」

僕は二人を急かした。

早く見てほしいな。


 「そこまで言って驚かなかったら、シロは三日間あたしの枕ね」

「うん、いいよ」

そんなことありえないけどね。


 「あ・・・ちょっと先に行く」

ニルスが駆け出した。

大樹が木々の合間から見えたみたいだ。たぶん最初から「木を見て行こう」って言っても賛成してくれたっぽい。

 「・・・急に走り出しちゃって。まったく子ども二人の相手は・・・えー!遠くから見えたのと全然違うじゃん。ニルスー待ってー!」

ミランダも走り出した。

もう枕の話は忘れてそう・・・。



 「すごーい、てっぺんまで見えないよ。・・・見て、なんか大きい鳥もいる」

三人で大樹を見上げた。

 「高いな・・・オレの身長の五十倍くらいか?太さはミランダ何十人分だろ・・・」

目の前で見ると圧倒される大きさだ。

 高さ、太さ、枝の数も周りのものとは比べ物にならない。

どのくらい生きてるんだろうな・・・。


 「なんで太さをあたしにしたのよ?たかーい、おおきいーでいいでしょ?」

「いて・・・」

見上げると自然に口が開く。

 ・・・僕の城より大きいや。ここに根を張って、大きくなって、いくつも季節を重ねて、森の命を見守って・・・。 


 「この森の王様なのかな?」

「この森っていうより、大陸中の木の王様なんじゃない?シロとは王様同士ね」

僕は名前だけ・・・。

 この木はどうなんだろう?僕にはこんなに威厳はないし、誰かの心を動かすこともできない。

なんか恥ずかしいな・・・。


 でも声・・・意志を聞きたい。

僕は大樹に触れた。

 『なにも無い頃に生まれ・・・この先もここに・・・』

なるほど・・・大きくても植物、命をまっとうしているだけって感じか。

それなのに・・・僕たちの心を揺らせる。


 「静かだからよかったのに、なんか鳥の声がうるさいな・・・」

見上げていたニルスが呟いた。

たしかに、上の方から騒がしい鳴き声が響いている。


 「・・・魔物かな?あれ・・・なんか落ちてくるよ。あ、ニルス・・・」

ミランダが何かに気付くと同時にニルスが大樹の幹を蹴り、それに向かって跳び上がった。

 「・・・速すぎでしょ。あの足どうなってんだろうね」

「目もいい。集中してなかったのもあるけど、僕は捉えられなかった。人間が普段の状態であれはすごいよ」

ニルスは難なく落ちてきたなにかを両手で受け止め、枝を伝って下りてきた。

僕が人間だったら絶対できないな・・・。


 「・・・見て」

ニルスの手には、りんごくらいの大きさのフクロウがいた。

右の翼が少し裂けてる・・・。

 「この子ケガしてるよ・・・」

「うん、治してあげよう」

「あたしもやるよ・・・あ、そんなに大ケガじゃないみたいね」

二人が治癒魔法をかけてあげると、フクロウの体が少しだけ動いた。

これならすぐに治るはず。



 「うん、傷はもう・・・無いな。・・・なんかかわいいよ」

ニルスはフクロウの嘴を指で撫でてあげた。

無事でよかったけど、どうしてケガなんかしてたのかな?


 「・・・あったかい。誰・・・女神様?」

ニルスの手の上から声が聞こえた。

 「え・・・ニルス?」

「いや、オレじゃない・・・もしかして」

「起きてる・・・」

フクロウが目を覚ましてこっちを見上げていた。

え・・・。


 「女神様じゃない・・・人間?」

喋ったのはフクロウだった。

ありえない・・・。

 「なにこの子・・・喋った」

「話せる鳥なんていたんだな・・・」

ミランダとニルスもわかっているみたいだ。つまり、本当に話ができている。

 おかしい・・・。僕だけ聞こえるならわかる。精霊の僕なら命の心がわかるけど、ただの人間の二人にまで・・・。


 「ボクは・・・あ!行かなきゃ!」

フクロウはなにかを思い出したみたいで、すぐに羽ばたき大樹の上へ飛んでいった。

 「どうしたんだろうな・・・」

「変なの、上になにかあんじゃない?」

「・・・追いかけてみるよ」

僕も飛び上がった。

あの子の存在がなんなのか・・・気になる。



 フクロウはどんどん上に飛んで行く。

そろそろてっぺんに着いてしまうぞ。


 「・・・荒らされてない。よかった・・・」

大樹の頂点より少し下、ぽっかりと口を開けた樹洞にフクロウが入っていった。

・・・この子のおうちか?


 「ねえ、僕も中を見ていい?」

「わあ!なんでいるの?人間は飛べないはずだよ」

鳥だって喋らないはずなんだけど・・・。

 「僕は精霊だから」

「精霊・・・。あ・・・ずっと昔はこの森にもいたよ。でも、いつの間にかどこかに行っちゃったんだ」

フクロウは羽をたたみ直した。

 ずっと昔・・・ジナスに捕まった?

ということは、このフクロウは少なくとも三百年以上は生きている。・・・精霊でもないし、どういうことなんだろ?


 「精霊なら見てもいいよ」

フクロウが外に出てきた。

 「ありがとう・・・意外と広い・・・」

「これくらいじゃないと、この子たちをみんな置けないから」

「君の卵・・・じゃなさそうだね」

そこには、大きさや色の違う五つの卵が置かれていた。

ちゃんと命になっているものだ。


 「ここに住む鳥たちのだよ」

「どうして君のおうちにあるの?」

「神鳥の森の掟なの。ここはすごく広いでしょ?東西南北、そして中央の五つに区切ってるんだ。それぞれの卵が、将来五つの場所の長になる。長の卵は神鳥であるボクが孵さないといけないんだ」

・・・神鳥?聞いたことないな。

女神様のことは知ってるみたいだけど、僕の記憶や知識にはない存在だ。


 「僕、シロって言うんだ。君の名前は?」

「ボクはシル、女神様が付けてくれた」

「シル・・・僕たちの名前似てるね。もしかして女神様が君を作ったの?」

「んーん、女神様が死なないようにしてくれたの。ずっとこの木と森を守っていてってお願いされたんだ」

・・・不死の力か。

 よく考えたら女神様が命を作るはずがない。だからたぶん、ジナスも知らない存在だと思う。

もしくは、力も害もなさそうだから放っておいてるだけ?


 「ねえ、ジナスって知ってる?」

「え・・・わかんない」

シルも知らないみたいだ。

じゃあ、女神様だけか・・・。


 「シル教えて。女神様はよくここに来てたの?」

「え・・・うん。来たらさっきの人間みたいに嘴を撫でてくれてたんだ。でも、もう三百年くらいは来てないよ。なにか忙しいのかな?」

たしかこの辺りは沈んでいない場所だ。

静かで綺麗な場所だし気に入ってたんだろう。


 「シロは女神様がどこで何をしてるか知ってる?」

「え・・・えーと・・・」

シルは女神様に会いたいのか。今はジナスに封印されて囚われている・・・なんて言えない・・・。

 「もしかしてシロもわからない?どこに行ったんだろうね。また撫でてほしいな」

「ん・・・うん」

僕は本当のことを教えることができなかった。


 『どうしてなにもしないの?早く助けに行ってあげてよ』

そう言われるのが恐かったから・・・。

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