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Our Story  作者: NeRix
風の章 第二部
183/481

第百七十五話 そのかわり【ステラ】

 ステラ・・・今の状況を知ったらどう思うかな・・・。


 『なぜ今なのでしょうか・・・。まだ眠っていてほしかったですね』

ハリスは本気で言ってた。

平然とした態度だったけど、心の中はけっこう荒れている感じだ。

 僕も同じ・・・目覚めるのは全部終わってからがよかった。

そしたら笑顔で迎えに行けたのに・・・。


 『正直・・・構いたくはないですね。アリシア様のこと、ニルス様のこと、面倒だと思ったらお連れしますので・・・あとはお願いします』

僕だっていやだよ・・・なんて話せばいいんだろう・・・。

こんなこと、思うのも嫌なのに・・・。



 「シロ・・・あなたは変わらないわね・・・」

ステラがすぐに駆け寄ってきて・・・抱きしめてくれた。

会えたら会えたで嬉しい・・・。


 「ステラ・・・ごめんね・・・」

「違うよ、おはようでしょ?」

「ん・・・おはようステラ」

たぶん来るとは思っていた。

 僕がハリスだったらこうなるように誘導する。

・・・こんな気持ちで再会することになるとは思わなかったな。


 「ステラさん・・・」

バニラが遠慮した感じで近づいてきた。

 「あれ・・・バニラね。ふーん・・・オトナって感じ」

「そりゃそうですよ」

「シロより大きくなっちゃったのね」

ステラは妙に機嫌がいい。

 もっと問い詰められるかと思ってたんだけどな。

ここに連れてきたってことは、まだ何も説明してないってことじゃないの?


 「バニラはずっとここに住んでいたの?」

「いえ・・・シー君が心配だから一緒にいるんです」

「へえ・・・押しかけたんだ?詳しく教えてほしいな」

「詳しく・・・えっと、ずっと一緒にいるんです。夜はわたしの部屋で・・・」

なんか盛り上がってるし、今の内に・・・。


 「・・・どこまで話したの?」

僕は一番近くにいたミランダに近寄った。

早く教えてほしい・・・。

 「ざっくりだけど・・・ニルスが小さくなったこと以外・・・」

「ニルスとルージュが一緒にスナフにいることは知ってるの?」

「うん・・・すぐに会えるからって上機嫌なのよ」

じゃあ事情はけっこう知ってるわけか・・・。

でも、ニルスのことを話してないのはなぜ?


