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Our Story  作者: NeRix
地の章 第一部
17/481

第十六話 この子に【アリシア】

 ケルトの気持ちはなんとなくわかる。

本当は、もっと強引にでも私を引き留めたいと思っているんだろう。

 だけど、私はそれを選ぶことはできなかった。

一緒に暮らせないのは私のわがまま、これは間違いないこと。

だから・・・あなたは命をくれた。


 ニルスのために一番いいことは何なのか。

考えていないわけではないが、寂しい思いはさせないつもりだ。


 ケルト、安心してくれ。

私は必ずニルスを幸福にするよ。



 火山を離れる日になってしまった。

家族三人で過ごす最後の時間だ。


 「ニルス君、一緒にいれない父さんを許してね。でも、君の幸せをずっと祈っているよ・・・」

ケルトはニルスを抱いて、幸福な笑顔を浮かべている。


 「君の成長は、たまにお母さんから聞かせてもらうよ」

「・・・」

「あ・・・でも心配しないでね。お母さんは君を一番に考えてくれるはずだから、僕の所にはあんまり来ないと思うよ」

「・・・」

ニルスは不思議そうな顔でケルトを見つめていた。


 ケルトもニルスも悪くない。共に暮らすことを選ばなかった私の責任・・・。

胸が痛むのに・・・それでも戦場に出たい。



 テッドさんが来るまで外で待つことにした。


 「君がここに来る時って、誰かに預けることになるんだよね?」

ケルトはニルスを高く掲げた。

 「そうだな・・・友達のルルとか、ニルスをかわいがってくれているエイミィさんと言う人がいる」

ニルスの扱いも慣れているから信頼できる。


 「とりあえず、ニルス君が話せるようになるまでは来ないで」

「話せるように・・・」

「うん・・・それで、お母さんはちょっと遠くに行ってくるけどいいかって聞いて」

ケルトの目が私を見つめてきた。

 「この子が少しでも寂しそうな顔をしたら来なくていい。言葉じゃなくて、表情を見てね。そして、自分が母親を縛ってるみたいな罪悪感を与えないように」

「・・・わかった」

「約束してね。君はわかりやすい、嘘をついてここに来たら許さないから」

「うん、約束する」

ニルスのために・・・これだけは守ろう。


 「ありがとう。じゃあ、馬車が来る前に・・・」

「そうだな・・・来るまで・・・」

「アリシア、愛しているよ」

「私も・・・ケルトを愛している・・・」

唇を重ねた。

・・・ニルスもこういうことをする日が来るのかな?



 テーゼに帰ってきた。

火山と違って人間の声が多い・・・。


 「アリシア様おかえりなさい」

「おかえりなさい」

訓練場に顔を出すと、ティララとスコットがすぐに気付いて駆け寄ってきた。

ケルトと離れた寂しさはまだあるが、ここに来ると安心する。


 「ティララ、何周だ?」

「十五は余裕で、気を張って二十です」

ティララには訓練場の外周を走るようにさせていた。

でも、ただ走るだけではない。スコットに治癒をかけ続けながらだ。

 「二十か・・・ひと月でかなり伸びたな」

「思いの強さですね」

初めは一周がやっとだったが、私がケルトの所に行くときは四周までこなせるようになっていた。

 戦場では、治癒を使いながら駆けまわってもらうことになる。

これで鍛え続ければ、私の理想通りにできそうだ。


 「治癒隊の人たちにも色々教えていただきました。夜も瞑想で心を鍛えていますので、よっぽどでなければ治癒を解かずにいけそうです」

「よかった。私は無理を言っていなかったようだな」

「いや・・・かけ続けながら走るとか無茶させられてんなって言われましたよ。体力、精神力、集中力・・・誰よりも必要だと。あ・・・もちろんやりますので」

約ひと月で五倍も持続時間を延ばせていたことは期待以上だった。

鍛えればできる・・・それを証明できたわけだな。


 「スコット、ジーナさんはどうだった?」

「・・・とても勉強になりました」

スコットのことはジーナさんに任せていた。

 一対一での経験はあるが、戦場のように複数の敵を相手にすることは初めてだ。

 初めはウォルターさんに頼もうと思っていたが、あれだけ憎まれ口を言われた者に教えてもらうのはやり辛い。だからジーナさんにお願いしていた。

 

