第三十話 弟子【ケルト】
アリシア、三年以上来ないね。・・・どうしたの?
年に一度は顔を出してくれてたのに・・・なにかあったのかな・・・。
『じゃあ・・・また来年会おう』
最後に来た時は変わりなかった。
考えられる理由はなんだろう・・・。
・・・戦場でやられてしまった?
いや、それならハリスか行商さんが教えてくれるはずだからありえないか。
もしくは僕に気を遣って言えない?
もし・・・もしそうなら、ニルス君はどうしてるんだろう?
あの子はもう十五歳・・・戦士になるっては聞いてたけど、結局どうなったのかな?
もしアリシアに最悪の事態があったとしたら、あの子は今一人ぼっち?
・・・もしくはニルス君の方になにかあった?
・・・よくない想像ばかりしてしまう。それくらい僕の中で家族は大きな存在だ。
やっぱり・・・強引にでも引き留めて、一緒に暮らすべきだったな・・・。
◆
何度も目を覚ましながら朝を迎えた。
最近はずっとこう・・・不安を抱えたままだから仕方ない。
眠いけど・・・起きようかな・・・。
「ああ・・・ごめん、まだ無理なんだ。やる気が出ない・・・」
寝室のテーブルには、ハリスが置いていった注文書が三枚ある。
とりあえず忘れないように、近くに持ってきてはいるけど・・・。
『期限は早いもので凪の月です』
『・・・わかった』
仕事を溜めてしまっていた。
まあ、まだあとふた月もあるし問題ない。
『ねえ・・・テーゼには・・・』
『行っていません。ここ五年は南部にも・・・』
『何してるの?』
『可能性は薄いですが、ずっと北に小島がいくつか・・・』
なんか必死そうだから頼めなかったんだよな・・・。
でも、ハリスしかいない・・・。
仕事増やされるかもしれないけど呼んでみるか。
「あれ・・・」
ベッドから出たと同時に、馬車の音が聞こえてきた。
「誰・・・行商さん?」
いや違う、きのう来たし・・・。
アリシアじゃないのは確実だ。
水の月は「ニルス君の誕生日があるから来ないで」って僕が言ったしな。
・・・まさか徴税官?
ついに来たか・・・いないふりしてやり過ごそう。
◆
「あれ・・・」
毛布をかぶってじっとしていると、馬車が遠ざかっていく音が聞こえた。
・・・見て帰った?
ちょっと行ってみよう。
◆
「客だ。開けてくれ」
入り口の扉が叩かれた。
いたのか・・・。
男・・・とても若く澄んだ声だ・・・。
依頼か?ここをどこで聞いたんだろう?
こんなところまでわざわざ来たのはアリシアくらいだ。
彼女はユーゴさんから教えてもらったんだっけ・・・懐かしいな。
あの人・・・また誰かに喋ったのか?
「誰もいないのか?」
また呼びかける声と扉を叩く音が聞こえた。
依頼は受けたくない、面倒だから帰ってもらおうかな・・・。
「客だ!・・・いるじゃん」
近付くと同時に、大きな声を出された。
うん・・・乱暴な人は嫌い・・・。
「・・・今は気分じゃない。悪いけど・・・お引き取り願おう」
一言だけ伝えてすぐに離れた。
「は?・・・おい」
別にいい、僕が元気な時にまた来てね。
さて・・・悩んでてもしょうがないし、もうハリスを呼んでしまおう。
すぐに来るだろうからお酒でも出してあげるか。
気分がよくなればタダで頼みを聞いてくれるかも・・・。
「オレはニルス・クラインだ!父親に会いに来た!」
予想していなかった言葉が聞こえた瞬間、僕の体が固まった。
は?え・・・。
グラスを落としてしまった・・・いや、そうじゃない。
「ニルス」って言った。「父親に会いに来た」っても・・・。
いやいやいやいや・・・・そんなはずないだろ。なんでここを知ってる?・・・アリシアが話した?・・・なんで?やっぱり彼女になにかあった?
頭の中が騒がしくなってきた。
・・・どうする?本人?・・・嘘だったら?
