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Our Story  作者: NeRix
地の章 第二部
23/481

第二十一話 話しかけないで【ニルス】

 妹ができて、少しだけ周りの景色が変わった。


 「ねえルージュ、どんな夢を見てるの?」

寝顔をただ見ているだけで暖かい気持ちになれて、たくさんある憂鬱なことは我慢できるようになれていた。

 

 この子がいればなんだってできるし、なんでもする・・・。

だから・・・もっと笑ってほしいな。



 「寒くなってきたし、ルージュに厚めの毛布を買ってあげたい」

母さんの背中に話しかけた。

 もう宵の月だ。

雪が降ってきたら、この子は寒くて耐えられないと思う。


 「毛布か・・・」

「ルージュに似合うのを選んであげたいんだ」

今日はアカデミーが休み、だからそうしようってずっと考えていた。

 「母さんも一緒に行こうか?」

「訓練場に行っていいよ」

「そうか・・・ニルスのために昼過ぎには戻るよ」

「・・・わかった」

オレはルージュを乳母車に乗せた。

付いて来てほしくない、ルージュと二人がいいんだ。



 「じゃあ行こうかルージュ、風邪ひかないように早めに帰ってこようね」

帽子を深く被って歩き出した。

 髪の毛は目印になるから隠す。

雷神の息子だって知られたくない・・・。


 「ルージュにとっては初めての冬だね。寒かったら抱っこしてあげるから教えてね」

「・・・」

まだ生まれて三ヶ月だから、当然だけど返事はない。

 でもこれでいい。こうしてあげていれば、早くお喋りができるようになるはずってルルさんが言ってた。


 「ここを歩いてくとノウサギ通りに入るんだよ。そこからは、青い柱をたどっていけば大通りに行けるから覚えておいてね」

「・・・」

「赤い柱もあるんだけど、そっちは裏町に続いてるんだ。危ないから子どもは入っちゃダメなんだよ。もちろんルージュもダメだけど、オレと一緒の時は守ってあげるから大丈夫」

