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Our Story  作者: NeRix
風の章 第二部
163/481

第百五十五話 教えてください【ニルス】

 あと少しで君が目覚めるはず・・・。

なのに・・・どうしてこんなことになったのか・・・。


 ていうか、母さんを襲った男はなんなんだ?

たぶん、恨みとかでは無い。

 そういう感情があるなら、苦しみながら死ぬのを見たいはずだし・・・。

なんなら、先にルージュを目の前で殺すくらいはするんじゃないのか?


 ・・・まあいい、話した本人がなにか知っているかもしれない。

本当は説教してやりたいけど、それは助けてやってからにするか・・・。



 「ん・・・ニルス!」

氷の棺から解き放たれた母さんは、目の前にいたオレに手を伸ばした。

 震えている・・・。

体はまだ動かないみたいだ。


 「よかった・・・テーゼに来ていたのか・・・時間が無いんだ。ルージュを頼みたい・・・シロもまた不安な顔をしていた・・・」

「落ち着いて、もう三日経った。・・・ここは精霊の城だ。そして・・・ルージュも一緒にいる」

「お母さん・・・」

「ルージュ・・・」

母さんは涙を流して、安堵の表情を浮かべた。

・・・世話の焼ける人だ。


 「先に毒を抜く・・・たぶん痛いだろうけどお母さんなら耐えられると思う」

シロの手が母さんの胸に触れた。

ああ・・・あれか・・・。


 「ぐ・・・うああ・・・」

歪む母さんの顔は、どれくらいの痛みかを聞かなくても教えてくれている。

まあ、雷神なら耐えられるだろ・・・。



 「オレからはこれだけだ」

「わかった・・・頼む」

「言われなくてもやるさ」

オレは今の状況と、必ず助けることを伝えた。


 「だからもう安心していい、次に気が付いた時はすべて終わってる」

「・・・すまないニルス」

「・・・その顔をやめろ、安心しろって言ったんだ。それに、声をかけたいのはオレだけじゃない」

手の甲の円はもう半分、残りの時間はみんなにあげよう。



 「手短に済ませます。どのような毒ですか?」

まずハリスが声をかけた。

早口・・・長く話す気は無いらしい。


 「・・・ルージュを運んでくれたのだったな・・・ありがとう」

「時間が無いのです。敵について知っていることを教えてください」

「なにも知らないんだ。大会を見て会いに来たという言い方をしていた」

敵は演技がうまかったんだろうな。

 「どのように襲われたのですか?」

「・・・握手の時になにか刺された。すぐに体の自由が無くなったんだ・・・」

「他に気付いたことはありますか?」

「他は・・・娘と二人家族だということは知っていた・・・調べたとも・・・」

これはシロに貰った記憶にもあったことだ。

これ以上は母さんもわからないか?


 「あとは・・・雷神が協力的であればよかったと言っていた。私が敵だと障害になるらしい。それと・・・聖女が目覚めるのを待つと呟いていた」

協力・・・障害・・・なんのことだ?

それにステラも狙っている?

