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Our Story  作者: NeRix
風の章 第一部
152/481

第百四十五話 弱気【ルージュ】

 あと半年でアカデミーが終わる。


 わたしはどんな大人になるんだろう?

今の自分がこのまま続くのか、それともどこかで変わっていくのか。


 先が見えないとちょっとだけ不安になる。

男の人とうまく話せないのも・・・どうにかしたいかも・・・。



 アカデミーの中庭に出てきた。

お昼だからお弁当の時間だ。


 「セレシュはやっぱり精霊学?考えは変わってない?」

友達と、これからのことを話す時間が増えた。

将来をどう考えているか・・・やっぱり気になる。


 「なんか定期的におんなじこと聞くね。私の考えは変わってないよ」

「ごめんね。えっと・・・シリウスもだよね?」

「うん、なんとかこっちのアカデミーに通えるようにしたいって。精霊学のはテーゼとか大きい街にしか無いから」

「わたしに来た手紙にも書いてあったよ。お父さんとお母さんに頼んでみるって」

そうなったらいいな。

 こっちに戻ってくるならまた四人で遊びたい。

待てよ・・・シリウスなら普通に話せるんじゃないかな?

男の子に慣れる練習をさせてもらえるかも。


 「で・・・ルージュはどうするか見えてきたの?」

「うーん・・・とりあえずもう勉強はいいかなって」

「そっか、まだはっきりしてないんだね。まあ、アカデミーを出ても十五歳までは時間があるから、しっかり考えるといいよ。それで・・・もし決まらなかったら一緒に精霊学のアカデミーに行こうよ」

