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Our Story  作者: NeRix
風の章 第二部
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第百五十三話 同じこと【シロ】

 『シロなんか・・・大嫌い・・・』

嫌われちゃったよね・・・。

あの時にもっと冷静でいられたら、ルージュも少しは安心したのかな?


 「・・・気配はちゃんと火山にある。だから・・・心配いらないからね」

僕はお母さんに触れた。

 

 お母さん、ルージュは大丈夫だよ。きっとニルスが守ってくれる。

少し時間はかかるけど、僕が呪いを解いてあげるから・・・。


 そしたら、ルージュは許してくれるかな・・・。



 「シロ・・・不安なの?」

メピルが僕の肩に手を置いた。

君もそんな顔してるよ・・・。


 「平気だよ。メピルこそ大丈夫?」

「私はあなたの分身・・・お母さんを助けたいのは同じ。だからなにも怖くないよ」

「・・・うん、助けてあげよう」

「・・・私も娘だって言ってくれた・・・嬉しかったな」

メピルもお母さんに触れた。

 この子はここから外に出れない。

だから、お母さんが来てくれるのを楽しみにしていた・・・。


 「じゃあ・・・僕はニルスの所に行ってくるね」

「わかった。少し・・・ゆっくりしてきてもいいよ。私でも二日くらいは大丈夫だし、解けたらすぐに新しい棺を使うから・・・」

氷の棺は僕が近くにいなければ解けてしまう。

 ニルスの時みたいにテーゼの街くらいの広さなら問題ないけど、ここから火山までの距離ではさすがに無理だ。

メピルも使えるけど、僕のままにしておきたい。


 「大丈夫、すぐに戻るよ。説明・・・するだけだから」

「みんなは・・・なんて言うかな?」

「喜んでくれるはずだよ・・・じゃあ」

僕は精霊の城を出た。


 もう決めたんだ。

明るく話さないと・・・。


 ごめんねステラ。

僕は・・・君を迎えに行けない・・・。



 「シロ、ニルスの所に行くのか?」

火山が見えてきたところで、イナズマが目の前に現れた。

誰とも会いたくなかったのに・・・。


 「ニルスの妹が来ているぞ。なにかあったようだ」

「話したの?」

「いや・・・」

「そう・・・」

イナズマはまだ何も知らないか・・・。


 「事情を知っているのか?」

「・・・僕はすべてを知っているわけじゃない。でも・・・やるべきことはわかるよ」

「・・・急いでいるのか?それなら記憶を渡せ」

「・・・わかった」

僕たちは大地に下りた。


 よく考えたら、精霊の誰かには伝えておかないといけない。

イナズマからチルとオーゼに話してもらおう。



 「・・・誰も望んでいないぞ?」

僕の記憶への返事が来た。

 「勝手に決めるな」

イナズマは、僕がやろうとしていることを止めたいらしい。


 「でも・・・お母さんも、ルージュも・・・ニルスも望んでいる」

「三人がそう言ったのか?」

「・・・言わなくても思ってる。だから・・・これでいい」

だって、お母さんが死んでいいなんて思ってる人は誰もいないもん。

それに・・・僕が助けるって約束した・・・。

 

 「方法は、まだあるはずだ」

「もう決めた・・・僕はやる。記憶は全部渡した・・・止めても無駄だよ」

これ以上の言葉はいらない。

僕の心を・・・わかってくれたはずだから・・・。


 「ニルスたちの所・・・俺も共にいていいか?」

「口出ししないならいいよ」

「ニルスたちがどういう反応をするのか・・・知りたいだけだ」

「わかった」

イナズマが約束を破ることは無い。

黙って聞いてくれるはずだ。



 「あ・・・シロ!!」

ニルスの家に入ると、すぐルージュに抱きしめられた。


 「ごめんなさい・・・シロがお母さんを助けてくれたのに・・・ひどいこと言って・・・ごめんなさい」

あれ・・・嫌われてない。

またなにか言われたり、叩かれたりするのは覚悟してたんだけどな・・・。


 「ルージュ・・・僕の方こそひどいことをしたと思う」

「そんなことないよ・・・シロがいなかったら・・・わたしも・・・」

「僕のこと・・・大嫌いって・・・」

「違う・・・シロのこと大好きだもん。家族だし・・・ずっと友達だもん・・・」

こう思ってくれてたらいいなって考えてた。

 ・・・その通りだったな。

どうして疑っていたんだろう?