「・・・」

話しかけると、ルージュが口元を持ち上げてくれる。

 これだけでいいんだ。

帰るまでたくさん笑っててもらおう。



 大通りにある寝具屋に入った。


 「いらっしゃい」

「こんにちは。あの・・・乳母車は中に入れていいですか?」

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます。・・・よかったねルージュ」

店のおじさんは感じのいい人だった。

よし、ここで買おう。


 「新しい枕でも見にきたの?」

「いえ、この子のために温かい毛布を買いに来ました」

「へえ、かわいいな・・・赤ん坊用か。あっち、角の棚にあるから選んでやりな」

おじさんが指差した棚には色とりどりの毛布が置かれていた。

 「はい、見させてもらいます」

やっぱりここで正解だったな。

一つ一つ合わせてあげよう。



 「うーん・・・青はなんか冷たい感じがするな。夏ならこっちのほうがいいけど・・・」

「迷ってるの?」

選んでいるとお姉さんが話しかけてきた。

たぶん店の人だ。


 「この子に似合うのを買ってあげたくて・・・」

「わあ、かわいいわね。じゃあ、ぼうやはお兄ちゃん?」

「そうです。・・・なかなか決まらなくて」

「じゃあ手伝ってあげる。それと・・・こっちには模様付もあるのよ」

見るのが増えてしまった。

いや、暗いのと冷たい色は選ばないから全部合わせる必要はないな。



 「またなにかあったら来てね」

「はい、ありがとうございました」

お姉さんが手伝ってくれたおかげで、そんなに時間はかからなかった。

ルージュもなんとなく喜んでいる気がする。


 昼前に終わってよかった。

帰ったら鍛錬・・・いや、今考えるのはやめよう。


 「ルージュは赤が似合うね。雪模様だけどあったかいでしょ?」

いい物を買えたと思う。

炎のように温かい赤、この子の髪の毛の色に合っている。

 「母さんにも見せてあげようか。まだ戻ってないと思うから、それまでは本を読んであげる」

「・・・」

乳母車のルージュは、じっとオレを見ているだけ。

そう、オレを見てくれている・・・。



 「あ・・・ニルスか?」

大通りを出て小道に入った時、誰かが声をかけてきた。

 「ニルスだろ?」

別の声・・・もう一人いるみたいだ。


 心が一気に冷えた。

帽子を被ってるのにわかるってことは、たぶんアカデミーの奴だ。

どうしよう・・・答えないで行くか。


 「あ、ちょっと待てって」

無視して通り過ぎようとしたら肩を掴まれた。

 「・・・なに?」

なんだよ、ルージュと二人きりだったのに・・・。

 「やっぱりニルスじゃん」

「用が無いなら話しかけないでほしい」

「・・・用はある。回り道した方がいいよ」

「回り道・・・」

オレは顔を上げた。

 ・・・男の子が二人、少し怯えた感じだ。

やっぱりアカデミーの奴、名前は・・・憶えてないかも。


 「ノウサギ通りの方が家に近いんだ。構わないで・・・」

「年上の奴らが道を塞いでるんだよ。行ったら絡まれてお金を取られる」

「来た時は誰もいなかった。それにあそこは誰の道でもないよ。・・・じゃあ」

「やめとけって、ジェニーは財布取られちゃったんだ」

一人が振り返った。

 気付かなかったけど、後ろで泣いている女の子がいる。

また別の女の子に肩を抱かれて、静かに・・・。


 「だからなに?ていうか、友達なのに黙って見てたの?」

「一緒にいなかった時だよ。ここで泣いてんの見つけたんだ」

「取り返してあげたらいい」

「無理だろ・・・ずっと年上だぞ。体もデカいし、たぶんお前でも勝てない」

「そう・・・」

オレは乳母車を押して、その子・・・ジェニーに近付いた。


 「財布取られたんだ?」

「うん・・・」

「何人いたの?」

「三人・・・」

ジェニーは裏返った声で答えてくれた。

泣いててどうにかなるのか?


 「お母さんにお使いを頼まれたんだって、中には三万エールも入ってたみたいなの」

慰めてた女の子が聞いてないことまで言い出した。

この子も・・・名前わかんないや。

 「どうしよう・・・叱られちゃうよ・・・」

「・・・衛兵を呼べばいいんだよ」

「お母さんに心配かけたくない・・・」

ジェニーは声を出して泣き始めた。

どっちにしろそうなるだろ・・・。


 本音で言ったら、この子がこれからどうなるかとかはまったく興味ない。

オレが考えたのはルージュの未来・・・。

 妹が大きくなった時、こんな感じで泣いていたら?

この先にいる奴らはずっと同じことを続けてて、ルージュが出くわしたらどうする?

そう思ったら声をかけていた。


 「大丈夫だよジェニー、みんなでお母さんに事情を話しに行ってあげるから」

慰め係の女の子は、優しくジェニーの背中をさすっている。

 そうするしかないだろうけど・・・。

オレはルージュを見つめた。


 『助けてあげないの?』

そう言われた気がした。

大丈夫だよルージュ、お兄ちゃんは・・・。


 「あのさ、妹が恐がるから泣かないでよ」

「・・・ごめん・・・ごめんね」

「妹を見ててほしい、泣いたら抱いて揺すってあげてね。おしめはさっき変えたから大丈夫だと思う」

「え・・・あ・・・手・・・」

オレはジェニーの手を取って、乳母車を握らせた。

 「財布ってどんなの?」

「山吹色で・・・ツバメの刺繡が入ってる・・・。買ってもらったばかりだったの・・・」

「わかった」

見れば大丈夫そうだな。


 「ニルス・・・」

「お、おれたちも・・・」

男の子たちが、不安そうな顔で付いてこようとしている。

でも・・・。

 「一人でいい、四人で妹を見てて」

足手纏いはいらない。年上だろうと、何人だろうと、母さんより強いはずないからな。


 それに、未来のルージュのためだ・・・。



 「この道に入ったらさ、俺たちに有り金全部出す決まりなんだよ」

小道に入るとそいつらがいた。

近付いたオレを取り囲んでニヤニヤしている。


 「出したら通っていいぜ」

「とりあえずお財布見してよ」

「その鞄か?」

聞いてた通り三人だ。

 周りには誰もいない。他の人たちは、気付いてすぐに引き返したんだろうな。


 「さっき女の子から財布取ったでしょ?返して」

早く終わらせたい・・・。

 「へー、かっこいいなお前。一人で来たのか?」

「そうだよ・・・」

目の前にいた男を蹴り飛ばした。

油断しすぎ・・・避けろよ。

 