うーん・・・それでもいいかもな。


 でも、やりたいことが無いわけじゃない。

どうなるかわからないけど、人形の衣装を作る人・・・。

微かに考えているのはこれだけだ。


 「それか・・・高等部ができるらしいから、そっちに進むとか」

セレシュが近くにあった掲示板を指さした。

わたしも見たけど・・・。

 「わたしたちが十五になる年だよね・・・。まあ、通えるのも十五歳以上の子みたいだけど」

「そっちの方も建てないといけないから仕方ないよ。それに、高等部に行くって子はけっこういるよ。友達と一緒なら楽しいと思う」

「他のアカデミーを出た人も、入りたければいいみたいだね」

「うん、新しい友達もできると思う。あ・・・これは精霊学のアカデミーでも一緒だよ」

セレシュがかわいく笑った。

 それだったら精霊学の方がいい気がする。

ここにいても男の子と話せるようにはならないし・・・。


 「ごきげんよう。私たちもご一緒してよろしいですか?」

同じ一期生の子たちが話しかけてきた。

 「どうぞ、席を詰めるから座って」

「失礼します。あ・・・それはアリシア様が焼いた甘いパンですね?」

「そうだよ。ひと切れどうぞ」

「わあ嬉しい・・・あ・・・ふふ、ありがとうございます」

みんないい子たちで好きだ。

こうやって一緒にお昼を食べるのも、あと半年になるかもしれないのか・・・。



 「わたしのやりたいことって変かな?」

夕食の時に、お母さんに相談してみた。

はっきりと「やりたい」って話したことは無かったけど、なんて言われるかな・・・。


 「そんなことは無い。やる前から後ろ向きなことを考えてはダメだ」

お母さんは真剣な目でわたしを見てくれた。

ちょっと恐い・・・。


 「そ、そうだよね。・・・どうすればなれるかな?」

「そうだな・・・ミランダに頼んで注文を取ってきてもらえばいい。商会で取り扱ってもらおう」

「あ・・・」

そうだった。ミランダさんに話せば、欲しい人を見つけてくれるよね。


 「ありがとうお母さん。明日ミランダさんに話しに行ってみるよ」

「ああ、やれるだけやってみるといい」

よかった・・・「ダメだ」とか「こうしなさい」とか言われなかった。

お母さんはわたしの味方だ。


 「それと、もし他にもやりたいことが見つかれば色々やってみるといい。母さんがルージュの力になってあげるよ」

たぶん今のは「うまくいかなくても気にするな」ってことだよね。

 「ありがとう、お母さん大好き」

だから、失敗を恐がらずになんでもやってみようって気持ちになってくる。


 うん、これからも色々相談していこう。

とりあえず、今日は明日のために早く寝よう。



 「あ・・・ノアさんおはようございます」

朝を食べて、すぐにミランダさんの家に来た。

アカデミーはお休みだけど、商会はお仕事みたいだ。


 「あれ、どうしたのルージュ」

「あの・・・ミランダさんに・・・」

「ああ・・・なるほど、そういうことか」

「はい・・・」

まず倉庫に顔を出した。

 毎朝、今くらいはノアさんかエストさんが美容水と石鹸の確認をしている。

だから・・・まずここ・・・。


 「大丈夫だよ。今日は顔を出さないって言ってたから」

「そ、そうですか・・・ありがとうございます」

ハリスさんがいたらちょっと嫌だった。

 なんだかあの人は恐い・・・。

ノアさんは普通なんだけどな・・・。


 「ルージュ、何度も言ってるけどハリスさんはいい人だよ」

「・・・はい」

「ちなみに・・・ハリスさんは避けられてるの気付いてるからね。だから気を遣って、ルージュがここに泊まる時は来ないようにしてくれてる。・・・知ってるよね?」

「・・・はい」

みんなはハリスさんを「優しい人だ」って教えてくれる。


 「無理にとは言わないけど、一度ハリスさんと話してみたら?もちろん二人きりじゃなくて、僕たちも一緒の時に」

「気持ちが強い時なら・・・」

「・・・そんな深刻にならないで。ミランダさんは談話室にいるよ」

「・・・ありがとうございます」

あの人からは得体の知れない恐さを感じる。

とっても失礼だけど、なんて言うか・・・人間じゃないような。

 

 でも、話してみたら違うのかな?

まあ・・・無理に関わらなくてもいいよね・・・。



 「おはようございます・・・」

「ん?お、ルージュじゃん」

ミランダさんは自分の机でふんぞり返っていた。

なんか暇そう・・・いい時に来たみたい。


 「ミランダさん、今お話しできる時間はありますか?」

「え・・・うん、いいよ」

まずはできるかどうか聞いてみないとね。



 「あ、そっか・・・あんたんとこは他と違って種の月だったもんね」

「はい、あと半年で終わるので・・・。お母さんはやってみなさいって言ってくれて、あとは・・・売る場所があればと・・・」

ミランダさんに全部伝えた。

 スプリング商会で協力してくれれば心強い。

あれ・・・でもそしたらハリスさんとも関わらないといけないのかな・・・。


 「お人形の衣装ね・・・。あたしも小さい時はそれで遊んでたことあるけど、服は気にしたことなかったな・・・」

「わたしは着せ替えられたらなって思ったことありますよ。まあ・・・うちにはお金が無かったので、おねだりはできませんでしたけど・・・」

エストさんも話に入ってきてくれた。

色んな意見が聞きたいから嬉しい。


 「お客さんが欲しいなら、定期で買ってもらってる人にこういうの取り扱おうと思ってるって、配達の時に伝えて反応を見るのはどうでしょうか?」

「ああ、それいいかもね。とりあえずテーゼ限定でティムにやらせるか。あいつあんたのためならお客さん取ってくるよ」

「え・・・でもわたし一人なので、たくさん注文が来たら困っちゃいます」

「やる前から何言ってんのよ・・・」

う・・・たしかにそうだ。

それに注文がたくさんとか、思い上がりだよね・・・。


 「あの・・・話が飛び過ぎです。注文が来るかの前に、まず反応を見るって言ったじゃないですか・・・」

「そういやそうだったわね。・・・というわけで、やりたいなら協力するよ。取り分は相談だけどね」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあアカデミーが終わって、落ち着いたらまた来なさい。その時に色々決めてこうか」