・・・いや、どっちにしろ事情を知っている。
答えはすぐに出た。
話・・・聞くか。
◆
僕は急いで扉を開けた。
「・・・ニルス・・・くん?」
ひと目でわかった。
彼女と同じ髪色・・・母親の面影のある目元は、赤ん坊の時と変わらない。
会ったのは一度きり、でもわかる。
背は僕よりちょっと低い・・・アリシアと同じくらい?・・・こんなに成長したんだな。
「名前を言ってよかった。追い返されるところだったよ」
「あ・・・うん・・・」
「ケルト・ホープ・・・間違いない?」
「・・・うん」
ニルス君だとわかった瞬間から鼓動が早くなっていた。
どうしよう・・・どんな顔すれば・・・。
「あの・・・とにかく入って・・・」
「・・・いいのか?」
「うん・・・座った方が・・・いいかなって・・・」
「・・・迷惑なら出てくよ」
ニルス君が切ない声を出した。
こんなに焦ってる感じじゃダメだ・・・。
息子・・・僕は父親なんだから堂々としてないと。
「迷惑じゃないよ。入ってほしい」
僕は胸を張った。
「どうぞ」
「・・・」
よく見ると、ニルス君の眼差しには少し不安の色がある。
精一杯の虚勢を張っているような・・・当たり前か。
けど、なんでここに?
疑問はたくさんある。・・・なんで一人で来た?
「えっと・・・どこに・・・」
「あ・・・ごめん。そ、そこのテーブルに・・・」
気を抜くと額から汗が流れた。
拭くの見せたくないな・・・。
◆
ニルス君と向かい合って座った。
「・・・」
でも、ずっと黙ってて気まずい。どうしたらいいかな・・・。
まさか急にこの子が来るとは思わないよ。
あ・・・こういう時は、僕から話さないとダメだよね・・・。
「あの・・・まずは・・・ごめんね。二人で君を騙していた・・・」
とりあえず謝った。
嘘がバレたってことだから・・・。
「別に・・・気にしてない」
「そう・・・」
「・・・」
ニルス君の目は、ずっと斜め下を見ている。
怒ってはいなそうだけど、気にはしてるって感じだ。
「僕とここのこと・・・アリシアから聞いたの?」
「・・・そうだ。実は生きてるって聞かされた」
そりゃそうだよね。
・・・いやいや、ずっと隠してたことを話したんだ。なにかあったってことだよ。
「アリシア・・・お母さんになにかあったの?」
「いや・・・元気だよ」
「そう・・・よかった」
ん?じゃあニルス君にここを教えたのはなんでだ?
「あの、改めてだけど・・・ニルス・クライン・・・あなたの息子らしい」
ニルス君はまだ緊張してる感じだ。
そうだ、堂々としないと・・・。
「じゃあ僕も改めて・・・ケルト・ホープ、君とは赤ん坊の時に一度だけ会ったことがある」
息子・・・そう、息子の前なんだ。僕が焦ったり、緊張してたら情けないよね。
ていうか、この子の方がずっと緊張してるはずだし、僕がそれを解いてあげないといけない。
事情はまだわからないけど、こうやって会ってしまった。
だったらもう開き直って仲良くなろう。
「ニルス君は戦士になったんだよね?アリシアが嬉しそうに話してたよ」
「・・・もうやめた。元々オレは旅人になるのが夢だったんだ。あなたのことは・・・旅立つ前の晩に聞いた」
ニルス君は一度だけ僕を見て、すぐに俯いた。
顔は「詳しくは話したくない」って感じだ。
表情で気持ちがわかる・・・ふふ、これはずっと変わらないんだな。
・・・もっと、見てあげよう。
「元々?アリシアから聞いてた話と少し違うね」
「・・・あの人があなたに何を話していたかは知らない。ただ、オレの夢は昔から変わってない」
辛いことや嫌なことがあったみたいだ。
僕は息子の今までを知らない。
戦士じゃなく旅人になりたかったのなら、今は望み通りになったってことだ。
じゃあどうして目の前の男の子は、夢を叶えたはずなのに楽しそうな雰囲気がないんだろう?