 「なにしてんだよ!」

横にいた男が殴りかかってきた。

この人、母さんよりずっと遅い・・・。

 「ぐ・・・」

足をかけて転ばせた。

やっぱり戦いに慣れてないんだ。・・・あと一人。


 「あの人はしばらく起きないと思う。早く財布返して」

「ちっ・・・」

「あ・・・待て!」

無事だった男が逃げ出した。

 「ちょっと・・・財布は・・・あ!!」

気を取られたその隙に、転ばせた男も走り去った。

残ったのは最初に蹴り飛ばして気絶した人だけ・・・。


 「まあいいや、この人が持ってればいいだけだし・・・」

もっと軽く蹴ればよかったな。

・・・起こさないと。


 「早く起きて」

オレは倒れた男の頬を叩いた。

 「・・・」

「仕方ないな・・・」

火の魔法を使った。

指先から少しだけ・・・。


 「う・・・あっつ!!!」

「あ、起きた」

男の鼻先をちょっとだけ焦がすと、すぐに飛び起きてくれた。


 「てめー・・・」

「財布返して」

腕を締め上げた。

 「いって・・・放せよ」

「返したら放すよ」

今度は逃げられないようにしないとな。


 「お前・・・衛兵に見つかったらどうすんだよ。魔法は人を傷付けるために使っちゃダメだってアカデミーで教わんなかったか?」

「お兄さんたちは衛兵が来ない時間を狙ってやってるみたいだね。・・・ていうか、人のものを奪ってはいけないって教わらなかった?」

「お前捕まるぞ・・・」

「そっちもね」

けど、たぶんオレは大丈夫だ。

使いたくないけど、自分と母さんの名前を出せばすぐに解放される。


 「だから・・・早く財布返して」

「俺は持ってない・・・。証拠になんないように、定期的に回収する奴が・・・ぐあ!!」

嘘かどうか確かめるために指を一本折った。

 「その嘘・・・本当?」

「嘘じゃねーよ!」

動かないといけないのか・・・。


 「じゃあその回収の人のとこか、ありそうなとこに連れてって」

「・・・」

「連れてって」

「・・・どうなっても知らねーからな!」

次の指に手をかけると観念してくれた。

まったく・・・ごめんねルージュ、ちょっと遅くなる。



 「ここ?」

「そうだ・・・。諦めろよ、ここにいる人はこえーぞ」

「雷神よりも?」

「雷神ほどじゃないと思うけど・・・」

案内されたのは、昔は酒場だったんだろうなって感じの建物だった。

中は絶対綺麗じゃなさそう・・・。


 「裏町かと思ったけど違うんだ?」

「あっちは別な奴らの縄張りだ。俺らよりずっとやべーのが大勢いるんだよ」

「そう・・・どっちでもいいや」

「なん・・・うわ!」

オレは扉を開いて、押さえていた男を中に蹴り飛ばした。


 「うるせーな・・・なんだよ!」

すぐに奥から別な男の声が聞こえた。

一番上が出てきてくれればいいな・・・。


 「すみませんライズさん・・・あのガキが・・・」

「・・・ガキ?」

「案内しろって、指を折られて・・・」

「あれか・・・」

ライズって呼ばれた男の姿が見えた。

赤毛・・・大きいな・・・。

 「財布を返してほしいんだ」

でも、一緒だ・・・。

 「財布か・・・知らねーな」

「早く帰りたいんだ」

「帰れると思ってんのか?」

「思ってる・・・」

答えた瞬間、酒瓶が飛んできた。

脅しか・・・ぶつけにこい・・・。


 「なんで当てないの?」

「次はそうするぞ」

「えっと・・・ライズさんだっけ?財布だけ・・・」

「オレはガキだからって容赦しねーぞ。おい!」

ライズさんの声で、何人かが立ち上がった。

 四人・・・思ったより少ないな。

でも、みんな短剣を持ってる。


 「誘拐されて消えるガキなんかしょっちゅういるらしいぜ。どこに行っちまったんだろうな?」

やるしかないみたいだ。

 「経験ないからわかんない」

「そうだろうな。けど、これからわかるかもしんねーぞ」

・・・全然恐くない。


 『それが斬られた痛みだ。相手に与えることになるから覚えておけ』

『ちょ・・・何してんですか!!』