あ・・・そっか、すぐに始めるわけじゃない。

まだアカデミーも残ってるんだった・・・。



 「でも十五まではのんびりしてていいんじゃないの?」

ミランダさんが紅茶を淹れてくれた。

あとは、少し話したら帰ろうかな。


 「ちょっと遊んでてもアリシア様ならうるさく言わないだろうしね。あ・・・せっかくだから男の子に慣れる訓練したりとかさ」

「男の子・・・」

「恋人作ってみるとかさ。あんたならすぐできるよ」

「恋人・・・」

顔が赤くなってる気がする。

恥ずかしいのもあるけど、あのお兄ちゃんを思い出したからだ。


 「お、どうしたのかなルージュちゃん?想像しただけでドキドキしちゃった?」

「そんなことは・・・」

「なんだっけ・・・素敵な女性でいれば、いい男が現れるんだっけ?たぶんさ、街で突っ立ってれば声かけてくんのはいると思うんだよね。そん中にいるかもよ」

ミランダさんはたまに見せる魔女の顔をしている。

こういう時はちょっと苦手・・・。


 「それか相合広場行きなよ。結構相手見つかるみたいだよ」

相合広場・・・恋人の欲しい人たちが行く場所だ。

でも、アカデミーでは「淑女は絶対に行ってはいけない場所」って教わった・・・。


 「あそこは成人してないと入れませんよ。それに今はそういうとこじゃなくなってます」

エストさんが仕事の手を止めた。

わたしもよく知らないんだよな・・・。

 「え・・・そうなの?入場料も取ってるし、まともなとこだと思ってた」

「できたばかりの頃はそうだったらしいですね。今はひと晩、体だけって人たちしか使いません。知らずに行った夢見る女の子がひどい目にあったそうですよ」

「ひどいかどうかは人によるでしょ。それが始まりでもいいじゃん。ねえ、ルージュ?」

「そういう出逢いは・・・違うと思います」

でも例えば・・・そういう危ない時に助けてくれる人とかが・・・。


 『君のことは必ず守るし、ちゃんとおうちまで連れてってあげる』

思い出すと嬉しくなる。

ああ・・・やっぱりわたしは、あのお兄ちゃんがいいんだ。


 「・・・ミランダさん、ずっと前に話したことですけど・・・わたしと同じ髪の毛のお兄ちゃん・・・憶えてますか?」

なんだか言葉にしたくなった。

人形の服もやりたいけど、その前に・・・。


 「ああ・・・あれねー・・・あんたが誘拐されそうになったのを助けてくれたって人だっけ・・・」

「はい、あの人ともう一度会いたいです。・・・時間があるのなら、わたしから探したいと思いました。十五歳まで・・・そうしたいです」

また手を繋いで歩きたい・・・。

一緒にお買い物をしたり、お菓子を食べながら歩いたり・・・。


 「まさか・・・その人のお嫁さんになりたいって・・・まだ考えてるの?」

「えと・・・そうなったらいいなっては・・・思ってますけど・・・」

「けど?」

「ダメかもっても・・・」

わたしの中で引っかかったことがあった。

去年の水の月、ラミナ教官がここに泊まった日の夜・・・。


 『すべて、私を想ってくれているからではないのですか?』

『なんていうかな・・・なんで中間が無いの?』

ミランダさんたちの話をセレシュとこっそり聞いていた。

ラミナ教官の恋・・・セレシュはうっとりしながら聞いてたけど、わたしは自分もそうなんじゃないかなって・・・。


 ・・・これも話してしまおう。



 「あんた聞いてたんだ・・・」

「すみません・・・でも、あれからそれを考えるようになってしまって・・・」

「えっと・・・思ってること言ってみ」

ミランダさんは、盗み聞きしていたことを怒らなかった。

むしろ、わたしの心を知りたいって感じだ。


 「・・・お兄ちゃんは、わたしに対してなにか特別な思いがあって色々付き合ってくれたんだと・・・勝手に思っていました・・・」

どうしたんだろう・・・なんか・・・心が不安定になってきた。

 「でも・・・違うかもって・・・ただ、子どもが危ないから・・・助けてくれただけなのかなって・・・」

「えっと・・・泣かないでよ」

「ごめんなさい・・・でも、きっとそうだと思うんです。もう・・・顔もぼやけてます。お兄ちゃんもわたしを憶えていないかもしれません・・・だけど・・・・もう一度だけ会いたいんです・・・」

「ルージュ・・・」

ミランダさんが抱きしめてくれた。

 「・・・」

ミランダさんも泣いてるみたい・・・。

・・・なんでだろう?



 「大丈夫だよルージュ、そのお兄ちゃんはあんたを特別に思ってる」

ミランダさんは、わたしが落ち着くと慰めてくれた。

優しい言葉だけど、現実はきっとそうでもないことの方が多い。


 「・・・ありがとうございます。とりあえず・・・見つからなくても、旅をして色んな所に行くのもいいかなって思いました。えっと・・・シロと一緒がいいです。楽しそうだし」