アリシアの話では・・・。
『ニルスは戦士になると言ってくれた。今の時点で、その辺の大人は軽く倒せるくらいだと思う』
『あの子は、きっと私よりも強くなる。世界一にしてやるんだ』
ニルス君は望んで戦士になったように思える。
だけどこれは彼女の視点での話だ。実際にニルス君が何を考えていたのかはわからない。
おとなしそうな子だし、彼女に流されてしまったのかな?
その不満がどんどん大きくなっていって・・・母親とぶつかった?
「もしかして、ケンカして出てきたの?」
「そういうわけじゃない。ただ・・・もう戻らないつもりだ」
ニルス君は目を閉じた。
でもわかる・・・苦しそうだ。
原因・・・アリシアが作ったんだろうな。
まだ会って少しだけど、聞いたことにはちゃんと答えてくれるいい子だ。
堅い感じの話し方は、アリシアと一緒に生活して似てきたのかな?
あ・・・一緒に暮らせなかったことも謝らなければいけない。
「ニルス君、突然僕が生きてるって聞いて戸惑ったと思う。それに・・・もし父親がいないことで、悲しい思いをしたことがあったらごめん・・・」
「別にそういうのはなかったよ。アリシアの名前のおかげか、それでからかってくる奴はいなかった」
ニルス君は初めて薄く笑ってくれた。
なによりだけど、寂しいと思ってはほしかったな・・・。
「ねえニルス君、僕のことはどこまで聞いたの?」
あとは、僕の過去を話したのかどうか・・・。
たぶん無いだろうけど。
「一緒に暮らせない事情だけ聞いた。・・・あなたの考え方はわかる。オレもルージュ・・・妹に同じようなことをしてきた」
「いもうと・・・ルージュ?」
また体が動かなくなった。
僕の過去を知っているかどうか・・・それ以上の衝撃・・・。
「どうしたの?娘だろ・・・」
「むす・・・」
まっすぐに息子を見れない・・・。
落ち着け・・・落ち着け・・・。
◆
「ニ、ニルス君・・・妹・・・いるの?」
なんとか声を出せるくらいになった。
落ち着いたと思ったのにまた取り乱してしまっている。
「いる」
「父親は・・・」
「あなただって言っただろ・・・」
逆に目の前のニルス君はとても冷静で年上にも見えてきた。
「まさか・・・なにも聞いてないの?夫婦なのに大事なことは話さないんだな・・・」
「・・・僕にもわからない。娘もできてたのか・・・」
「他に男の気配は無かったからあなたしかいない。・・・ルージュは、来月で三歳になる。風の月生まれだ。・・・よく見ると、目元はあなたに似ている」
来月で三歳・・・なるほど、子どもができたから会いに来るのをやめたんだ。
ニルス君のために二つ目の精霊鉱を使った。
ルージュにもそれをするかもしれないって考えたんだろうな。
・・・まったく、君が悲しむようなことをするはずないだろ。
「アリシアらしいね・・・」
彼女の思考は単純だ。
意図がわかると悩んでいた自分が可笑しくなってくる。
「どういうこと?なんで笑ってるの?」
「たぶん、アリシアは僕の命を心配したんだよ。だから娘のことを教えてくれなかった」
「・・・ルージュとあなたが関わると死ぬの?」
「そういうわけじゃないけど・・・愛だよ。とても美しい愛」
まだわからないかな?そういう経験はどうなんだろう?
ああ、もっと話をしたい・・・。
「ルージュちゃんに同じようなことをしてきたって言ってたね。教えてほしいな」
「なんでかはわからないけど、あの子はまだお喋りができない。だから物心っていうのもまだついてないと思うんだ」
「・・・それで?」
「だから、兄はいなかったことにさせた。・・・約束してから出てきたんだ」
ニルス君は悲しそうに下を向いた。
妹のことはとても大切に思っていたんだろう。
なら、その妹に自分の存在を隠す意味はなんだ?