 「ルージュ・・・」

「だから・・・わたしのこと嫌いにならないで・・・」

そうだ・・・最後の戦場の時も同じようなことがあった。


 『信じることは難しいだろう?』

うん・・・こんなに難しい・・・。

まだ僕にはうまくできないみたいだ。


 「シロ、大変だったな。オレもいてあげていれば・・・」

ニルスが僕の頭を撫でてくれた。

最近してもらってなかったけど、実はニルスにされるのが一番好きだ。


 「ニルス・・・ごめんね。何も言わずにルージュを・・・」

「そんなこと気にしなくていい。シロはアリシアとルージュを守ってくれた。ありがとう」

「そうだよ・・・シロは必死だったのにわたし・・・」

ルージュはなんだか泣き虫になってる。

早く笑えるようにしてあげよう・・・。


 「ニルス、ルージュに自分のことは・・・」

少しだけ気になった。

兄妹だということを教えたのか・・・それともまだ黙っているのか。


 「シロ・・・」

ミランダが口元に指を当てた。

・・・まだみたいだ。


 「戦いが終わったらだよ」

「わかった・・・」

じゃあルージュは、憧れていたお兄ちゃんとまた会えたって思ってるんだな。

 ・・・再会できたってことは、もう旅に出る必要は無い。

だから・・・ちょうどよかったんだ。



 「ルージュ、そろそろシロの話を聞こうか」

「あ・・・はい」

ルージュはやっと落ち着いてくれた。

お兄ちゃんと一緒にいる姿、テーゼにいるみんなも早く見たいだろうな・・・。


 「・・・やっとですか」

ハリスはテーブルで待っていた。

 「ハリス・・・ルージュのこと、ありがとう」

「お気になさらず・・・みなさん、早く座ってください」

「はい・・・。え・・・あの、その人は・・・」

ルージュがイナズマに気付いた。

見た目は男の人だから仕方ない。


 「・・・俺はイナズマだ。シロと同じ精霊だな」

「イナズマ・・・さん?お父さんのお墓にお花を・・・」

「・・・ケルトは美しいものが好きだったからな」

「あ・・・すみません。ありがとうございます」

ルージュは深く頭を下げた。

 たぶんニルスから聞いていたんだろう。

どこまでかはわからないけど、お父さんとの関係を知っていて怖がるのは失礼だからな。

 「・・・俺はただ同席したいだけだ。構わないか?」

「はい」

「・・・」

イナズマは座らずに奥の壁に寄りかかった。

僕との約束があるからだろう。


 「ではシロ様、対価をいただきます。あなたが見聞きしたもの、すべて話していただけますか?」

「うん、ちゃんと教えるよ」

わけがわからないのは僕も同じだけど、知っていることを教えなければ・・・。



 僕は、アリシアと一緒にいた男のことを話した。

見たことのない結界、死の呪い・・・。

みんなは静かに聞いてくれている。


 「・・・あの状態だと解呪をしている時間が無かった。だから氷の棺ですべてを止めたんだ」

「顔を確認できていないのですか・・・。ルージュ様もでしたね・・・」

「う・・・すみません。すぐにお母さんが家に入れてくれて・・・」

ルージュは無事だったから、アリシアの判断は間違っていない。

・・・ニルスともやっと会えたしね。


 「シロ様とイナズマ様に伺いたいのですが・・・私の記憶では、死の呪いはかけた者の命と引き換えのはずです。今回の件はどうお考えですか?」

ハリスが笑顔で尋ねてきた。

君にとっては愉快なことなんだろうね・・・。


 「精霊なら別だが・・・俺もチルもオーゼもそんなことはしない」

「では、その男は何者でしょうか?精霊だと考えれば納得できます」

「それは無いだろう。だが・・・精霊に近い力を使っている。結界かはわからないが、黒煙・・・俺も知らないものだ」

僕もイナズマと同じだ。

きっとチルとオーゼもわからない・・・。

 

 「あのさ・・・今は犯人よりも、アリシア様を助けた方がいいんじゃないかな・・・」

ずっと黙っていたミランダが口を開いた。

僕が来た時からあんまり話さなかったけど、なにかあったのかな?