 「なんでニルスのこと教えてないの?」

「・・・あんたに任せようと思って」

ミランダは目を逸らした。

・・・やだ。



 「シロ、あなたまた一人で思い詰めてたの?」

ステラが僕の頭を撫でてきた。

バニラから僕のことを聞いたみたいだ・・・。


 「うん・・・焦ってたんだ。周りが見えなかった・・・みんながいなかったらそうしてたよ・・・」

「本当に変わらないわね。そんなこと許さないから・・・」

ステラはとっても怖い声を出した。

 でも、僕を本当に大切に思ってくれているってことも伝わってくる。

・・・もしそうしていたら彼女も悲しませるところだったな。


 「あれ・・・でもおバカさんのアリシアは輝石を持っていたでしょ?」

「ルージュに渡してたんだ・・・本当は花の月に僕と旅をする予定で・・・」

「え・・・旅?」

ステラは不思議そうな顔をした。

これも聞いてないのか・・・。

 「ルージュも旅人になりたかったの?」

「ニルスのことずっと憶えてたんだよ。だから探したいって、ルージュは・・・」

「じゃあ今は憧れのお兄ちゃんと一緒にいるって感じね。わかったわ、ありがとうシロ」

「あ・・・」

声が出なかった。

「ルージュはニルスとステラの関係を知らない」って、言おうとしたんだけどな・・・。


 「とりあえず今の状況を聞きたいわ。ニルスについては直接聞きたいから敵のことを教えて」

あ・・・ということは、僕からあの状態を話さなくていいのか・・・。

 「もうニルスに任せようよ・・・」

ミランダが小声で囁いた。

・・・賛成。



 「・・・顔を見たのはアリシアだけなのね」

僕はステラに知っている記憶を渡した。

話すよりも楽だし、すぐに理解してもらえる。


 「ステラはこの黒いの知ってる?」

「私もわからないわ」

「そうなんだ・・・」

メピルも僕と一緒に説明をしてくれている。

・・・もちろんニルスについては触れていない。


 「・・・食感はいいですが甘すぎますね。人間がこれを食べ続ければみるみる太ります」

「あ・・・それはシー君のです。こっちが普通の人用ですね」

「う・・・紅茶も甘い。・・・これから砂糖は自分で入れます」

「すみません・・・シー君の好みで用意してしまいました・・・」

ハリスはバニラが作ったお菓子を食べてくつろいでいる。

 「儂はそこまで甘く感じんな」

「歳のせいで味覚が鈍くなってんじゃない?」

「・・・下半身はまだ敏感じゃ。ナツメがたまに慰めてくれる」

「・・・聞いてないんだけど」

みんな僕たちをほっといて楽しそうだ。

そっちに行きたいな・・・。


 「絵本で見た聖女の騎士と全然違いますね・・・」

「バニラ殿、儂はもう騎士ではない。だが・・・息子は絵本に近いぞ」

「おじいちゃんは違うんですね・・・」

「はじめましておじいちゃん」

メピルが逃げた。

 「む・・・メピル殿じゃな?」

「そうだよ。隣に座るね」

ずるいよ・・・。


 「なるほど・・・だから女神には頼れないってことね?」

ステラがとても小さな声で話しかけてきた。

彼女の相手は、僕にしかできない・・・。

 『今はだけどね・・・もし怒ったら境界を解いて、また全部沈めちゃうかもしれない』

お喋りから呼びかけに変えた。

これなら誰にも聞かれずに話せる。


 『そうね・・・話し合いにはならないかも。女神は怒らせたら恐いから・・・』

『ハリスは・・・それが無くても頼りたくないと思う』

『命・・・まあそうよね』

『とりあえず、みんなの前ではまだ話さないでね』

ステラなら念を押さなくてもわかっているはずだ。

あの時の記憶を貰ってるみたいだしね。

 『ハリスから話す気は無いのね』

『無いから話してないんだよ』

そういえば、ハリスからみんなに話すのはいいのかな?

女神様が放っておいてるから・・・いいのか?


 『ジェイスが一番可能性の高い人なのね?』

『話を聞く限りだと、ほぼ間違いないと思う』

『何者なのかしら・・・』

『僕もわからない』

犯人なら・・・すぐにでもお母さんを・・・。


 『とりあえず、知ってるのはこれで全部だよ』

「わかった。ありがとうシロ」

ステラが普通に喋った。

やっと終わったな・・・。



 「ハリス殿はずっと独り身なのか?」

「どうであろうとお答えするつもりはありません」

「無理よおじいちゃん、なんも教えてくんないんだから」

「でも気になりますね。どんな女性が好みなのかとかは気になります」

ハリスたちの話はどんどん緩くなっていた。

こっちとは全然違うな・・・。

 

 「ハリスは女神みたいな女性が好きなんじゃない?戦場で会った時、ちょっと話してたよねー」

ステラも混ざってしまった。

さすがに今のはハリスも怒るんじゃ・・・。

 「・・・女神は私の好みではありません。ちなみにステラ様とミランダ様もそうです」

すごい・・・余裕で受け流して煽りまで入れるなんて・・・。

 