僕とは事情が違う、君は今自由な旅人だから気になったら会いに行けばいい。
・・・つまりそれができない状況?旅立ったっていうよりは、追い詰められて飛び出した・・・って感じか?
「アリシアはあなたに会ってほしいって言った。オレも・・・少しだけ興味が湧いたんだ。おんなじ考え方の所もあるし・・・」
「うん、似てるんじゃないかな」
アリシアが僕の存在を話してしまった理由、なんとなくわかってきた。
まだ予想ではあるけど、アリシアは自分の夢とニルス君の夢を一緒にしてしまったんだろう。
この子は初めから旅人になりたかったけど、アリシアはその道を塞ぐようにしちゃってたんじゃないかな?それで一人だけ盛り上がって・・・その上、ニルス君の話も聞かずにただ腕を引っ張っていた。
こんな暗い顔になるまで・・・。
一緒に暮らしていてこうなる前に気付かないものなのかな?
十年以上離れてた僕だって、顔を見ればどんな気持ちかくらいはなんとなくわかるぞ・・・。
それに母親を名前で呼んでる。慣れてる感じだから、少なくとも半年以上は前からか?
そして、さすがにアリシアも最近になって色々気付いた。もうその時には遅かったんだろう。
だから僕に託すしかなかったんだ。
あれ・・・でも周りの人たちはどうしてたんだ?けっこう世話を焼いてくれるって・・・いや、他の人たちを考えるのはやめよう。
本当は、家族でどうにかなる問題だろうし。
・・・大丈夫だよアリシア、僕にも責任はある。だからできる限りはやってみるね。
ただ、そのためにはこの子の時間を貰わないといけない。
◆
「これ、森で取れた木苺なんだ。甘いから食べてみて」
時間を稼ぐためもあって出した。
「・・・」
「遠慮しないで、たくさん実ってたから取りに行けばまだまだある」
「・・・ありがとう。・・・本当だ、すごく甘い」
ここに残ってほしい。どう切り出すか・・・。
・・・違う。はっきり言えばいいんだ。
「ねえニルス君、勝手かもしれないけど、僕は君ともっと話したいんだ。すぐに出て行くの?」
「・・・いや、実は武器が欲しいんだ」
武器・・・変だな、栄光の剣は渡さなかったのか?
「・・・僕が君のために作ったものがあったはずだよ。アリシアから貰わなかったの?」
「栄光の剣は・・・一時期使ってたけど置いてきた。オレと同じ名前の剣だから、あればアリシアが寂しくならないかなって・・・」
優しい子だ。ちゃんと母親の気持ちをわかっている。
そして美しい魂・・・僕の両親から続いているのかな・・・。
「だけど・・・どう思ったかはわからない。邪魔に思ってたりするかも・・・」
「え・・・」
胸が痛んだ。
アリシアがそんなことを思うはずない。
こんな疑念を抱かせるくらいのことがあったんだ・・・。
「心配ないよ。アリシアは大切に持っていてくれる」
「・・・」
「信じてほしいな」
初めて話す父親の言葉なんかも信用はしてくれないかな?
「とにかく武器・・・剣が必要だ」
ニルス君は話を戻した。
まだ触れられないか・・・。
欲しいのは剣・・・できれば最高のものを渡したい。
だけど、精霊鉱は残り一つ・・・困った。
「どんな剣がほしいの?先に言っておくと・・・栄光の剣以上は厳しい」
「あの・・・実は自分で作ってみたい。面倒じゃなければ・・・オレに教えてほしい」
「え・・・」
とても嬉しい提案だった。
僕が作るならそんなに時間はかからない。でも教えて自分で作れるようにするまで、一緒に過ごしてあげることができる。
期間なんてこっちで決められるしね。
「実は、僕も弟子が欲しいなって思ってたんだ」
「弟子・・・」
「でも教えるのは上手くないと思う。そうだな・・・一、二年は覚悟してもらおうか」
どうだろう・・・。
「構わない、すぐにできるとは思ってなかった。ええと・・・師匠」
「へ・・・師匠?」
くすぐったいな。
ていうか呼び方はそんなんじゃ嫌だ。
君が悩んでいる時に放っておいた僕を認めてくれるかはわからないけど・・・。
「あのさ・・・君が嫌じゃなければなんだけど・・・」
「・・・なに?」
「僕のことは・・・と、父さんて呼んでくれない?」
「・・・」
ニルス君は黙ってしまった。
・・・調子に乗りすぎたか?