 「それくらいですか?」

「そうだな・・・。様子が変わる前だが、戦場がまた始まったら嬉しいかと聞かれた。私は・・・必要無いと答えた・・・豹変したのはそのあとだ」

「ふふ・・・ありがとうございます。ケルト様もご心配でしょうからね、私も動きますのでご安心ください」

「ああ・・・心強いよ」

「・・・次の方どうぞ」

ハリスが下がった。

余裕のある顔・・・本当に心強い。



 「アリシア様、みんなで必ず助けます」

ミランダは一言ですぐに離れた。

 「ミランダ・・・ありがとう」

「あたしに時間をかけなくていいです」

シロとルージュのためだろう。



 「あの・・・また抱っこしてね・・・」

「今もできる。メピル・・・お前にも心配をかけてしまった」

母さんはメピルをきつく抱いた。


 「そんなことない・・・私もお母さんのこと大好きだからね・・・」

「メピル、愛しているよ」

「うん・・・ありがとう・・・」

シロとの繋がりがあるからなんだろうけど、ここまでメピルに想われているとは知らなかったな。



 「お母さん、僕・・・ちゃんとみんなに相談したよ」

「そうか・・・心配したよシロ」

「約束する・・・必ず助けるからね」

シロは一度だけ強く抱くとすぐに離れた。

お兄ちゃんだからな・・・。



 「ルージュ・・・すまなかったな。恐かっただろう・・・」

母さんが娘を抱きしめた。

 「母さんがしっかりしていれば・・・本当にすまない・・・」

みんなルージュのために時間を残した。

そのおかげか、手の甲の円はまだ半分を過ぎた所だ。


 「・・・わたしは大丈夫、ニルスさんが守ってくれるって言ってくれたの」

「・・・」

母さんの目線がオレに向いた。

「ニルスさん」についてだろう・・・。


 「さっきも言ったけど、安心していいよ」

オレはすぐ口に指を当てた。

 「・・・そうか。ずっと隠していてすまなかった」

「そんなに謝らないで・・・またお兄ちゃんに会えた。それだけでいい・・・」

早く戦いを終わらせなければ・・・。


 「それと・・・わたしもお母さんが早く帰ってこれるように頑張るから」

「・・・ルージュ?お前は焦らなくていいんだ。ニルスの言うことをよく聞き、仲良くなってほしい」

「なんにも心配しなくていいからね。大好き・・・」

ルージュは母さんを抱きしめて離れた。

・・・とりあえず、これで気が楽になっただろう。


 「じゃあ、また氷の棺をかける」

「待ってくれシロ・・・もう少しだけ時間がある。ニルスと二人だけで話がしたい・・・」

母さんが必死な声を出した。

オレは特に無いけど・・・。


 「わたしはお母さんのしたいようにさせてあげたいです」

「あたしもそうするよ」

「私もそういたしましょう」

ルージュ、ミランダ、ハリスの三人が、急いで部屋を出ていった。

どうするかを考えている時間も惜しかったって感じだ。


 「・・・シロとメピルはいてもいい?」

残ったのは四人、たぶん大丈夫だ。

 「ああ・・・ルージュだけ遠ざけたかった」

「早く言ってくれ、時間が無い」

円はもう四分の三を過ぎた。

急いでほしい・・・。


 「ルージュのことだ。・・・うまくは言えないが、嫌なものを感じた」

「大丈夫だよ、オレがずっとそばにいるんだから」

「ああ・・・頼むよニルス。あの子が笑顔でいれるように・・・。そして、抱いてほしい」

母さんは不安そうに笑った。

・・・世話の焼ける人だ。


 「ありがとう。・・・急がなくていい、兄妹で仲良くなってくれ」

「母さん・・・」

「ニルス・・・愛しているよ」

「母さん・・・オレも愛している・・・」

これで安心して待てるだろうな。


 「じゃあ、待っててね」

「ああ、頼んだよニルス」

母さんの顔はとても安らいでいた。

このまま・・・。

 「シロ・・・頼む」

「うん」

凍りついたあとも同じ・・・。


 「急ぐな」か・・・嘘つくなよ。

みんな協力してくれる。

解決したら、次の闘技大会くらいは出てやろう。



 「ごめんね、今回僕は動けない」

全員で隣の部屋に移動した。

あとは、これからどう動くかを決めなければいけない。


 「問題なし、あんたは一番安全なここにいなさい。メピル、シロが寂しそうだったらすぐにベル鳴らして呼んでね」

ミランダがシロの頭を撫でた。

 「・・・ベルで来るのは私です。ふざけないでください」

「ハリスがあたしを拾って連れてくるのよ」

「・・・」

