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Our Story  作者: NeRix
水の章 第四部
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第百十九話 孤独【シロ】

 テーゼに来たのは風の月の終わり・・・秋だった。

季節が変わって冬になったけど、それも終わろうとしている。


 もう種の月・・・あとひと月・・・。

また戦場へ行って、僕はジナスと・・・。



 「というわけで・・・この家はあたしのものになりました。やっとすべての手続きが終わったので、みなさんにお知らせでした。これからもこうやってくつろいで構わないからね」

ミランダが得意気に胸を張った。

表情はとっても明るくて、戦いへの不安は一切見えない。


 「いくら・・・したの?」

「え・・・まあ、大きいけどいわくつきだし千四百万。あと土地も・・・」

「待て!・・・べモンドさんに何をしたんだ?」

ニルスが慌て出した。

ずっと忘れてたけど、この家は借りてるんだったな。


 「何って・・・お金出してくれただけだよ。ああ、もちろん持ち主はあたしだからね」

「何をしてお金を出してもらったんだ・・・。まさか・・・本当に寝たの?噂になってるし・・・いてっ」

ニルスの頭が叩かれた。

 「失礼なこと言わないでよ。ちょっと早いけど、あたしの十九のお祝いってこと。それと・・・あたしの育ての親が関係してるんだと思う」

「ただの親切なら問題無いじゃろ。あの男は酒以外に楽しみが無い、金は持っとる」

「おじいちゃんは理解が早いわね」

「明日・・・お礼を言わなければ・・・」

家を買ってあげるなんてすごいな・・・。


 「あたしこの家好きなんだ。本当は隊長の報奨金で買おうと思ってたんだけどね」

「私も好きだよ、いい家よね」

「ステラもそう思うでしょ?だから・・・このままにしておきたい。旅に疲れたら帰ってこれるところだよ」

みんなはどんな気持ちなんだろう?


 旅・・・でもその前に戦いがある・・・。

もう色々と話が進んで、どうしても避けられないところまできている・・・。



 「そろそろ戦士たちに私の印をつけていかないとな・・・」

夜遅くに、ステラが僕の部屋に入ってきた。

ニルスが眠りについて、ちょっと退屈だから来たんだろう。 


 「印?」

「うん、領域じゃなくて個人ごとに繋がりを作る。その方がみんな自由に動けるでしょ?もうひと月も無いし、めんどうだけどやっておかないと」

ステラは明日から訓練場に通って、一人一人にそうするらしい。


 ・・・いよいよか。

最近時間の流れが早く感じる。

 千人はもう決まっていて、今のところ辞退者は出ていない。

ステラも、戦士たちも、誰も迷ったりしてないんだろう・・・。


 「ティムって子は酒場で顔を合わすくらいだったけど、ちゃんとお話ししておかないとね」

「そういえば、二人が話してるのって見たことない」

「うん、無いのよ。でも、ニルスがどんな子か教えてくれるんだ。どんどん強くなってるって嬉しそうに話すのよ」

たしかにティムは強くなった。

 最近はアリシアの指示で、夜もちゃんと眠るようになっている。

だから僕も、夜はここにいることが多くなっていた。


 時間の流れが変わったのは、みんなに余裕が生まれてきてからのような気がする。

戦士たちはその日を追いかけているけど、僕は追われているような感覚だ。


 だから、早く感じる・・・。



 また朝になってしまった。

いつも通り訓練場・・・。


 「おい見ろ!!ニルスに剣を抜かせたぞ!!!」

ティムが歓喜に似た声を上げた。

見ると、ニルスが攻撃を躱しきれずに剣で受け止めている。


 「驕るなよ・・・だから負けるんだ」

「うおっ!!」

ティムはすぐに蹴り飛ばされてしまった。

でも、剣を抜かせられるくらい成長したんだな・・・。

 

 「困るなーティムくん。戦場でそれだとみんなの足を引っ張っちゃうよ?」

ミランダが倒れたティムを見下ろした。

 「ステラが危ない時にそんなんじゃ困るんだけど」

「・・・戦場までにどうにかなる。心配すんな・・・ミランダ隊長」

「わかってんじゃん。ほら早く立って。起こしてあげる優しい隊長でよかったねー」

「・・・従わねーとうるせーからな」

ティムがみんなと普通に接するようになったのはいつからかな?