「シロか・・・あの子に話してみて。いいって言えば・・・仕事は休ませるし。あ・・・まずアリシア様に相談した方がいいよ」

「はい・・・そうしてみます」

なんか「やめたら?」って顔されてる気がする・・・。

だとしても行く・・・シロが一緒ならお母さんも許してくれるはず。


 「あのさー・・・ひとつ言いて―んだけど・・・」

ティムさんが研究室から出てきた。

・・・いたのか、全部聞かれちゃったよね・・・。

 「何よあんた・・・」

「エリィのこと。お前ら勝手に盛り上がってるけど、あいつはいい女だ。少なくともミランダよりはな」

ティムさんは、ラミナ教官について言いたいらしい。


 「いい女?都合のいい女じゃないの?お弁当作らせてるだけじやん」

「いや・・・頼んだことは一度もねーよ。休みの日に勝手に持ってくるだけだ」

「へ・・・じゃあ家にも入れたの?」

「いや・・・外がいいって言うから広場まで行って一緒に食ってる。適当に歩いて話して・・・それだけだ」

そんなことになってたのか・・・。

 あ・・・そういえばラミナ教官って、休み明けに機嫌がいい時あるな。

・・・あとでセレシュに教えてあげよう。


 「で・・・なんであたしよりもいい女だって思うのよ?」

「騒がしくねー・・・俺が話すとニコニコして聞いてる。ああいうのいいよな、やっぱり女は南部だよ」

ティムさんはわたしの顔を見て言ってくれた。

そうか・・・ラミナ教官の考えは間違ってないって教えてくれたんだ・・・。

 

 「そしたらもうティムさんの女にしちゃえばいいじゃないですか」

横からエストさんが割り込んできた。

そういえばこの人もいたな・・・。

 「・・・」

「睨まないでください。そうですね・・・お前は俺の女だよなって聞いてみてくださいよ」

「・・・エスト、お前も北部だったな・・・」

「ティムさんは故郷を教えてくれないからわからないですけど、意気地なしの男が多い地域だったんでしょうね。あ・・・なんか思い出してきた・・・今年の殖の月・・・イライザさんに・・・南部の女に負けてた」

すごいな・・・ティムさんに睨まれても話し続けてる。


 「二人とも落ち着きなよ。・・・ティム、エリィにずっと食事作ってほしいとか思ってたりすんの?」

「まあ・・・助かるけど・・・」

「ふっふっふ、ミランダ様が協力してあげましょう・・・。ああーん、部下想いの代表でよかったねー」

「俺らのことに首突っ込んでくんな・・・」

ティムさんは、ラミナ教官に特別な思いを持っている。

いいことを聞けた。


 ・・・わたしはなにを弱気になっていたんだろう。

お兄ちゃんがどう思っているのかを勝手に決めつけちゃいけないよね。

 ちゃんと気持ちを聞かなければわからないことだから、希望が無くなったわけじゃないんだ。

それなら前向きでいよう。


 「ティムさんありがとうございます。わたし決めました、絶対にやります」

「なにをだよ」

「十五までお兄ちゃんを探します」

やりたいこと、これがそうだ。


 「・・・ルージュ、見つかるとは限んないよ?それより、テーゼで待ってた方がいいと思う」

「見つからなければ諦めて思い出にします」

「いやいやいやいや・・・とりあえず、まずはアリシア様に相談してみなさいね。あと・・・シロもなんて言うかわかんないし・・・」

「きっと大丈夫です。お話を聞いていただいてありがとうございました。では、失礼します」

わたしはすぐにミランダさんの家を出た。

早く戻ってお母さんに言わないと・・・。



 「あ、ルージュおかえり」

帰るとシロが出迎えてくれた。

お昼を食べに来たんだろうな。


 「お母さんは?」

「衛兵団の所に行ったよ。戻るのは夕方になるって」

「え・・・そうなんだ」

「お昼は二人でなにか作ろうよ」

お母さんがいない・・・。

まあいい・・・先にシロに話して味方になってもらおう。


 「シロ、お願いがあるの」

そのためには、まず「一緒に行く」って言ってもらわないとね。


 

 「・・・僕と?」

「うん、お兄ちゃんを探したいの。お願い、わたしと一緒に来て」

シロとしっかり向かい合って話した。

本気だってわかってもらえたかな?

 

 「うーん・・・テーゼにいた方がいいと思うけどな・・・。あの・・・ステラが起きたら一緒に連れていくし・・・」

「ステラさんが起きるのは・・・わたしが十五歳になる頃でしょ?わたしは十五歳になるまででいいの・・・行先はシロに任せるから・・・お願いします」

「・・・」

シロは目を閉じた。

ダメだったらどうしよう・・・一人だと、お母さんは許してくれないよね・・・。



 「大陸は広い・・・南部にしようか」

シロが目を開いて微笑んでくれた。

まくしたてずに待っててよかったみたいだ。


 「ありがとう。でも・・・本当にいいの?」

「僕はいいけど、お母さんにもちゃんと許してもらわないとダメだよ?」

「一緒に頼んでほしい・・・」

「わかった。たぶん・・・大丈夫だと思うよ」

よかった、あとはお母さんだけだ。



 「旅・・・」

夕食を済ませてから話してみた。

 「・・・」

お母さんは、さっきのシロと同じ難しい顔をしている。


 「・・・母さんは、ステラが起きるまでテーゼにいた方がいいと思う。前にも話しただろう?」

ミランダさんも、シロも、お母さんも、どうして「ここにいなさい」って言い方をするんだろう?