『いや・・・だからティララに来てもらって・・・』

『こんなことする必要ありません!!ニルス君見せて、すぐ治すから・・・』

あれの方が・・・恐かった。

でも、強くはなれたかな・・・。


 「妹が待ってるんだ・・・」

オレは一番近い男に飛びついた。

 舐められてるのはこっちを見る目でわかる。

だから負けるはずがない・・・。


 「ぐ・・・」

「寝てて・・・みんなで治癒をかければ治ると思う・・・」

力いっぱいに腕を捻じって折った。

 「うあああ!!!」

「武器持ってるくせに覚悟してなかったんだ・・・」

「・・・」「・・・」「・・・」

他の三人が怯んだ。


 ここは床が脆い、本気で踏みこんだら壊れてしまう。

でも、こうなったらあとは楽だ。



 「く・・・」

「とりあえず話を聞いてほしい」

ライズさんの首元に刃を当てた。

 制圧ってこんなに簡単なんだな。戦士だったらきつかったかもしれないけど。


 「お前・・・俺たちを潰しに来たのか?」

「話聞いてなかったの?財布を返してもらいに来たんだ」

「・・・誰に頼まれた?」

「自分で決めてだよ・・・。山吹色でツバメの刺繍が入ってる財布だ」

さっき昼の鐘が聞こえた。

早くしないと母さんが帰ってきてしまう。


 「お願い・・・早くして」

「おい!回収した奴探して連れて来い!!」

すぐに男たちが駆けだした。

あとは待つだけだな・・・。



 「なんもしねーからほどけよ」

オレはライズさんを縛り上げて床に寝かせた。

ずっと押さえてるのは疲れる。


 「財布が戻ったらオレは帰る。そのあと誰かにやってもらって」

「・・・お前、名前は?」

「教えない」

絶対に・・・。


 「ねえ、子どもを誘拐したりもするの?」

「・・・俺らはやってねーよ」

「さっきのは?」

「脅しだ・・・」

「そう・・・」

まだかな・・・。



 「ライズさん!」

そこまで待たずに一人が戻ってきた。

すぐ見つかったんだな。


 「実は・・・財布はどっかに捨てたみたいで・・・」

「・・・おいガキ、いくら入ってた?」

「三万エールって聞いた」

「金は返す・・・ぐ!!」

ライズさんの顔を床にぶつけた。

 お金だけ戻ってもダメだ。

買ってもらったばかりって言ってたし、それだけ消えたら親も心配するはず・・・。


 「探させて・・・」

オレはライズさんの耳元に口を近付けた。

 「時の鐘が一つ鳴ったら左腕を落とす。次は右腕、両脚、鼻、耳・・・目は落ちてくとこが見えるように最後にするけど・・・順番はどうしてもって言うなら変えてやってもいい」

殺気も当てた。

言う通りにしてもらう。


 「・・・なに突っ立ってんだ!全員集めて早く探しに行け!!俺の腕が落ちる前に見つけろよ!!!」

・・・最初からこうしてれば、もう見つかってたかもな。

 

 「・・・お前をガキだと思わねーことにする」

「そう・・・」

「よくわかったよ・・・。お前は敵にしちゃいけねー奴だ」

「財布が見つからなかったらそうなるよ」

腕を落とすなんて脅しだ。

 本当に見つからなければ、あの子の家に謝りに行かせよう。

あとは、その辺の衛兵につき出せばいい。



 「山吹色・・・ツバメ・・・たぶんこれだ」

財布は、本当に時の鐘が鳴る前に見つかった。

こうやってみんなで協力できるんなら、もっと役に立つことすればいいのに・・・。


 「名前は教えないけど、オレの顔を忘れないでほしい。オレはここにいる全員の顔を覚えた。関わってきたら殺す・・・」

「わかったよ・・・」

「まだ赤ん坊の妹がいるんだ。あの子が大きくなった時に同じことがあって、ここにいる誰かが犯人だったら・・・」

「ああ・・・わかってるよ!」

ライズさんはふてくされた顔で約束してくれた。

元気もあるのに、なんでこんなことしてるんだろ・・・。


 「奪わずにまともな仕事をすればいいと思う。元気もあるし・・・」

なんか言いたくなってしまった。

オレは、この人たちを心配してるのかな?