 「あら、言ってくれるわね」

「別にあんたの好みじゃなくてもいいけど・・・詳しく聞きたいわ」

二人も乗っちゃった。

・・・この隙に僕もお菓子を食べよう。

 「すぐ感情的になりますからね。・・・ルージュ様やバニラ様はまだお若いので許せますが、あなた方は成熟してそれです」

なんか部屋の空気が重い・・・僕は黙ってよ・・・。


 「まあ・・・別にあなたに好かれなくていいわ・・・」

「あたしも・・・あんたにどう思われようと関係ないし・・・」

ああ、二人とも言い返したいけど認めたことになるから抑えてるんだな・・・。

 「バニラ・・・ニコルさんは?」

「虫部屋・・・」

僕たちは小声で話した。

あんまり刺激したくないけど、黙っているのも耐えきれない。


 「・・・関係ない話はここまでね。シロ、アリシアを見たいわ。案内して」

「ふ・・・」

ハリスは勝ち誇った顔をしていた。

 「・・・」

でも・・・ステラは見なかった。


 「じゃあ・・・移動しようか」

「そうじゃな。儂も見ておこう」

ミランダとおじいちゃんが立ち上がった。

うん・・・みんなで行こう。

 

 

 「苦しんだ顔してるかと思ったら・・・なんで笑ってるのかしらね」

ステラがお母さんを見て、最初にかけたのは憎まれ口だった。

聞こえてはいない、それでも言いたいんだろう。


 「少しだけ時間があったから、一度解いてみんなと話をしたんだ。だから安心してるんだよ」

「この顔・・・最後に見たのはニルスね?」

「・・・そうだけど」

なんでわかるんだろ・・・それにまだ嫌いなのかな?


 「ステラ様が目覚めることは想定していませんでした。なのでこれは例えばの話なのですが・・・」

ハリスが前に出てきた。

何を言う気だろう?

 「断っておきますが、そうしろというわけではありません。冷静に聞いてください」

「どうぞ」

「氷の棺を解き、アリシア様が終わったのちにステラ様が蘇生させる・・・できるのでしょうか?」

それか・・・。


 「ふざけんじゃないよ!そんなことさせるわけないでしょ!」

「・・・断りを入れても意味が無かったですね」

「ミランダ殿、落ち着くんじゃ・・・」

「ステラはやっと目覚めたんだよ!!」

ミランダは抑えたおじいちゃんを無視して叫んだ。

早く止めなきゃ・・・。

 「ミランダ、冷静に聞いてって言われたでしょ。それに・・・ステラでも蘇生はできない」

「え・・・」

「そうなのですかシロ様?」

「調べたよ・・・僕も少し考えたから・・・」

犯人を見つけることができなかった場合、ステラが起きるのを待って頼めないかと考えていた。

もちろん、ちゃんと話し合ってから・・・。


 「そうね・・・これは無理。流すのではなく消滅させる・・・そういう呪いよ」

ステラがお母さんに触れた。

見抜けるのか・・・。

 「わかりました、ありがとうございます」

「それに・・・輝石を持っていなければ、私やハリスでも防げないわ」

「そして、僕たち精霊にも通用するものだ」

人間たちにとっては、いなくなるわけだから「死」と変わりはない。

だけど僕たちにとっては違う。

 僕たちで言う「死」は流れること、この呪いは「消滅」だから・・・なにも残らない。

だから・・・ジェイスに関する記憶は見つからない可能性もある。


 「・・・不死でもダメですか。・・・輝石を手放さなければ問題無いのですね?」

「そうだけど、油断しちゃダメよ」

その通りだ。輝石があっても、捕まって持ち物を全部取られたらハリスでも危ない。


 「・・・風の月に教団創設者・・・ジェイスの顔がわかります。呪いをかけた者ならば、なりふり構わず連れてこようとは思っていたのですが・・・」

「急ぐことはないと思うわ。敵の力がまだはっきりしないんでしょ?少しずつ固めましょう」

「随分と余裕ですね」

「だってアリシアがどうなろうと私には関係ないもん・・・って、本当は言いたいんだけど・・・」

ステラは微笑みながらお母さんに向き直った。


 「ニルスは、アリシアに助けてあげるって言ったんでしょ?」

「うん」

「ニルスを嘘つきにはさせない。だから私もあなたのために動いてあげる」

すべてニルスのため、それでも仲間が増えるのは心強い。

 「呪いが解けたら妹想いの優しいステラお姉さんに感謝するのよ?」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