 「あと・・・イライザさんにも鍛えられました」 

「そうか・・・たしかに・・・」

「かなり力が付きましたよ」

スコットの体が大きくなっている気がする。

とてもいい筋肉が付いていそうだ。


 「今日からは三人でやるんですよね?」

「ずっと待ってましたよ」

二人の顔には自信が生まれていた。

私がいない間も励んでいたからだ。


 「その通りだ。今日からは三人での動き方を考えていこう」

「つまり・・・死守隊を飛び出していいってことですか?」

「なんかワクワクしますね」

「・・・その次のためにだ」

二人は早く私と共に前線に出たいみたいだ。

 でも・・・まだ不安が残る。

まあ、あと半年でそれを消していこう。


 「それと、いつになるかわからないがケルトに二人の武器を作ってもらおうと思っている」

一緒に戦うならそうしたいと思った。

もちろん、ニルスに許しを貰えてからだが・・・。

 「嬉しいですけど・・・」

「いいんですか?」

「私が頼んでやる。楽しみにしていてくれ」

あなたの作ったものなら精霊鉱で無くても強いはずだ。

あっちにいる間に思いつけばよかったな・・・。



 「えーと、ティララは回復が主ですが俺はどう動けばいいんですか?」

話し合いは食堂のテーブルでやることにした。

誰も来ないように一番奥の席、ニルスのお昼寝の時間でもあるからだ。


 「ティララを守るのがスコットの役目だ。そうだな、聖女の騎士と変わらないはずだ」

不死の聖女は、一人の騎士が代々守っているらしい。

そんなに忙しくないみたいで、望む者には稽古をつけてやっていたという。


 「俺は教わっていただけで騎士ではないですよ」

「なら、今日からお前はティララの騎士となれ。守るというのは敵を近付けないことも含む、危険から守るんだ」

「わかりました。必ず守ります」

「治癒の私は責任重大ですね・・・緊張するなあ」

まだ戦場の雰囲気もわからないのだから当然だ。

私はそうでもなかったっけ・・・。


 「ティララも治癒だけではないぞ。せめてドラゴンを倒せるくらいになってもらう」

「せめて・・・やります!」

「期待しているぞ」

本当に強くなれば、治癒をかけ続ける必要も無くなるだろう。

その時は戦ってもらう。


 「あとは想定できることをすべて教える。心の準備をしておくんだぞ」

「はい!」「承知しました!」

「おーいたいた。アリシア隊は呑気だね」

熱くなってきたところに、ウォルターさんが煽りに来た。

気持ちは知っているが、真面目に話し合っている時は鬱陶しいな・・・。


 「ウォルターさん、いい加減私たちをバカにするのはやめてください」

「俺たちは真剣にやっています。あなたよりも戦果を上げる・・・約束するのでもう黙っていてほしいです」

私がやり過ごそうとすると、二人は初めて言い返した。

 挑発を気にすることはないと言ってきたが、毎日のようにやられてはさすがに我慢できないか・・・。


 「へえ、なら俺とジーナの二人とやってみるか?そんだけ言って逃げねーよな?」

「望むところです!」

「呑気でやってたかどうかはすぐわかるでしょう!」

つまり、三対二・・・。


 「ちょっとウォルター、私やるって言ってないよ」

ジーナさんは離れたテーブルにいた。

今勝手に決めたってことか。

 「今晩、酒場に付き合ってやるよ」

「やだ、明日もよ」

体が熱くなってきていた。

・・・やってやる。


 「じゃあ・・・ニルスは私が預かろう。あとで迎えに来いよ」

いつの間にかべモンドさんがニルスを抱き上げていた。

・・・まあ、いいだろう。



 「ジーナ、俺はアリシアを止めてるからお前は後ろの二人を崩せ」

「あいよ」

訓練場に出て、ウォルターさんたちと向かい合った。

勝つ・・・絶対に勝つ・・・。


 「アリシア様、俺たちはどう動きますか?」

「大丈夫だ。私に任せろ」

私は二人に指示を出しながら戦う。

 戦場でジーナさんがそうしていたように、状況を見て的確に動きを伝えなければならない。


 「スコット、お前はジーナさんからティララを守れ。隙があれば反撃だ」

「はい!」

「ティララ、治癒をかけ続けろ。・・・できるならスコットと一緒に戦うこともしろ」

「承知しました!」

まずはこれでいい、その間に私はウォルターさんを倒す。

 