もう八年・・・テーゼでは会えなかったから探しに行きたいんだけどな・・・。


 「僕も一緒だし・・・南部だけにするつもり・・・なんだけど」

シロが加勢してくれた。

でも、遠慮しながらだ・・・。

 「お願いお母さん。わたし、もう一度だけお兄ちゃんに会いたいの」

「・・・」

お母さんは頭を抱えた。

こんな姿初めて見る・・・でも、行かせてほしい。


 「見つからなかったら諦める・・・だからお願いします」

「・・・まだ半年ある。その間に気が変わらなければ許そう・・・」

お母さんは、頭を抱えたまま困った声を出した。

でも・・・いいってことだよね。


 「ありがとうお母さん。・・・ごめんなさい」

「・・・謝ることはない。母さんは、お前のやりたいことを止める気は無いよ・・・」

悪いとは思うけど、気が変わることは無い。

・・・早速明日から準備を始めよう。



 半年はあっという間だった。


 今日は、種の月の最後の日。

そして・・・アカデミーも最後の日・・・。


 「私は・・・あなたたちを受け持てて幸せでした。みなさん・・・素敵な女性になりましたね・・・」

ラミナ教官が涙を零した。

 「ラミナ教官・・・ご指導ありがとうございました・・・」

「また・・・会いに来てもよろしいでしょうか?」

「明日からも・・・通いたかったです」

みんなも・・・。

わたしも同じだ・・・だから涙が出る・・・。


 「きっとみなさんの未来には・・・素敵な男性との出逢いが待っているはずです。私たちが教えてきたことを・・・忘れずに・・・」

ラミナ教官は、言葉を詰まらせながら話してくれた。

このアカデミーで・・・ラミナ教官に教えてもらえて本当によかったな・・・。



 「ルージュ・・・予定は変わりない?」

セレシュが鼻声で空を見上げた。

 帰り道はなんとなく切ない・・・。

だから・・・わたしも空を見上げていた。


 「うん、花の月に出る。だからまだ一緒に遊べるよ」

「・・・じゃあ、明日からのお祭りも一緒に行けるね」

「うん、お母さんの応援しないと」

「私は・・・ティムさんとお父さんを応援しようかな・・・」

そっか・・・二人も出るんだったな。


 「あっ、そうだよ。ティムさんも出るからラミナ教官とも会える」

「あ・・・言われてみたらそうだよね・・・。ふふ、なんか楽しくなってきた」

「それとね、シロとおそろいの帽子を買いに行こうって話してたんだ。セレシュに選んでもらいたいな」

「一緒には行くけど、自分で決めた方がいいよ」

いつの間にかお互いの顔を見て話していた。


 これからもっと楽しいことがある。

だから、悲しくなんかないよね。



 「ルージュ、これをお前にあげるよ」

家に帰ると、お母さんが自分の首飾りを外してわたしの前に置いた。

シロとミランダさんも持ってる淡く光る石・・・お母さんも、いつも身につけている。


 「・・・これは、お父さんと仲の良かったイナズマという精霊がくれたものだ。精霊の輝石と言って、災いから守ってくれる力がある」

「でも・・・いいの?お父さんとの繋がりみたいなものじゃ・・・」

「旅に出るなら必要だろう。それに、母さんにはこの指輪があるからな。・・・そうだ、今つけてやろう」

お母さんがわたしの首に輝石をかけてくれた。

友達のしるしと二つ・・・お母さんのはちょっとだけ長めだ。


 「いつも持っていないとダメだぞ。外すと効果が無くなるらしい」

「うん、ありがとうお母さん。・・・明日の大会はまた優勝?」

「そうだな・・・お前のために勝とう」

お母さんは戦士の顔になっていた。


 誰だって敵わない雷神・・・。

わたしは、こんなに強いお母さんの娘でよかった。


 旅立ちまであとひと月。

目的はお兄ちゃんを探すことと、男の人と普通に話せるようになること。

どっちもうまくいったらいいな。

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