誰も口を挟まずにステラを見ていた。

僕もその間に入ることはできない。


 「・・・みんな出て行ってちょうだい。恥ずかしいから・・・」

「・・・うん、待ってるからね」

僕たちは、ステラだけを残して部屋を出た。

みんなもそうしてあげたいって思ってくれているみたいだ。



 「本当はね・・・今頃、ずっと楽しい気分で旅の支度をしていたはずだったのよ?」

僕は精霊の耳で聞いていた。

心を強く保っておくために、その思いを知っておきたい。


 「みんなが来るのを今日かな、明日かなって・・・」

ステラの声がどんどん低くなっていく。

どんな顔をしているんだろう・・・。

 八年前・・・ステラは今話した未来を夢見て眠りについた。

だから、この状況に僕たちでは想像できないくらいの憤りを感じているんだろう。


 静かな怒り・・・だけど心から妹を責めているわけじゃないのはわかる・・・。


 「そして・・・みんなが来たら・・・全部話して・・・ニルスとも話し合うつもりだった」

話し合う・・・。

不死を捨てて、ニルスと歩むのかどうか・・・。


 「・・・でも安心なさい、ちゃんと助けてあげる。そのかわり・・・もし、もしだからね?私とニルスの間に子どもができたら、あなたには絶対に見せてあげないことにする。・・・どんなに頼まれてもね」

とても穏やかな声だ。

きっと微笑みながら言ったんだろう。


 『ステラ、消失の結界のことは誰にも話してないからね』

僕はステラに呼びかけた。

なんだか教えたくなったから・・・。

 『シロ・・・聞いていたのね・・・』

『ごめんなさい。・・・話し合って決めるんだね?』

『うん・・・色々考えてるけど、二人で決めないとダメでしょ?』

『僕は二人の子どもを見てみたいな』

一緒に旅をするし、僕には見せてくれるよね。


 『まずは・・・解決しないとだけどね・・・』

『うん・・・みんなで力を合わせよう』

『みんなで・・・そうしましょ』

きっと、明るい未来を・・・。



 「私、ニルスと会いたいからスナフに戻る。そのあとはテーゼにいようと思っているの」

ステラが戻ってきて、これからのことを話し始めた。

ニルスと・・・僕も会いたいな。


 「ステラ様・・・あなたが狙われている可能性を忘れてしまいましたか?」

ハリスは難しい顔だ。

 「固まっていた方が安全よ。それに・・・ミランダとも一緒にいたい」

「正直、あたしもその方がいいな。ねえハリス・・・」

「・・・勝手な行動はしない。各々単独では動かない・・・心がけてください」

ハリスは許してくれた。

固まっていた方がいい・・・それも正しいと思ったんだろう。

 お母さんは一人だったからな・・・。

それに、ツキヨの人たちが近くにいるから問題無いよね。


 「ステラ様、一つお願いがあります」

黙っていたおじいちゃんが顔を上げた。

騎士からも条件があるのかな?

 「なに?」

「ルージュ殿の修行を待っていただきたい。・・・ヴィクターが認めるまでです」

スナフで一緒にいるのは知ってたけど、今はそんな感じになってたのか。

仲良くなってくれてたらいいな。


 「待つに決まってるでしょ。でも、あとどのくらいかかりそうなの?」

「条件はルージュ殿が一撃を入れること・・・そう長くはかかりません」

「わかったわ。・・・そうだ、私が目覚めたことはまだ教えないでね」

「・・・承知しました」

ステラはニルスとの再会だけは大切にしたいんだろう。


 「ヴィクターがルージュを認めたら、ニルスを私の部屋に連れてくるようにして。・・・協力しなさいね?」

「そのようにしましょう」

「それで・・・ちょっと作戦を考える。明日までにどうするか決めるね」

「そしたら今みんなで考えようよ。あたしも知恵を絞ってあげる」

ミランダがステラの手を握った。

うん、みんなでの方がいいよね。


 ニルスはルージュのために不安を出さないようにしている。

そこにステラが現れることで、少しでも楽になってくれたらいいな。


 あ・・・小さくなってること、本当に話さなくてよかったのかな・・・。

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