・・・こんなことを思うくらい時間が経ったんだろう。

 

 「ちょっとしたことで浮かれるな。お前の場合は自分自身が一番の敵じゃ」

「はあ・・・了解」

おじいちゃんに口答えも無くなった。

 「必ず連撃、二の手、三の手を用意しておけとアリシア殿に教わったじゃろ?」

「次は・・・そうする」

強くなっている実感があるからなんだろうな。

それにおじいちゃんも、ティムがいないところでは褒めている。


 ・・・僕はどうなんだろう?

できることは全部やる・・・つもりだけど・・・。


 「みんなに厳しくされてかわいそうだな。だが・・・私は違うぞ」

「てめー離せ!なんの真似だ!!」

アリシアがティムを抱きしめた。

 「ニルスに剣を抜かせただろう?これはそのご褒美だ」

「いらねーんだよ!」

「嫌なら引き離してみろ」

「・・・」

無理なんだな・・・。

でも、ちょっと嬉しそうだ。


 「つーかお前こえーんだよ・・・。ニルスとやってる時、気持ちわりー顔してる」

「気持ちいいの間違いだ」

「それが気持ちわりーんだよ・・・」

「お前もそれくらい強くしてやる・・・」

しばらく離してもらえなさそうだな・・・。



 「シロ、巨人を三体出してほしい」

イライザさんが僕の頭を撫でてきた。


 僕は精霊だから鍛錬の必要が無い。

でも、みんなのお手伝いはできる。


 「強さは?」

「殺すつもりでいい。私たちを囲むように出してくれ」

「・・・わかった」

「イライザ隊集合!!決死の覚悟で挑め!!」

ただ・・・本当に殺しそうになったらすぐに消す。

こんなことで死ぬなんて絶対にダメだしね。


 「シロ、ついでに地竜を一体くれ」「その後でいい、集団戦をやりたいから二十くらい出してほしい」「こっちも待ってるよ」

僕の力はとっても役に立っている。

頼られるのは嬉しいけど、どうしてか心から喜べない・・・。



 お昼になって、僕はセレシュの家に来ていた。

シリウスから手紙が届いて、返事を一緒に書こうって約束してたからだ。


 「シロ、どうしたの?」

「え・・・なにが?」

「なんか・・・元気ない・・・」

「いやなことあった?」

ルージュとセレシュが心配そうな顔で僕を見てきた。

元気か・・・。


 「なんでもないよ。もうすぐ戦場だから、ちょっと考えることが多いだけ」

「そうなんだ・・・シロは戦うの・・・恐くないの?」

「別に・・・」

答えた時に、ちょっとだけ辛くなった。


 『精霊封印は久しぶりだろ?体が重く、力も使えず、痛みもある。・・・そういえば、仲間を消していく時にずっと見せていたな』

なんで今になって思い出すんだろう?

大丈夫、僕には輝石があるんだから・・・。


 「わたしはね、変な夢を見て恐い時はお母さんにぎゅっとしてもらうんだ。シロも恐かったらうちに来てやってもらうといいよ」

「・・・僕は大丈夫だよ。早く返事書こう?」

ルージュの見る悪夢とは違う。

それに、僕は恐くなんか・・・。


 「シロ、お菓子食べる?」

「いらない・・・」

「・・・シロ?」

「さ、さっき食べてきたんだ。だから・・・大丈夫」

余計に辛くなってきた。

・・・どうして嘘をついてしまうんだろう?