 「行くぜアリシア!」

ウォルターさんの槍が払われた。

 悔しいが巧い、槍の間合いを活かして私をスコットたちから引き離そうとしている。

 叫び・・・火山でも鍛えてきたから、耐えられるようになった二人であっても止められるかもしれないが・・・。

 「叫びは使えないよな。あいつらも動けなくなっちまう。俺は倒せるだろうけど、あっちは間に合わないぜ」

・・・その通りだ。ここで全員の動きを止めても意味がない。

それにやったとしても、おそらくジーナさんの方が復帰は早い。


 「なら俺はお前を動けなくしてるだけでいい、楽な仕事だ」

甘かった・・・。

二人からどんどん離されている。



 私とスコットたちは完全に分断された。

まだ・・・手に負えないのか。


 「どうしたースコットくーん?教えた動きができてないよー」

スコットは遊ばれているようだ。

 「・・・アリシア、ここまでにしとけ」

ウォルターさんは、それを見て構えを解いた。

・・・そうするしかないみたいだ。


 「わかるかアリシア?あの二人はたしかに強いけど、戦場ならもう死んでる。先にやられるのはスコット、次にティララ、分断されるとこのありさまだ」

「・・・はい。私が殺したようなものです」

「今日はそれでいい、どうしたらいいかはわかったな?」

「はい」

最初から間違っていた。

 私が出す指示は「スコット、二人でティララを守りながら戦おう」だったのだ。

向こうの力も、二人の力もわかっていたのに・・・。


 