八年か・・・ハリスはよくミランダに付き合ってるな。

愛想を尽かしてないし、なんだかんだ気に入っているんだろう。


 「メピルさん・・・。あれ・・・今日はお客さんがたくさん来てたんだね。あ・・・ニルス、久しぶりだね」

扉が開き、やつれた顔のニコルさんが現れた。

なにか食べ物を探しに来たって感じだ。


 「あ、変態蜘蛛男だ。ポッケに入ってない?ていうかあたしに近付かないでよ」

「あはは、ミランダも久しぶりだね。五年ぶりくらい?」

「ど・・・どなたですか?」

ルージュがオレの後ろに隠れてしまった。

以前と同じように、服の裾をしっかり掴んでいる。


 「ルージュ、この人はニコルさん。最後の戦場前からここに住んでいるんだ。恐い人じゃないから大丈夫だよ」

「まあ・・・人間にはあんまり興味無いかな・・・。メピルさん、なにか食べ物を・・・」

「あなたは本当に呑気な人ね・・・。わかった、今日はお母さんから教わったシチューを作ってあげる」

メピルはほっとした顔で部屋を出て行った。

ニコルさんにはなにも話していなかったのか・・・。


 世界と切り離された存在・・・。

この人はここで蜘蛛を見ているだけで幸せなんだろう。



 「ねえミランダ、糸はたくさん集まってるけどいつ持っていくの?もう部屋が三つ埋まっちゃったよ」

ニコルさんもテーブルに着いた。

・・・これじゃ話が進まない。


 「ちょっと待っててよ・・・しばらくはフラニーに頼みづらいの。とりあえずまだ集めといて」

「ミランダ、それもやらせる気だったの?」

気になる話だ。

たしか怒られたはず・・・。

 「だって・・・高く売れそうじゃん。あんたのマント、ドラゴンの炎でも焼けなかったんでしょ?」

魔女だな・・・。

手袋の他に外套まで作らせたら、本業の方ができなくなるだろ・・・。


 「ニコルさん、僕はしばらくお城にいることになったんだ。たまには顔を出してお話してね」

シロの顔はいつも通りになっていた。

 「それは嬉しいな。じゃあ蜘蛛博士になれるくらいの知識をあげよう」

「うん、いっぱいお喋りしてね」

そうか・・・今までは外を遊びまわっていたのに、今度は籠もっていないといけなくなるんだな。


 一緒にいてやりたいけど、今回のことをツキヨへ報告して協力を頼みたい。

・・・それに、あの母さんが一緒だとルージュが落ち着かないだろう。



 「では、シロ様たちはここでじっとしていてください。我々は、ひとまずケルト様の家に戻りましょうか」

話が纏まった。


 シロは一番安全なここで、オレとルージュは父さんの家でいい報せを待つ。

ミランダは商会の仕事もあるからテーゼに戻り、危険の無い範囲で聞き込み。

 ハリスは飛び回って情報を集める。

・・・一人だけ負担が大きくなってしまったな。


 「じゃあみんな、お願いね」

シロは切なそうに笑って手を振った。

メピルとニコルさんがいても寂しいんだろうな。


 オレかミランダが残れればよかったんだけど、すぐには無理だし・・・。

誰か他に・・・あ・・・いる。

言えば喜んで来てくれそう・・・。



 火山に戻ってきた。

ああ、落ち着く・・・


 「シロ様は本当に大丈夫でしょうか・・・」

ハリスが誰よりも先に座った。

不安そうだ・・・でも大丈夫。


 「ハリス、本人がよければだけど、シロの所に連れていってほしい人がいる」

「私も浮かんだ方がいます。ですが、なにも言わずに巻き込んでいいものか・・・」

「事情を話していいと思う。きっとシロたちを支えてくれるはずだ」

あの子なら・・・。

 「まあいいでしょう・・・キビナですね」

「そうだ、断られたら仕方ないけど」

「話してはみますよ」

ハリスも絶対来てくれるって思ってそうだ。

あとは、すぐに行けるかどうかだな。


 「ではこれからの動きをもう一度確認しましょう。ニルス様が動くのは、敵が判明してからです。・・・わかっていますね?」

「仕方ないけどわかってるよ」

「ここにいればルージュ様も安全でしょう。穏やかな心で過ごしてください」

「・・・」

ルージュは戻ってからずっと拳を握って俯いている。

みんなが動く、もう不安にならなくていいんだけどな。


 「ステラ様も狙われているようですが、あちらは今の所心配無いと思います」

「だよね・・・おじいちゃんがいるし、屋敷には女神様の結界もあるもんね」

ミランダも心配していない。

 そういえば、ヴィクターさんだけじゃなくて息子もいたな。

あれ・・・代替わりしたんだっけ?