「父さん・・・本当にいいの?」
ニルス君は、少しだけ照れくさそうだ。
でも、今の君の顔は・・・この世でとても愛おしいものに見える。
「当たり前だよ。家族じゃないか」
「・・・アリシアには・・・家族と呼ぶなって言われたことがある」
「・・・は?」
何をどうしたらそんなことを言えるんだ?
たしかに君はとても不器用な人だけど・・・。
「いつ?どんな状況だったの?」
「・・・初めての戦場。その時・・・戦場で家族と呼ぶなって。使い分けるの面倒だったから・・・」
ニルス君の声が震えた。
現状を見る限り、彼女が死んでいなくてもこの子は一人ぼっちだったっていうわけか・・・。
アリシア、君がここにいたら目の前で叱っていたよ。
・・・いや、そんなことを考えるより、今はこの子をもっと愛してあげたい。
自分の子どもだからか、とても美しい宝石のように見える。
ああ・・・これが親心ってやつなのかな・・・。
父さん、母さん、僕もそういうのがわかるみたいだ。
「でも・・・うまく呼べるかわかんない。・・・師匠の方がいいかも」
「ふーん、僕を試す気なんだ?」
「なにそれ・・・そんなつもりないよ」
「そう聞こえる」
わかりやすい子だ。「父さんって呼べ」って言ってほしいんだよね?
「ちゃんと呼んでくれないと教えてあげないよ。ほら、父さん・・・」
「・・・今まで放っておいたくせに何言ってんだよ」
ふふ、また試そうとしてるな。
「だからこそ呼んでほしい。ちゃんと君の父親になりたいんだ」
「・・・」
「あはは、照れてるね」
「・・・うるさい」
これならすぐ呼んでくれそうだ。
ニルス君、もっともっと試していいからね。
◆
「ふふ、おいしいね」
「まったく・・・普通はそっちが用意するだろ・・・」
「いやー、炊事場の使い方を知ってもらわないといけないかなって。このあと、風呂焚き場も教えるね」
「・・・それもやらせる気だろ」
少し遅めの朝食を二人で取った。
アリシアの味付けと同じ・・・今は言えないけど。
「そうだ・・・ニルス君、これが注文書なんだ。しばらくは僕・・・父さん・・・の仕事を見てどういう感じか掴むといい」
「ふふ・・・あはは、なに赤くなってんだよ」
息子に笑われてる・・・悪くない。それに、いい顔だ。
「そうだ、アリシアからあなたに手紙を預かっている」
「・・・父さん」
「・・・父さん・・・に・・・」
ニルス君は鞄から封筒を取り出した。
たぶんこの子のことが書いてあるんだろう。
・・・夜に一人で読むか。
「じゃあ食べたら仕事?工房はどこにあるの?」
「仕事なんかしないよ。今日は一緒に君のベッドを作るんだ」
「ベッド・・・大工なんかしたことない・・・」
「一緒にって言ったでしょ?指示を出すからその通りにしてほしい」
こういうことをしたいと思った。
それに、アリシアが使ってたベッドは抵抗があるだろうしね。
「注文書は?・・・期限も書いてあるよ?」
「へー、つまりニルス君は親子で抱き合って寝たいってことだね?」
「そんなわけないだろ・・・。じゃあ、大きいのを作りたい」
ちょっと残念・・・。
「材料は?まず木を・・・」
「大丈夫、ちょうど去年伐って乾燥させてたのがあるんだ。力は自信ある?」
「あなた・・・父さんよりはあるよ。ふふ、これでいい?」
ニルス君が笑ってくれた。
本当は棚を作ろうとしてたけど、そんなものは後でいい。
少しずつこの子の悲しみを薄めてあげよう。
それに弟子・・・仕事のやる気も出てきたぞ。