 「親切なガキだな・・・昔はしてたよ」

「なにしてたの?・・・教えて」

なんで聞きたくなったんだろ・・・。

 「そのやべー感じ出すな。北部で・・・建築の設計士をやってた。ムカつく客殴って、出てかなきゃいけなくなったからここに来たんだよ。・・・こいつらもはぐれもんだ」

「設計士・・・」

「ムカつくこと思い出させやがって・・・」

ああそうか・・・。

 「血の気が多いなら戦士にでもなったらいいよ・・・」

こういう人たちの方が向いてるって思ったからかな・・・。


 「あー?冗談だろ。命かけてまで戦うなんてバカだぜ」

「・・・千人に選ばれればかなり貰える。功労者に選ばれれば・・・」

「死んだら意味ねーだろ」

「言われてみれば・・・そうだね」

苦しくなってきた。

この人は当たり前のことを言ってる・・・。


 「それにガキの頃から、戦士にだけはなるなって母ちゃんに言われてたしな」

「・・・なんで?」

「俺に死んでほしくねーからだよ。これでも愛されてたんだぜ?」

「そう・・・もう、関わらないでね」

オレは財布を持って走った。

今の言葉・・・振り払わないといけない・・・。


 聞くんじゃなかった・・・。

すぐに出ればよかった・・・。



 「ね・・・お兄ちゃんはもうすぐ戻るから泣き止んで・・・」

「訓練場に行って雷神に話した方が・・・」

「そうだよ、さすがに大人が相手だし・・・」

「次の時の鐘まで戻らなかったらそうしよう」

四人の所に戻ると、ルージュの泣き声と困った感じの話が聞こえてきた。

待たせすぎたか、知らない人と一緒は恐かったよね・・・。


 「あ・・・ニルス・・・」

「ニルス君!」

「どうなったんだ?」

「なにかされた?」

四人がオレに気付いた。

鬱陶しい・・・。


 「はい、返してもらったよ。中身も三万エール入ってる」

「え・・・」

「妹を返して・・・」

ジェニーに財布を渡して、ルージュを受け取った。

 「すご・・・」

「私たちがあやしても全然ダメだったのに・・・」

ルージュはオレが抱くとすぐに泣き止んだ。

ごめんね・・・。


 「中身は間違いない?」

「うん・・・ありがとうニルス君・・・」

「じゃあね・・・。オレも早く帰らないといけないから」

思ったより遅くなった。


 たぶん、母さんはもう戻ってる。

ルージュも連れてだから叱られるかもしれない。

「出てけ」とか・・・言われないよな・・・。


 「あの・・・ニルス君、なにかお礼を・・・」

背中にジェニーの声が当たった。

うるさいな・・・。

 「いらない、アカデミーでも話しかけないで」

「え・・・」

「それと、今日のことは誰にも言わないでほしい。喋ったら許さない・・・」

オレは答えを待たずに四人から離れた。

なんでこんなことに・・・。



 帰り道は少しだけ早く歩いた。

周りの風景から色が消えていく・・・。


 「大丈夫だよ。悪い奴もいるみたいだけど、君が危ない時は兄さんが助けてあげるからね」

「・・・」

でも、ルージュだけは違う。

君だけはちゃんと色がある。


 「しばらくお出かけはやめようか。今日みたいになったら面倒だしね」

「・・・」

少しだけ体が熱い、冷まさないと・・・。


 「ルージュ、赤にしてよかったね。兄さんに似合うのは・・・どんな色だろ?」

母さんには選ぶのに時間がかかったって言おうかな。

ルージュの笑顔を見れば、信じてくれるよね・・・。

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