・・・どっちにしろ安全だ。


 「でも、起こっていることは伝えてほしい。警戒してもらわないと」

「承知しました」

「あたしも一緒に行く。そのあとはテーゼで聞き込みするね。みんなにも事情を話して協力してもらうよ」

「・・・私は一人の方が動きやすい。あなたとはテーゼで分かれます」

ハリスとミランダ・・・とりあえず二人が頼りだな。


 「慎重に動きます。ふた月いただきたい」

ハリスが手帳を開いた。

一人なのに、そんなに早く調べられるんだ・・・。

 「頼んだよ。想の月にまた来てくれ」

「はい。・・・ニルス様、わかっていると思いますが口外してはいけませんよ?例えばここに来る行商人・・・ツキヨに襲われる可能性もありますからね」

「・・・わかった」

なるほど、そっちも使うってことか。

オレもそうするつもりだったし、カゲウソさんに情報を伝えよう。


 「それとミランダ様、話す者はしっかり見極めてください」

「は?どういう意味よ?」

「どなたかが敵と繋がっている可能性を言っています」

ハリスはミランダも心配みたいだ。

 近くにいる誰かが・・・考えたくはない。

そうであってほしくはないけど・・・。


 「アリシア様の周りにそんな人いるわけないでしょ!」

「・・・ノア様とエスト様はどうでしょう?このためにアリシア様と親しいあなたに近付いたということもありえますね」

「なにバカなこと言ってんの!あんただってわかってるでしょ!」

ミランダが怒った。

さすがにな・・・。

 「・・・熱くならないでください」

でもハリスは、それに負けないくらい鋭い目でミランダを見ている。


 「そのくらい警戒するべきだという話です。不用意に動いて、この場所やアリシア様が無事だということが敵に知られたらどうするのですか?」

「・・・」

ミランダは溜め息をついた。

一緒に仕事をしている二人だし、疑いたくはないんだろう。


 「・・・大声出して悪かったよ、ちゃんと考えて動く」

「当たり前です。動き方はのちほど話しましょうか」

「そうね、しっかり話し合いましょ。じゃあまずはキビナ行こっか」

「はい」

二人が立ち上がった。

オレはここでルージュの死守、もう悲しい思いはさせない。


 「・・・待ってください!わたしにも・・・なにかできることはありませんか?」

ルージュも立ち上がった。

・・・特に無い。

 「・・・無事でいることがルージュ様の役目です。それ以外は必要ありません」

ハリスはルージュの言葉を切り捨てた。

冷たいけど、言ってることは当たってる。


 「でも・・・わたしもなにかしたいです」

「自分の身も守れないあなたに何ができるというのですか?」

これも正しい。

少しひどい言い方だけど、これで諦めるはずだ。


 「わたし・・・」

「ハリス、言い過ぎだよ。ルージュの気持ちも考えてあげて」

「勝手な動きをされては困りますので・・・」

「・・・」

ルージュはまた泣きそうな顔になっていた。

 でもきのうまでとは違う。

悲しくてじゃなくて、なにもできない自分への憤り・・・ミランダもその気持ちがわかるから庇ったんだろう。


 「ニルスさん・・・あの・・・」

オレを見つめる目はもう涙が零れそうだ。

でも、この子にはなにもさせる気は無い。

 「悪いけど、ハリスの言う通りだよ。君が無事じゃなければアリシアの思いはどうなる?」

「・・・」

ルージュが瞼をぎゅっと閉じた。

愚痴はあとで聞こう・・・。


 「わたしに・・・戦いを教えてください!」

ルージュはすぐに目を開いて大声を出した。

ああ・・・母さんが心配してたのはこれか。

 「必要無い」

でも・・・それはさせられない。


 「シロだって自分の存在を賭けようとしました。わたしもお母さんを助けるためにそれくらいの覚悟はあります!」

「ダメだ、アリシアの願いと逆のことを言っている」

「お願いします!戦いを教えてください!」

ルージュの目は本気だ。

 あんまり強い言い方はしたくないけど、諦めさせるにはそうするしかないかな?