 「さっきね、シリウスにお返事を書いて出してきたんだ」

「そうか、ありがとうシロ」

ルージュたちと別れて王様の所に来た。

忙しいだろうけど、こういう話は聞きたいよね。


 「ねえ王様、戦場が終わったらシリウスに会いに行ける時間は増える?」

「・・・どうだろうな。忙しくはなるが、会う時間は必ず作るつもりだ」

「シリウスは、お母さんと畑に種まきをしたんだって。秋の収穫が楽しみって書いてたよ。僕たちにも食べてほしいって」

戦場が終わったあとのことを考えていた方が気持ちが楽になる。

そう、楽しいことだけ・・・。


 「私はまだ返事を書けていないのだ。まずは目の前の戦いについて考えることが多い」

王様は溜め息をついた。

 ・・・やめてよ。

そんな話をしに来たんじゃないのに・・・。


 「そっか・・・王様は忙しいみたいだから今日は帰るね」

「すまないな、また来てくれシロ」

「うん・・・」

戦いの話なんかしないでよ・・・。

考えたくないのに・・・。



 「あら、シロ君一人?」

「うん、お姉ちゃんとお喋りしに来た」

運び屋さんに来てみた。

ここは、戦場とは関係無い・・・。


 『同じ秘密を持った仲間』

でもあるから・・・。


 「あ、もしかして一緒にお仕事してくれる気になった?」

「いや・・・特に考えてないけど・・・」

「えー・・・わたしちょっとシロ君のこと気になってるのよねー。一緒にやりたいなー」

お姉ちゃんは僕の隣に座った。

 仕事って殺し屋のことだよね?

あんまり興味は無いけど、戦場から遠ざかる話ならなんでもいい・・・。


 「ニルスがやるなら手伝ってもいいよ」

「ニルス?・・・シロ君の意見は無いの?」

「え・・・」

「ニルスがじゃなくて、シロ君はどう思ってるのか聞きたいな」

そんなこと言われても・・・。

僕はニルスみたいになりたいから、同じことをしたいって思っただけなんだよな。


 「興味は無いけど、楽しいなら・・・手伝ってもいいよ」

「楽しいってのとは違うけど・・・。でもまずは戦場が終わらないとね・・・」

「やめてよ!!そんなこと話しに来たんじゃない!!!」

大声を出してしまった。


 「・・・シロ君?」

お姉ちゃんが悪いわけじゃない、謝らないと。

 「ごめんなさい・・・」

怒らせたかな?

なんで強く言っちゃったんだろう・・・。


 「・・・ねえシロ君、なんか悩んでるの?」

お姉ちゃんは「かわいそう」って顔で僕を見ていた。


 「そんなことないよ。・・・なんでそう思うの?」

「・・・昔のニルスと同じ雰囲気してるなって」

頭を撫でられた。

 この人の言う「昔」は、嫌々戦場に出ていた頃のニルス?

なんで僕がその時のニルスと同じに見えるんだろう・・・。

 

 「なにか嫌なこととか、やりたくないことあるの?」

「そんなの無いよ・・・それにあったとしても・・・」

「どうにもならないって?」

「うん・・・」

だって・・・それは僕にしかできないことで替えがきかない。

本当に僕だけ・・・。

 