 「大丈夫だよ・・・アリシアの呪いは僕が解くから・・・」

「シロ・・・あんたなんか隠してる?」

「隠してることなんかないよ。ルージュも早くアリシアと会えたら嬉しいよね?」

「うん・・・ありがとうシロ」

ほら、やっぱりそうだよね。

だから・・・きっとこれで正解なんだ。


 「でも・・・解呪にはちょっと時間がかかる。たぶんひと月以上・・・そのくらい強い呪いだった」

「じゃあ、お母さんが元気になったら悪い人をやっつけてもらおう」

「そうだね・・・アリシアも怒ってるだろうし・・・」

「・・・」

ニルスが僕を見てきた。

なにかを言いたいって顔だ。


 「どうしたのニルス?」

「いや・・・疲れてないかなって思ったんだ」

「ふふ・・・もう忘れちゃったの?僕は眠らなくていいし、休む必要もないんだよ」

「心は・・・どうだ?」

僕は答えずにできる限りの笑顔を作った。

本当は・・・辛い・・・。


 「・・・外で頭の中をまとめたいです。・・・少し、息苦しくなってきましたので」

ハリスが急に立ち上がって、外に出て行ってしまった。

・・・彼はなにかを感じたのかもしれない。


 「何よあいつ・・・」

「ミランダ、今回の件はハリスの力も必要だと思う。戻るのを待とう」

ニルスがミランダをなだめてあげた。

今の感じだと、やっぱり戦うんだね・・・。


 「ごめんね、僕があいつを捕まえられていれば・・・」

「シロが気にすることじゃないよ。足を凍らせて、五百のつらら・・・これでも逃げられるならどうしようもない」

そうでもない。

守護の結界で閉じ込めるとか・・・他にも方法はあったのに・・・。


 「・・・ニルス、墓の前に来てくれ。伝えていなかったことがある」

イナズマがニルスを呼んだ。

まさか・・・。

 「・・・ここじゃ話せないことか?」

「お前がいいなら構わないが・・・」

イナズマはルージュを見つめた。

 なんだ、家族の話か・・・。

早くそんな壁を無くしてあげたいな。


 「わかった。外に行こう、みんなも少し休んでくれ」

僕とルージュとミランダの三人が残された。

まあいい、今のうちに伝えておきたいことがたくさんある。


 「ごめんねルージュ、ニルスのことずっと隠してて・・・」

これも謝らなければいけない。

旅に出て探そうとするくらい想っていたし・・・。


 「事情はニルスさんから全部聞いたよ。わたし・・・わたしだけの気持ちでわがままは言わない」

「でも・・・友達に隠し事してた・・・」

「・・・シロ?」

ルージュの手が僕のほっぺに触れた。

 「なんで泣いてるの?友達だから・・・気にしてないんだよ」

「うん・・・」

「シロもルージュのこと許してあげてね?」

「ミランダ・・・僕は最初から気にしてないよ・・・」

また強がってしまった。

 本当はとても気にしている・・・でも、もういいんだ。

この気持ちは・・・伝える必要はない。


 「シロ、ここでしばらく休んでいったら?」

「ごめんミランダ、氷の棺は僕が近くにいないとダメなんだ」

「そうなんだ・・・あたしも一緒にお城に行こうか?ノアとエストはなんだかんだうまくやってくれるだろうし」

「あ・・・」

伝えなければいけないことが、まだあったのを思い出した。

でも・・・ルージュの前では言えない・・・。


 「ミランダ、ちょっとだけお話があるんだ。メルダからミランダだけにって言われてるから、ルージュはちょっと待ってて」

「うん。そうだ、飲み物を用意しておくね。シロの好きな甘いの」

「ありがとう・・・」

大事な友達のこと・・・ルージュの前ではまだ言えないこと。

きっと「いいよ」って言ってくれるよね。



 「メルダがあたしになんか言ってたの?」

僕はミランダと一緒にニルスの部屋に入った。

防音の結界も張ったし、ルージュに聞こえることは無いだろう。


 「たまに手紙よこすけど、あんたから美容水塗ってもらうと気持ちいいってさ。・・・そんな内容ばっかだから、そこまでの話じゃない気がするけど」

「ごめん、それ嘘なんだ。シリウスのことなんだけど・・・」

王様から頼まれていたこと・・・。

あとはミランダの許可があればいい。



 「ノアとエストにはもう言ってあるんだ。・・・いいかな?」

シリウスのことをお願いした。

これ以外に頼むことは・・・もう無いかな。


 「・・・あたしは構わないよ。部屋も空いてるしね」

「ありがとうミランダ。それとね・・・シリウスには僕の部屋をあげようと思うんだ。どうせ・・・使わないし・・・」

声が震えた。

なんでこんなことを言ってしまったんだろう・・・。


 「シロ・・・」

「だって・・・あの家にいる時は、ミランダと一緒だし・・・。ステラが起きたら・・・旅に出るし・・・」

また嘘をついてしまった。

僕は・・・もう旅には出れない。


 「あんた・・・何する気なの?」

「どういう意味?あ・・・」

僕の顔が、ミランダの大きな胸に埋められた。

 「また・・・本当のこと言わない気?」

暖かい・・・ミランダにこうしてもらうのも一番好き・・・。


 「僕は・・・アリシアの呪いを解くだけだよ。これが本当のこと・・・」

「シロ・・・」

「でも・・・もうちょっとだけぎゅっとしててほしい・・・」

「・・・」

ミランダの腕に力が入った。

安らぐ柔らかさ・・・もっとしてもらっておけばよかったな。


 『ステラ様は、自分の身や感情よりもあなたたちを優先できるようですね』

僕は、ステラと同じことをしようとしている。

違うのは、僕の存在と引き換えということ・・・。


 話すつもりは無い。

止められたら迷ってしまう。

僕は早くお母さんを助けてあげたいんだ・・・。

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