 「二人とも許してくれ・・・私のせいで負けた」

私はすぐに謝った。

ここで認めなければ前に進めないからだ。


 「アリシア様・・・頭を上げてください」

「そうです。俺たちの力が足りなかっただけ・・・。足を引っ張ったのはこっちです」

「いや、私が悪い。だが今の短い戦闘で色々わかった」

三人での戦い方、難しさを知った。

この課題は、共に戦える日までに片づけてみせる。


 「明日から陣形と動きを徹底的に鍛える。付いて来てくれるか?」

「はい!」「当たり前です!」

「私の叫びも耐えられるようになってもらう」

「やります!」「毎日お願いします!」

二人は力強く頷いてくれた。

うん・・・三人で強くなろう。



 「さーて、今日はここまでね。酒場行くよー、負けた三人も今日は付き合いなさいよ」

夕方の鐘が鳴った所でジーナさんが声をかけてきた。

私は行ってもいいが・・・。


 「あの・・・私たちまだお酒飲めませんよ?宿舎の食堂もしまっちゃいますし・・・」

「ルルちゃんのとこは大丈夫よ。夜もそこで食べればいいじゃん」

「でも・・・二人でいい部屋を借りるためにお金貯めてますし・・・。家具とかもちょっと高めのを買おうかなって・・・」

「今日は私が出すから平気平気、問題なーし」

ジーナさんに押され、みんなで酒場に行くことになった。


 「ほーら、仲良く五人で行きましょ。・・・いやニルスもいるから六人か。早くべモンドから奪い返してきな」

「あの人はニルスを誘拐したわけでは・・・」

迎えに行くだけなんだけど・・・。


 「俺、ウォルターさんと一緒に行くのやだな・・・」

「私も気が進まないですね・・・」

「俺だってやりずれーよ」

今までの嫌味のこともあって、三人は気まずそうにしている。

もうそろそろいいんじゃないかな。


 「ウォルターさん、事情を話してあげてください」

「あ?お前・・・知ってたのか?」

「はい」

「・・・酒場でな」

二人も千人に選ばれたんだ。

わだかまりはない方がいい。



 「悪かったな、今までの煽りはべモンドの指示だ。お前ら二人は別に弱くない」

「そうでしたか・・・俺いつかぶっ殺してやろうと思ってたんですけどね・・・」

「私もです。なにもわからずに腹を立ててしまい申し訳ありませんでした」

ウォルターさんが事情を話すと、すぐに三人は打ち解けられた。


 心の内を話すことで近付ける。

ケルトもそうしてくれた・・・。


 「アリシアはあんたたちの何倍も強いからしっかり付いてくのよ?」

「何倍も・・・アリシア様って、戦士の中で何番目に強いんですか?」

「・・・単純に一対一ならけっこう上だと思う。・・・末恐ろしい奴だ」

ウォルターさんは私を指さしてきた。

恥ずかしさもあるが、認められているのは嬉しい。


 「ねえねえ、聖女の騎士ってどんくらい強いの?」

ジーナさんが興味深い話を始めた。

それは私も気になる。

 「え・・・師匠はかなり強いですね」

「かなり・・・今何歳なの?」

「えーと・・・五十四です」

「ごじゅ・・・そんなおじさんなんだ・・・」

私も驚いた。

もっと若いものだと思ってたな・・・。


 「代替わりとかしないの?」

「それが・・・なかなか子どもができないみたいで・・・」

「へー・・・ウォルター、安心していいんじゃない?」

「黙ってろ変態・・・・」

でも子どもができなければ次の騎士はどうなるんだろう?

どこかから引き取って育てるとかか?