 「シロ君、そのままにするのよくないんじゃない?」

「お姉ちゃんに・・・なにがわかるの?」

「わかる人に相談したらいいよ。わたしよりも信頼できる人いるんじゃない?」

なおさらできない。


 信頼は、裏切られた時・・・憎しみに変わる。

僕にだってそうかもしれない・・・。


 「・・・無理だよ」

「・・・困ったね」

「もう帰る・・・ごめんね」

「シロ君・・・」

お姉ちゃんの顔は見ないで扉に向かった。

一人の方がいい・・・。


 「シロ君、一人ぼっちだって思っちゃダメだよ」

とても優しい声が聞こえたけど振り返らなかった。


 来なきゃよかったな。

そういう言葉が欲しかったわけじゃない・・・。



 一日一日がより早くなってきた。

まるで殖の月が「早く来い」って僕を呼んでいるみたいだ。

 その声は・・・ジナスのような気がしてくる・・・。

やだ・・・やだよ・・・。

誰か・・・。


 「はあ、やっぱりめんどうね」

ステラが冷たい紅茶を用意してくれた。


 もうすぐ朝日が昇る・・・。

また・・・追い詰められていく・・・。 


 「あと半分よ。けっこう疲れるのよね。・・・どうしたのシロ?」

「・・・なんでもない」

「・・・朝はなにが食べたい?」

「・・・なんでもいい」

・・・無理だ。

言えないよ・・・ステラはどうしても次で終わらせたいんだから・・・。



 嫌でも訓練場には来ないといけない。

誰か・・・。


 「じーさんの息子も強いのか?」

「お前よりは弱い」

ティムとおじいちゃん・・・。


 「そういうこと聞いてんじゃねーんだよ」

「熱くなるな。・・・まだまだじゃが、儂が生きてる間に強くせねばならん」

おじいちゃんも・・・無理だ。

子どもにも早く会いたいはず・・・。


 「それと、明日にテッドがまた来てくれるぞ。楽しみじゃろ?」

「あのオヤジ見えねーから好きじゃねー」

「あれを捌ければニルス殿に近付けるぞ?足運びも見てもらえ」

「・・・やってやるよ」

ティムは・・・わからないな。

だけど、みんなと同じ気もする・・・。



 「メルダに手紙を書いたんだ」

「あっそ。早く出さないと戦場前に届かないよ」

「鳥を使っている所に頼むさ。・・・お前のことも少し書かせてもらった。今日・・・帰りに出していくつもりだ」

「なに勝手なことしてんのよ・・・」

軍団長さんとミランダが体を伸ばしていた。

あの二人は・・・。


 「戦いを終わらせ、必ず迎えに行く・・・それだけでは短すぎたからな」

「やっぱりあたしを利用したんじゃん。・・・ねえ、ちょっとそれ貸して」

「開けるのか?」

「開けないよ。差出人のとこにあたしの名前も書いといてあげる」

言って・・・打ち明けて・・・いいのかな・・・。


 「はい、これで出しやすくなったでしょ?・・・なんか緊張した顔だったからさ。早く会えるといいね」

「ミランダ・・・。そのためにはまず勝たねばならない。・・・走りに行くぞ、全力でだ」

「ちっ・・・休憩が短い」

できない・・・。

 この二人も目の前の戦いをしっかり見ている。

僕も・・・そうしなきゃいけないのに・・・。



 ニルスとアリシアが休憩に入ってるのを見つけた。

頼れるのは・・・。


 「ニルス、ルージュに会える日はもうすぐだな」

あ・・・。

 「うん、あと十日・・・必ずそうする」

「祭りは・・・母さんも一緒に行きたい・・・」

「・・・好きにすればいい」

ダメだ・・・。


 ニルスにだけは言えない。

だって全部知ってるもん・・・ルージュのために戦いに来てるんだもん。


 「それと・・・これ、誕生日・・・」

「え・・・母さんに・・・」

「必要なものだ」

「なんだろうな・・・本?」

「大陸の歴史が書いてある。頑張ってね」

「・・・」

僕が思ってることを言ったらがっかりする。

それだけじゃない・・・戦士の人たち全員が僕を嫌うだろう・・・。


 なんであと十日しかないの?

もっと時間があったじゃないか・・・。



 お昼で、誘われたからなんとなく食堂に付いてきた。


 「シロ、最近一人でいることが多いけどなにかあった?」

ニルスが僕の目を見つめてきた。

たしかに・・・僕は最近あんまり話をしていない。


 「え・・・なんにもないよ・・・」

「ぜんぜん食べてないね。元気無いの?」

ミランダがパンをちぎった。

 「・・・ミランダにあげる。・・・忘れてるみたいだけど、僕は元々食べるなんてしなくていい」

嫌な言い方をしてしまった。

・・・やっぱり一人でいればよかったな。


 「なんか悩みでもあんの?」

「なんでもない!放っておいてよ!」

「・・・どうしたのよ?心配してんでしょ」

「・・・ごめんなさい。・・・一人でいたい・・・今日はもう帰るよ」

僕は急いで食堂を出た。

いや・・・逃げたんだ。



 なんでこんなに不安なんだろう・・・。

変なのは僕だけなのかな?


 誰にも言えない・・・。

精霊封印も無いのに、なんで体が震える感覚があるんだろう・・・。


 『シロはもう強いよ。不安や思っていることをオレたちに伝えられる』

ニルス・・・そしたら僕は強くないよ・・・。


 『じゃあ、ニルスはどう思う?僕は戦わないといけないの?』

『オレは嫌なら戦う必要はないと思う』

初めて話した日、ニルスはそう言ってくれたけど・・・たぶん今は違う。

戦ってほしいと思っているはずだ。


 『今のお前は恐怖に打ち勝ったわけではない。怒りで蓋をしているだけだ。それはいずれ冷める・・・そうなった時、また臆病者に戻る』

悔しいのに・・・お前の言った通りになってしまった。


 僕は、ジナスと繋がるのが恐い。

前みたいに言えなくなってしまったから・・・。

どうでもいい話 11


初期構想では、シロはニルスと同い年の人間でした。

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