この子は戦いなんて知らなくていいのに・・・。


 「勢いで飛び込む世界じゃないんだ。・・・落ち着いてくれ」

熱が下がれば考え直すはず・・・。

 「・・・そうですよ。今のルージュ様は、シロ様の行動に胸を打たれて感動しているだけです。冷静になってください」

さすがにハリスも焦っている。

 「ルージュ、ニルスを困らせないであげて。それに痛い思いなんてしたくないでしょ?」

ミランダも加わった。

どう言い聞かせるか・・・。


 「ルージュ、なにか冷たいものでも飲んで・・・」

「必ず強くなるので教えてください!!!」

ルージュが叫んだ。

 痺れ・・・動けない・・・。

ハリスとミランダも・・・固まってる・・・。



 「なるほど・・・」

最初に痺れから抜け出したのはハリスだった。

 「ニルス様、どうされるのですか?」

そして、面倒そうな顔でオレを見てきた。


 今のルージュに言葉は響かない。

わからせるしかないか・・・。


 「覚悟はあるんだな?」

オレは真っ直ぐにルージュの目を見た。

 「はい、なんでもします!」

「素質を見てやる。上着を脱いで腕を出せ」

「はい」

ルージュは素直に腕を出してくれた。

させるわけにはいかない・・・荒いやり方だけど、諦めさせるにはこれしかない・・・。


 「・・・どうでしょうか?」

細すぎる・・・でも今回はそれでよかった。

 「・・・耐えてみせろ」

オレは細い腕に力を込めた。


 「え・・・あ・・・」

「折ったんだ、痛いだろ?」

「ニルス!!!」

「お待ちください、騒がずに見守りましょう・・・」

ハリスがミランダを抑えてくれた。

不測の事態にもすぐ対応してくれる。だから頼りにしてるよ。


 「あああ・・・うう・・・ああああ・・・」

ルージュは折れた腕を見て苦痛の声を上げている。

このまま言い聞かせれば・・・。

 「喚くな・・・覚悟してるんじゃなかったのか?」

「はあ・・・はあ・・・うう・・・」

胸が締め付けられる。

でも・・・もう引けない。


 「はあ・・・はあ・・・どうして・・・」

「骨が折れた経験は無かったみたいだな。・・・痛みを覚えろ」

妹の姿に心が揺れる・・・。

 「それは戦いに身を投じた時にまた味わう痛み・・・そして相手に与える痛みだ」

迷うな・・・流されるな・・・。

この子のためだ!

 「それで済めば運がいい。繋がっていれば治るからな・・・」

腕に治癒をかけてあげた。

なぜか強まった魔法の力、これが無ければこんな方法は取れなかったな。


 「腕は治った。もう大丈夫だ」

「・・・」

ルージュは腕をさすりながらオレを睨んでいる。

・・・嫌われたかな?


 「憎んでくれて構わない。だから諦めてくれ・・・」

「・・・教えてください」

・・・は?

 「諦めろって言ったんだ」

「嫌です」

「ルージュ!」

「痛みは・・・覚えました。戦いを・・・剣を教えてください」

なんだ・・・どういうことだよ・・・。

どんな育て方してたんだ・・・。


 「・・・ニルス様、もう聞かないでしょう」

「ハリス・・・」

「ふた月も退屈でしょうからね。鍛えてもらうといいですよ」

ハリスはルージュに付いた。

お前が煽るようなこと言ったからこうなったのに・・・。


 だけど・・・少しだけ妹を認めていた。

優しい母親と平穏な日常の中にいた女の子が、言った通り覚悟を見せてくれたからだ。

それに・・・やりたいことみたいだからな・・・。


 「・・・いいだろう。明日から鍛えてやる。言っておくけど、一度でも音を上げたらそこまでにする」

「はい!よろしくお願いします!」

ルージュは返事と一緒にオレに抱きついてきた。

 「それと・・・わたしは一人では寝れません。よろしくお願いします・・・」

「・・・好きにすればいい」

オレが危険から遠ざける。

だからなにも問題は無いはずだ。


 まったく・・・クライン家の女はみんなこうなるのか?

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