 「つーか強いっては言うけど、どんなもんなんだ?」

「おそらくですけど・・・奪還軍の誰よりも強いです」

「おそらくじゃないかもしれません」

私はテーブルの下で拳を握った。

機会があればやってみたいな・・・。



 「へー・・・手続きしないんだ」

私とケルトの話になった。

あまり深く教えるつもりは無いが、これくらいはいいだろう。


 「俺はちゃんと夫婦になった方がいいと思う。悪いけど、あんまりお前らのこと考えてないんじゃないのかって気がするぞ」

ウォルターさんが目を細めた。

事情を話していないから仕方ない・・・。

 「いえ、そんなことはありません。私たちは心で繋がっています」

「・・・ニルスはそれで大丈夫だと思うか?」

「ニルスは・・・もうケルトに会わせません。父親は死んだと伝えます」

「あ?バカかおめーは!!」

・・・怒られた。


 「二人で真剣に話し合って決めました。これ以上は・・・」

「まあまあ、家族のことに私たちが口出すことないって。・・・ニルスのこともちゃんと考えてそうなったんでしょ?」

「はい。寂しい思いはさせません」

「俺には理解できない・・・」

そうなのかもしれない。


 一緒に暮らすことは断った。

でもそれ以外は、ケルトの思うようにしてあげたいんだ。


 「ちょっと変な感じになったからこの話おしまーい。次は・・・べモンドに女がいるかどうかをみんなで予想しよー」

ジーナさんが無理矢理話を変えた。

助かる・・・。



 時の鐘が鳴った。

七つ目・・・いつ帰れるかな・・・。


 「雷神がこんなに強いなら、君はどんな怪物になるのかなー?」

ジーナさんは、ずっとニルスを抱きながら酒を飲んでいる。

そして、将来の話・・・。

 「鍛えんの?」

「まだ決めていませんが・・・ニルスとは、できれば共に戦いたいです」

「じゃあニルス君もアリシア隊ですね。そうなると、私はもう一人分力を付けないと」

よく考えたら気の早い話だ。

 まずは次の戦場に集中しなければいけないのに、十年以上も先のことを話してもな。


 「ん・・・なになに?ボクはジーナさんの召使いになりたい?なるほど、召使いってことは・・・ふっふっふ・・・」

「変態は放っておこうぜ。けど、本当に戦士になるなら俺と一緒に突撃隊だ。え・・・おいアリシア、そうしたいってよ」

ジーナさんとウォルターさんは勝手なことを言い始めた。

 二人とも酒を飲むと変になるな。

ああ・・・いつ帰れるか。

ニルスにはあまり夜更かしさせたくないが、どうなるだろう。


 「ニルスは召使いでも戦士でもなくて、あたしとここで働きます」

仕事中のルルも参加してきた。

他の客は戦士だけだし、怒られることはないんだろう。

 「それは店主が決めることでしょ?」

「それに、あのじいさんとばあさんがそん時まで生きてるとは思えねーな」

「ふっふっふ・・・。実は、あと五年もしたらこの店を任せてくれると言われました」

そうだったのか・・・。


 「へー・・・ルルちゃんの店になるんだ。しっかりやんないと潰れちゃうよ?」

「みなさんが毎日通ってくれれば大丈夫です」

「まあ・・・来るけどさ。お店の名前も変えんの?」

「そっか・・・変えてもいいですね」

自分の店なら好きにしていいと思う。

もちろん、そうなってからだが・・・。



 時の鐘が八回鳴らされた。

まだ・・・帰れない。


 「早く教えろ!火山に行ってる間に何回抱かれた!」

赤い顔のジーナさんが大声を出した。

 「また作ってきたんじゃないの?」

ルルもまた入ってきた。

 二人ともケルトがどんな人間か気になっているみたいだが、あんまり詳しく話したくはない。


 「全部言いなよ!なんで火山で一人なの?出身はどこなのよ?」

「教えてもらっていません・・・」

「なんで教えてくんないか聞いたの?」

「これ以上は話しません」

何度聞かれても、誰にも教えはしない。


 『君だから打ち明けた。・・・他の誰にも話さないでほしい』

ケルト、安心してくれ。


 「じゃあ戻すね。夜はどんなんか早く言え!」

「夜・・・それは・・・」

「どんな感じで抱いてくれんの?」

「それも・・・言えません・・・」

隙を見て帰ろう。

ニルスだってそう思ってるはずだ。



 街明かりが少しずつ消えていく。

そのぼやけた光の中で、ニルスは落ち着いたのか眠ってしまった。


 「はあ・・・やっと解放されたな」

ニルスが珍しく泣き出してしまい、それを見たルルが帰るように言ってくれた。

 「すまないなニルス・・・」

たぶん、もっと早くに帰りたかったんだと思う。

ジーナさんに顔を隠されていたから気付けなかったな・・・。


 「ニルス、明日からはもっと楽しくなるんだぞ」

私は眠る息子に話しかけながら歩いている。


 「みんなで仲良く鍛錬をするんだ」

明日からウォルターさんとジーナさんが私たちの特訓に付き合ってくれることになった。これはとても心強い。

 私も指揮官になるわけだから、各隊長に色々話を聞きに行こうと思っている。

 たぶん、最初は細かく指示を出した方がいいんだろうな。でも、いろんな局面を乗り越えて行くうちに、最低限の指示で動けるようになってくれたら嬉しい。


 「早くそんな日が来るといいな」

この子と共に戦える日も・・・。

 「なあニルス、お前はどんな大人になるんだ?母さんはとても楽しみだ」

優しい風が私の耳をこすって吹き抜けていった。

とても気分がいい夜だ。



 家に戻り、二人で窓際の椅子に座って外を見ていた。

湯上りの体に、夜風がとても気持ちよく感じたからだ。


 「ニルス、あの剣は・・・ちゃんと時期を見て渡すよ」

私の部屋、今はニルスと共に寝ている場所だ。

この子のために作られた剣は大切にしまってある。


 『名前は・・・栄光の剣ニルス』

『この子に与えられるように・・・』

そうだなケルト、この子には栄光を・・・。


 私が我が子に教えてやれるのは戦いしかない。

自分は戦士の中で何番目に強いか・・・そんなものに興味はないが、ニルスは一番にしてあげたいな。

 ケルトの思いもある。

これは自分が戦うことよりも優先したい。


 「ニルス、いつか母さんを負かすくらいにならないとな」

この子にとって一番困難な壁、私はそれになろう。


 

 遠くに見えていた街明かりがすっかり暗くなった。


 みんなももう帰っただろうか。

静かに目を落とすと、ニルスが安らかな寝息を立てていた。


 「母さんも寝よう。ニルス、安心して私に付いて来てくれ」

部屋の灯は消え、暖かい闇に私たちは包まれた。


 今夜は、未来のニルスを思い浮かべて眠ろう・・・。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。


今回で地の章第一部は終わりです。

次回から第二部となります。


引き続き、物語を追っていただければ嬉しいです。

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